殲滅
「た、助かったあ」
護衛の声が漏れる。
だが、それと同時に少女が、
「お爺さま! しっかりして下さいっ!」
倒れている老人に駆け寄り、肩を揺すっている。
「あ! ご老人にコレを」
男は少女に試験管のような瓶を渡した。
「ヒールポーション! ありがとうございます。荷物は全て馬車の中だったので、何も持ち出せずで」
「いいから、早く飲ませてやれ」
「はい! お爺さま! ヒールポーションです! すぐに飲んで下さい!」
そう言って老人の上半身を起こし、僅かに開いた口から、ヒールポーションを飲ませた。
ヒールポーションとは、怪我をたちまち治してしまう飲み薬であり、だいたいの怪我に効果がある。
病気や毒には効果は無いが、旅に出るときには必須のアイテムである。
「少年、助かったよ」
護衛が男に向かって頭を下げる。
「たまたま通りかかったのでね」
「盗賊40人を瞬殺とか。それにあのゴーレムも凄い性能ですね」
「特別製なのでね」
男がそう言った時、
「そこの少年よ。助けて貰って感謝する」
と、ポーションで回復した老人が、男に礼を言った。
「あ、回復しましたか。良かったです」
「ああ、少年から頂いたポーションのおかげでな。お礼をしたいのだが、なにぶん身一つで逃げたので持ち合わせがないのだが、とりあえず馬車まで戻れば何かあったと思う。一緒に来て貰えないだろうか?」
「ついでに馬車までの護衛も……という事でしょうか?」
「……理解が早いな。屋敷までの護衛も依頼したい」
「いいでしょう。依頼のついでですから」
「依頼中でしたか」
「ええ。リーゼス伯爵領に向かう途中です」
「我が領か」
そう老人が言い、
「え?」
と、男が声を漏らした。
「名乗りが遅くなったな。アルベルト・フォン・リーゼスじゃ」
この老人がリーゼス伯爵であった。
「傭兵のオルファと申します、伯爵閣下。ご依頼、承りました」
男はそう名乗った。
「うむ、よろしく頼む」
リーゼス伯爵がそう言い、
「では、行きますか」
と護衛が言うのだが、
「あ、盗賊の持ち物は貰ってもよろしいですか?」
と、オルファが尋ねた。
「もちろんいいが、持ち運べるのか?」
リーゼス伯爵の言葉に、
「収納!」
と魔法で収納する事で答えたオルファ。
「ほう、魔法倉庫持ちか……」
リーゼス伯爵がオルファに興味を示す。
リーゼス伯爵が魔法倉庫と呼んだ魔法の使い手は、そう多くはないのだ。
オルファは死体の肉を貪り食っていたゴーレムに、
「ベガ、死体を食うのは後にしろ」
と声をかけると、
ブシュ!
と空気をオルファに吹きかけ抗議する、ベガと呼ばれたゴーレム。
「後で食わしてやるから」
ゴーレムの顔を撫でながら、オルファが言う。
「そのゴーレムは肉を食うのですか?」
と、少女が恐る恐る聞くと、
「ええ、肉も食うし水も飲みます」
と少し笑顔を作ったオルファ。
「オルファ殿はかなりの腕前でしたが、さぞ名のある傭兵なのでしょうね」
護衛がそう尋ねてくる。
「どうでしょう? 普通だと思いますが、最近ソロになったばかりなので」
「以前はどちらに?」
「ミッドランド王国で、キース傭兵団に所属していまして、10年戦争に参戦していました」
とのオルファの答えに、リーゼス伯爵が、
「ミッドランド王国は、我が国の友好国にして、同盟国。キース傭兵団といえば、ミッドランド・イリス戦争終結時に子爵位を受けたあの?」
と聞いてきたので、
「キース団長が子爵になりましたね」
とオルファが答える。
「わずか9人で、イリス兵3000人相手に勝ったという?」
「1人で300人ちょいをヤればいいだけですから」
そう答えたオルファに対して、
「「いやいやいやいや」」
リーゼス伯爵と護衛の声が揃ったのだった。