翼竜って?
「ん?」
と、皆の反応に戸惑うオルファ。
「翼竜を一人で?」
と聞いたのはエドワード。
「はい」
「お爺さま、他国の翼竜と我が国の翼竜は違うのでしょうか?」
と祖父に尋ねるパトリック。
「そんなわけあるか。翼竜は翼竜だ。全て同じだぞ」
「アレを一人で? 遠くから見たことは有りますが、それでも怖くて体が強ばりましたけど」
「普通はそうだ」
「私の外套あったでしょう? あれ翼竜の革で作ったんですよ。ブーツや鎧も同じです。丈夫で長持ちしますよ」
と少し自慢げなオルファ。
「どうやって倒されたのですか?」
エドワードがそう問いかけると、
「ちょうど大規模な戦闘中でしてね。翼竜は餌がいっぱい居ると思ったんでしょうね。急降下してきて人を食い出したんですよね。もう邪魔で仕方なくてムカついたから、一人で突撃して剣で首を刎ねてやったんですよ。そしたら、その様を敵が見ていたんでしょうね。すぐに降伏しましてね。一石二鳥でしたよ」
と笑いながら言うオルファに、全員ドン引きである。
「剣もお使いになるんですね」
と一人だけ意味が分からなかったのか、エレナがオルファに言うと、
「ウォーハンマーより剣の方が得意ですよ。剣を使っちゃうと私の修行にならないので、普段は使ってないんです」
「そんなに強いのにまだ修行を?」
「私よりもキース団長の方が強いんですよねぇ。なんとかしてキース団長から一本取りたいんですよね」
と少し悔しそうなオルファに、
「まだ強い人がいるのか」
とリーゼス伯爵がため息混じりに、言葉を漏らす。
「キース団長以外には負けた事ないんですけど、あの人は本当に人なのかなあ?」
「ミッドランドと友好国で良かったわい」
「うちの国、敵対国に容赦しませんからね。その代わり友好国にはかなり寛容ですから」
「武王とも言われるゼリス王は、気さくな人柄らしいですな」
「我が陛下もけっこう強いですよ。なぜか気に入られて、しょっちゅう稽古だなんだって呼び出されて困りましたけどね」
「ゼリス王のお気に入りという訳ですな」
「いや、単に陛下のオモチャ扱いだった気がしますね。国を出る時も、『強くなって帰ってこい。また稽古しよう』って、引き止めもせず軽く送り出してくれましたから」
「話は戻りますが、鎧竜を狩るとなると、1か月は先になりますな」
そうリーゼス伯爵が説明する。
「何故ですか?」
「あの山脈は雪が多いので、春になったといってもまだ積もってるんです。冬眠しておるでしょうから、雪が溶けないと動き出さないので、どこに居るのか分からんのです」
「そうなんですか? それは困ったな。キース団長め。春なら狩れるとか適当な事言いやがって」
「雪が溶けるまで、我が屋敷に滞在なさっては?」
「それはご迷惑でしょう?」
「いえいえ、命の恩人に迷惑などとは。それとよければ孫達の剣の腕も見て欲しいのです」
「臨時講師という感じですか?」
「はい。いかがでしょう? もちろん講師代もお払いします」
「まあ、暇ですからいいですよ。ではお世話になるとしますか」
そんな感じで話が進み、オルファは暫くの間、リーゼス伯爵の屋敷で世話になる事に決まるのだった。