黒幕は
オルファ用にと充てがわれている来賓室で、オルファがくつろいでいるとき、部屋のドアがノックされる。
「どうぞ〜」
と応じたオルファ。
部屋に入ってきたのは、リーゼス伯爵だった。
オルファはソファを勧めて、自分も座る。
「オルファ殿、今日は助かりました。礼を言います」
「いえいえ。で、黒幕は分かりましたか?」
「はい、我が国の貴族である、イスタニア侯爵家の当主とその息子です」
「ふむ。貴族同士の揉め事ですか。よくある事と言えばよくある事ですが」
「我がリーゼス伯爵家とイスタニア侯爵家は、派閥が別でしてな。我が家は王家派、イスタニア侯爵家は反王家派であるぜビア公爵派でしてな。事あるごとに揉めるのですが、去年私が王に報告した内容が気に入らなかったのでしょう。事あるごとに難癖つけてきてましてな」
「ゼビア公爵とは?」
「前王の弟様の家系です。現王家の政策にことごとく反対しておりまして。一番の対立案件は奴隷ですな」
「確か奴隷は今は撤廃されてますよね? ミッドランドと同じで」
「ええ。ゼビア公爵は獣人やドワーフを毛嫌いしておりまして、二種属を奴隷にする政策を提案したのですが、王はまともに取り合いませんでしたから、それから特に反対することが多くて」
「人族至上主義者ですか?」
「です……嘆かわしい事です」
「少数民族を力で抑えつけるのは、どうかと思いますねぇ」
「同意ですな。同じ国に住む者同士、手を取り合って生きるのが良いと、私も思います。過去を水に流すのではなく、建設的に友好を深めれば理解し合えると思います。ああ、話が逸れましたな。イスタニア侯爵家なのですが、領地がリーゼス領の隣なのですよ。なので領境近くの村では嫌がらせも多くて、ずっと揉めておるのです」
「隣なんですか。それは面倒ですね」
「オルファ殿が用事のあるヒエン山脈を越えると、イスタニア侯爵領です。鎧竜を狩りに行くときは、くれぐれもお気をつけて。余所者、特にウチの領から入る者には難癖つけてきますので」
「忠告、痛み入ります。そろそろ雪解けでしょうから、準備に入ろうかと思っていたのですけど、さてどうするかなぁ」
「あ、お礼の件の話ですが、我が家の敷地内にオルファ殿専用の工房を建てて進ぜようかと思っておったのですが、もうすぐ出立されるのですか?」
「鎧竜を狩れば一旦戻ってくるつもりです。ご迷惑でなければですけど」
「キース子爵領までご自分で届けられるので?」
「それは面倒なので、どこかの商店にでも頼もうかと思ってます」
「ならば届けるのは私に任せて貰えまいか? それをお礼とさせてもらえると有り難いのですが」
「いいんですか? けっこう遠いですよ?」
「構いません。お礼の品が思い浮かばないし、オルファ殿が作ってくれた武具などで、かなり儲かりましたから」
「あんなにお金もらって良かったんですか? ちゃんと儲け出ました?」
「もちろんです!」
リーゼス伯爵はにこやかに笑うのだった。
かなり儲かったのだろう。