拘束
夕食が終わって少し時間が経った頃、ドアをノックする音に、リーゼス伯爵は机の上の書類から目を離さずに、
「入れ」
と声を出すと、
「リーゼス伯爵殿」
と、オルファが入ってくる。
「オルファ殿、いかがされた?」
「屋敷の周りに殺意ある者が四人ほど居るんですけど、心当たりがあったりします?」
と、軽い感じで尋ねた。
「なにっ? ふむ。心当たりは無いとは言わんが、二人ほどあるのだが、未だにどっちか突き止められておらんのだ。オルファ殿に助けられた時の一派だとは思うが」
とリーゼス伯爵が難しい顔をする。
貴族ならば恨みを買うこともあるだろう。
「あの時、全員殺してしまいましたからね。捕らえてもよろしいですか?」
「黒幕を吐かせたいのだが、任せてもよろしいか?」
「承りました。捕らえてきます」
そう言って退室するオルファ。
リーゼス伯爵は、その後ろ姿を見て少し安堵する自分がいるのに、戸惑っていた。
「まだ踏み込まんのか?」
と言ったのは、リーゼス伯爵の屋敷が見える街角で、月明かりから隠れるように佇む男。
その男の周りに、同じように隠れる男が三人。
そのうちの一人が、
「寝静まってからのほうが楽だろう?」
と、小さな声で答える。
「たしかにな。警備の兵が休んでからのほうが楽だな」
納得したのか、ウンウンと頷きながら男が言うと、
「確かに楽だが、待機してる時は殺気を抑えたほうがいいぞ」
と、別の男の声がする。
男の背後から。
「馬鹿言え、貴族に雇われてる兵士なんて、楽な生活してる奴らが、殺気なんて感じ取れるはず……誰だテメェ!」
男は途中まで返事していたが、自分の背後に仲間など居ない事に気が付き、後ろを振り返ってそう言うと、
「オルファ……傭兵だ」
と名乗った。
「チッ! 別口で雇ってやがったか。だが運が悪いな。俺達に会わなけりゃ、長生きできたのにな」
そう言って、腰に有る短剣を抜いた男。
「俺は老衰で死ぬ事にしてるから長生きするぞ」
ふざけて答えたオルファに、
「言ってろ!」
と言いつつ斬りかかった男だが、短剣を振り抜いた時、そこにオルファの姿は無かった。
「き、消えた?」
「後ろだ」
オルファの声に、
「なっ!」
と声を漏らして、慌てて振り返る男。
「あの程度の動きが見えないとは……素人か」
そう言ったオルファに、
「やかましい! おい、お前ら何黙ってるんださっきから! 手伝え!」
と仲間に声をかける男。
4人で囲めば、多少動きが速い敵でも倒せると思ったのだろう。
だが、
「あー、そりゃ無理だぜ?」
オルファがそう言う。
「何がだっ!」
とオルファを睨む男に、
「固めたから」
と端的に答えたオルファ。
「は?」
「今動けるのはお前だけってことさ」
「仲間に何しやがった!」
「魔法でチョイと精神弄って固めただけ」
「訳のわからねぇ事をっ!」
短剣をオルファに向かって突き出す男に、
「一人くらいまともに捕らえないと、黒幕吐かせられねえからなっ!」
と言いつつ、男の突き出した短剣をサラリと避けて、そのまま右拳を男の腹にめり込ませたオルファ。
「グホッ……」
と息を漏らした男は、そのまま前のめりに倒れる。
「はい、一丁上がりっと」
オルファの口もとが少し笑っていた。