第17話「ポーカーで勝負しよう」
ポーカーを楽しむゾブリの前に、カジノには不似合いな軍服を着た集団が現れたのは、勝ちを積み重ねてもうそろそろ帰ろうかと考えていた時であった。
ゾブリはイカサマも駆使して、博奕では確実に勝ちを重ねる事が出来る。だが、余り勝ちすぎるとカジノの胴元から睨まれてしまうので退き際が肝心だ。ゾブリもまた裏社会の人間なので、そうそうカジノ側が襲撃するとは思えないが、パワーバランスではカジノ側が有利だ。ある程度の配慮をする事が処世術と言うものだ。
その状況で一体この軍人たちは一体何者なのだろうかとゾブリは疑問に感じた。
この裏カジノには、高位の軍人が何人も来ているが、当然軍服は脱いできている。一応このカジノは非合法の存在であるために公的な立場にある軍人が来るのはよろしくないからだ。
それにも関わらず軍服で訪れるこの空気の読めない者達は、一体何者なのか。
見ればこの集団の長らしき人物の軍服には大尉の階級章が付けられている。その他の男達も少尉だったり二等兵だったりと吹けば飛ぶような階級の者達ばかりだ。この様な場には相応しいとは思えない。
「よう、人攫い。今日、この子の妹を攫っただろう? 大人しく返せ」
「人攫いとはご挨拶ですね。私が経営しているのはその様なものではなく、人材派遣会社ですよ。え~と」
「俺は第1特別歩兵連隊の第1中隊長のゼニス大尉だ。何が人材派遣会社だ。そんな言い訳が通ると思っているのか?」
「通りますよ、ゼニス大尉。ちゃんとこのベネル市の役所に登録してますからね。それに、あなたが言っている少女の事は勘違いですよ」
「勘違いだと?」
ゾブリは明らかに喧嘩慣れした兵隊たちに囲まれながらも、飄々とした態度で答えた。ゾブリは今護衛を連れているが、人数差があり過ぎる。もし暴力沙汰になったなら勝ち目が無いのは理解しているが、それを恐れている様子は全く見られない。恐るべき度胸である。
「アニスちゃんやあなたが連れているアポット君の母親は、弊社と契約してとあるお屋敷に派遣されていましてね。ただ、彼女はそこで勤務している時に高価な調度品を壊してしまって賠償金が発生していたんですよ。弊社としても困っていたところ、ちょうど彼女のお子さんたちがこのベネル市に来ているのを社員が見つけましたので、是非とも働いてもらおうと思って声をかけさせて頂いたんですよ」
「何を言ってやがるんだ。そんな事信じられると思ってんのか?」
ゾブリの話の内容からすると、彼は表向きは人材派遣会社を謳っているが、実態は人身売買に近い事をやっているし、難癖をつけて借財を負わせている様だ。更にはその家族までもマークして、自らの商売に悪用しようとしているのである。
これを知ったゼニス大尉は、当然の事ながら怒りに燃えた。
「誤解をさせてしまったようで、私としても非常に残念です。と言う訳でして、アポット君も渡していただけませんか?」
「そんな返答で納得するとでも思ったのか? 話して分からんようなら……」
「ゼニス大尉! さっき言った通り暴力沙汰は困る」
「ちっ」
実力行使に移ろうとしたゼニス大尉を制止したのは、この闇カジノを運営するゴッペルであった。
「ゾブリも、こうなった以上はぐらかそうとしても無駄だ。ワシの店の中で暴れられても困るから、こうやって止めてるが、話し合いに応じないというなら双方とも店の外に出て好きなだけやり合ってくれ」
「おいおい、ゴッペルさん。まさか兵隊どもの肩をもつのか? 商売仲間なのに冷たいじゃないか?」
「黙れ。ワシはお前の様なやり方は好まん。口入屋にも仁義ってもんがあるんだ。近頃の若いもんはその辺をわきまえちゃいないようだがな。それに、そこにいるゲオルグは今じゃ少尉なんてやってるようだが元はあのキンゾー一家の若頭だ。こう言っちゃ何だが、「ゾブリ人材派遣会社」さんと、あの「キンゾー一家」、どっちに貸しを作りたいと思うよ」
「ハイハイ、分かりましたよ。今じゃ落ち目と聞くがキンゾー一家と比べられちゃ仕方ありませんな。話し合いには応じましょ」
ゾブリとゴッペルの会話からすると、ゼニス大尉の部下であるゲオルグ少尉が徴兵前に所属していたギャング団は、裏社会で相当名が知れた存在らしい。ゼニス大尉個人とキンゾー一家とやらには、何の関係も無いのだが状況が上手く進むならそれに越したことはない。
「で、どうすんだよ。あの娘を返せってのか? 返したところで母親は数年は帰ってこないがな」
ゾブリの口調はよそ行きのものではなく、ぞんざいなものに変わっていた。これが本性なのだろう。
「母親の契約書も当然渡すんだよ。どうせ違法なんだろ。憲兵に突き出されたいか?」
「はっはっは、違法の証拠なんて見つかりやしませんよ。だから、憲兵なんて恐くなんてない。善良な市民ですからなあ。ハハッ!」
話は平行線をたどった。ゾブリのやっている事はどうせ違法なのだろうが、あいにくとその証拠は示すことが出来ない。恐らくその辺りには気を使って尻尾を掴まれ無いようにしているに違いない。
とは言え、ゾブリ側も完全に突っぱねる事は難しい。その様な事をしてはキレたゼニス大尉がカジノの外で襲撃しないとも限らないからだ。
ここは何か妥協点や別の方向から話をまとめなければ、双方ともに困ってしまう。
そして、膠着状態に陥ってしばらくした時、ゼニス大尉は思案中のゾブリがカードを手にしてもてあそんでいるのを見た。
「あんた、カードゲームは好きか?」
「ああ、好きだよ。ガキの頃はこれで飯を食っていてね。特にポーカーの勝負で、ここら近辺で俺以上の奴はいないだろうね」
「よし、なら提案だ。ポーカーで勝負しようじゃないか。こっちが勝ったら母親も契約書ごと渡せ」
「ほほう? 軍人さんの割には面白い事を言うじゃないか」
それまでつまらなそうに交渉していたゾブリの目の色が変わる。




