馬車に向かう
立ち話もなんだということで、馬車に向かう事になる。
だが、話題はオルファの事に変わりは無かった。
「どんな訓練をすれば、そんなに強くなるんです?」
と護衛が聞いてくるので、
「普通ですよ?……幼少の頃からキース団長達に、魔物を倒せと言われて、いきなり実戦でしたよ。倒せるようになると、今度は戦争に連れ出されましてね。戦いながら特訓させられました。よく生きてたと我ながら思いますね」
オルファが少し笑いながら言うのだが、聞いている者達は信じられないという表情である。
戦争で戦いながら訓練など、正気の沙汰ではない。
「イリス国との戦争で、数年戦っておるだけで、あんなに腕は上がるか?」
伯爵の疑問は皆の疑問だったのだろう。
「オルファ様は途中から参戦されたのでしょう? 何年戦いを?」
と護衛が続いて聞いたのだが、
「いえ、最初からですけど?」
と、何かおかしいですかという表情のオルファ。
「ええ? だって傭兵になれるのは10歳からでしょう?」
少女が言う事は正しい。
どの国も10歳以上でないと参戦させないからだ。
もっとも一番幼くて10歳なので、普通は成人していないと戦などに身を投じる事はない。
ちなみに成人は15歳である。
「そうですよ」
オルファが頷く。
「で、戦争は10年ですよね? 計算が合わない気がするのてすけど?」
オルファの容姿を見て、成人しているように見えないため、この疑問なのだが、
「私、20歳ですけど?」
とオルファが答えると、
「「「ええっ?」」」
と他の者の声が揃う。
「え?」
とオルファが声を漏らすと、
「すいません、15歳ぐらいかと」
「うむ、ワシもそう思って少年と呼んでしもうた。成人していたとは、申し訳ない」
と、謝られてしまう。
「いいですよ。若く見られるのは、慣れてますから」
実際20歳には見えないのだ。
年齢の話はやめておこうと、話を変えるために護衛が、
「あの……先ほど盗賊を倒した武器ですけど、変わってますよね。剣でも槍でもなく、なんか金槌みたいなのでしたけど」
と言うと、
「ああ、これですね。ウォーハンマーっていいます。私が考えたんですけど、騎士のような金属の全身鎧を装着した敵には、剣や槍では倒すのがめんどうだし、時間もかかるものでコレを使っています。これだと敵が金属鎧を装着していても、頭をぶっ叩けば鎧が凹んで頭蓋骨が割れるんですよ。こっちの尖ったほうなら、革鎧でも貫けるので、便利なんですよ」
と、手に持つウォーハンマーを見せながら、オルファが自慢げに言う。
「戦場の知恵か」
と伯爵が言った時、
「止まって!」
とオルファが皆を制する。
「どうされました?」
との問いかけに、
「オーガです。どうやら血の匂いにさそわれたようですね。あ、こちらに気がつきましたね」
前方を目を細めて見るオルファの瞳に映ったのは、地面に倒れる死体を貪り食うオーガだった。
オーガとは、オークよりも小柄ではあるが、人よりは大きく、筋肉も発達しており、何よりも知能が高い人型の魔物である。
頭部に1本ないし2本の角を持ち、人から奪った武器を使いこなす強い魔物である。
「た、倒せますか?」
護衛の足が震える。
オーガの相手をするとなれば、この護衛の腕前を持つ人が10人以上必要だろう。
だがこの場から見る限り、オーガは一体ではない。
おそらく3匹はいる。
「もちろん。ここでお待ちを」
オルファは軽く言い放つとベガの腹を蹴り、オーガに向かって進んでいく。