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第58話「共和国軍人の鑑である」

 アンリ大将の後を追って現場に到着したゼニス大尉の目の前には、惨状が広がっていた。


 そこには十数名の人間が横たわっており、軍医の手当てを受けている。無傷の者はいない。


 十数名の内、二人だけが軍服を着ており、兵士である事が見て取れる。それ以外の者は皆民間人で、子供たちが多い。


 そして彼らは、全員がゼニス大尉に見覚えのある者ばかりだった。


「ロール少尉! これは一体どういう事だ! アスミタ村に、戻ったんじゃないのか?!」


 そう、民間人はアスミタ村の子ども達で、つい半日前にベネル市を出る時に彼らの見送りを受けたばかりである。そして、ロール少尉はアスミタ村の住人達の護衛として付き添っていたはずだ。


 護衛とはいっても、すでに帝国軍との大規模な戦闘は終了し、今は停戦交渉に向かっている。こんな事態になるはずは無かったのだ。


 そして、ロール少尉の隣に横たわる、もう一人の兵士の顔にも見覚えがある。ロール少尉と同じ特選遊撃隊の一員ではない。というよりも、彼の軍服姿を見るのは初めての事だ。


 その男は、ゾブリであった。


 彼はベネル市の裏社会の頭目の一人で、過去にゼニス大尉と対決した事がある。最近徴兵の対象となって招集されたとは聞いていたが、その彼がこうして怪我を負っている理由が分からない。


「何が有った! 教えてくれ!」


「アスミタ村の近くに来た時、突然あいつらが……、皆で戦ったけど散り散りに……」


 そこまで言い終えたロール少尉は、それ以上言葉を続ける事は無かった。


 最後の力を使い果たしたのだろう。事切れてしまった。その無念さを表すかのように、目は見開かれたままであった。


 救護をしていた軍医がロール少尉の体を調べ、ゼニス大尉の方を見て首を横に振る。


「……民間人を守り、よくぞ命をかけて戦った。君たちは、共和国軍人の鑑である」


 それだけを絞り出す様にして言ったゼニス大尉は、姿勢を正して敬礼をした。


 ロール少尉と出会った当初は、誤解があって突っかかれたり、エリートの癖に甘い考えで前線に来た彼らの事をよく思っていなかった。


 だが、何度か出会う内に甘くはあるが純粋な心を持っている事が分かり、下の者にも優しい真のエリートになるに相応しい者達だと認める様になっていた。


 そしてその評価が正しかったことを示すかのように、彼らはその若い命を子供達のために使い果たしたのである。


 ロール少尉達特選遊撃隊がこの様な目に遭ったと言う事は、アスミタ村で療養するために同行していたゼニス大尉の部下も、同じ様に戦って死んだのかもしれない。更に、ここに逃げて来れなかった村人達は、皆死んだのだろう。


 彼らとは短い付き合いだったが、その期間は人生の中でも濃密だったような気がする。


 この様な事態を引き起こした者を、許す事など出来ない。


「ゾブリ、話せるか?」


「……何とか」


「教えてくれ、何があった?」


「俺が犯人だとかは疑わないんだな」


 ゾブリは確かに裏社会の人間で、しかも人身売買紛いの悪行に手を染める、紛れも無い悪人である。だが、以前カードゲームで戦う事になった時は、自信もあったのだろうが真っ向から挑んできた。特にその勝負は、ゼニス大尉が暴力的な裏技を使用していたのだが、痛みに負ける事無く最後まで勇敢に戦い抜いた。


 その様な勝負を演じた経験から、ゾブリは悪人であるが、村人を虐殺するような事に手を染めるとは考えづらい。もちろん、ロール少尉と同じように重傷を負っていた状況からも判断出来るのであるが、人物像的にも信じる事が出来るとゼニス大尉は判断している。


「信じてくれてありがとよ。実は招集された後、アスミタ村の裏山で……うくっ!」


 話始めたゾブリだったが、苦痛に呻き声を上げると、目を閉じて意識を失ってしまった。


 先ほどロール少尉の事もあるので、死んでしまったのではないかと気になったのだが、ゾブリの容体を診察した軍医によると、命に別状はないだろうとの事であった。そして、恐らく後二時間もすればまた意識を取り戻すだろうと言っている。


「これは、アスミタ村に兵を派遣しなければならん。我が軍団の担任区域外だが、そんな事を言ってられる事態ではない」


 これまで黙って聞いていたアンリ大将が口を開いた。これまでアンリ大将を差し置いてロール少尉達と話していたゼニス大尉の行為は、本来なら差し出がましい事であり叱責を受けても仕方がない。だが、アンリ大将にはそんな事をするつもりは無いようである。必要な事だけ口にした。


「アンリ大将! 着隊したばかりですがアスミタ村の事が気になります。調査に行ってもよろしいでしょうか?」


「少し待て。調査は俺もしようと思っていたが、お前が行くのはもう少ししてからだ。このゾブリという男は、数時間で意識が戻るのだろう? その時の事情聴取にはお前も同席するべきだ。アスミタ村の調査の第一陣は、騎兵を先行させるので案ずるな」


「……承知しました」


 本当はすぐにでもアスミタ村に向かいたいのであるが、アンリ大将の言う事は正論だ。アスミタ村に関するこれまでの経緯を知っているゼニス大尉が居た方が、ゾブリからの聞き取り調査が捗るのは間違いない。そして情報が無い状態でアスミタ村に行くのなら、ゼニス大尉が行こうが他の誰かが行こうが同じことなのだ。


 ゾブリが意識を取り戻す間での間、ゼニス大尉はまんじりともせず待ち続けた。そして、この事件に関する犯人を必ず見つけ出し、その罪を償わせてやると心に誓ったのだった。

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