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第31話「休戦期間が終わったら」

 ペネループ村の男達がアスミタ村に殴り込んできたその日の夕方、特選遊撃隊の若者達がアスミタ村を訪れていた。つい先日のウラン鉱石事件の処理の件の連絡と、祭りへの参加のためである。祭りが終わって休戦期間が終わると、彼ら特選遊撃隊は前線の視察を終えて後方に帰還しなければならない。そのため、最後の思い出作りの様なものである。


 重要案件であるウラン鉱石事件の処理についての連絡は、すぐに終了した。


 このアスミタ地方で有力な名家出身であるロール少尉が、信用の出来る者に参謀本部のバラス殿下まで報告書を届けてくれるように処置したのだ。バラス殿下は信用のおける人物であり、その生まれから王党派への影響力が高い上に、本人は共和主義者であるため主流の共和派からも重視されている。その政治的影響力は並大抵のものではなく、単なる「良い人」に留まらない。何か良い政治的な終着点に導いてくれるだろう。


 この様な重要人物を、ゼニス大尉はうっかり守り切れずに死なせるところだったのだ。左遷されるのも当たり前であろう。


 特選遊撃隊の者達は、色々な事情があってアスミタ村の村人達と交流し、良好な関係を築いていた。その時に、祭りへの参加を誘われていたのだ。トム少尉に言わせれば、共和国のスーパーエリートである彼ら、特にアスミタ地方の有力者であるロール少尉との関係性をアピールする事で、周囲の村への優位性をアピールしようとの魂胆があるとの事だ。皮肉的な見方であるが、理屈は通っている。


 ゼニス大尉はそれとなくその事に関し、ロール少尉に尋ねてみたのだがそういう思惑は認識しているとの事だ。


 単なる世間知らずのお坊ちゃんかと思っていたのだが、お坊ちゃんと言う事は小さい頃から政治的などろどろした世界に接していると言う事でもある。庶民の世間は知らなかったとしても、政治的な世間も知らないとは限らないのである。


 庶民と上流階級が、それぞれの様々な思惑で行動する事は当たり前の事であり、利用されていると感じ取ってもロール少尉達としてはあまり気にしていないと言う事だ。


 その様な話の流れだったので、アスミタ村とペネループ村の騒動についても話してみた。ロール少尉も集落同士の揉め事については認識しており、遥か昔から入会権やら軍への食糧提供の割合やらで、争いごとは絶えなかった。時には人死にが出るような事すらあったらしい。


 ペネループ村とアスミタ村の間だけではなく、周辺の様々な集落が離合集散を繰り返しながら争いを繰り広げ、十数年前に大規模な衝突が起きたらしい。その時には王党派と共和派の争いの要素まで加わってしまったため歯止めが効かず、集落が一つ壊滅する事になってしまった。


 ロール少尉の実家は、その大規模衝突までアスミタ村を勢力圏においていなかったが、それをきっかけとして勢力を広げたのだ。元々アスミタ村やペネループ村を支配下に置いていた有力者は、被害拡大の責任を取らされた事や盗賊団の攻撃を受けて没落してしまったらしい。


 これらのこの地域に関する事情を聞いた時、ゼニス大尉は色々察した。特に察したからと言って何かをするわけではないのではあるが。


「ところで、休戦期間が終わったら、君たちはどうするんだ?」


「ほとんどの者は参謀本部に入って、そこで出来る事をしますよ。開発部門に行く者もいます」


「そうか。まあそれがいいだろう」


 彼ら特選遊撃隊の者達は、全員が大学院生出身であり、本来共和国の将来を背負うべき人材だ。その頭脳は保護されるべきであり、この様な前線に出すのはよろしくない。この様に言うとまるで庶民は前線に出て危険に晒されても良い様に聞こえてしまうが、国の未来を考えればその様に判断するより他に無い。


 彼らは共和国の頭脳であり、頭脳が本来の力を発揮するのには、それに相応しい場所があるのだ。もしも彼らが最前線で命を失えば、この戦争に共和国が勝利したとしてもその後の復興や発展に多大な悪影響が出る事は議論するまでも無い。


 彼らが最前線を志願したのは、彼らのアイドルであったジェシカ少尉が軍に入隊し、ゼニス大尉の部下として最前線で戦っていたことが原因だ。若さとは目を曇らせてしまう事がある。だが、今ではジェシカ少尉の本性を理解しており、曇りは晴れている。正気に戻った彼らは最前線で戦う事に拘らなかった。


 これまでの行動は、ある意味黒歴史と言えそうだが、若気の至りである。これから後方で勤務するにあたり、最前線に志願した経験があると言う事が箔になってくれれば、彼らの仕事もしやすいであろう。


 軍においては、分業化が進んだこの時代になっても、最前線で危険を冒して戦うことを良しとする風潮がある。危険を省みずに戦う精神が尊いのは確かにそうなのだが、それだけを尊重して後方勤務を軽視するのは問題である。若い彼らが参謀本部等の後方勤務で、良い結果を出してくれることをゼニス大尉は祈った。


「ゼニス大尉はどうされるんですか?」


「俺か? 俺達は今までと変わらず、アスミタ地方で戦い続ける事なるだろうな。もうそろそろ休戦期間終了後の事を考えている」


 休戦期間が終わったら、戦争が終了するか一年後の次の休戦期間まで死闘を繰り広げる事になる。部下達には休息を楽しんでほしいが、士官としては部下達を生かす方法を考えなければならない。なので、最近ゼニス大尉は小隊長達と新しい戦い方について研究をしていた。


 それにしても、この件に関してゼニス大尉は疑問に感じている事がある。休戦期間の終わりが見えているのだから、師団司令部から何か次の指示が来てもおかしくない。と言うよりも無ければおかしい。それにも関わらず、何も指示は無い。普通なら有り得ない事なので司令部に出向いて確認したのだが、指示は特に無いと返答されてしまった。他の部隊の兵士に聞いてみたのだが、彼らに対しても指示は来ていないので第1中隊だけに限った話ではないのだ。


 一体、上層部は何を考えているのだろうか。

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