バレだす
午前中の訓練を終えたオルファは、エドワードとパトリックの疲れ具合を考え、午後からの訓練を取りやめた。
既に筋肉痛で、動きのぎこちない二人に、訓練を課すのは利がないと思ったからだ。
というわけで、暇になったオルファは、
「さて、昼から何しようかなぁ。あ、オーガの皮で何か作るか! でも工房が無いか」
と、屋敷の庭を散歩しながら言ったのだが、オルファの後ろをついて歩いていたエレナが、
「工房なら有りますよ」
と話しかけてきた。
「え、本当に?」
振り返ってオルファが聞き返すと、
「はい、お母様がアクセサリーを造るのが趣味なので、道具も色々あるみたいですよ」
「借りられますかね?」
「オルファ様なら貸してくれると思いますよ。聞いてきますね」
と、屋敷に向かって歩き出したエレナに、
「お願いします」
と、頭を下げる。
「貸していただき、ありがとうございます」
オルファが、エレナの母親エルサにそう言うと、
「いいのよ。皮で何か造るって聞いたけど、見てもいい?」
「いいですよ。オーガの皮があるので、鞣して革にして武具でも作ろうかと思いましてね」
「鞣すところからなの? それじゃあ時間かかるわねぇ?」
と、見学できないと思った、エルサの顔が曇るのだが、
「いえ、一瞬ですよ?」
と言ったオルファに、
「え?」
戸惑うエルサ。
「魔法でチョチョイのチョイですよ」
「魔法で?」
「とりあえずオーガから皮を剥ぎ取らないとだな。一旦外で剥ぐか。庭で剥いでも大丈夫でしょうか?」
「いいけど、そこからなの?」
「そこからなんですよ。不要な物はベガに食わせますので、大丈夫ですよ」
オルファがそう言うが、エルサが言っているのは、そこの心配では無いと思われるのだが。
庭に出て、オーガの死体を魔法倉庫から取り出したオルファ。
「オーガの死体を見たことあるけど、こんな綺麗な死体見たことないわ」
エルサが言うのだが、貴族の女性であるエルサは、一体どこでオーガの死体を見たのであろうか。
「頭部と膝の骨だけ砕いたので、皮は綺麗でしょう? さてと、皮を丁寧に剥いでっと」
と言いながら、オーガの死体にナイフを入れて、スルスルと皮を剥ぐ。
「皮の内側の余分な脂肪を、しっかりとこそぎ落として、しっかりと洗ってから縮まないように引っ張りつつ、火魔法と風魔法で乾かしてっと」
お好み焼きをひっくり返す、コテのようなもので、脂肪を綺麗に取り除く。
そしてそれを水魔法で洗浄し、土魔法で皮を引っ張る場所を作り、火魔法と風魔法の混合魔法で熱風を当てることにより、本当に革に加工してしまったオルファ。
常識では考えられない手際の良さと、早さである。
その様子を見たエルサは、顎が落ちそうなくらい口が開いている。
エルサだけでは無い。
オルファが作業をすると聞きつけ、集まってきた庭で作業していた庭師や、エレナに付いていたメイド、お茶を運んできた執事。
それとエレナにエドワードとパトリックも。
「ん? 皆さん口を開けてどうされました?」
集まった人達の様子がおかしいので、オルファが尋ねると、
「こ、こんなに早く皮が加工できるんですか?」
と執事が代表したかのように聞いてきた。
「見ていただいた通りですよ。簡単でしょう?」
と答えたオルファに、
「「「「「「「簡単な訳あるか!」」」」」」
その場の全員から、声を揃えて怒鳴られるのだった。