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第13話「学生さんの思い出作りかよ」

「それでは、これよりベネル市に向けて前進する。財布は持ったな? 忘れてても金は貸さんから、今のうちにちゃんと点検しておけ」


「だいじょ~ぶで~す」


 ゼニス大尉は、10人ばかりの部下を前に、学校の引率の先生みたいな事を言っていた。彼らはこれから、アスミタ地方最大の都市であるベネル市に向かう。休暇をとって遊ぶためだ。


 これには訳がある。元々遊びに行かせようと考えていたのだが、つい先日の特選遊撃隊の来訪でそれは後押しされたのだ。


 特選遊撃隊面々は、全員が本来大学院に所属する共和国きってのエリートぞろいである。その彼らが軍の最前線での勤務を志願した理由は、彼らの先輩にあたるジェシカ少尉の存在だった。


 ジェシカ少尉は実験失敗の責任によりゼニス大尉の率いる第1特別歩兵連隊第1中隊に配属されたのだが、それを知らない特選遊撃隊の坊っちゃん達は愛国心のためだとか、そういう美談と受け止めてしまったようだ。


 また、どうやらジェシカ少尉が大学の研究室に所属していた時、大学全体のアイドル的存在だった様だ。確かにジェシカ少尉は優れた容姿をしており、女っ気の少ない大学院ではそういう立場になりやすいのだろう。研究の事しか頭になく、実験失敗で建物ごと消滅させても、特に悪いと思っていないなど問題はあるが、話さなければ分からない。


 そして、特選遊撃隊の者達はジェシカ少尉と直接話した事のある者はいなかった。


 ジェシカ少尉の寝泊まりする村の中心部の民家に押しかけていったのは良いものの、見知らぬ男達の襲来にジェシカ少尉の反応は芳しくなかった。まあ、それが普通の反応である。


 もっとも、ジェシカ少尉の場合、どうでも良い連中が来て何やら騒いでいるのに対し、全く興味が湧かなかっただけなのだろうが。


 そんなわけで、彼ら特選遊撃隊の者達は怒った。


 ジェシカ少尉に対してではない。ゼニス大尉に対してだ。


 一見意味不明であるが、一応理屈はある。


 彼らの考えによると、共和国の未来のために、神話の戦乙女のように先陣に立ち、後に続く特選遊撃隊を導いてくれるのがあるべき姿だと言うのだ。それが、この様に無反応なのは、やる気の無い無能な上官のせいだと言うのだ。


 ……やっぱり意味不明だったかもしれない。


 恐らく、最新の研究の話を振れば、たちまち乗ってきたのだろうが、あいにくと彼らはジェシカ少尉の本性を知らない。


 まあ、アイドルとはそんなものだ。


 兎に角、怒りの矛先はゼニス大尉に向いたのだが、坊っちゃん育ちの彼らが暴力的な喧嘩を吹っ掛けて来ることは無かった。ありがたい事である。負けはしないだろうが、彼らを怪我させた場合、有力者である両親やそれを気に掛ける軍中央から更に睨まれる事になっていただろう。


 それでは彼らが何をしたのかと言うと、慈善事業である。


 彼らは村長の家に押しかけ、困っている事はないかと尋ねたのだ。多分、いきなり妙な若者達におしかけられたことを困っていたのだろうが、面食らった村長はそれは口にしなかった。


 そして、家の修繕や独居老人の世話、子ども達へ演奏会、医学生による無料診療など色んな分野でボランティア活動を始めたのだ。


(学生さんの思い出作りかよ)


 その光景を見たゼニス大尉は心の中で毒づいた。確かにこれが軍務と言えるかは微妙なところである。


 だが、最初は何が起きるのかとびくびくしていたアスミタ村の住人達は、エリート然とした若者達が色々と親身になって慈善事業をしてくれるのだ。たちまち評判となった。


 中でも特選遊撃隊のリーダー格であるロール少尉は、アスミタ地方の名士の嫡男であるらしい。その彼が埃にまみれて、自分たちのために汗をかいてくれているのだ。その評判はうなぎ登りである。


 ロール少尉は法学を大学院で学んでいるようだが、将来の選挙では国会議員だろうとアスミタ地方知事だろうと当選確実だろう。大統領も夢ではないかもしれない。


 実に目出度い事である。


 だが、特選遊撃隊の評判が上がる事は、第1中隊への評価を相対的に下げる事になった。


 特選遊撃隊は一晩だけ宿泊すると次の目的地に去って行ったが、残された第1中隊に対して聞こえて来る声や感じる視線は芳しく無かった。


 色々と慈善事業をしてくれた特選遊撃隊に対し、第1中隊はただ村のはずれに寝泊まりし、酒を食らってウンコを撒き散らすだけだ。しかも、爽やかなエリートである特選遊撃隊と違って、第1中隊はチンピラ紛いの者達の集まりである。存在自体が怖い。


 そんな訳で村は居心地が悪くなってしまったので、気晴らしに交代で街に出かけることにしたのだ。


 一応ゼニス大尉は、特選遊撃隊の真似をして慈善事業をする事も考慮したのだが、それは止めておく事にした。


 休戦期間の安全な時期だけに、大して意味の無い任務を消化してやっている感を出している特選遊撃隊と違い、第1中隊はつい先週まで死線をくぐり抜けて来たのである。その様な部下に対し、村民からの評判のためにボランティア活動を強要するなど、ゼニス大尉には出来なかった。


 軍の任務は学生の思い出作りとは違うのである。休む時は休ませるべきなのだ。


 そんな事情があり、ゼニス大尉はベネル市における休暇組の第一陣を率いて出発しようとしているのだ。


 なお、ゼニス大尉自らが第一陣に加わっているのは、別に自分が遊びたいからではない。ベネル市の歓楽街のどこが危険であるとかを偵察する意味合いがあるのだ。そのために、今回の参加者は少数に抑えられ、その中には第2小隊長のゲオルグ少尉も混じっている。


 彼は、元ギャングの幹部であるため、歓楽街のどこが危険で、どこなら安全に安く遊べるかを見分ける事が出来るはずだ。また、何かあった時に地元のギャングと話を付ける事も可能だろう。


 今回の休暇取得者には、ゲオルグ少尉の元子分も多く含まれている。態勢は万全のはずだ。


 準備が整ったゼニス大尉達は、一路ベネル市へと向かった。偵察という目的もあるのだが、久しぶりに街で遊べるという事に、心が躍るのは止められなかったのだが。

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