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第18話 五次元に並ぶ世界(えい、やあー)

ネリアの決意。

◆最後のマジック2◆

 反射的にネリアは一歩退き、ショーブ氏と距離を取るが、もし、目の前のショーブ氏が自分を捕まえようとした場合、自分は逃げられないだろう。ネリアはそう思う。

 でも、そんなネリアにショーブ氏は戸惑った表情を浮かべ、ネリアの行動に対して右手を左右に振って否定した。


「おや、ネリアさん、どうかされましたか?」


 口調はいたって温和である。

 それに、ネリアはいつの間にか掻いていた背筋の冷や汗の冷たさを感じながら、少しホットしてため息を吐くが、まだ完全に気を緩めるわけにもいかない。警戒をしながらショーブ氏の出方を窺い続ける。

 その姿勢を察して、ショーブ氏が続ける。


「同じ能力を持って生まれた者同士、色々な苦労があったことと想像します。

 確かに、中には同じ能力を持った者同士でトラブルを起こす者もいますが、私も、恐らくあなたも、そんなことはしはしない。

 警戒されなくても大丈夫ですよ」

 

 更に、ショーブ氏は手に持ったガラス瓶を持ったまま、敵意など全く無いと言わんばかりに、両手を上げて見せる。

 それにネリアは思う。自分とショーブ氏の距離と、今の彼の姿勢を考えると、攻撃を与えることが可能であると。であれば、最悪でも逃げ切ることくらいは可能である。

 だから、ネリアはショーブ氏がフィンラウンダーであることの疑いを半分だけ解く。


「失礼しました。私はまだ会ったことがありませんが、聞いたことがあるのです」


「何をでしょう?」


「私たち能力者を監視している組織があると言うことをです。

 私は、あなたがその一人なのではないのかと疑ってしまったのです。ですが、それは私の間違いであった様です」


 ショーブ氏の素性が分からない。ショーブ氏が、自分の素性を知っているのかどうかも分からない。だから、この世界で生まれた能力者としての立場を取り、ネリアは残り半分の疑いを探ることを試みることにした。


「私たちを監視している?」


 ショーブ氏が純粋な疑問をネリアに投げかけて来る。


「そうです」


 ネリアはそれに頷く。


「組織ですか・・・?」


 眉間に少し皺を寄せ、考え込むショーブ氏。

 記憶を探る様に空を見上げて首を捻っていたが、直ぐに何かを思い出したようで、その顔が晴れやかになる。


「あーあ、もしかすると・・・・ネリアさんの言われるのは彼女のことではないでしょうか?」


「会ったことがあるのですか?」


 彼女と言う言葉で、一瞬レイラのことなのかと想像したが、ショーブ氏の年齢からして、それは無いと候補から外す。


「ええ、かなり昔の話になりますが・・・。

 そう、私がまだ十代の半ば頃なので、30年は前になるでしょうか。

 不意に私の前に現れた方がそうなのかもしれません」


「そ、それは、どんな人だった?」


 つい、丁寧な言葉遣いをすることを忘れ、ショーブ氏の話に食いつくネリア。


「そう、不思議な方で、見た目は当時の私と同年代の少女に見えましたが、それでも、話口調とその内容からは、実際は結構な年齢ではないかと感じさせるものがありました」


「それで、その女性は何か言ってなかったか?」


 やっと、彼らの存在を知っている人に会えたことに、既に彼らのこと等どうでも良くなっているはずなのに、ネリアは反射的に喜んでしまい、つい警戒までも解いてしまう。


「何かですか・・・ん~・・・」


 少し考えてから、ショーブ氏は、


「あーそうそう、そう言えば、私が異世界人の末裔まつえいだとかなんとか言ってましたね。

 まあ、私にはどうでも良いことですがね。

 それと・・・そう、アンケートに応えさせられましたか」


 笑いながらそう応える。


「アンケート?」


 意外な言葉が返って来て、思わず聞き返してしまう。


「ええ、他愛もない高校生に対する進路調査みたいなものです。それに答えると、多少の雑談をした後で納得して帰って行きました。

 ネリアさんが恐れているような、ことはありませんでしたよ。

 あー、でも、ですね・・・」


「でも?」


 その否定的な言葉にネリアは食いつく。


「その後ろ姿に圧倒的な能力を感じました。震えが起こるくらいの能力の大きさです。

 その時は気づきませんでしたが、それは、今考えると敢えて私に見せていたのかもしれません。

 その意味では、ネリアさん、あなたの得ていた彼女達の情報もまんざら間違ってはいないのかもしれませんね」


 ショーブ氏は、笑いながら振り返る。

 ネリアはこの時点で、いつの間にかショーブ氏がフィンラウンダーの一人だと言う疑いを捨てていた。それよりも、彼らのことにをもっと聞きたいと純粋に思っていた。


「それだけ、それだけなのか?

 他に何か話さなかったのか?彼らが普段何処にいるかとか、何をしているかとか・・・」


 ネリアの圧力に押され、ショーブ氏は一生懸命に記憶を辿ろうとする。

 そして、その様子をネリアはジッと見つめて待つ。


「後は、そうですねー、若干の雑談はしましたが、え~何を話しましたか・・・」


「何でもいい、何か記憶に残っていることはないか」


「ああ、そうでした。

 深くは聞きませんでしたが、彼女は作家をしているらしくて、早く帰って原稿をあげないと生活が出来ないとか言ってました」


「作家で生活?!」


 作家って、あの本を書く作家のことか?

 一体、どういうことだ?

 ネリアの頭の中は疑問で一杯になる。


「彼らはある団体に属していて、我々の監視で収入があるはず、いや、あると聞いたのだが・・」


「ええ、確かに、お仲間がいるお話は聞きました、しかし、皆それぞれ苦しい生活をしているらしく、本業の仕事が忙しいので滅多に会うことは無いと・・・。確か、それぞれ八百屋とか、観光地でのアクセサリー販売とか、鳶職で生計を立てているとか言ってた様に記憶しています」


「占い師は、占い師はいなかったか?」


 30年前にレイラがこの世界に居る訳が無いのに、何故かそんなことを聞いてしまっていた。

 それは、レイラの生活が気になっていたからかもしれない。

 

「何せ昔のことですから・・・、いらっしゃったかもしれませんが、すみません、記憶にはありません」


「そ、そうか、そうだろうな・・・」


 ショーブ氏の話が真実であれば、彼らは決して華やかな生活を送ってはいないことになる。

 ネリアは体の力が抜けて行くの感じる。そして、分かるはずも無いことに自問してみる。


 本当なのだろうか?

 彼らは、皆この世界の仕事で暮らしを立ててていると言うのか?

 あのレイラの占いのマネ事も、生活の為だと言うのか?


 そうであれば、自分の追って来たことの意味がなくなってしまうのだ。

 ネリアはそれが事実であることを否定したいと思うあまり、つい、つまらないことを聞いてしまう。


「格好はどうだったのだ?

 そのー、着ている服装とか、身に着けている装飾品とか?」


「まあ、彼女の名誉の為、普通の格好と言いたいところですが、着古した感は否めないと言いますか、ハッキリ言ってしまうとヨレヨレだった記憶があります。装飾品はどうでしょうか、記憶にありません。

 ああ、そうそう、思い出しました!

 お腹を空かされていたので、私の持っていたチョコレート菓子を分けてあげると、それはもう、大喜びされていました」


 笑いながら、そんなことを言うショーブ氏。

 聞くからに貧乏そうである。苦しい生活を営んでいるとしか思えて来ない。


「そ、そう、そうなのか?」


 ネリアの信じたくない方に事実が向かって行く。ショックで、血の気まで引く感覚に襲われるネリア。

 ショーブ氏は、更に付け加える。


「ああ、そうそう、アンケートの最後に、能力者以外には他言無用と書いてました。それと、能力を持っていることは気づかれないようにとも。

 もし、喋ったり、派手に能力を使ったら、その時は・・・(てんてんてん)と書かれてました。

 それって、脅しだったのでしょうか?

 もっとも、能力者の存在が知られてしまったら周囲から警戒されまくりますし、私たち能力持ちのマジシャンは、食べて行けなくなるかもしれませんから、誰にも言いはしませんがね」


「マジシャンには能力者が多いのですか?」


 マジシャンに能力者が多かろうが少なかろうが、そんなことはどうでも良かったのだが、一応、話の流れから無意識に話を合わせようと半分の上の空でネリアは聞き返していた。

 ネリアの頭の中では、フィンラウンダーと言う存在が、自分が想像していた華々しい存在では無く、貧乏で辛い生活を送っている存在かもしれないと言うのがクルクルと旋回し続けている。


「多いと言うほどではありませんが、私の知っている限りでも世界中に20人以上は居るでしょうか」


「そう・・・マジシャンだけでも20人か。それを自費で回っていると言うのか・・・

 それは大変なことだ・・・」


 彼らに取って替わろうなんて、無謀なことは少しも思ってはいない。自分の身の程も分かっている。それでも、自分が子供の頃から目指していたもの、この世界に来てから求めたもの、それが、それが想像上で膨れ上がった実在とは全く異なる存在とは信じたくはない。

 信じたくはないが、この世界に来てからのことを総合すると、そう考える方が全てがつながってしまう気がする。

 やり場の分からない気持ちを、心が受け入れたのか、


「フフフ・・・」


 笑ってしまう。不意に笑いが込み上げて来る。

 結局、この世界では、フィンラウンダーは全く特別な存在として認知されてはいないと言うこになる。そして、彼らも自分と同様に、この世界の生活に日々苦しんでいるのだ。


「ハハハ・・・」


 そのお金に苦労している姿を想像すると笑えてくる。同時に、そうとも知らずに憧れ続けていた自分の馬鹿さ加減に目が眩みそうで、笑えてしまう。


「どうされましたか、ネリアさん?」


 行き成り笑い出したネリアに驚いた表情で尋ねるショーブ氏。


「・・・いや、何でもない、ただ、ただ自分が何に振り回されていたのだろうかと思うと・・・私は・・・」


 どうとでも取れる言い方を返す。

 街灯がネリアの瞳に反射して、綺麗に輝くのを見て、ネリアに同情する表情を浮かべ、


「何方から聞かれたのか知りませんが、ネリアさんはずっと、彼女達を恐れて生きて来たのですね」


 ネリアの本意とは全く違う勘違いをしてくれる。

 それにネリアは同調して、


「ああ、ずっと恐れて逃げていた」


 そんな嘘をつく。本当は逃げていたのではなく追い掛けていたのだけれど。

 でも、今は追いつかなくて良かったと思う。追いつけなくて良かったのだから、逃げていたことと結果は同じになってしまったと思う。


「そうだったのですか、彼らは我々の監視者だったのですか。なるほど、それなら彼女の取った行動の意味も理解できますか。

 別の仕事をしながらの我々の監視と言うことは、きっと彼女達はボランティア団体なのでしょうかね。

 それでも、この世界で能力が、ずっとフィクション扱いとされているのが、ボランティア団体の彼らの働きだとすれば、それは凄いこと過ぎることです」 


 ネリアに告げたのでもなく、独り言の様に勝手に納得するショーブ氏。それに、


「最初から、無理だったんだ・・・」


 ネリアも勝手に独り言ち、そして思う。


 そうだ、そうだったのだ。もし、自分の能力がもっと高くても、絶対に無理だったのだと。

 心の能力が自分には足りなかったことがはっきりと分かってしまう。

 つい、さっきショーブ氏が言っていた心の能力、それが自分には欠けていたのだと。


「・・・心が追いついていない・・・」


 余りにも自分の能力が足りな過ぎて、途中で捨てられて、最終試験で落とされて良かったとさえ思えて来る。

 そんな独り言に、ショーブ氏が口を挟んで来た。


「私はネリアさの心が足りないとは決して思いません。

 何のことを仰っているのかは、私の想像でもマジックでも測れはしませんが、先程も申し上げた通り、あなたの心は柔軟だと私は思います。

 ”心が追いつかない”なんてことはないと思います。

 ただ、偶々、一瞬の我慢と言う瞬間を乗り越えてしまう、或いは間違って一度くらい不快な”虫”を飲み込んでしまう。その分かれ目を越えられなかっただけだと思います。

 このガラスの玉の様に一度クビレを超えてしまえば、それは経験となり、心は慣れてしまう。

 すると、他愛もないこととして流せてしまい、二度目からは簡単に通ってしまう。

 一度間口が広がってしまえば簡単には狭くはならない。ところが、最初に受け入れを拒絶してしまうと、心は開き方を見失い固まってしまうのです。

 この硬いガラス瓶でさえ簡単に広がることもあるんですよ。人の心は、このガラス瓶より柔軟なのではないでしょうか。

 もしかすると、あなたは、”偶々”そんな経験の回数が少なかっただけなのかもしれません」


 ネリアにとって、それは安らぐ言葉であった。自分が救われるような気がした。

 だから、もう一度確認したいと言うよりも、単にもう一度耳にしたいと思い、


「偶々・・・」


 復唱する。


「はい」


「私の心も、柔軟?」


 さらに復唱する。


「はい」


 今、この世界に来て、思っていた世界と大差があった。夢が色あせた。だから、相対的にレイラへの気持ちが上となり、後悔となっている。

 それが正直な気持ちなのかもしれない。


 そして、今まで追い掛けてきたものが、思っていた存在と大差があった。希望があせた。だから、相対的にレイラに会いたくなった。

 そうなのかもしれない。


 でも、理由は何であれ、自分はレイラに会いたい。

 昔に戻ってレイラに会いたい。

 会って、会って、昔の様に心を交わしたい。

 それが本音だ。

 でも、もう遅い。こんな気持ちになる可能性を、あの時、気付くことが出来なかった。

 未熟な自分には、そんな経験値が無かったのだ。

 子供の頃の他愛もないことで経験出来れば良かったとネリアは思う。

 でも出来なかった。


 もう遅い。もう遅すぎる。

 いくら、今の自分の心が柔軟だったとしても。

 過ぎ去った過去は・・・、


「でも、過去は変えられない・・・」


 ネリアが俯く。それに、


「その代り、過去が二度来ることもない。ですかね」


 ショーブ氏は前向きに応える。

 確かに全く同じ体験をすることは無い。でも、


「同じ過ちをするかも・・・」


 二度目の失敗をするかもしれない。そんな恐怖がネリアの脳裏を襲う。


「後悔、ですか?」


 それに、ショーブ氏が察する。 

 ネリアは少し躊躇って、


「後悔・・・してます」


 ネリアが、胸の内を正直に言葉にした。それに、ショーブ氏は後悔と言う言葉、それだけで対人のことと判断する。


「それは、心の修復機能が働いている証拠です。

 きっと、ネリアさんは将来に失敗しない為のブレーキをいつでも踏めるでしょう。

 であれば、同じ失敗はしません」


 ショーブ氏が断言する。


「ああ、そうかもしれ(ない)、いや、もう失敗しはしない。

 絶対に。

 しかし、もう遅い・・・」


「戻せばいいのですよ。掛け違えたボタンは洋服に引っ張られて戻りたがってます」


 過去を戻せと言わんばかりのことを言ってくる。しかし、どんな能力者でも時間を遡ることは出来ない。


「しかし、どうすれば・・・?」


 ショーブ氏の言葉に、僅かに期待を込めて問い質す。しかし、


「さあ、それはわかりません」


 呆気なく期待は砕けてしまった。


「えっ?」


 意外にも見捨てられた言葉に返す言葉が見つからないネリア。しかし、ショーブ氏は話を続ける。


「わたしには経緯いきさつも、その方のこともよく知りません。ですから、対処方法の検討もつきません。

 ですが、私が思うにはそんなには修復は難しくはない様に感じます。

 難しいのは、むしろネリアさん、失礼ですがあなたの方なのかもしれません。

 あなたがボタンを外せば、意外と元に戻るのではないでしょうか?

 そんなことって、人と人の間には結構多いことです。

 失礼ながら、もし私の想像が当たっていれば」


「当たっていれば・・・」


「一言ですむのではないでしょうか」


 今度こそはと、ネリアは期待を込めてショーブ氏に喰らいつきそうな勢いで迫る。

 きっと、ショーブ氏なら。そう思う。


「何と?」


「分かりませんが・・・」


 えっ?

 ネリアの顔が、期待外れで一瞬呆けてしまう。

 それを無視して、ショーブ氏が続ける。


「・・・えい、やあっ、ですかね」


 そんな抽象的なことを言ってくる。


「えい、やあ?」


 だから、意味がわからず呆けた顔で聞き返すネリア。


「はい、えい!やあ!!とかですか」


 気合を更に込めて同じ言葉を繰り返すショーブ氏。


「・・・」


 それに・・・、

 時間を少し流したネリアが、目を閉じる。すると、ネリアの顔が落ち着きを取り戻していく。

 ネリアは、何となくだけど、解った気がする。雰囲気で捉えた気がする。


「そうかもしれない・・・です」


 ネリアは言葉使いが元に戻っていたことに気が付き、敢えて強調するように間をおいて「です」を付ける。はにかんだネリアの表情は子供の様に無邪気に見える。

 それに、ショーブ氏も肩を持ち上げて笑い返す。


「では、ネリアさんへの応援を込めて」


 ショーブ氏はそう言って、ガラス瓶を持っていないもう一方の手で、ガラス瓶の上から中の球を手で覆うようにして、2~3回擦る動作をする。そして、右手を放す。すると・・・。


 ネリアはそれを見て目を疑う。

 ガラス球の内部が赤い炎を出して燃えている様に見えるのだ。

 そして、


「後は心の内側に向けて燃やせばいい」


 ショーブ氏がネリアにそう言って来る。

 能力の光、パワーを表す赤い光。それを一緒に見つめてそう言って来たのだ。


 その光はショーブ氏自信を光らせずに、ガラス瓶の更に中のガラス球内だけを光らせている。

 その光は弱い。それは能力は弱い証拠。しかし、自分には出来ない高等技術である。

 ただ、ネリアはそれでショーブ氏のマジックを見破れなかったことの理由を理解した。

 ショーブ氏は最後にマジックの種をネリアだけに明かしをしてくれたのだ。


 ネリアは思う。その技術を得るのにどれだけの努力が必要だっただろうと。

 能力が有ることに甘んじるのではなく、少数の能力者に対しても、彼はネタバレをし無いようなマジックを実践しているである。

 それを見て、ショーブ氏の言葉の重みが何処から来るのか、ネリアは分かった気がした。

 彼は能力やマジックだけではなく、人の感情や行動に至るまで、全てに対して真意を追求しているのだ。 自分の様に上っ面で彷徨って行動しているのではない。そう思えた。


「力を頂きました、有難うございます」


 ネリアは初めて心からの礼を告げた。自分の後悔が解決するかは分からない。それでも、自分のやることに、もう迷いは無かった。


「では、ネリアさん、私はこれで失礼致します。こちらこそ、私のマジックショーにご参加頂き有難うございました」


 そう言って、ショーブ氏は深々と頭を下げた。ネリアもそれに負けないように深々と頭を下げる。

 ショーブ氏は状態を起こすと、ガラス瓶をボストンバッグに仕舞い、ネリアに背中を見せる。

 その背中は大きいが、何処と無く孤独感を感じる。

 繁華街の通りは、まだまだ行き来をする人影で溢れている。意識を街並みに移すと、賑やかな声がまだまだ響いていたことを感じる。

 ネリアは”時間は動いている”そんなことを感じた。そんなことを感じながら、ショーブ氏に視線を戻そうとすると。ショーブ氏はその中に紛れ込もうとしている。

 

 ネリアは、それを黙って見送っていた。見送るつもりだった。特に引き留める理由も無いし、話すこともないはずだ。それに、一人になるのが怖いわけでもない。

 でも、何か気になる。何か聞き忘れた気がする。それが、


「良かったら、もう一つ教えて頂きたいのですが」


 言葉になった、いい加減な言葉を口にしてしまった。

 本当は聞くことなど何もないのに。


「何をでしょうか?」


 でも、それにショーブ氏は立ち止まってネリアに振り向いた。

 だから、ネリアは咄嗟に思いついたことを口にする。

 

「あなたの能力について。

 さっき、あなたはガラス球を出す時に能力を使われたようでしたが、あれはどんな能力なのか教えていただけませんか?」


 <つづく>



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