調査結果
オルファが、地竜を倒してから一週間ほど経った頃、一人の男がリーゼス伯爵の屋敷に戻ってきた。
「閣下、調査に行っておった者が戻りました」
執事がリーゼス伯爵にそう告げると、
「呼んでくれ」
と執務室に居たリーゼス伯爵が、答える。
そして、一人の男が入室すると、
「閣下、ただいま戻りました」
と頭を下げる。
「ご苦労だったな。それでオルファ殿の事は分かったか?」
リーゼス伯爵がそう問いかける。
オルファに助けられた数日後、リーゼス伯爵はミッドランド王国に部下を一人派遣していた。
オルファの事を調べるためだ。
助けてもらっておいて調べるとは、不義理に思うかもしれないが、盗賊達をけしかけて助ける事で、リーゼス伯爵に取り入り情報を手に入れるため、もしくは孫のエレナに取り入り手込めににして、なんらかの待遇を手に入れら目的が無いとは言い切れないので、調査させていたのだ。
まあ、調査に出した後のオルファの行動で、その可能性がほぼ無い事は、リーゼス伯爵も確信しているのだが。
「はい。色々分かったのですが、私が調べていた事がミッドランド国王にバレてしまいました……」
と報告され、
「なにっ⁉︎」
と声を漏らしたリーゼス伯爵。
「キース子爵領は遠いので、先ずはミッドランド王都へ向かったのですが」
「キース子爵領はどの辺りなのだ?」
「ミッドランドの東の国境近く、つまり一番最後に占領した、旧ガラリス国全部です」
「全部?」
「はい。キース子爵とは言っていますが、辺境伯になる事は決まっているそうです」
「よくそんな事を調べられたな」
陞爵が決まっているなどという情報が、外部に漏れる事などそうそう無い。
「ミッドランド国王に、直々に教えていただきました」
「は?」
「ですからバレたと申し上げたのです」
「ちょっと待て! 王に会ったのか? あの武王に?」
「はい、宿で寝起きに王城に拉致されました」
「拉致?」
「どうも宿で、キース傭兵団の評判を聞いたのがいけなかったようで、即通報されたようです。後で聞いたところによると、ミッドランド王国民でキース傭兵団の事を知らない者など居ないので、キース傭兵団の事、特にオルファ殿の事を聞いた者は、スパイだと思われるらしいです」
「オルファ殿は、それほど有名なのか?」
「正直言って、ヤバイほど有名です。キース傭兵団のウルトラエースと言われているらしいです。倒した敵兵の数はキース団長、あ、キース子爵よりも多いそうです。それにあの見た目でしょう? 平民の王子とか言われていて、王都の若い女性たちから圧倒的な人気らしいです。まあ平民ではなくなったんですけど」
「ウルトラエース? 平民の王子? というか平民では無いというのは、どういう事だ?」
「オルファ殿はミッドランド“ 王国 ”の騎士ではなく、ミッドランド” 国王 ”の騎士に任命されているようです。ミッドランド王国の騎士ならば、貴族に所属する準貴族ですが、ミッドランド国王の騎士は、騎士とは言いますけども、ちゃんとした男爵の身分の貴族です。それで、オルファ殿はミッドランド近衛騎士団の騎士団長に任命されたのに、1日で近衛騎士団長の職を辞職して国を出たようです。その時のオルファ殿の言葉が、『ミッドランドでしか生きてきてないから、他国で少し休みたい。この国では女に追い回されるから休めない』と言ったらしいです。ミッドランド国王はそれを許して、休暇を与えたと言っていました」
「最後の方で色々聞き捨てならん事があったが、そりゃ強いはずか……というかよく殺されなかったな、お前」
「嘘で言い逃れるより正直言ってしまえと思いまして、宿で兵士に拘束された時に、オルファ殿に主君が助けられたが、お礼に悩んでいるので、何を贈れば喜んで貰えるのかを調べに来たって言いました」
「うむ、確かに嘘では無いな」
「そう言うと、兵士は私を王城に連れて行き、城の騎士団の詰所でミッドランド王直々に取り調べをとなりました。オルファ殿の近況を色々聞かれましたから、私の知っていることは喋りましたけど。で、私なりにキース傭兵団について聞いた事をまとめた書類がこちらになります」
そう言って男は一枚の紙を、リーゼス伯爵に手渡す。
「ふむ」
受け取った紙に目を落とすリーゼス伯爵。