牢屋に放り込んだ後
倒れた男や固まって微動だにしない男達を見て、
「コレ、一人で運ぶの面倒だなぁ。引きずってもいいかな? いいよな!」
そう自分で自分を納得させたオルファは、四人の足に魔法倉庫から取り出したロープを括り付けると、四本のロープを左腕に絡ませるように握り、スタスタと歩き出した。
オルファに殴られて気を失っていた男は、顔面が地面に擦り付けられる痛みで、すぐに気がついたのだが、足だけで無く手も縛られていたので、抵抗することも出来ず、喚き散らすのだが、その煩ささにイラッとしたオルファが歩みを早めたので、男の顔面に対する痛みが増してさらに煩くなるのだった。
リーゼス伯爵の屋敷にはすぐに到着するわけで、門番には驚かれたが事情を説明して、四人を引きずり兵士達の詰所の横にある牢屋に詰め込む。
兵士の一人がリーゼス伯爵を呼びに走ったので、オルファは檻の前で待つ事にする。
暫くすると、兵士の一人がリーゼス伯爵を連れてやって来た。
「オルファ殿、此奴らが?」
開口一番、リーゼス伯爵がそう聞いてくる。
「はい、今喚いてる五月蝿いのがいますから、黙らせましょうか?」
「他の三人がピクリとも動かないが、殺したのか?」
「いえ、精神を少し弄る魔法を使いましたので、今頃悪夢から逃げるのに必死でしょうね。解除しましょうか?」
「悪夢……じょ、情報を聞き出したいので、お願いできるかな?」
「はい、簡単ですから」
パチンと指を鳴らすオルファ。
すると、
「ああああああっ! 来るっ! 俺の尻に触るなっ!」
「あはは……あはははははっ……俺の足はどこいったんだ……なんで俺はまだ生きてるんだ……」
「……死にたい……私の罪……消えない……」
微動だにしなかった男達の口から、言葉が漏れ出る。
それを見たリーゼス伯爵は、
「少し目の焦点がおかしいのだが?」
とオルファに問いかける。
「うーん、ちょっとかかりすぎたかな? まあ、明日には正気に戻ってると思いますから、とりあえずこの五月蝿いのに聞きましょうか」
そう言って、魔法をかけた男達の事は後回しにする事を提案するオルファ。
「何も喋らんぞっ!」
ロープで縛られ横倒しのまま、男が喚く。
「威勢がいいな。一発で伸びたくせに」
と言ったオルファに、
「うるせえ! 卑怯な手を使って仲間を倒したくせに!」
と言い返す男。
「夜襲をかけようとしてたお前らは、卑怯ではないのか?」
リーゼス伯爵が男を見下ろして言うと、
「貴族なら夜襲ぐらい警戒してるだろうが!」
「だからと言って、夜襲が卑怯ではないと言う理屈にはならんぞ?」
そう言ったリーゼス伯爵に、オルファは横から、
「伯爵、こんな奴らに理屈など通用しませんよ。無理矢理吐かせればいいんですよ、こうやってね!」
そう言って、オルファは魔法倉庫から取り出した樫の木の棒で、喚く男の喉を突いた。
激しく咳き込む男。
「洗いざらい吐け」
男の様子など気にせず、自分達の要求だけ告げるオルファ。
「ゴホッゴホッゴホッ! 誰が吐く……」
そう言ってオルファを睨んだ男の右耳に、樫の木の棒が叩きつけられる。
ブチッと音を立てた男の右耳から、血が流れる。
右耳は辛うじて男の側頭部にくっ付いてはいるが、今にも落ちそうなほどである。
1センチくらいしか、繋がっていない。
男は身を捩って痛がるが、手足は拘束されたままなので耳を押さえることも出来ない。
「ちっ、少し残ったか。耳を落としてやろうと思ったのに。次は左耳にするか。それとも目にするか」
オルファが男の顔を見つめながら言うと、
「ひっ! 喋べる! 喋るから!」
と、アッサリ前言を覆す男。
「ね? 簡単でしょう?」
とリーゼス伯爵に微笑むオルファ。
「う、うむ、そうだな」
そう答えたリーゼス伯爵に、
「じゃあ後はお任せしますね。嘘言ってそうだったり、吐かなくなったら呼んでください。耳や鼻削ぎ落としてやりますから」
とオルファが言った途端、
「ひいぃぃぃ!」
と言いながら、怯える男。
それを気にもせず、牢屋のある部屋を出て行くオルファ。
「閣下……顔色が優れませんが?」
オルファが居なくなった牢屋の前で、檻に手をかけて俯くリーゼス伯爵に、兵士が声をかけると、
「だ、大丈夫じゃ。とりあえず失血死されても困るから、こいつの耳にポーションをかけろ」
と、指示するリーゼス伯爵。
「は!」
そう言って檻を開けて、ポーションを男の顔にかけた兵士。