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第12話「修学旅行かよ、あほらしい」

 特選遊撃隊なる、「カテゴリー1」の兵士だけで構成された部隊と出くわし、ゼニス大尉はそんな存在がある事に非常に驚いた。


 見た所彼らは全員が少尉である。これは、共和国軍においてカテゴリー2以上は全員少尉待遇になるからであろう。規則によって自動的に士官として任命されたのだ。


 ゼニス大尉の率いる第1中隊の小隊長は、三人中一人は大学院卒業の一応「カテゴリー1」相当なので規則通りと言える。しかし、残りの二人は、集められた兵士の中で、まともに読み書きが出来るのが彼らしかいなかったと言う非常に消極的かつ涙ぐましい理由だ。


 特別に編成された部隊という点では同じでありながら、その他のあまりに違い過ぎる状況に運命のいたずらを感じずにはいられない。


「ところで、お前たちは何故この村に? このアスミタ村は第1師団の作戦地域で我等第1特別歩兵連隊第1中隊の責任区域だ。特選遊撃隊と言う部隊が第1師団に配属されているとは聞いていない。他の部隊との境界線を越える事は、軍人としてどういう事かな?」


 エリートぞろいの特選遊撃隊の面々であるが、一応階級上はゼニス大尉の方が上である。舐められない様に少し威圧的に質問する。そして、ゼニス大尉の言う事は軍隊の常識である。定められた境界線を越えて、他の部隊の作戦区域に進入した場合、敵と誤認されて攻撃をされても文句は言えないのである。それが友軍であるかどうかは関係の無い話なのだ。


「ああ、それはですね。僕たち特選遊撃隊は陸軍大臣直轄の部隊で、この聖戦祭の月の間どの地域に行く事も許可されているんですよ。ほら、これがその証明書です。そして、この期間に各地を巡回し、見て回った内容を報告する事を命じられているんです」


 特選遊撃隊のリーダー格であるらしいロール少尉が、胸を張ってそう答えた。


 この返答を聞いた時、特選遊撃隊は監察をするために、各地を視察しているのではないかと警戒した。その場合、第1中隊の「カテゴリー5」の面々はアスミタ村の住人から苦情を受けたばかりだ。一応解決してはいるのだが、これを知られて軍中央に報告されるのは非常に不味い。


 だが、その警戒は坊っちゃん然したロール少尉達の顔を見て、即座に解けた。


 監察は実に行動なテクニックを必要とする役職である。この様な社会経験の少ない若僧たちに出来るものではない。


 おそらく、陸軍大臣達中央の人間は、この愛国心に満ち溢れて志願して来た若者達の扱いに、非常に苦慮してこの様な任務を与えたのだろう。取り敢えず前線を巡回させれば、「やった感」がして満足するだろう。そして、この休戦期間であればそれ程の危険はない。休戦期間が終わる頃には報告のために首都に戻っているという寸法だ。


(修学旅行かよ、あほらしい)


 ゴダール共和国において、大学に進学できるのは一握りの人間であり、そこから大学院にまで進むのは将来を約束されたエリートである。その様な彼らをそんな無駄な任務に就けるのは非常に勿体無いと言える。なので今のゼニス大尉の様に辛辣な感想が出るのは、仕方のないことだ。


 また、別の側面から言えば、他の一般の若者達が最前線に送られていると言うのに、彼らだけが特別扱いを受けていると言うのは差別以外の何物でもない。


 だが、陸軍大臣のような中央の高官達がこの様な姑息な手に出た心情は、ゼニス大尉にも理解出来た。彼らは社会経験こそ少ないものの、将来は確実に共和国の頭脳となる人材である。それを最前線で使い潰しては国の未来が危ういものになる。これは大袈裟な話ではない。


 一瞬、2~3人なら最前線に送り込んで戦死したとしても、エリート階層ですら愛国心に燃え、国に殉じたという美談に使えるではないかなどと、少し非情な事をゼニス大尉は思いついた。ただ、これをした場合死んだ若者の、恐らく有力者である親が黙っていないので、無理であるとも言える。


 ただし、彼らはそれぞれの専門分野の学問で、優秀な成績を修めた者ばかりである。ならば、参謀本部で戦略分析をやらせたり、新兵器の開発に従事させればとても役に立つはずであるが、どういう事かその様な任務にはつけていない。


 この事に関して、ゼニス大尉は非常に不思議であった。


「僕たちよりも先に、大学院を卒業して研究員として大学に残っていたジェシカ先輩が軍に志願したと聞いています。僕たちもそれに後れを取ってはならないと、志願したのです」


「ああっ?」


 知っている名前がロール少尉の口から飛び出たので、ゼニス大尉は驚いた。


 ジェシカ少尉は実験に失敗して大爆発を起こし、その罪で軍に入れられたのである。決して愛国心に燃えてではない。大学の後輩たちには、何か間違って伝わっている様だ。


 そして、これでゼニス大尉大体の事情が予想できた。ジェシカ少尉は第1特別歩兵連隊第1中隊の小隊長として、最前線に送り込まれている。それを伝聞で聞いた彼らは、優秀な研究員であり、しかも女性であるジェシカ少尉が国を守るため最前線で奮闘努力していると思ったのであろう。


 世間知らず坊っちゃん達は、同じ様に最前線に出て戦うのが、選良たる自分達の責務であると思い込み、入隊を志願したのだ。しかも、最前線で戦う事を希望してだ。


 その結果、一番効果的な中央での勤務をさせる事も出来なくなり、困った陸軍大臣達は特選遊撃隊なる部隊を編成し、安全な休戦期間だけ、言わば「修学旅行」として最前線に送り込むことにしたのだ。


 馬鹿馬鹿しい限りだが、様々な事情を鑑みれば仕方のないことだ。ご愁傷様ですと言ったところだ。


「ジェシカ少尉なら、この村にいるっすよ」


「君、それは本当かい?」


 これまでゼニス大尉とロール少尉の話を、(意味がよくわからないので)黙って聞いていた第1中隊の兵士だったが、知っている名前が出たために反応した。ガストン二等兵が深く考えずに、余計な真実を口に出す。


 ガストン二等兵の言葉に反応し、気色立つ特選遊撃隊の様子を見て、ゼニス大尉は面倒くさい事にならない様に神に祈った。

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