追いつかれる
馬に乗ってひた走る老人と、少女。
少女は15歳ほどだろうか。
馬の背に乗る少女の長い金髪が、激しく風にたなびく。
少女の青い瞳には、不安と焦りの色が見える。
小さく細い体で、必死に馬の手綱を握っている。
その周りを囲むように、馬に乗った鎧を着込んだ護衛の男達が3人、山道を駆けている。
いや、追われている。
少し距離を空けて後ろから追いかけているのは、50人ほどの馬に乗った男達。
最後尾を駆けていた護衛の馬の尻に、矢が刺さった。
馬が嘶きながら倒れると、当然乗っていた男も投げ出される。
「トムッ!」
別の男が、落馬した男の名を呼んだ。
「俺はいいっ! 閣下とお嬢様を!」
トムと呼ばれた男は、そう言った立ち上がった。
「すまんっ!」
老人が詫びを入れつつ、そのまま馬を走らせ、他の者達もそれに続く。
一人残された男は腰の剣を抜き、追って来ていた者達を見つめ覚悟を決め、少しでも数を減らそうと突撃していった。
「うわっ!」
と声を漏らして老人が馬から投げ出された。
老人が乗っていた馬が倒れたからだ。
無茶な走らせ方をしたため骨折したのか、馬の脚は関節ではないところで曲がっている。
乗っていた老人が地面に叩きつけられたからか、起き上がることが出来ないようだ。
「閣下ぁああ!」
と叫んだ男は馬を止めて、戻ろうとした。
「お爺さま!」
少女は馬の背の上から振り返って、老人に声をかける。
「ワシはいいっ! 孫を! レイナをゴフッ」
老人は地面に叩きつけられときに、肋骨でも折れたのか、話している途中で、血を吐いた。
「しかしっ!」
と護衛が戸惑っていると、馬を止めたことで盗賊達に囲まれる。
最初は100名ほどだった盗賊達だが、あの場に残った護衛の腕と、老人のファイアボール。それに落馬した男の腕もあってか今は40名ほど。
だが、それでも絶望的な脅威である事には変わりない。
閣下と呼ばれた怪我をしている老人に、戦闘力など無いであろう少女を守りつつ、2人で40人もの相手を出来るわけがない。
「ヒャッハー! 女がいるぞ!」
「親分、女は遊んでもいいんすよね?」
盗賊達が笑いながら言うと、
「売れるから壊すなよ?」
と、このならず者達のリーダーらしき男が、釘を刺す。
「分かってますって、他はどうしますか?」
「ジジイは確実に殺せ! あとはどうでもいい」
狙いは老人のようだ。
「もはやこれまでか……」
護衛が諦めの言葉を漏らした。
だが、どこから馬の駆ける音がした。
いや、馬のソレとは違うが、確かに何かが駆ける音だ。
それもかなりのスピードで。
その音に、盗賊達が反応して、音のする方を見る。
それは馬型のゴーレムだった。
瞬く間に近づいた、黒い馬型のゴーレムに乗る、黒い外套を纏った者が、馬型ゴーレムの背からジャンプする。
馬型ゴーレムはそのまま盗賊達に走り迫り、盗賊の乗る馬の一体を頭部の角で突き刺し、そのまま吹き飛ばす。
それを見た残りの盗賊達が、狼狽した時、
「お前達の相手は俺だ」
馬型ゴーレムからジャンプした黒い外套を纏った者が、怪我をした老人や少女の前に立っていた。