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第2話「1コ中隊しかいないのに連隊扱いなんすか」

「これより、中隊会議を実施する」


 第1特別歩兵連隊第1中隊の中隊長であるゼニス大尉は、二日酔いで痛む頭と、昨日の激戦での疲労に耐えながら、機嫌が悪そうに宣言した。


 場所は中隊が宿営する陣地、昨夜肉を焼いていた焚き火跡を囲む様にして集まった。


 参加しているのは、中隊長であるゼニス大尉と、第1小隊長のトム少尉、第2小隊長のゲオルグ少尉、第3小隊長のジェシカ少尉、先任曹長のユーベル曹長だ。


 彼らが中隊の中核メンバーであると言ってよい。


「議題はどうやったら我が1中隊が戦果を上げられるかだ。何か意見は無いか?」


 ゼニス大尉の言葉に、他の者達は顔を見合わせた。その表情には困惑が浮かんでおり、言葉の意味をあまり理解していないようだ。


「えーと、昨日のじゃダメなんですかい? 敵の後ろに回り込んで、見事攻撃に成功したじゃあないっすか」


「駄目だ。攻撃に成功して、要点を確保しても、敵が逆襲してきたらすぐに逃げてしまっただろう。それじゃ戦果とは言わない」


 ゲオルグ少尉の意見に対してゼニス大尉は、即座に否定的な評価を述べた。


「でも、結局俺達が敵の後ろを突いて、敵がそれに対処するために勢力を割いたからこそ、一気に前線を突破できたんでしょう? なら成功と言えるんじゃあないですかね?」


「30分と高地を保てずに逃げ出したのでは、戦術的な意味が無いとしか評価できない。敵の後ろを突いて、主力と提携するだけの時間を確保できなかったんだからな」


「いや、実際に主力の連中は敵が後ろに気を取られた隙を突いて、突撃に成功したじゃないっすか」


「師団司令部の参謀たちに聞いて回ってみたんだが、最前線のどの指揮官も俺達が高地に立てた旗に気がつかなかったし、敵の前線の圧力が弱まった様にも思えなかったらしい」


「じゃあなんで突撃したんすか?」


「師団長のアンリ中将が、突然指揮所から飛び出して、全軍突撃を命じたらしい。皆意味が分からなかったらしいが、将軍自ら先陣を切って突撃したから仕方なくついていったら、何となく勝ててしまったんだとさ」


「そりゃすげえ」


 要は、昨日第1中隊の奇襲と主力が連携出来たのは、師団長の戦場の勘という偶然に頼ったものなのだ。軍隊は結果責任とは言うものの、結果さえ良ければ何でも良いと言う訳ではない。戦理を無視した戦いは、いずれ身を亡ぼすことになるのだ。


「あのー、師団長が我々に期待していないと言うのなら、別にそれはそれで構わないのでは?」


 そんな発言をしたのはユーベル曹長である。彼の様に中隊の先任曹長を任される人物は、本来この様な覇気の無い発言をするべきではない。ベテランの下士官として兵士を末端まで目を配り鍛え上げ、上司の士官を支えていくべき立場なのだ。


 ただ、ユーベル曹長は本来その様な立場に立てるだけの軍歴を持っていない。まだ二十代半ばの若者なのだ。


 第1特別歩兵連隊編成の際、ベテラン兵士の誰もがこの様な劣悪な部隊に来る事を断固拒否したため、単なる伍長であったユーベルにそのお鉢が回って来たのだ。


 これは、ゼニス大尉が以前問題を起こした時に、その現場に居合わせたためのとばっちりの様なものだ。


 かくして若き伍長は、戦時昇任という美名のもとに曹長に昇進し、厄介部隊の先任曹長に納まったのだ。


「お前ら、他の特別歩兵連隊がどういう扱いを受けているのか、聞いた事あるか?」


 ゼニス大尉の質問に、皆が首を横に振る。厄介者扱いの特別歩兵連隊は、他部隊との交流がほとんどない。友軍の情報など入ってこないのだ。


「他の師団に配属された特別歩兵連隊は、後ろから銃を突きつけられて先頭を突撃させられたり、完全に囮として使われているらしいぞ。それで、たった数週間で構成員は殆ど入れ替わっているらしい」


 要は、何度も全滅していると言う事だ。


「それじゃあ、俺達もヤバいじゃないっすか。逃げちまいましょうよ」


「それは無理だ。第2中隊の奴ら、金だけ貰って逃げてしまったのは知っているだろう。全員憲兵に捕まって銃殺刑になったそうだ」


「まじっすか」


 脱走を提言したのは、第1小隊長のトム少尉だった。やはり元窃盗団というだけあって、すぐに逃げる事を考えてしまう傾向がある。


 平時なら逃げ切れるかもしれないが、現在国中は戦時体制にある。人や物の移動は制限されているため、どこに行ってもすぐに見つかってしまうに違いない。人里離れた山奥に逃げ込むなら見つからないかもしれないが、食っていくためには結局集落や町に出るか、物流を襲撃する山賊行為に出ざるを得ないため、どうにもならない。


「そもそも、俺達は第1特別歩兵連隊なんですよね? そういう事は連隊長が考えるべきなのでは?」


「バーツ大佐なら、2、3、4中隊の編成に失敗した罪で、左遷されちまったよ。連隊本部の参謀たちもだ。激戦区に送り込まれて戦死したらしい」


「うわ……じゃあ、1コ中隊しかいないのに連隊扱いなんすか」


「だから、俺達までそうならない内に、何とか事態を打開しなくてはならないんだ」


「あの~」


 断固たる意志を示すゼニス大尉に、第3小隊長のジェシカ少尉が手を上げて発言の許可を求めた。


「なんだ? 意見があるなら言っていいぞ」


「わたし、首都大学の研究室に知り合いがいるんですけど、そこでは戦勝のための技術開発を色々やっているんですよ」


 ジェシカ少尉は元々優秀な研究員だ。彼女の所属していた大学では最先端の科学技術が研究されており、そこで開発された物は、銃などの武器から救急キットまで大いに活用されている。


 この戦時下であるから、国策として研究内容の統制が成されていることは想像に難くない。


 もしも最新兵器を、実戦テストなどの名目で貸し与えられたりしたのなら、戦果を上げる事も容易いかもしれない。


 そして、ジェシカ少尉は実験の失敗で大損害を与えてしまったため、国のお偉いさんがたの不興を買ってこの部隊に送り込まれて来たものの、大学の教授陣はジェシカ少尉の才能を惜しんでおり未だに交流があるようだ。


「で、トランクケースくらいの大きさで、要塞を丸ごと吹き飛ばす爆薬があってですね……」


「ん?」


「ただ、ちょっとした衝撃や火花で爆発しちゃうらしいんですけど……」


「んん?」


「これを相手の指揮所にしかけて、どかーんと……」


「却下だ」


「ええ? 何でですか~?」


 にべも無く却下したゼニス大尉に、ジェシカ少尉は不満そうだ。


「そんな危険な物、危なくて隠密行動で持ち運べないし、そもそも最前線まで輸送できないだろう」


「ああ、そうですね~。あ、でも、ある材料と材料を化合するまでそんなに危険じゃないらしいですから、現地で作成したらいけるかも? ただ、作業手順を間違えても爆発するらしいですけど」


 あははと笑いながら恐ろしい事を言うジェシカ少尉の提案は、当然却下された。


 ただし、新兵器の活用は有効な可能性があるので、無駄に危険な爆薬以外の開発状況も、一応はジェシカ少尉から確認してみた。


 しかし、怪力線やら敵陣に(無誘導で)自走する巨大な車輪やら、くしゃみ剤、降雨兵器、火山兵器と、へんてこりんな物、無駄に壮大な威力の物、人道上問題がありそうな物等、ロクなものが無かった。


 共和国の頭脳たる者達が、この様な珍兵器ばかり研究している事に対して、ゼニス大尉は暗澹たる気分に陥った。まさか、戦時中で予算がじゃぶじゃぶに与えられるのを良いことに、自分たちの興味を満たす研究をしているのではないだろうか。


「全部、使い道が無いな」


「そうですか? 面白そうじゃないですか」


「面白くなくていいんだよ。もっと手軽で、最前線の兵士にも使える様なのが良いの!」


「じゃあ、手投げ爆弾何かどうです?」


「手投げ爆弾?」


 ジェシカ少尉の言うところによると、手投げ爆弾なる物は、握り拳大の金属製の爆弾で、線を引き抜くと数秒後に金属片を飛散させて爆発する性能があるらしい。


 従来も爆発物は運用されているが、導火線等の問題から雨では使えなかったり、信頼性が低かったりするのだが、手投げ爆弾ばその部分が改善されているのだという。詳しく薬品による化学反応がどうの、安全性を高めるための構造がどうのとジェシカ少尉が解説していたが、ゼニス大尉にはちんぷんかんぷんだった。


「おし、それだよそれ。実験に使うとか何とか言って、こっちに持ってこさせろよ」


「あんまり面白く無さそうなんですけど?」


「もう一回いうが、面白くなくていいんだよ。勝ちゃあいいんだよ。勝ちゃあ」


「しかし、首都まで伝令を出して、こちらに戻って来るまで二週間はかかりますよ」


 既に手投げ爆弾を使用した戦法を頭の中で構築していたゼニス大尉に冷や水をかける様に、ユーベル曹長が言った。二週間もかかっては、次の戦闘が始まってしまうかもしれない。


 しかし、助け舟を出したのはトム少尉だった。


「首都には、まだ仲間がいるから、そこまで伝書鳩を飛ばしますよ。そうすれば一週間位でこちらに来るでしょう」


「おお、そうか。じゃあそれで頼む。ジェシカ少尉は手紙を書いてくれ。俺も要望書を書いて同封しよう」


 これで会議は終了となり、各員は示された行動をとる事になった。


 要望書を書いている途中、ゼニス大尉はふと思った。


 トム少尉は元窃盗団のリーダーであるが、首都に居る仲間とは窃盗団の一味であろう。仲間が組織を維持しているのなら、彼だけなら脱走しても逃げ延びる事は可能かもしれない。


 それをしないと言う事は、中隊の仲間を残して逃げられないということなのだろう。


 中隊を構成する「カテゴリー5」と呼ばれるものたちは、社会から爪はじきにされて生きてきたため、愛国心もなければ、国民としての仲間意識も無い、兵士として不適格な連中とみられている。


 しかし、中隊の中だけでも仲間意識を持っているのなら、まだ救いの目はある。


 そんな考えに至ったゼニス大尉は、戦いに対する意識を新たにした。

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