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第18話 五次元に並ぶ世界(心の在りか)

法を犯して異世界にやって来た5人。その中の中心人物であるネリアは、想像していた世界との違いに戸惑い、焦り始めていた。

◆夢と挫折◆

 ”その存在”は全く知られてはいなかった。

 何処をどう探しても、その存在を認識出来るものが見つからない。テレビ、ラジオと言われる、この世界の公共放送に、新聞、雑誌。それに、図書館と呼ばれる所にも行って片っ端から調べまくっても見た。でも駄目だった。

 そこで余り気が進まないが、あらゆる人、年齢、性別、職業、人種、思想の違う人を探し出し、そしてその存在について聞きまくってみた。でも、結果は同じであった。

 本当はそんな存在がこの世界に存在する等、嘘ではないのか?そうとさえも考えた・・・。


 通称”フィンラウンダー”

 この世界に向けて作られた、私達の世界の組織。


 それは、私達の世界の”能力”遺伝を、異世界のであるこの世界で引き継いで生まれてしまった者達が、一般人の範疇はんちゅうをはみ出さずに生活を送るように導くこと。それが主な仕事だと聞いている・・・。


 名前の由来はバリを丸める人と言う意である。プラスチック成型物の金型からはみ出した余分な部分、それを削り取り製品化する人のことだ。

 つまり、過ぎた力が世の中のバリとならない様に抑制し、環境に馴染ませることである。

 遠い昔に自分達の祖先が残した異物を丸めると言うことだ。


 だから、厳格な任務であり、責任も重大であると聞かされていた。だが、その一方でこの仕事は誰もが憧れる仕事でもあった。

 なぜならば、圧倒的に娯楽に優れ、科学技術にも優位であるこの異世界で生活が出来ると言うメリットがあり、更に何と言っても最大の魅力は身体的に若く長く生きられると言う、誰しもが羨む副産物があるからである。

 その理由は未だ解明されてはいないが、自分の世界よりも時間の振動が遅いからだと言われている。


 私は、それを子供の頃に偶然知ってしまった。

 知ったその日からそれが頭から離れなかった。そして、気付いて見ればその組織の一員として、この世界に来ることだけを夢見て頑張っていた。

 自分なりの理想を描いて子供の頃から頑張って来た。

 それだけを目標にして。


 しかし、その夢も最後の最後、目前でついえてしまったのだった。

 だが、私は直ぐに切り替えた。日々を送る為の代わりの目標を見つけようと考えたのだ。

 

 私は毎日考えた。そればかりを考え続けた。でも、考えても、考えても辿り着くところは、結局同じで会った。


 零れたものを取り返すこと。

 それしか思いつかなかった・・・


 ・・・・・・


 ネリア・ミスト、彼女は能力の高い政府の要人”エリート”を作為的に作り出す為の計画の中で、人為的に生まれ育った。

 生まれた彼女を待っていたのは、訓練と学習の毎日。まるで産業ロボットの様な規則正しさを毎日の行動に強いられるものであった。


 初めはそれを当たり前のことと思っていた。他の事は視界に捉えられない様にされていたからだ。しかし、歳を重ね、外界のことを少しづつ学ぶようになると、当たり前であった日々が、次第に息の詰まる日々と変わっていった。

 幼くして自我の強かった彼女にとっては、人一倍その苦痛を強いられたのかもしれない。


 彼女がフィンラウンダーと言う組織を知ったのは、そんな中であった。

 幸いにも彼女は、同じ境遇の子供たちの中ではいち早く能力が現れた。そして、後を追って能力が生まれ始めた子供達にも彼女の能力は負けなかった。それどころか、彼女の能力は常に一歩高かったのだ。

 何をやっても彼女が一番であった。


 最初はそれが単純に凄く嬉しかった。目標に向けて前途洋々な自分にワクワクする感情を覚えた。

 でも、最初は純粋なそんな心も、それが持続し過ぎると慣れが襲ってくる。

 慣れは、それが当たり前で、”自分が優れている=周りが劣り過ぎている”と思わせる。

 すると、同時に周りがクズに見えて行ってしまう。実際は、それ程の差はないのだが、優越を欲する欲望が、無意識にそう思わせる方向に働いて行った。


 結果、高くなって行くプライドに心が支配されるようになり、他の子供達から孤立するようになって行ってしまった。

 ただ、人は自分を守る為に例外を作る。クズの中でも自分が許せるクズを作る。ネリアにとって、それが、レイラ・ミル・リルクールと言う女の子であった。レイラだけが、唯一ネリアが心を近づける相手となった。

 その理由は簡単である。彼女が一番無能で対抗心を全く持たないからだ。だから、能力が無い彼女を助けても自分の目標の妨げにならない。それに、内気な彼女も孤独であったので、他のクズとせっする必要もなかった。

 だから、特に深い意味も無く素直に助けてあげることすらも出来た。


 そして、暫くはそんな日々が続いた。優越に浸れる日々が。


 しかし・・・。

 

 15歳を過ぎた頃から、次第に”能無し”と思っていたクズ達に追いつかれ行った。皆は伸びるが、自分の能力はさして伸びる事は無い。

 ジレンマとの戦い。それでも何とか彼女は最終テストまで残ることが出来た。初めに何人いたかなんか判らない。でも、最後の最後4人に残ることが出来たのだ。


 それなのに・・・・。


 確実に自分より能力のない、4人の中で一番能力の低いと思っていたレイラが残り。彼女、ネリア・ミストは、ただ一人捨てられてしまった。

 何故か、常にここ一番のテストにだけ強いレイラが、自分を蹴落とし残っていたのである。


 何度も助けてあげた”万年最下位通過”のレイラが・・・自分を一度も助けることも無く・・・。


◆不明な本音◆


 ネリアは高田町商店街に向かっていた。頭を悩ませながら・・・。


 はっきりしていること。それは、レイラは此処にいる。占い師の真似事をしながらこの世界で生活をしていると言うことだ。

 それにもう一人、仲間のマテラが街の真ん中で派手に対峙したオンナが居る。恐らくマテラと同等、いや、それ以上の能力を持っているかもしれないオンナがこの世界には存在すると言う事だ。


 そんなオンナがこの世界の人間であるはずがない。それは間違いない。

 現在では、自分達のような大きな組織でもなければ、法を破ってこの世界に来ることなんて出来はしない。自分達の他にそんな存在があるとは思えないし、自分たちだって今回初めての経験なのだ。


 それに、レイラがこの世界に、あの組織の一員に選ばれたと言う噂を聞いたのだ。

 だから二人は、この世界に合法的に来ている以外に考えられ無い。フィンラウンダーと言う政府組織の一員として自分の世界から派遣されたに違いない。ネリアはそう思う。


 しかし、その存在が見つからない。この世界で有名な存在に違い無いはずなのに、その存在の形跡すら見つからないのだ。

 見つからなければ、彼らと入れ替わると言う目的を達成出来ないのである。


 ネリアにとってその存在を確かめる残された方法は、もう、レイラの周囲を探るしかなかった。もう、彼女にはゆっくりと探している時間は無い。

 このままの宙ぶらりんの状態が続けば、残念ながら一緒にこの世界に来た4人とは崩壊してしまう。そんな危機的状況なのだ。


 昨日、ついに恐れていたことが起こってしまった。自分なりに結構気を遣っていたのに・・・。

 不満を持っていたのは、サーラだけではない。マテラもフーカもだ。それは、とうに分かっていたことではあった。しかし、正面を切って不満をぶつけられてしまうと、もう悠長なことは言ってはいられない。

 それに、存在していれば、いや、必ず存在しているはずの彼らが、そろそろ自分達を捕まえる為に人数を揃えるはずだ。だから、自分達が有利な内に事を起さなければならないのである・・・。


 ネリアは同じことを何度も考えながら、足だけを高田町商店街に向けていた。

 いつの間にか高商店街の直ぐ傍まで来ていることに気付くと、寝起きの様に何物にも縛られない素の自分に戻っていた。

 その途端、自分の変化に驚く。


 高田町商店街は線路を挟んで両側に伸びる100メート程の小さな商店街である。その両端、一方は親宿しんじゅくに向かう大通りで、もう一方は、自動車がすれ違うのも困難なほどの細い道である。ネリアは、その細い道を高田町商店がに向かっていた、後、3~400メートルも行けば左側に商店街が連なる。


 少し気後れしていると言うのか、この私が?

 バカな・・・。


 昨日、レイラの前に姿を現した時には、全くそんなことは無かったのに、むしろレイラの前に現れることを楽しみにしていたのにだ。

 自分の足の運びが少し重いことに気付き、立ち止まる。


 何故、私がそんな弱気にならなくてならないのだ。

 しっかりしろ・・・。


 気持ちを否定する様に、こめかみに右手の人差し指を当て、両目を強く瞑ると、首を左右に振って、自分の心の弱さを否定する。自分がそんなに弱いはずが無いと鼻で笑い飛ばす。

 ただ、心臓の鼓動が激しくなるのは抑えようが無い事実であった。


 ネリアは、それを振り払う様に再びネリアは歩き始める。自分の鼓動をごまかすように。

 そして、数歩進んだその時であった。


 何っ?

 今のは、商店街からなのか?或いは、その周囲の民家からか・・・。


 微かではあったが、放たれた能力を感じた気がした。その途端、いつもの自分が戻っていく。

 ネリアは眉間に皺を寄せ分析する。

 方角は、あの八百屋の方である。レイラの毎晩現れる八百屋の当たりである。でも、レイラでは無い。彼女の能力ならば、微かでも判ってしまう。

 それに、今の能力はそんなに大きな能力の持ち主のモノとは思えないし、安定しないものなのだ。であれば、”彼等”では無いと考えるのが順当である。


 素人しろうとか?

 やはり、レイラの周りにはこの世界で生まれた能力者が居ると言うことか?


 という事は、強い能力を持って生まれたこの世界の人間を管理していることになる。

 レイラがフィンラウンダーとしての役目を果たしていることになる。


 やはり、存在するのだ・・・。


 躊躇われていたネリアの脚が、惹き付けられるように早歩きになる。気にしていた鼓動の早さは脳裏から消えていた。


◆あれ?◆

 左折をすれば、そこからが高田町商店の入り口である。ネリアがそこに差し掛かる手前で、白いポリエチレンの買い物袋を提げた女の子が走って来るのに気付いた。

 昨日、レイラの予報屋で奇妙な方法、確かあみだくじとか言う方法で受付順を決めていた女の子である。

 

 まさか・・・、あの女の子が能力を使ったと言うのか?


 レイラのところに居るのだから考えられないことではない。しかし、この世界で生まれた素人にんげんレベルでは、そこまでの能力を使える年齢ではない。偶々、能力を感じた方角から走って来ただけで、何故そんなことを思うのかネリア自信分からないが、そんな固定観念に捕らわれてしまっていた。


 試してみるか。

 レイラの身辺について探ってみるには丁度いいな・・・。


 しかし、自分のことをレイラが喋っている可能性もある。


 警戒されてしまうか?


 一瞬、そんなことを考えてしまうが、思い直す。


 所詮、子供ではないか。

 だからって、何を気にすることがあるのだ。

 能力を使ってごまかす必要すらないではないか・・・。


 走って来るには子供なのである。自分に非を感じれば喋るべきでないことも、つい、喋ってしまうだろう。そうなれば、少し深く聞いてみることも出来る。

 自分にぶつからせればいい。ネリアはそう考える。


 女の子は、足元を少し先を見ながら勢い良く走ってくる。お世辞にも速いとは言えないが、彼女なりの意気込みが感じられる走りである。

 ネリアは、走って来る進路を塞ぐ様にいきなり立ち位置を移動する。もちろん、真剣にではないが、底々配慮して気配も消す。


 この程度で、充分に自分にぶつかってしまうはずだ。もし、仮に底々の能力があったとしても、直前で立ち止まることは不可能のはずである。この世界の人間としてはかなり高い能力が必要である。

 ネリアは気付かれないように、あたかも先にそこに居たかの様に、気配を消していきなり進路に立ち塞がった。そのつもりだった。


 不器用なきっかけの作り方だが、ぶつかられることにより非を感じてしまえば、子供なのだから何でも話してしまうだろう。何か知っていればいいが・・・。


 そう思った。ところが、


「お~う、おっとっと・・・危ない、危ない」

 

 女の子は、1メートルも手前で、まるで予知していた様に止まった。あたかもネリアが前を塞ぐのを予知していたかのように。能力も感じられなかった。それに、目の前なのに、能力を表す光も目にしなかった。


 そんな・・・、どうやって止まった?

 偶然なのか?


 意標を突かれて、一瞬心が止まるネリア。

 先に口を開いたのは、女の子の方であった。


「ごめんなさい・・・」

 

 不思議そうに、首をかしげながらも深々と頭を下げる。

 

「・・・驚かせちゃってごめんなさい、全然気が付かなくて。

 でも、良かったぁー、ぶつからなくて・・・」


 頭を下げるその下から漏れる息が荒い。驚いて、慌てて止まったことが伺える。


 私に気づいて止まったとでも言うのか?このガキは・・・。

 

 どんな瞬発力を持った人でも絶対にぶつかるタイミングに気配を消して飛び出せたはずだった。でも、能力は感じない。全く能力の光は出なかったではないか・・・。


 であれば。偶然に止まろうとしていただけと言うことか・・・しかし。


 逆にネリアが動揺してしまう。 


「あれ?昨日のお客さんだ」


 一方、女の子が驚いているのは、自分の存在を知っていることであった。

 敵意は感じられない。

 

 何を子供に慌てているんだ。偶然に決まっているではないか。

 ただの子供だ、普通に話せばいいじゃないか。それに、敵意も見えない。

 レイラも私のことを話していなかったようだ・・・。


 ネリアは、慌てて思い直して、その場を繋げる。


「え~と、あぁ、そうそう。昨日、予報屋さんで受付をしていた子ね。随分と急いでるのね」


 得意の似非えせ笑顔を作り上げる。


「うんっ、そんなに急いでいる訳じゃないないんだけど、もえ、最近足が速くなって来たんで、走るのが楽しいんだ」


「速く?(なったって)」

 

 このガキ、これで速いつもりだったのか?この世界の人間でも、普通もう少し速いだろう。いや、それよりもそんな運動神経で、私に気づいて止まったと言うのか、能力も使わずに?

 走るのが楽し何ていっている幼児みたいなガキに。

 いや、それはない。やっぱり、単に偶然だ。止まろうとしたところに私が飛び出ただけなのだ。って、私は、何をそればかりに拘っているのだ。もう、それはどうでもいい。ここは話を合わすんだ・・・。

 

「ああ、そうそう、今すごく速かったわね」


「ほんと!そうでしょ。もえ急に早くなったんだよ」


 褒めりゃあ、乗るのか。扱いやすいガキじゃないか・・・。


 ネリアは、内心ホッとして、これなら簡単に聞きだせると判断する。


「お名前、もえちゃんって言うのね」


 女の子は、自分を名前で呼んでいたことに気づき、少し恥ずかしそうに赤い頬を更に染める。


「萌もえって言います」


 モエモエ、なぬ!?

 何て、ふざけた名前なんだ、何処まで変なガキなんだ・・・。


 そう思うが、一応心に留め、顔には出さない。


「そう、名前はもえちゃんって言うの」


「うん、そう」


「その~もえちゃんは、あの八百屋から走って来たの?その~、何て言うか・・・猛スピードで」


「そっ、猛スピードでね」


 嬉しそうに照れ始める。


「へ~、いつも八百屋さんに居るのね?」


「いつもじゃないけどね。毎日、レイラちゃんの予報の手伝いはしてるんだ・・・」


 毎日って・・・いつもじゃねえか。四六時中なんて言ってねえし。それに、こいつ、レイラのことをレイラちゃんって呼ぶのか?

 まあ、子供にチャン付けで呼ばれるのも、あいつにはお似合いかもしれないな・・・。


「・・・それがさ、もえの仕事だから」

 

「仕事って?」


 おいおい仕事ってか?走って楽しいなんて言ってるお子ちゃまが・・・。


「そう、お客さんを集めて、予報の順番を決めるのが、もえの仕事

 今はそんなことないけど、最初、レイラちゃんは頼りなかったからね」


「その~レイラちゃんと言う占い師は、夜だけしか占いをしないのは何か理由でもあるの?」


「んっ、理由?

 それは、日中はノシさんの、八百屋さんの邪魔になるからだよ。それと、占い師じゃなくて、予報士だよ。

 レイラちゃんの拘りだから」

 

 予報士だって?

 アホか、ウザイ拘りだ・・・。


「じゃあ、その、予報士以外に、昼は別の仕事とかしてるってこと」


「いや、レイラちゃんはそんなに働き者じゃないから。

 でも、勉強は好きだから、時間があれば勉強してるって言ってたよ」


「じゃあ、何か組織みたいなモノに…いや、何か活動したりとかはしていないのか」


「レイラちゃんは内気だから、せいぜい、もえ達と遊ぶくらいだよ」


「遊ぶって、ども・・・いや、き、君達となのか?」


 少し驚いた顔を見せたネリアの作られた口調が、自に近づいていく。


「そう、子供と。大学生も居るけどね・・・」


 対等に話しているつもりだったが、ガキ扱いして合わせていることは、バレてたのか?


 いかにも子供だと思っていたら、子供の”子”だけで、自分の謝って口に出しかけた言葉を探られて、ネリアは額を汗ばませる。


「・・・って、レイラちゃんの仲間に入りたいの?」


 

 仲間だって?気色悪い・・・。


 ネリアは恥ずかしさから少し寒気を覚える。


「ナ(カマ)? い、いや、そんなんじゃなくて、その~予報士って儲かるのかと思ってなんだが」


「ボチボチだよ。最初は一着だった予報士用の衣装も、最近は結構バリエーションが増えた見たいだしね」


 なに、フィンラウンダーって、その程度の生活なのか?

 いや、そんな事は無いはずだ。

 ああ、そうか。一般人に対しては表向き、秘密の組織と言うことなのか。だから、占い師としての仕事の時と言う事なのだろう・・・。


「おー、そっ、そうなのか。ぼちぼちなのか・・・」


 ネリアの想像していた存在とは違っていたが、少し想像が出来て来た気がする。もう少し聞いてみようそう思って言葉を探していると、


「ああ、もえ、そろそろ行かないと」


「行くって?何処に・・・いや」


 感情を出して引き止めそうになったことを恥ずかしく感じ、躊躇う。


「うん、ちょっとね」


「ちょっと・・・?」


 扱いにくい子供だって思っていたのに、不思議と少し残念な気持ちが湧いて来る。

 なんだ、なんで残念だ?何故寂しく思う?

 いや、そうだ。レイラの事を聞けないからだ。そうに違いない・・・。


「これを、渡しに行くんだ」


 女の子が、右手にぶら下げている白いポリエチレンの袋を見つめる。

 

「それは、な~に?」


「これっ?バナナ。うん、これから、これを人にあげに行くんだよ」


 女の子が白い袋を開くと、そこには黄色の細長いモノが10本前後房になって繋がっており、甘い香りが伝わって来る。

 この世界に来て何度か見た気がする食べ物である。その時は余り気に留めていなかったが、こうして改めて目にすると。何か、非常に美味しそう見えてくる。ネリアは、ついみとれてしまう。


「一本あげようか」


「あ、ああ・・・」


 バナナをもらったネリアは、不覚にも心から嬉しくなってしまい、その場で・・・皮のまま食べようと歯を立てる。それを見て、女の子が、顔をしかめた。


「それ、もえ突っ込めばいいの」


「はっ?」


 ネリアの顔が真っ赤に染まる。


 なっ、何をいってるのだ。私が食べ方を間違ったと言うのか?

 ここはごまかさなければ・・・。


「ま、まあ、そう言う事だ」


「なんだ、そうか。じゃあ、おいおい、皮剥けよ」


 女の子が突っ込む。


「ああ、なるほど」


 ネリアは、あたかもボケていたフリをして、てを一つ叩く。

 人生初のボケに、戻りかけた顔が再び赤くなる。


 そうか、表面の硬いものは、皮だったのか・・・どうりで硬いはずだ。

 

 房から切り離した時に開いた口から白い中身が見える。それで、ネリアもその食べ方に気づくいた。そこを起点に皮を剥き、口に含んだ。


「あ・・・甘い」


「そうでしょ、ノシさんのところのバナナは凄~く甘くて美味しいんだ。

 良かったら、買ってってあげてよ」


「そうだな」


「じゃあ、もえ行くよ」


「あっ、ああ・・・」


 女の子は、あっさりと走って行ってしまった。


 なんだ、この気持ちは・・・。


 本心でそう思ってしまった。何か、この時が楽しい。

 そして、もっと話したい。そんな気持ちになっている自分が居る。


 ネリアはもえちゃんが走って行く姿を、暫くボ~っと見つめていた。そして姿が見えなくなると、我に返って大きく首を振る。


「私は、何で催眠をかけなかったんだ?

 いかん、何をしてるのだ」


 催眠をかければ、留めること位は出来たのに。とも思ったが、


「いや、無駄だな。

 結局、もえちゃんは何も知らないだろうな。

 今度は大人に聞くとするか・・・」


 ネリアは、少女を”ガキ”から名前に呼び変えていた。 


 <つづく>

 

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