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第34話「敵の元帥の首をとった事を思い出すなあ」

 第1特別歩兵連隊第1中隊による銃剣術の競技会は、熱気に包まれながら始まった。


 聖戦月の祭では、救世主ヒエロスの勝利にちなんで格闘の競技会が行われることが多いが、それは剣術、ボクシング、レスリングがほとんどだ。銃剣術の試合など、軍隊でしか実施しないので非常に物珍しい。ましてやアスミタ村のような田舎では尚更だ。銃剣術を知っているのは、兵役に就いた事のある男だけだろう。しかも、現在若い男は皆兵士に駆り出されている。つまり、老人しか銃剣術を見たことが無い。


 もちろん、一揆や村同士の争いの際には、農作業で使う長大なフォークや棒に刃物を括り付けて槍の代わりとするので、銃剣術と似たような武器は身近である。だが、体系だった戦闘技術ではなく、ましてや試合としてなど初めて見る物珍しいものなのだ。


 他の兵士からは「カテゴリー5」と呼ばれて蔑まれる第1中隊の兵士達であるが、まがりなりにも兵士であるために銃剣術は一通り訓練されている。そればかりか、社会の枠組みから外れた、暴力が身近な世界で生き延びてきたためか、適性は非常に高いものであった。他の部隊を見たことがあるゼニス大尉から見ても、第1中隊の銃剣術の練度は非常に高いといえる。


 戦闘技術として洗練されているわけではない。相手の隙をついたり、危機から回避する能力がずば抜けているのだ。


 ゴダール共和国軍の銃剣術は、かつて銃火器が発達する前に戦場で使用されていた槍術が元になっている。槍術はかつて救世主ヒエロスが奇跡的な武勲を上げた時も使用していたとされ、騎士の時代から続く非常に伝統がある戦闘技術だ。


 戦場から平時の試合まで使用され、その技術は長い年月をかけて進歩してきた。銃火器の発達で兵士同士の間合いが広がった今も活躍の場は残っており、おそらくこれからも兵士は使用し続けるだろう。


 試合の方法としては、木製の銃で互いに突き合うものだ。先端には皮や布を巻き付けて怪我をしないようにしており、なるべく当てる時には力を抜くものとされている。だが、兵士は一般的に血の気が多い者が多数であり、しかも試合の時には冷静さを欠くものだ。怪我人は絶えることはない。


 それでも、訓練により得られる練度は、怪我人よりも実戦における死人を低下させる。かくして危険な訓練は継続されるのである。


 第1中隊の兵士達の試合は激しいものになった。


 これは、彼らの戦闘力の強さを現わすものであるが、それだけではない。彼らはアスミタ村の生活で、それぞれ仲良くなった子どもや御婦人がたがいる。その目の前での試合であるからして、良いところを見せようと真剣なのである。


 この辺り、かつて貴婦人に愛を誓って馬上槍試合などに挑んだ騎士に近いものがある。もちろん高貴なる騎士がこの意見を聞いたなら、下賤な輩と同類にされる事を嫌がるだろうが、人間など考える事は同じ様なものだとゼニス大尉は思っている。


「どうですか? 銃剣術の試合は。面白いですか?」


「ええ、とても。昔軍に所属していた事がありますが、これほどの試合は見た事がありません」


 ゼニス大尉が村長に感想を求めたところ、反応としては好感触であった。年甲斐もなく興奮している様であり、少し紅潮している。


「誰が勝つと思いますか?」


「それはやはりゲオルグ少尉でしょう。見るからに力強い突きをしますし、度胸が違います」


「まあ、そう思われるでしょうね」


「その口ぶりからすると、違うのですかな?」


 舞台上では今村長の口にのぼったゲオルグ少尉が立っている。これまでの試合でゲオルグ少尉は、圧倒的な力量で勝ち進んでいる。


 やはり暴力がモノを言うギャングの世界でのし上がってきただけのことはある。戦いの場数からくる勘も、怪我を恐れない度胸も段違いであった。


「この試合を見ていて下さい。私の言いたいことが分かりますよ」


 そう言いながらゼニス大尉が指差す舞台上には、ゲオルグ少尉とユーベル曹長が向き合っている。


 ユーベル曹長は中隊で先任曹長を任されているが、まだ二十代半ばで非常に若い。年齢からしても、少し気が弱い性格からしても、荒くれ者の兵卒をまとめる先任曹長としては少し頼りない印象がある。


「はじめっ!」


 審判を務めるトム少尉の合図と同時に、力強い踏み込みの音が響き、おおっと歓声が上がった。


 開始の合図とともにユーベル曹長が神速の突きを繰り出し、ゲオルグ少尉の胸元に突きつけた。


 これまでの試合では開始と同時に、荒々しい突きを一気呵成に繰り出して勝利を得てきたゲオルグ少尉のお株を奪う勝利であった。


「これは……凄いですな。これまでの試合では、ここまで強いとは気付きませなんだ」


「ユーベル曹長は、相手に合わせて本気の度合いを変えますからね。ゲオルグ少尉ほどの相手でなければその実力の真価は見えせません」


「ははあ」


「いやあ、昔ヤケになって本陣に突撃して敵の元帥の首をとった事を思い出すなあ。あの時ユーベル曹長が先陣に立って血路を切り拓いてくれたんですよ」


「は、ははあ……」


 ユーベル曹長は、ゼニス大尉が第1中隊の中隊長に就任する前からその下で戦っている。それ故にユーベル曹長の実力を、ゼニス大尉はよく承知しているのだ。なお、村長に引かれていることにゼニス大尉は気づいていない。


 また、これだけ圧倒的な実力を持っているからこそ、中隊の先任曹長として一癖も二癖もある荒くれ者を纏めることが出来るのだ。


 結局、銃剣術の競技会はゼニス大尉の予想通り、ユーベル曹長の優勝で幕を閉じた。

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