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第23話「誤解してました」

 ベネル市から戻った次の日、ゼニス大尉は宿舎の中隊長の執務室に客人を迎えていた。執務室と言っても、使っていない馬小屋を掃除して、毛布で個人スペースを囲っただけの粗末過ぎる作りなのだが、テント生活よりはましである。


 客人は、「特選遊撃隊」なる珍妙な名称を与えられた部隊の者達だ。彼らは、全員が大学院生で士官として任官していると言うエリート部隊である。エリートとは言っても、社会的なエリートであり、軍人としてはド素人も同然であり、戦闘になったら何の役にも立つまい。


 この辺り、社会の底辺の人間だけを集めて編成された、ゼニス大尉率いる第1特別歩兵連隊第1中隊とは対照的である。第1中隊が戦場では奇策により成果を出して来た点も、正反対と言えよう。


 彼らは皆、愛国心などの感情により、軍への入隊を志願したご立派な青年たちだ。しかも、わざわざ前線勤務を希望したのだから、それはもう大変なものである。豊富な知識と優れた知性を持つ彼らが、前線などに出ず、中央で戦略的な計画策定等に協力してくれたなら、非常に役立っていただろう。


 自らの価値を弊履の様に捨て去り、役に立てる場所など存在しない前線に来てしまった、彼らの若さにゼニス大尉としては残念に思うばかりである。


 まあ、彼らを死なせる事は、共和国でも有力な彼らの一族の怒りを買う事になりかねないので、休戦期間が終わる前には理由をつけて後方に戻されるであろう。それが救いである。


 その彼らは、色々あってゼニス大尉の事を敵視している。その彼らが、何故わざわざ再度このアスミタ村を訪れたのであろうか。今、ゼニス大尉の目の前に特選遊撃隊の代表格のロール少尉がいる。


「よお。ロール少尉だっけ? 何しに来たんだ?」


 国でもスーパーエリートに分類されるロール少尉に、ゼニス大尉はぞんざいな口調で話しかけた。


 いくら相手の方が本来の社会的地位が上だったとしても、今はゼニス大尉の方が階級が上である。ならば、軍隊の流儀を押し通すのが正しい姿だ。それに実は、左遷されてしまったとはいえ、ゼニス大尉は元は士官学校を主席で卒業した逸材だ。左遷されたりしなければ、国の中枢まで登りつめる事も可能だったという自負もある。


「他の村も一通り見てきたので、またこの村に行こうと言う事になったんですが、それよりどうしたんですか、その指は?」


 ロール少尉は引きつった表情で、ゼニス大尉の指を指し示した。ゼニス大尉の指はその全てが、赤く腫れあがっている。一見人間の手には見えず、かなりグロい外見になっている。


「ああ、色々あってな」


「ちょっと待って下さい。僕たちの中に、医師がいますから治療させましょう」


「それは助かる。実は、ちゃんとした治療は受けてないんだ。この村には医者がいないしな」


 すぐにロール少尉は仲間の医者を連れて来て、ゼニス大尉の指の治療をさせた。医者と言っても大学院生と言う事は、現場での経験はあまりないはずであるが、流石将来のゴダール共和国の医学会を背負う逸材である。素早く丁寧にゼニス大尉の指の処置を完了させた。


「と言う訳で、この村の御婦人とその子供を、悪の組織から助け出す時にやっちまったんだ。まあ、名誉の負傷ってやつだ」


 治療の間、手持ち無沙汰のゼニス大尉は指を怪我した事情をロール少尉に聞かせていた。ゼニス大尉としてみれば、戦場での戦いに比べたら大したこの程度大した話には感じていない。もちろん、裏組織との戦いには特有の陰惨な特徴もあるのだが、今回の事件では裏社会の顔役に気に入られたため、報復などの恐れはない。


 だが、エリートの坊っちゃんには少しばかり刺激的だったのか、ロール少尉は顔を赤くし、体を小さく震わせていた。そして、


「すみませんでした!」


「お、おお?」


 突然ロール少尉が頭を下げて、何かを謝ってきたのだが、ゼニス大尉には何のことやら分からない。


「僕たちは、あなた達がやる気の無い、国民に対する責任感も無い人たちだと誤解してました!」


「ああ、そう言う事」


「だから、ジェシカ先輩がこの部隊にいるのも、あの人にとって適切でない、何とか改善しなければならない事だと思ってました!」


「お、おお」


 第1中隊で第3小隊長を務めるジェシカ少尉は、元々優秀な研究員として首都大学の研究室に所属しており、彼女の後輩にあたるロール少尉達大学院生のアイドルであったらしい。彼女に自覚はないのだが。


 そして、彼女が軍に招集された事が、ロール少尉達の軍の志望動機の大きな理由である。その彼女が、第1中隊の様なチンピラみたいな集団に属している事を彼らはよく思っておらず、それがゼニス大尉への敵意に繋がっていたのだ。


 だが、ゼニス大尉が自らを犠牲にして村人を助けたというエピソードは、彼の琴線にふれたようである。そして、ゼニス大尉への評価、ひいては第1中隊への評価を改めて、これまでの態度を謝罪したのである。


 あっけにとられたゼニス大尉だったが、この様に素直に自分の誤りを認められる事に関して、彼が単なる世間知らずの坊っちゃんではないと、こちらも評価を改めた。まあ、世間知らずの坊っちゃんだからこそ、これだけ素直な反応を見せるのかもしれないのだが。


「まあまあ、行き違いがあるのはよくある事だから、これから仲良くやっていこうじゃないか。村の人たちも、この事件を解決したおかげで関係が良くなったんだ。そうだ、今日は、ジェシカ少尉が、学校で村の子供達に特別授業をやってるんだ。案内しよう。来るだろ?」


「はい!」


 ゼニス大尉とロール少尉は、馬小屋の外に出て村の中心部に建てられた学校に向かうことにした。


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