私は30アンペアです。
千文字短編です。
私は30アンペアなので、お部屋に冷房を点け、電子レンジを使い、お湯を沸かすことが同時にできます。
もちろん、部屋の電気は明るく、テレビでバラエティーを観ることもばっちりです。
ダブル録画機能で、同時にふたつの番組の録画もしています。
洗面所では、洗濯機がゴウンゴウンと、白いシャツと下着を洗う事も可能なのです。
お前が30アンペアで、良かったよ。
こういう時、貴方はそう言って、満ち足りた表情を浮かべます。
私のブレーカーが落ちるのは、上記の事で手一杯でいるのに、貴方がさらに紅茶を飲もうと、湯沸かし器のスイッチを入れ、ポコポコとお湯が沸騰する、その直前です。
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ほんの少し前までは許容量でいたのに、貴方が何も考えずに、スイッチを押すから、私のブレーカーは落ち、お部屋はしいん、と静まり返ります。
これが昼ならまだ良かったのですが、夜だと真っ暗で、向かいのマンションのカーテンの掛かった部屋の灯りの方が、その下の街路灯の方が、明るく、安心できそうです。
そういう時、貴方は決まって、言うのです。
40アンペアにすれば良かった、と。
簡単に言わないで、私はきっかり30アンペアなんです、もっと容量を上げたければ、最初から、契約の段階から、40アンペアの彼女にすれば良かったんです、だって、30アンペアと40アンペアは違います、ブレーカーだって、工事をして、付け替えなければいけません。
ブレーカーが落ちた私は、いつものように取り乱し、泣き喚き、最初から、サインしなきゃ良かった、私じゃない方が良かったんでしょ、と、貴方を延々となじり、困った貴方は、懐中電灯を持って、玄関にあるブレーカーのところまで行くと、暗い中脚立を使って、私に罵られながら、ブレーカーのスイッチを、ゆっくりと上げるのです。
ぱちぱちっと、瞬きをするかのように、室内の明かりが点き、テレビは喋り、冷房が唸り、洗濯機はピーピーと悲鳴を上げてます。いいえ、あれはレンジです。湯沸かし器は落ち着きを払って、録画はふたつとも止まっています。
貴方は私を見つめ、やっぱりお前が一番、と言うので、私は仕方なさと愛しさで、契約を三ヶ月延長しましょう、と、貴方にささやくのでした。
貴方と暮らし出してから、もう、半年、このようにしています。
でも、私はわかっています。近いうち、貴方が、40アンペアの彼女に付け替えることを。
半年前、20アンペアの彼女から、私に付け替えた時のように。
リハビリです。
お読みいただきありがとうございます。