第11話「カテゴリー1の部隊」
アスミタ村の皆さんからの苦情に対処するミーティングを開いた日から、3日ほど過ぎた。
ある程度対策を講じたために、苦情は目に見えて減った。
見た目が怖いなどという、もはやどうしようもない内容はともかく、そこら辺でウンコをするのは止めてくれといった、あまりに低レベル過ぎる苦情は無くなった。スラム街などで人間らしい生活を送ってこなかった第1中隊の兵士達の事を思えば、かなりの進歩である。この努力にゼニス大尉は、感謝の念を抱いた。
となると、部下達にある程度の褒美を与えてやりたくなる。とは言っても、ゼニス大尉には勲章を与える権限も、彼らにボーナスを支給できるだけの金も無い。なので、近くの大都市であるベネル市に、交代で遊びに行かせる計画を個人的に検討することにした。
一応第1中隊の兵士達には給金が規定通り支払われている。日頃「カテゴリー5」などと蔑まれている彼らだが、「カテゴリー5」などという区別は規則には存在しないため、金は他の兵士達と同様の基準で支払われる。豪遊さえしなければ、街に行ってそれなりに楽しむことも出来るだろう。
もう聖戦祭の休戦期間に入っているため、防衛を命じられたアスミタ村から遊びに行く事も、ローテーションで行えば問題にはなるまい。
「中隊長! 何か妙な奴らが来やしたぜ!」
思索を巡らせるゼニス大尉を、慌てた様子のベネット上等兵が呼んだ。
妙な奴らとは一体どういう事か。敵のトスケール帝国軍も同じヒエロス教を信仰しているはずであり、この休戦期間は重要視するはずである。まさか、その常識が甘かったのであろうか。
「トスケール帝国軍か?」
「いや、味方なんすけど、なんか変なんすよ」
「変?」
どう表現して良いのか判断に困っているベネット上等兵を見て、これでは埒が明かないと判断したゼニス大尉は現場に案内させることにした。味方ならば、死ぬことはあるまい。
現場に到着したゼニス大尉の目に、見慣れぬ一団と向き合う部下達の姿が飛び込んできた。人だかりをかき分け、先頭に向かう。
ここで相手の一団を間近で見たゼニス大尉は、何が妙なのかにすぐに気が付いた。
相手の一団は、十代後半から二十代前半の若者ばかりであったのだが、全員が士官の軍服を着ていたのである。しかも、その軍服には煌びやかな刺繍が施され、まるで劇団員の様だ。
「あー、俺は、このアスミタ村への駐留を命じられている第1特別歩兵連隊第1中隊を率いるゼニス大尉だ。君たちは一体何者かな? 官姓名を述べなさい」
一応味方であることは確認できたので、ゼニス大尉は自己紹介に入ることにした。相手の階級章を見た所、少尉ばかりなので階級では上である。軍隊においては階級は重要視されるため、お荷物扱いの中隊の指揮官ではあるが、貫目で負けるものではない。
「あなたが、この部隊の隊長殿ですか。僕は、ロール少尉と言います。ゴダール首都大学大学院の法学のメッソン教授の研究室に所属していまして、今でも籍は残っています」
「私は、アランドラ少尉です。同じくゴダール首都大学の大学院に所属していて……」
ロール少尉達は順番に自己紹介を始めた。これが50人ほど続く。自己紹介内容から察するに、どうやら彼らは志願して共和国軍に入隊したらしい。
しかも、恐るべき事に彼らは全員が大学院に所属するエリートばかりである。ゴダール共和国では大学に行く事すら相当のアッパークラスである。それが大学院まで行くとなれば超エリートと言え、今後の共和国の学界、政界、財界を牽引していく人材なのだ。故に、大学院在籍の学生や卒業して学位を有する者は、兵役の対象から除外されている。これを、格差と呼ぶか、合理的な処置と呼ぶかは人それぞれだろうが、ゼニス大尉としては後者だと思っていた。
もちろん、大学院を卒業した者が軍に志願する事は無いわけではない。共和国において高級軍人を目指すと言うのは、成り上がりの手段の一つであるからだ。
そして、大学院卒業相当者は、「カテゴリー1」に分類され、非常に大切に扱われている。
第1中隊の兵士たちが、義務教育すら受けていないために「カテゴリー5」などという本来存在しない分類で呼ばれているのとは大違いだ。
(つまり、こいつらは「カテゴリー1」の部隊と言う訳か)
その様にゼニス大尉が考えながら、この謎の部隊が一体何者なのか考察する。
第1中隊にも、第3小隊長のジェシカ少尉という「カテゴリー1」に本来分類されるべき人間はいる。しかし、彼女は実験の失敗で大爆発を起こしたために、いわば懲罰として入隊した存在だ。
まさか、50人全員が大失敗をして軍に入れられた訳でもあるまい。
「僕たちは皆、共和国を守る志に燃え、入隊を志願しました。そうしたところ、陸軍大臣から特別の部隊として編成され、『特選遊撃隊』の名前を貰い、色んな戦場を巡回している最中なのです」
(うわ……)
どうやら彼らは愛国心に燃えて、超エリートの身でありながら入隊を志願たらしい。ゼニス大尉の率いる第1中隊の兵士達とは、正反対の存在である。
めんどくさい奴等と出会ってしまった。
ゼニス大尉は直感的にそう感じ、心の中でため息をついた。




