森へ
オルファが皆に鞄を配ってから10日後、オルファはリーゼス伯爵にとある提案をする。
「エドワード様とパトリック様を鍛えるために、森で魔物相手に実戦訓練をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
そんな感じで話し出した。
「実戦?」
「ええ、人相手だけでは、獣型の魔物に遅れをとるかもしれませんので、グリーンウルフやギガボアなんかと実戦させたいのです」
グリーンウルフとは、その名の通り緑色の体毛を持つ狼型の魔物である。体長は1.5メートルから2メートルほとだ。
主に群れをなしており、森の中を絶えず移動して獲物を探して周る習性がある。
ギガボアは猪の化け物とでも言おうか。
体長5メートルほどで、非常に獰猛で交戦的だが、攻撃は体当たりのみである。
「うーむ。ならばついでにウチの兵を護衛として連れて行って、一緒に鍛えてもらえんかな?」
リーゼス伯爵はそう言った。
リーゼス伯爵の兵は、この国では決して弱いわけではないが、強いわけでもない。
オルファほどの強さならば、多少のアドバイスであろうとも、兵士達にとって新たな発見というか、強くなるキッカケになるかもしれないという、淡い期待が込められている。
「何人ほど?」
と、やぶさかではないと言うオルファに、
「20人ほど構わんかな?」
「いいですよ」
てな事で、森に向かう事になったのだが、エレナがついて行きたいと言い出し、ならば護衛を増やさねばならないと、護衛が20人から40人に増え、世話係のメイドが5人追加される。
「大所帯になっちゃったけど、まあいいか。では行きますよ〜」
オルファの覇気のない言葉で、リーゼス伯爵の屋敷から出発する一行。
馬車10台で森に魔物狩りに行くなど普通は無いが、貴族ならば仕方ないのかもしれない。
「では、エドワード様とパトリック様を中央に、護衛の方はその左右に展開し、魔物を狩りましょう。エレナ様、魔力の操作の方はどうです?」
森のすぐ外に到着した一行は、軽く打ち合わせをする。
「昨日、角を折ることができましたから、かなり順調です!」
と右拳に力を入れてオルファに見せるエレナ。
角は冗談のつもりだったオルファだが、折れたのなら肉体強化の才能があるのかもしれない。
まあ、試したことがあるののは、オルファをはじめとするキース傭兵団だけだったから、確証はないのだが。
「では、コレを渡しておきますので、素振りしながら歩きましょう」
と突如オルファの右手に出現した短剣を、エレナに手渡すオルファ。
「コレは?」
「私が幼少の頃に使っていた、訓練用の剣です。小ぶりなのでエレナ様にも振れると思います」
「オルファ様の愛用品ということですか?」
「昔のね」
と答えたオルファだが、エレナはどことなく嬉しそうに短剣を見つめている。
そうして一行は森に足を踏み入れたのだが、
「ん? 前方500メートル先にゴブの気配。おそらく10匹ほどだ! エドワード様、パトリック様、剣を抜いてください。護衛諸君も警戒を! エレナ様やメイド達を守って下さいよ」
とオルファが指示を出す。
ゴブとはもちろんゴブリンの事だ。
人型の魔物の中では、コボルトと同等の底辺の魔物である。
「ん? その先にも魔物の気配が……数が多いな。気になる……」
「オルファ殿?」
「ちょっと数が多いようです。ゴブはさっさと片付けて警戒を……って来ますよ!」
オルファがそう叫んだ。




