職人魂
オルファの蹴りで、横転した地竜だが、直ぐに体制を立て直して、オルファに向かって威嚇の声をだす。
地竜とは、四足歩行の竜種であり、空は飛べない。
コモドオオトカゲの頭部から角を2本生やして、体長が10メートルほどの生き物を想像してもらえると、姿が近いだろう。
唾液には毒があり、噛まれるとかすり傷であっても、時と共に動けなくなってしまい、地竜の腹の中に収まるのが既定路線である。
「デカイだけのトカゲが、偉そうに威嚇しやがって。あ、コイツの皮で鎧作ってリーゼス家にあげようかな! うん、いい事思いついた。俺様って賢い! となると、ハンマーで殴るより、剣で首落としたほうがいいな」
オルファはそういうと、ハンマーを魔法倉庫に収納し、代わりに紫色の剣を取り出した。
鞘は無く、直刀の片刃で刀身はおよそ80センチくらいであろうか。
余計な飾りは何もないシンプルな剣だが、色だけが紫色という異質なモノである。
その剣を両手で握り締め、地竜の頭部を見つめるオルファ。
威嚇の鳴き声をあげている地竜は、自身が蹴り飛ばされたためか、警戒して飛びかかってはこないが、ジリジリと距離を詰めてきている。
オルファは、下段の構えで微動だにしない。
地竜とオルファの距離は、約5メートル。
「来いっ!」
オルファのその声に触発されたのか、地竜がオルファを目掛けて大きな顎を開けて飛びかかってくる。
地竜の顎が、オルファの頭部があった場所で閉じられたが、そこにオルファの頭部はない。
ダッキングして地竜の顎を避けたオルファは、紫色の剣で地竜の首を下から斬り上げた。
音もなく紫色の剣は、地竜の首を通り抜けると、刀身が紫に輝いた。
その後、重量物と液体が地面に落ちる音がすると、地竜の体がだらりと力なく頽れる。
「楽勝だったな。やっぱり剣だと修行にならないな」
そう言いながら、地竜の体と頭部を魔法倉庫に収納し、ついでに剣も収納すると、
「さて、皆んなに合流するか」
そう言って、皆が逃げた方向に向かって歩き出すのだった。
戻ったオルファの無事を喜ぶエドワードや護衛達に、地竜の首を見せて驚かせた後、リーゼス伯爵の屋敷に戻り、そこで屋敷の者達が地竜の頭部や体を見せられ大騒ぎになる。
そんな騒ぎをよそに、鎧を作ろうとするオルファに、リーゼス伯爵が、
「地竜の首を売ってくださらんか?」
と声をかけてくる。
「良いですけど、何に使うんです?」
「首を剥製にして王家に献上しようかと思いましてな。もちろん相応の金はお支払いいたします。金貨100枚でどうでしょう? 助けて頂いたお礼と孫達の指導なども併せて、全部で金貨200枚お支払いいたします」
金貨1枚の価値を説明するなら、金貨3枚有れば町で一年暮せる。
リーゼス領の平均収入で言うと、年間金貨3〜4枚である。
「そんなに貰っていいんですか? ならば剥製にしてお渡ししますよ。皮で鎧を作って進呈しようと思ってたので、そっちも気合い入れて良いモノ作りますね!」
「それはありがたいのですが、それはそれで対価をお払いしますぞ。地竜の鎧ともなれば、ヘタな金属鎧よりも軽くて丈夫ですからな!」
「いやいや、いつも食事を頂いてるし、その料金だと思ってください。どうせ私が持ってても使い道無いですし」
「地竜の鎧が食事代と等価な訳ないでしょうに」
「いいんですよ。あ、なんなら色々作って売っちゃいますか。私が貰うお金の穴埋めにでも使ってくださいよ。金貨200枚って、結構な出費でしょう?」
「そりゃけっこうな出費ですが、地竜の頭部、それもあんなに綺麗な頭部など見たことないですから、王家に気に入ってもらえるはずですので、今後我が家に便宜を図ってもらいやすくなるので、取り戻せますから」
「有るか無いか分からない便宜より、ちゃんと儲けたほうがいいですって。待っててください。色々良いモノ作ります!」
ノリノリで制作に没頭したオルファ。
「作りすぎたかな?まあ、足りないより余る方がいいか」
などと言いながら、地竜の頭部の剥製と、革を使った豪華な鎧、それに盾なども進呈するのだった。
「なあ、あの頭部の剥製より、鎧を献上した方が良いかもしれんな」
リーゼス伯爵が執事にそんな事を言うと、
「地竜の革鎧で、あんな見事な鎧、他には無いでしょうな! それも二揃えも」
「他にも余った革で盾だの籠手だの、いっぱい作って貰ったしの」
「盾と籠手はうちの兵に使わせますか?」
「指揮官に使わせてやろう。喜ぶぞ」
リーゼス伯爵と執事は、剥製や鎧の周りでワイワイ騒ぐ孫達を横目に、話し合うのだった。