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第54話「配属変更」

 ゴダール共和国軍第2軍団長たるアンリ大将は、現在ベネル市の郊外に天幕を張って滞在している。第1師団長であるハンザ中将が市庁舎に陣取っているのとは対照的だ。


 同じく旧貴族階級出身の二人ではあるが、過去の栄光にしがみつくハンザ中将と、実戦派の将軍であるアンリ大将の差が如実に出ている。


 ただし、理由はそれだけではない。ベネル市は第1師団の作戦地域であり、その地域の建物を使用できるのは第1師団長として当たり前の事だ。本来、隣接した作戦地域を担任する第2軍団長がこの地に居ること自体がおかしいのである。何の理由も無ければ、処分の対象とも成り得るものだ。


 もちろん、アンリ大将がベネル市に来ているのには正当な理由がある。


 第1師団の担任地域から敵が抜け出し、第2軍団の地域に侵入したのだ。それを追撃してきたところ、ベネル市で撃滅に成功し、結果的に第1師団の担任地域に来てしまったと言う事なのだ。


 共和国の軍律上、これは許される事になっている。


 そして、その戦いの結果、1個師団を壊滅させ多くの捕虜を取ると言う戦果を獲得している。そのため、戦闘後の処理に時間を取られてこの地を離れられないのだ。


 ハンザ中将としては目の上のたん瘤であるアンリ大将に、早く出て行ってもらいたいのだが、その様な事情があるために叶わないのであった。また、ハンザ中将の上官にあたる第1軍団長は、アンリ大将の士官学校時代の後輩にあたるため、その方面を通じて早期に退散願う事も不可能である。


「第1特別歩兵連隊第1中隊長ゼニス大尉、入ります!」


 アンリ大将の副官に呼ばれ、ゼニス大尉はアンリ大将の天幕に入って行く。


「おお、よく来たな。随分ひどい怪我だったが、回復したようで何よりだ」


「はい、ありがとうございます。ところで、単刀直入にお聞きします。ハンザ中将が我が第1中隊を処刑すると主張したのは、本当でしょうか」


 ゼニス大尉は挨拶もそこそこに要件を切り出した。ハンザ中将は現在の第1中隊の上官にあたる人物だ。その人物がこの様な主張をしていたのでは、命が幾つあっても足りない。なので、ハンザ中将と同じく将軍であり、その辺りの事情に詳しいであろうアンリ大将に確認しに来たのだ。


「本当だ」


「軍法会議無しで?」


「それも本当だ」


「何故ですか?」


「良く分からん。いや、気分を悪くするなよ? 本当に分からんのだ。敵前逃亡だとか言っていたが、お前達が誰にも真似できない程見事に戦い抜いたのは、俺が直接確認している。あまり他所の部隊の賞罰に口を出したくないのだが、こんな処罰を許しては軍の規律が成り立たん。階級にモノを言わせて潰しておいた」


「そうですか。ありがとうございます」


 ゼニス大尉はアンリ大将に助けられたことに安堵したが、同時に処刑の噂が本当であった事に驚きを隠せない。アンリ大将も言っている通り、これは完全に無理筋な話なのだ。後で責任問題に発展してもおかしくない程のだ。まあ、「カテゴリー5」の部隊を誤って始末したところで、特に問題にならない可能性も十分あるのだが、政敵に付け込まれる恐れはある。


「理由が、全然分かりませんね」


「奇遇だな。俺もだよ。だが、これはかなり怪しいと睨んでいる。今回の戦いで、ハンザ中将が部隊を出撃させなかった事も含めてだ。今中央の知り合いに、調査を依頼している所だ。取り返しのつかない事になる前に、何か判明したらよいのだが」


 アンリ大将の様な軍の高官が、然るべき筋に話を通しているのである。これ以上ハンザ中将の事を考えるのは無駄であるとゼニス大尉は判断した。


 特にこれ以上要件は無いため、天幕を辞そうとする。だが、それはアンリ大将に止められた。


「待て、実はちょうど俺からも話があったのだ」


「話……ですか?」


 ゼニス大尉は困惑した。アンリ大将の様な軍の中枢にいる高官が、ゼニス大尉の様な一介の中隊長に何の要件があると言うのだろう。


「実は、第1特別歩兵連隊は、第1師団から我が第2軍団に配属変更になった。もうすでに参謀本部からは了解が出ていて、すぐに正式な命令が来るだろう。まだ怪我で動けない者も多いだろうから、ある程度落ち着いたら合流する様に」


「は、はあ。また一緒に戦えて光栄ですが、一体どういうことですか?」


 アンリ大将は正統派の軍人である。そのため、現在の各国の正規軍の主流である、良き市民が責任をもって兵士となり、精到な訓練を積んで戦いに臨む事を重視している。だから、ゼニス大尉の率いる第1中隊の様な、どこか光る所があったとしても規律や責任感に欠ける部隊は好まないはずであった。


「俺は、特別歩兵連隊の様な存在は好きではなかった。軍人としての自覚に欠ける特別歩兵連隊の兵士も好まないし、かと言って彼らを捨て駒にする様な大半の指揮官の事もな。だから、前にお前が俺の下に居る時に一定の戦果を上げた時も、それを評価しなかった。せっかく攻撃に成功したのに、敵の反撃を受けるとろくすっぽ戦わずに逃げてしまったのだからな。とても兵士として認めるわけにはいかなかった」


 アンリ大将の言う通り、かつてゼニス大尉が第1中隊を率いて敵の後方を攪乱し、退路を遮断する事に成功した。これは隠密に潜入し、完全に奇襲攻撃を果たすと言う素晴らしいものであったのだが、その後すぐに逃げてしまった。ほんの少し持ちこたえれば、味方の勝利に貢献出来ていたと言うのにだ。


 確かに味方として頼りに出来ないと言うアンリ大将の評価は、間違っていないと今ではゼニス大尉も思う。


「しかし、お前たちは、村人達を守って決死の戦いを繰り広げた。その結果、かなりの死傷者と引き換えに村人達は全員無事だった。実は色々と調査したのだが、第1中隊の兵士達はアスミタ村に駐留している時、村人達と交流があったそうだな? つまり、自分達が守りたいと思う人々のためなら戦えると言う事だ」


 そこまで言ったアンリ大将は、一息ついた。そして言葉を続ける。


「となれば、これまで特別歩兵連隊の、俺はこの言葉が好きではないがいわゆる「カテゴリー5」の兵士達が責任をもって戦わなかったのは、差別的にしか見て来なかった我々軍の中枢や、一般市民出身の兵士達のせいではないだろうか? 我々が彼らと絆を築けていれば、良き仲間として戦えたはずだと、今では思っている」


「それは、私も正しいと思います。彼らは自分達の仲間と思った者のためならば、命をかけて勇敢に、粘り強く戦えます」


 ゼニス大尉はアンリ大将の意見を肯定した。これは、これまでゼニス大尉が第1中隊を率いて感じていた事だった。それをアンリ大将は、よくぞ少し観察しただけで同じ結論にたどり着いてくれたものだと感謝の念で一杯であった。


「第2軍団にも、特別歩兵連隊は編成されている。俺が着任する前は捨て駒にされて、兵士の入れ替えがかなり激しかった様だ。俺が着任してからちょうど休戦期間になったし、その後も最前線で運用する気は無かった。今まで俺は特別歩兵連隊は頼りにならないと思い込んでいたからな」


「と言う事は?」


「これからは、彼らにも活躍してもらいたいと思っている。もちろん、捨て駒ではない。そのために、お前たちに合流してもらい、全体の練度を上げて欲しいと考えて、配属先を変更する様に要請したのだ」


 ようやく、自分達の存在が認められた。その事実に、ゼニス大尉は天幕を出てからも寝るまでの間、胸の鼓動が収まる事は無かった。

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