無理だって
「来たあっ!」
エドワードがゴブリンを見て叫ぶ。
「さあ、エドワード様!」
オルファが叫んだエドワードに、攻撃を促す。
「承知! てやっ!」
と大剣を振り回すエドワードを見つつ、
「パトリック様」
と、パトリックにも攻撃するように言うと、
「ハイっ!」
の声と共に、パトリックの細剣がゴブリンの胸に突き刺さる。
エドワードの方もゴブリンの首を斬り飛ばしていた。
オルファは、うんうんと頷きながら、
「ほら。次々来ますよ、この10匹はお二人に倒していただきますからね!」
と言ったオルファの顔を、チラッと見たパトリック。
そこに隙が生まれる。
ゴブリンの手に握られた錆びた短剣が、パトリックの目前に迫っていた。
それに気がついたパトリックは、慌てて細剣で受け止めたのだが、細剣では力押しには勝てない。
「くっ!」
と声を漏らしたパトリック。
だがそこに、
「パトリック!」
と叫びながらエドワードが走り寄り、パトリックと剣で押し合いしていたゴブリンの首を叩き斬った。
「兄上っ! 助かりました!」
「言ってる場合ではないぞ、まだ5匹も残ってる」
既にエドワードは三匹もゴブリンを倒していたのだ。
なかなかの腕前である。
「はい!」
エドワードとパトリックは背中を預け合い、ゴブリン共を殺していく。
最後の一匹になったゴブリンが、二人相手では分が悪いと見たのか、一人で呑気に眺めていたオルファに狙いを変えた。
走り寄るゴブリン。
「てめぇ、臭えのにこっち来んなフルチンのカスがっ!」
オルファが、向かってきたゴブの頭に回し蹴りを喰らわせると、吹っ飛んだゴブの首が折れたか、そのまま倒れて痙攣している。
「ゴブリンを蹴り飛ばして殺すとか」
「オルファ殿は凄まじいな……」
エドワードとパトリック、二人がそう言うと、
「ゴブは殲滅できましたね。で、悪い報告ですがおそらくオークに囲まれてます」
あっけらかんと言うオルファ。
オークはゴブリンなどとは比べ物にならないくらい、強力な魔物である。
単体ではオーガと比べるまでもないが、通常はオーガよりも多い数の群れをなしているため、侮ることはできない。
「え?」
と声を漏らしたパトリック。
「ジワジワ輪を狭くしてますので、直ちに防御陣形を! 非戦闘員を中心に、護衛は輪を作って! エドワード様とパトリック様、戦えますか?」
と問いかけたオルファに、
「やります!」
「私も!」
と剣を持つ手に力を入れる二人。
「では、陣形に入って下さい。大丈夫。大部分は私が始末しますので。【飛翔】」
フワリと宙に浮くオルファ。
「と、飛んだ?」
「おーおー、いるいる。だいたい20匹くらいです! たぶんオークに食われまいと、ゴブは逃げて来たんでしょうね。で、我らを発見して我々に餌になって貰おうと殺しにきたんでしょうよ。敵の強さも分からないゴブらしい。まあ、オークも同類ですけど。撃ち漏らしをエドワード様とパトリック様に護衛さん達が倒す感じでお願いしますね。【風刃四十奏】」
報告終わりに魔法を発動したオルファ。
オルファの周りに40枚もの風の刃が形成されると、次々とオークに向かって飛んでいった。
森の中きら聞こえるオークの断末魔が、そこかしこで聞こえる。
何匹かは、エドワード達から目視出来る位置に居た。
そのオークの首が、コロンと地面に落ちるのを、エドワードはシッカリとその目で見た。
「なっ⁉︎」
「ちっ、4匹も避けやがったな。なかなか良いスピードしてるじゃねーか。エドワード様、オークが来ますよ! よそ見しない! 皆さんオークは4匹だけなんだから、さっさと倒す! エレナさまとメイドさん達は、私が守りますから、全員で攻撃してくださいよ〜」
「くっ! このぉ!」
エドワードは、護衛達と協力してオークに斬りかかっていく。パトリックもそれに続く。
オークだって多少は知恵があるので、個々に戦うわけではなく、連携して攻撃してくる。
そしてずる賢いオークもいる。
弱そうな女性の方に走るオークが一匹。
「エレナッ!」
エドワードが、妹の危機に走り寄ろうとした時、
「こんな猪程度、蹴り飛ばしてやりゃいいんですよ。こんなふうに!」
と言いながら、オルファが上空から急降下してきて、オークの後頭部にドロップキックをかます。
グチャ! という音と共に、オークの後頭部が潰れて、前のめりに倒れ痙攣している。
「ね?」
と、着地して、女性陣の前に立つオルファ。
「……出来る……のか?」
エドワードはオークとの戦闘中にも関わらず、呆然とした。
「エドワード様! その人の基準は我々普通の人と違いますから! それより手伝ってください!」
護衛の一人が、エドワードを正気に戻らせるために声を張り上げた。




