襲われる
同時新作ぶっ込みのうちの一つです。
もう一つは、
異世界転生されてやるから、レアスキル寄こせと言ったら、ヘンテコレアスキル渡された上に、魔力ゼロとかふざけんな、あの糞女神!
という作品になります。
猛スピードで走る豪華な馬車。
まだ太陽は真上にあるというのに、その馬車はまるで何か闇からでも逃げているかのように、全速力で馬車は走る。
いや、実際に逃げているのだ。谷間の細道を。
ひた走る豪華な馬車のまわりには、護衛であろう金属の鎧を纏った、馬に乗った男達。
人数は10人。
馬車を追いかけるのは、およそ100名ほどの、身なりの悪い男達。
身なりのわりに手に持つ武器の質は良いし、乗っている馬も質が良い。
当然であるが、客室を引い走っている馬車より早い。
徐々に距離が詰まってきている。
「振り切れんか?」
馬車の客室の前方にある小窓の中から、御者に声をかける老人。
「はい、追いつかれそうです」
御者は振り向かずに前を見つめたまま答えた。
「後ろを開けて魔法を撃ち込んで、数を減らすか」
老人がそう言った時、馬車の車輪が一つ、地面から飛び出ていた岩を踏んだ拍子に、壊れてしまう。
車輪が一つ無くなり、荷台が斜めに傾くと、客室を引きずるように移動する馬車。
客室の中からは女性の悲鳴が聞こえる。
周りにいた護衛達が、乗っている馬を慌てて止めて振り返り、
「閣下! 馬にお乗り換えを! お嬢様も……」
鎧を纏った男は、言葉を続ける事が出来ず倒れた。
何故なら、男の目に矢が刺さったからだ。
金属の鎧を纏っていようが、ガラ空きの目に刺さっては意味がない。
矢は目を貫き脳まで達したのか、倒れた男は微動だにしない。
「リックッ!」
別の男が、倒れた男の名を呼んだが、当然返事はない。
「我らが時間を稼ぎます。閣下はお嬢様と馬でお逃げくださいっ!」
一人の護衛がそう言うと、
「足止めにファイアボールを撃つ。後は頼む!」
老人がそう答える。
「御意!」
護衛達の半数以上が、盗賊達の方へ向き直り、槍を構える。
「我、炎の神を信仰せし者。我の魔力を糧に力を分け与えたまえ……ファイアボール!」
老人がそう言うと、右手の手のひらを盗賊達に向けて広げる。
直径20センチメートルほどの火球が、手のひらから飛び出し、盗賊に向かって飛んでいく。
火球は一人の男に直撃し爆発。
火球から広がった炎は、男の全身を包み込むと同時に、爆発した火球の火の粉を被った、近くにいた男達にも燃え広がった。
「後を頼む!」
そう言って魔法を放った老人が、女性を伴って馬で駆け出した。
「閣下! ご無事で!」
護衛達はそう言って、野盗に向けて槍を構え直した。
♦︎♢
一人の男が、山道を移動している。
徒歩ではない。
乗っているのは、馬型のゴーレムのように見える。
ゴーレムとは動く魔道具の事であり、魔道具とは魔力によって動く器械の総称である。
魔力は、この世界のあらゆる物に宿っている力である。
大気中はもちろん、水や鉱物に木々などの生き物にも。
当然人にも宿っている。
男の乗る馬型のゴーレムは、金属製の高級な鎧を纏っている物である。
黒鉄色をした馬型ゴーレムは、ゆっくりと移動している。
その背中に乗っている男はといえば、フード付きの外套を纏っており、フードを被っているため、顔がよく見えないが、僅かに見える頬や口元を見るに、年寄りではなく若者であることが分かる。
その男が、
「血の匂い……風向きからして進行方向。遠くないな……」
そう呟いて乗っている、馬型ゴーレムの腹を両足の踵で軽く蹴った。
馬型ゴーレムが、スッと駆けだした。
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