リーゼス領に向けて
オルファとベガの様子を、少し離れた場所で見ていたリーゼス伯爵は、
「素晴らしい……」
と、思わず感嘆の言葉を漏らす。
それを聞いた護衛の兵士が、
「閣下?」
と、問いかけると、
「あの少年、いや、青年だったな。オルファ殿は素晴らしいな。オーガ3匹を一人で、いやゴーレムも戦ったから、一人と一体? 一匹? まあいいか。それで瞬殺とはな」
リーゼス伯爵がそう言う。
何せオーガである。オークより体が小さいのだが、強さでいうならば比べ物にならないくらい、オーガの方が強いのだ。
オーガ一匹を倒そうと思えば、リーゼス領の兵士に倒せと命令するとなれば、20人は必要だろう。
三匹ともなれば、オーガも連携して動くため、単純計算して60人ではおそらく倒せない。
それを一人とゴーレム一体で倒したのだから、驚くなと言う方が無理である。
「閣下は気を失っておられましたが、我らが助けられた時も、盗賊40人を瞬殺でした」
護衛は、オルファがリーゼス伯爵達を助けた時の事を説明するのだが、盗賊40人よりオーガ三匹のほうが脅威であるので、今更だろう。
「いくら傭兵だったとはいえ、あの強さは並々の努力では得られないだろう。実に興味深い。うちの領での仕事とやらはなんだろうな?」
と疑問を口にするリーゼス伯爵。
「どこかの村で魔物の被害とか、ありましたか?」
そう問いかけた護衛に、
「いや、報告は受けておらんが」
と思い返しても、心当たりが無いというリーゼス伯爵。
そんな会話の中、オルファはオーガの死体を魔法倉庫に収納し終え、リーゼス伯爵達の下に戻ってきて、
「行きましょう」
と、皆を先に進ませる。
そして、オーガが食べていたであろう人を見て護衛が、
「ポール……」
と言葉を詰まらせる。
主人を逃すために、命を惜しまずに戦って散った仲間の遺体だ。
護衛の目に光るものがある。
それを見たオルファは、
「遺体を運びますか?」
と護衛に聞いてみる。
「魔法倉庫に……空きがありますか?」
「大丈夫ですよ」
「ではお願い致します」
深々と頭を下げて、お願いした護衛に、
「はい」
と答えて、遺体に手を当て、
「収納」
と言うと、ポールの遺体はその場から消えた。
オルファの魔法倉庫に収納されたからだ。
ちなみに魔法倉庫には、生きている物体は収納できない。
ただし、生命活動をしていなければ、収納は可能である。
物はもちろん、人も魔物も。
そのまま進むと、壊れた馬車が見えてくる。
リーゼス達が乗っていた馬車だ。
それを見たオルファは、
「馬車の中はめちゃくちゃですね」
と言うと、
「馬車自体もかなり壊れてますしね」
と護衛が車輪の外れた箇所を見ながら言う。
「車輪は直せると思います」
と言って、外れた車輪を拾うオルファ。
ゴソゴソと車輪を車軸に装着して、どうにか応急処置をすると、
「傭兵団の馬車がよく壊れていたので、しょっちゅう直してました。あり合わせで直したので、後でちゃんと修理に出してくださいね」
と、直した馬車の車輪を叩きながら言う。
その後、馬車はゆっくり進み、街道に出てくる魔物をオルファが殴り殺しては収納しながら、一行はリーゼス領に到着するのだった。