第18話 五次元に並ぶ世界(ボランティア)
◆ボランティア◆
前後に揺れる振り子運動のおかげで、茶髪のほつれカールはボッサボサに舞い上がり、ライオンのたてがみの様になっている。
でも、そのワイルドな髪の毛に覆われた顔を覗くと結構美形だったりする。ただ、ちょっとお洒落に対するセンスが欠けるだけんだろう。
ブランコに揺られているサヤナを見て、レイラはそんなことを思ったりする。
「先輩、申し訳ありません。ゴスロリ姿の彼女を見失ってしまいました」
レイラは深々と頭を下げる。
恐らくサヤナは自分とは違い、追っていた男の次の潜伏先を突き止めたのだろうと思っている。だから、自分の不甲斐なさに苛立ちさえ感じてしまう。ところが、サヤナは、
「あーん、気にしなくてオッケーオッケー。私も一緒だから」
何て、呆気らかんにどこ吹く風と、右手をヒラヒラと振り問題にしない。
「そ、そうなんですか」
その意外にも落ち着いた態度に、何とも言えない表情で躊躇うレイラ。
サヤナはそのレイラの表情に満足すると、揺らしてたブランコから颯爽と飛び立ち後方一回転。ついでに半回転のひねりを加え、ブランコを囲む安全用の策の上に立ってポーズを取る。体操のフィニッシュが決まった時の様に。
「そっ、そうそう。
それより、ここまで追い掛けてきたのはレイラちゃ、でなかった、さん。やっぱ、さーすがねー。
今日二回目のごうか~く」
なんて、広げた両手を腰へと当て、頷きながら褒める。
レイラは、それを真に受けて良いのかどうか分からず、取り敢えず無難に恐縮した態度でやり過ごす。
「と言うことは、彼らは、まだこの辺り居るということなのでしょうか」
確かに、互いに違う人物を追ってほぼ同じ場所に来たのだから、ここで二が落合ったことは間違いなさそうだ。新たに違う場所に移動していない限りはこの辺りに潜んでいることにはなるのだが。
「恐らくね、能力で動く方が見つかる危険が高いことは判ったでしょうね。
多分、明日の計画までこのままこの辺に潜むか、或いは、能力を使わずにゆっくりとこの場を離れるかなんだけど・・・。
ん~、さて、どっちだと思う?」
レイラに向かって質問投げかけるサヤナ。それに、レイラは少し考えて、
「あのー・・・、わ、わかりません」
正直に答える。
分からない何てことを言って、怒られたりしないかどうかドキドキしながら、サヤナの顔を見る。すると、
レイラの悩む姿を真似て右手を頬に当て小首を少し傾げだす。そして、閃いた様に、握った右手を左手の掌にぶつけ、
「私も、わかんなーい」
と嬉しそうにはしゃぐ。
なぜそんなに飛ばした態度をとるのか、あるいは自なのか、さっぱり分からず唖然とするレイラ。
しかし、レイラの疑問もサヤナにとっては、「単純に嬉しかった」それだけであった。僅かでも、たった二度でもレイラの成長に関わった一人として。
こうして確かな成長を確かめられるされが嬉しい。そして、気遣いたくなってしまう自分が居た。もちろん、レイラはそんなサヤナの存在の影も知らない。
サヤナは唖然としたレイラを見て、ちょっとやり過ぎたと反省。すばやく咳払いをして、標準サイズの顔に戻し話を続ける。
「・・・だから、今日は追うのは止めましょう。それよりも、ほーら、占いに行かないと」
サヤナの結論は”諦めて働く”だった。
サヤナの対応に驚くレイラであったが、それよりも先にどうしても訂正したい部分が気になってしょうがない。
「あのーすみません、”占い”じゃなくて、”予報”なのですけど・・・」
「???・・・」
鼻で笑いそうなのを堪えるサヤナ。それに控えめに憮然とするレイラ。
「・・・ああ~ん、ごめ(ん)なさーい。そうそう、そ”予報”だったわね”予報”。その拘りの”予報屋さん”に」
確かに、”占い”と言われるのは本意ではないし、レイラにとって拘りがあるのは確かだ。しかし、あからさまに”拘り”と言われると、恥ずかしい。
「そんな、拘っているわけではないのですけど、ちょっと・・・」
と言ってしまうが、本心は絶対に譲れない。
「まあ、それはどっちでもいいとして・・・」
”どっちでもいい”と言う一言に、口先を微妙に尖らせて控えめに意思表示を試みる。が、今度はサヤナが全く気に掛ける気配なし。仕方がないのでレイラは抵抗を諦める。後でゆっくり分かってもらおうと不満は飲み込むことにした。
そのタイミングを計ったように、サヤナが話を続け出したので、その行動が不味かったのかと体を硬直させるレイラ。
「・・・ほら、あの子待ってるんじゃないの」
それは、レイラも気になっていた。もうそろそろ、今日のお客さ10人を決める、例のあみだくじが始まるころである。
「もえちゃんですか?」
「そう、そのスーパーもえちゃんとか、何とかちゃんが、あみだくじでお客さん選んでさぁ」
「いや”スーパー”は付かないけど」と思いながら、それはさて置き、サヤナは自分のことを良く知っている。やはり自分はずっと見られていたのだと言うことになる。それでも、敢えて今までずっと自分を素通りしていたのだろう。
それは一体なぜだのだろうか?疑問は大きい。でも、敢えてレイラはそこを突こうとは思わなかった。恐らくそれは知るべき時に知るのだろう。そう思うから。
「今から、電話すれば間に合うと思いますから、私、このまま続けて二人を探します」
気負ったレイラの決意に、暴れ馬を見るように、
「ああ~ん、いやいや、いいって。レイラちゃ・、いや、レイラさん。
恐らくね、あなたは通行人の記憶を探って、ここまで追って来た。だけど、逃がしてしまった理由も、通行人の記憶読んだことが、黒ゴスロリちゃんにばれちゃったからだろと思うのよ。
だから、もうその手は通用しないわ。少なくても今日はね」
それはレイラも気づいていた。闇雲に通行人の過去を覗いた時に、その使った能力を彼女に感知された。
それで、彼女は人気を避けて移動しだしたため、自分は追うことが出来なくなったと言うことを。
「でも・・・」
レイラは、やはり予報屋をやっている場合ではないと思う。無駄であってもやるだけやって見ようと思う。
それと、話の流れを妨げるから黙っていたが、”レイラちゃん”と言いかけて、”レイラさん”と言い直したのも気になるところだ。
「それに、仕事は休んじゃだめよ~。
病気や怪我じゃないんだからさ。
休む時は少なくても前日にはちゃんと休むって張り紙くらいはしないとダメよ。
たとえ、占い、いや予報に来るお客さんが、その張り紙を見ないで来る人が殆どだとしても、行き違いを防ごうっていう気持ちを持っていないと、客商売って上手くいかないと思うのね。
まあ、直接客商売じゃあない私が言うのも何だけどさぁ」
その言葉に、
”客商売をやっていない”それって、先輩もこの世界の仕事しているって意味ってことなの?
驚きを見せるレイラ。サヤナは、それを見ても自分が仕事を無断で休んていると指摘されていると勘違いしているフリをして、慌てるマネをする。
「ああ、私?
私はちゃんと親方に1週間休むって休暇願出したわよ。ホントよ。
まあ、ちょっと強引だったんで、親方も困ってはいたけどさ」
それは、敢えて、この世界の仕事をすることが当たり前であることをレイラに見せたかったのかもしれない。
「先輩、お仕事されてるんですか?」
「あったり前でしょ。
聞いて驚いちゃーいけないわよん。私の仕事は、ジャジャ~ン、
高所のことならお任せあれ、安全、安心、信頼度No.1の”株式会社高崎組”。 バリバリの建築業よ。
まあ、とび職ってヤツ。まあ、日雇いだけどね。
レイラちゃ・さん、さあーこの作業着、見て分からなかった?ショックよねー・・・。
働かなきゃ、おまんま食べられないから、私も頑張っちゃってるわけよ、ってね」
まずは、サヤナの服装の理由を理解して安心するレイラ。ずっと、単にファッションセンスを大幅に欠ける人だと思っていたのだ。
しかし、そんなことより、この世界の仕事をしていると言うのは驚きである。
確かに、自分も予報屋と言う仕事を高田町商店街で行っているわけだから、驚くのもおかしい様な気もするが、それは、レイラの場合は放っておかれたと言う事情がある。
「でも、先輩、フィ、フィンラウンダーですよね」
今更ながら、ちょっと不安になり聞いてみる。
「あん、そうよ。あんたもね、レイラちゃ・さん」
「は、はい」
なんだか、そう言ってもらえると嬉しい。自分が仲間があることを実感する一瞬。でも、そんな話では無くて、
「もしかして、フィンラウンダーって、そんなにお給料安いのですか?」
もちろん、今まで放って置かれた自分は貰ってはいない。それだけに給料にはレイラも無頓着である。
でも、レイラも自分の世界でそれなりの高級を貰っていたし、この世界に来たのは抜擢されたからだ。疑問を持つのは当たり前である。
「もち、給料は高いわよ。高いはずよ、きっと今も。
だけど、向こうのお金は、残念ながら此処では使えないでしょう・・・」
それはそうだ。国が違う以前に世界が違う。なので換金もできない。
「・・・だから、向こうで勝手に口座にお金が振り込まれているだけで、戻らないと意味の無いお金ってわけ よ。そうそう、レイラちゃ・さんの口座もタンマリ貯まっているはずよ。
私も、2~3度だけど向こうに戻ったることはあるんだけどね、使う暇は無いからさ~、まあ、この仕事を 完全に辞めて向こうの世界に戻らない限りは意味の無いお金よねぇ。
だから、この世界で生活する限りは、働かなきゃーあかん」
なぜか、力こぶを作って見せるサヤナ。
「・・・」
驚きで言葉にならないレイラ。それを見て、
「ってことでさぁ、フィンラウンダーって言うのは、”ボランティア団体”ってとこなのよ。ハハハ・・・」
一言で表現して笑って見せる。
「ボ、ボランティアなのですか?」
「そう、ボランティアよん・・・」
確かに、頼まれもしないことを、勝手に良かれと思って無償でやっているのだからその通りである。
「・・・この世界を運営している、いわば各国の政府と言うやつ?それと私たちの組織は無関係って聞いて来たわよね」
それは建前上で、今では全く無関係ではないのだが、それはサヤナも知らないことになっている。だから、敢えて今は言わないことにした。
「はい、一応この世界の特にこの国の説明は、派遣される一通りは聞いてきています」
「だったらオッケー。そう言うこと。私たちを支援してくれる特定団体はございませ~ん。
でも、個人的には色んな人に支えてもらっているでしょ」
「はい、それはもちろん」
そう、この世界に来て直ぐに途方に暮れていた自分を拾ってくれた、おじいさんとおばあさん。この世界で生活出来ているのは、二人のお蔭である。そして、一人暮らしを始めるようになってからは、八百屋のノシさんにずっと助けてもらっていた。
それだけじゃな、なんと言っても、もえちゃんが居たからこそ今の生活が楽しい。まだまだ、沢山居る。もえちゃんの友達の”七面鳥レンジャー”のみんなに、そのご家族。中稲畑大学予報研究会の三人に、高田町商店街の皆さん。
そうだ、沢山の人に助けてもらっている。
「うん、現状、生活に何か問題があれば、私も相談くらいは乗るけど?お金は余りないけどさ・・・」
よっぽどお金がないのだろうか、頼りなく首を傾げるサヤナ。
「いえ、特にはないです。結構、楽しくやってます」
と言って、「あっ!」と口を両手で塞ぐ。
そう、自分は自分の役目をまだ果たしていないのに、楽しいなんて言葉を言える立場ではないのだ。
それに、サヤナは安心したように、「いいって」と言いたげにヒラヒラト右手を左右に泳がせて笑う。
「ハハハ、オッケー 、オッケー。納得したならば、気持ちよく仕事に戻りましょう!」
「は、はい・・・」
頷くレイラ。サヤナは笑いを納めて、真面目な顔で話始める。
「さ~て、現状分かっている侵入者は今の二人と、麗美ちゃんを襲ったあの女の3人ってことね。
ちょっと次元を超えて来るには役不足ねぇ、まだ誰か居るわね」
そう呟いたサヤナに、レイラは神妙な面持ちにり、心を鎮めるように固唾を飲み込む。そして、
「戻る前に、ご報告したいことがあるのですけど」
サヤナにそう告げた。
<つづく>