助ける
「貴公は?」
一人の護衛が男に尋ねる。
「敵ではない。助太刀する」
男は端的に答えた。
「ありがたいが、相手が多いが良いのか?」
「こんなチンピラ共……問題ない」
男は、何も問題ないふうに言った。
「なんだてめぇ? 変な格好しやがって。あのゴーレムはお前のか? ならお前を殺して頂いてやるよ」
モヒカン頭の男がそう言いながら馬を下りると、1人を除き全員の盗賊達が馬を下りる。
ゴーレムは使用者の魔力登録というものがあり、ゴーレムを動かせるのは使用者だけだが、使用者が死亡すると登録がリセットされてしまい、そのあとに魔力を通した者の命令をきくという特性がある。
先のモヒカンの言葉は、こうした背景があるためだ。
「ガキが正義の味方気取りか? 帰ってママのオッパイでも飲んでりゃいいのに、カッコつけやがって!」
僅かに見える顔立ちから、ガキだと判断した1人馬上の男が、槍を構えて睨みつける。
その刹那、黒い外套の男の姿がブレる。
先ほどまで外套を着た男が立っていた場所には、男の外套だけが落ちている。
次の瞬間、2人の盗賊の頭部から激しい音がしたと思うと、脳漿を吹き飛ばしながら、倒れる。
「な! いったい何がっ!」
一人の盗賊が叫んだ時、別の盗賊の頭からも血が飛び散る。
「弱過ぎる」
そう言った男は、15歳ほどに見える若者だった。どちらかと言えば冷酷そうな顔つき。
鋭い輝きを放つ、鋭い目つき。
眼の中にある瞳は、漆黒。
それに、この地域では珍しい黒い頭髪をしていた。
凄まじいスピードで移動する、黒髪の男の右腕には大きめの、見たこともないようなハンマー。
左手には鉄板を折り曲げたような盾、いやバックラーとでも言うべきか。
左肩には金属製の肩当て、小さめの円錐状の棘が3本突き出ている。その二つの色は青。
右側は革製であろう、よく見かける肩当てだが、こちらの色も青だ。
黒髪の男はハンマーで、盗賊達の頭部を次々と殴っていく。
馬上の男は何が起きているのか、理解できなかった。
いや、仲間が倒されているというのは、理解できる。
だが何故、仲間が倒されていくのかが、理解出来ない。
相手はたった1人。
魔法が放たれているわけでもないのに。
「後はお前だけだが?」
黒髪の男が、残った一人にそう言うと、
「くっ、バケモノめ!」
「人を魔物みたいに言うなよ……」
そう言って男は馬上の盗賊に向かって走り出す。
盗賊は槍を振り下ろすべく、頭上に槍をかかげた。
だが、振り下ろすよりも先に、自身の左足に激痛が走る。
男のハンマーに打ちつけられたからだ。
「グッ」
と、痛みに声を漏らした盗賊が、苦痛の表情を見せたとき、すでにハンマーは盗賊の鼻先に迫っていた。
何かが潰れる鈍い音がすると、盗賊は馬の背から落ちた。
今日はこれで終わりです。