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第7話 初客きたりて舞い上がる

予報士を始めて約3週間。小学生の人気止まりであったが、終に偶然とは言え初客がやって来た。

しかし、緊張してしまい予報が出来ない。頼みのもえちゃんもいない。

そんな時に、頭上から・・・。

 ◆初客来たりて舞い上がる◆

 寒い。寒い。あ〜あもう寒い。今日は、一段と寒さが骨身に凍みる。昨晩の雨の後から今朝にかけて急激に寒さが増してきた。


 またしても若者、それもまだ十年も生きていない小学3年生の絡み合った恋を一日に二つも結びつけることに成功した。

 あの心身共に熱かったあの日から、たった二日しか経っていないと言うのに、こうも寒くなってしまうものだろうか。晩秋の夜風に肩を震わせている。


 タカキレイラ、見た目は26才位。本質的に美形。内気な性格なのに、時として突拍子もない行動をとってしまう。そして極貧。

 今日も地味な衣装に、額にはシワを描き加え、自分が思う予報士としての出で立ちで、いつも予報屋稼業を行っている八百屋さん(直志商店)の店先に向っているところである。


レイラは、三週間位前からその八百屋さんの前で予報士として仕事を始めている。

 占い師と見分けがつかないのだが、決して占い師ではない。と、レイラは思っている。

残念ながら、まだ一人のお客さんにも恵まれてはいない。

 が、しかし、高田小学校内では、ファン1号の小学3年生のもえちゃんを起点として、レイラの噂は独り歩きを始めるまでにメジャーな存在となっている。

 恋のカリスマ占い師として。


 その噂では、巷で有名な占い師”親宿のはは”と肩を並べる存在として君臨しているである。

 しかしながら、そこは小学生。お客となるには物理的に、はっきり言って金銭的に早々であるのは否めない。

 でも、高田小学校を発信源に、周りの学校や、その家族にまで確実に浸透して行っており、レイラに取って最大の広告塔にっていることは間違いのない事実である。


 - ただ、きっかけがないのである -


 レイラが、予報屋を行っている、直志商店に到着した時には、直志商店は閉店の準備を終えようとしていた。

 賑やかな日中と比べて、店先は殺風景である。

 それでも、いつもであれば温か味が感じられるのであるが、今日は、冷え冷えとしている。

 気温のせいではない。


 ?


 もえちゃんがいないのだ。


 いつもであれば、もえちゃんが先に来て、物入れ小屋から椅子2脚とテーブルをセットし、予報屋さんの準備を終えているのであるが、今日の直志商店前には、椅子2脚もテーブルもない。

 そしてもえちゃんもいない。


「あれ?もえちゃんがいない。どうしたんだろう」

 今日は、たまたま、用事が出来て遅れているのかなと思い、久々に自分で椅子2脚とテーブルをセットした。

 テーブルの上には、”予報士 あなたの未来占います”と書かれた厚紙と、漁師であるおじいさんが昔使用していたガラス製の浮玉を四つ折りにした白い布の上に置いた。

 浮玉はレイラ自信気がついていないが、イメージは水晶玉である。


 準備が終え、椅子に腰を掛け、周りを見回す。今日も小学生がうろうろしている。中学生の姿も見え始めている。日に日に増えて行く小中学生が、自分目当てであることにレイラ自信気付いていない。

 ただ、漠然と増えていると言う事実でしか捉えていないのである。


 特に今日は、そんな周囲の状況は眼の隅っこにも映ってはいない。

 レイラは、もえちゃんの姿だけを探している。

「どうしたのかな?もえちゃん」

 レイラの顔は、段々と暗くなっていく。


 心配だ。


「黙って来ないなんて。何もなければいいんだけど・・・」

「ん?」

 その時だ、姿は見えないがレイラを呼ぶ声が聞こえて来た。抱きしめたい位に可愛らしい声。

「レイラちゃ~ん」

 声の先は、大通りの方からだ。


「もえちゃんだ!」レイラはホットした瞬間、顔が緩む。

 もえちゃんは、大通りから駆け足で、鋭いカーブを描いて曲がって来た。

 ライトグレーの可愛いフード付きコートを着ている。

 暖かそうな愛らしいキルティングコート姿である。

 嬉しそうなもえちゃんの顔が輝いている。


「もえちゃ~ん」

 レイラが、もえちゃんに両手を振ると、もえちゃんもレイラに右手を振りながら走って来る。

 その時「かあ~」とカラスがレイラの頭上で鳴いた。

 レイラは、一瞬カラスに目を奪われた。

 頭上の街灯に一匹のカラスが止まった。レイラは、糞を落とされない様に一歩避けて、再びもえちゃんの方を見ると、


「あれ?」


 もえちゃんがいない。

 そんなわけがないと、目を擦り再び前を凝視する。

 やっぱりもえちゃんがいない。一瞬目を離した隙にもえちゃんがいなくなってしまった。

 いや、視界の下の方に何かいる。

 人間だ!しかも、小さい。


「あれ?」


 もえちゃんが、地面の上で行儀良く”気お付け”の姿勢で真直ぐに寝そべっている。

「もえちゃんめっけ」レイラが、嬉しそうにもえちゃんに近づくと、もえちゃんは半べそをかいていた。

「もえちゃん、どうしたの?」レイラは身を屈め、心配そうに聞きいた。


「転んだ」目に涙を溜めている。

「あら、大変。頭打たなかった。大丈夫もえちゃん」

「うん。大丈夫」

 レイラがもえちゃんを抱き起こすと、もえちゃんの可愛いライトグレーのコートが背中からフードまで汚れてしまっている。


 商店街の通りはインターロックが敷き詰められているので、泥はそんなについていないのだが、奇麗なコートが汚れてしまった。

「あら、可愛いコートが汚れちゃった」

 それを聞いたもえちゃんの目からは、溜まりに溜まっていた涙が、大粒の滴となって零れた。

「今日、お母さんに買ってもらったばっかりなのに・・・」

 涙声である。


 もえちゃんは、お母さんとデパートに行って、コート買ってもらったために遅れてしまったのである。遅れたもえちゃんは、お母さんと別れてからレイラの元にずっと走って来たのだ。


 レイラは、八百屋さんである直志商店の入り口に向って大声で助けを求めた。

「クリーニング屋さんのおじさ~ん」

 すると、直志商店の中から、大根を売っているクリーニング屋さんのノシさんが、珍しく駆け足で飛んで来た。


「もえちゃん、コート脱いでみな。いつもは八百屋さんだけど、今日はもえちゃんのクリーニング屋さんだよ。任しときな、大丈夫。奇麗に落ちるよ」

 ノシさんの頼もしい声と、優しい微笑みにもえちゃんの涙も降参をする。


「この間張り替えたばかりの、そこのインターロックで滑ったんだね。雨で濡れて滑るんだよ。今日は何人も滑っているのを見たよ」

 もえちゃんは、立ち上がってコートを脱いでノシさんに渡すと、自分の滑った部分を怒って踏みつけている。


「良し、もえちゃんもういいだろう。中に入って汚れを落とそうね」

 そう言うと、ノシさんともえちゃんは、直志商店の中に入っていった。

「ノシさんよろしく」

 レイラは、二人を見送った。


 椅子に戻った後も、張り替えたインターロックが気になってしょうがない。もえちゃんが転んだ後も、たった15分間で2人が滑り、内、中年のおばさんが見事に美味しくなさそうな尻もちをついた。

「危ないわね~。あのインターロック剥がしてしまおうかしら」

 とレイラが腹を立てているところに、大通りとは反対側の線路の方から、一人の急かしそうな男が急ぎ足でやって来る。


 確かに歩いているのだが、走っている様に速い。

「何?競歩の選手かしら」レイラは唖然と口を開けたまま見ていた。


 見ていたのだが、何かきになる。

 何が気になるのだろう。

 何か頭の片隅に引っかかるものがある。

「何か気になるわ。何かしら」

 その時、頭の中に真一文字に寝そべるもえちゃんの姿が吹き出しの様に頭に浮かんだ。そして、張り替えられたインターロックに顔が向く。


 転ぶは、きっと転ぶ。間違いない。

 転ぶ。

 予報でも、占いでも何でもない。直観だ。


 誰が見ても、いかにもあのインターロックで転びそうな、そんな確率の悪い運を引き当てそうな男なのである。


 男は、かなりお洒落なスーツで落ち着いた装いであるが、相反して見るからにせかしい。

 せかせかと音が響いてきそうな位だ。そして、早口だ。喋ってはいないけど早口だ。レイラは、決めつけた。


 せかせかと、自ら運から逃げている。そんな雰囲気がある。

「どうしよう。教えてあげようかしら」

 そわそわしてきた。


 レイラは、男の歩幅と方向から、頭の中で歩行先に点線を付けて見る。点、点、点・・・点・・・やっぱりだ。やっぱり、あのX地点。例のインターロックを踏む。

 絶対踏む。

 教えてあげようか。


 ”セカセカ”と言う音はドップラー効果の様に歪んで大きくなってきた。その位速い。

 レイラがどうしようかと考えているうちに、せかせか男はレイラの正面を通り過ぎ、一歩一歩X地点に近づいて行く。

 そして、ついに次の一歩で・・・。


「踏んじゃだめ~!転ぶ~!!」

 ついにレイラは声を出してしまった。大声で叫んだ。


 驚いたせかせか男は、X地点のインターロックに左足を踏み込みながら、それと同時にレイラの方を振り向く。

 レイラにはスローモーションの様に、一つ一つの動作がはっきりと瞳の中に飛び込んで来る。


 踏み込んだ左踵が滑る。レイラが転ぶと思った瞬間、それと同時に首をレイラの方に向ける。体重が右足にかかる。滑った左足が前に伸びるが、右足を軸としてしゃがみ込み、転ぶのを避ける為に両手が地面に着いた。が、辛うじてお尻が地面に着くのを防いだ。


 見事な反射神経で、お洒落に着こなしたスーツを汚さずに済んだ。

 レイラは見事な反射神経に感服し、拍手をしそうになったが、同時に自分のせいで転びそうになった様にも見える。

「怒られるーーー。どうしよう~」

 頭の中で夜空に叫ぶ。


 せかせか男は、立ち上がると、真剣な目つきでレイラに近寄って来た。

「どうしよう~。やべ~だわ」

 駄目だ。絶対に怒られる。

 そう覚悟して、レイラは首を竦めて目を瞑った。


 怯えながら頭抱える様に両手を上がたところ、ひんやりと冷たく濡れた両手がレイラの右手を優しく掴み、そして強く握り絞めた。

「なんだ、なんだ。何かしら」

 レイラは、そっと目を開けると、男は話始めた。


「ありがとう。ホントにありがとう。おかげで転ばずに済んだよ・・・」


 男の話は、早口で聞きとりずらかったが、どうも滑る直前で、レイラが声をかけたことにより振り向いたおかげで、右足に体重がかかり左足が滑っても転ばずに、堪えることが出来たらしい。

 何の武道か聞き取れなかったが、マニアックな武道をやっており、転ばないための受身の基本ポーズ”その13”を取ったとのことである。自慢げに話していた。


「いや~、あの~それはどうも」

 怒られなかったのは良かったのだが、泥の付いた汚れた両手でレイラは手を握られてしまった。

 手を放して欲しかったが、迫力に負けて声がでない。


「凄い。どうして転ぶと分ったんだ。ホントに凄い」

「あの~、まあ、その~・・・」まだ、レイラの右手を握りしめたままである。

 せかせか男は、テーブルの上に置いてある厚紙に書かれた”予報士 あなたの未来占います”をちらりと見た。


「ホントにずばり当てる、占い師さんっているんだなあ~。」

「いやあ~。それほどでも」

 遠慮するところでもないのだが、予報したのではなく、何人も滑っているインターロックを踏みそうになったので叫んだだけであった。

 レイラは返って恐縮してしまう。


 それよりも、レイラは笑いながら周囲から見られている、ひと目が気になってしまう。

 お礼よりも、早く行って欲しかった。ちょっとうざくなって来た。

 男は、そんなレイラの気持ちとは裏腹に何かを閃いた様である。

 目つきが希望に満ちて輝きだした。分り易い男だ。


「そうだ、占い師さん。占って下さい。私を占って下さい」


 予報士なんだけどな~。

 それより、すっかり絡まれちゃった。

 あ~どうしよう。

 もえちゃん来てくれないかなと、困ってしまう。


 困ってしまうのだが、何か、何か違う。

 何か喜ばなければならない様な気がする。

 何だろう、何か、何か違う。

 何だこの違和感。

 毎日ここで3週間も一人のお客も来ない中、座って・・・?


 ?


 毎日ここで?(違う)

 一人の?(違う)

 お客?(うん?)


 おキャ?

 あれ?

 「きゃ、きゃ、キャンペンガール!ではなくて、きゃ、き・ゃ・く・だ~。このひと客だ~」

 心の中の絶叫は、竜の様に舞い上がり、降り方を忘れた木に登った煽てた豚の様に暫くあっちの方から戻って来なかった。


 ◆血液よ廻れ◆

 そいつは襲ってきた。レイラにとって最大の”敵”。幼い頃から、そいつの為に人生を狂わされ続けて来た。”… 浣 腸 …”時に優しく、時には激しく身体を締め付ける。そして、解放された時は無風の室内にさえも爽やかな春風を身体中に感じさせる。


 今、レイラは浣腸の極限状態であった。

「落ち付け~、落ち付け~」心の中で叱咤する。

 もえちゃんに予報するときは、あんなに平常心なのに。「くそ~落ちついて。落ち付いてレイラ」初客の重圧がただでさえあがり症のレイラに過度の浣腸をもたらす。

 (レイラは、緊張のあまり浣腸と緊張の区別がつかなくなっていた)


 レイラは、助けを求める様にきょろきょろするが、笑って通り過ぎる人や、遠めで楽しんで眺めている赤の他人ばかりである。

 頼みのもえちゃんもいない。


 どうしよう。

 どうしよう。

 おろおろするばかりだ。

 

 しかし、

 悩んでもいられない。これがレイラの選んだ商売なのだ。返事は縦に首を振るしかない。


「は、はい」


 レイラは、首を縦に振った。


 OKだ。


 言ってしまった。


 こうなれば、なる様になれだ。いくところまでGOだ。と思うことにした。

「あ、あの~それで、な、何を予報すれば」

 上目使いで、男の顔を覗く。


 初客だ。偶然とは言え初客が来てしまった。全く心の準備が出来ていないままに。

 顔が赤くなるどころか、重圧からの緊張で血の気が引いて行くのが分る。分り過ぎる位に分る。


 頭上の街灯がレイラを照らす。

 行き交う人、全てがレイラを見ている。

 地面に敷き詰められたインターロックも、周りの商店もレイラの為の舞台セットのような気がする。

 高田町商店街の中心が今、自分である様な錯覚をしてしまう。


 ストーリーも、セリフも、何一つ知らないまま舞台に立たされた主人公の様に、追い詰められた気持ちになってしまう。

 血の気よ戻って来い。戻って来い。血液よがんばれ!


 そんな、レイラの気持ちとは裏腹に男は、汚れた手を拭き取るかのように擦りつけて手を離した。

 そして、淡々と話出した。

「わざとだ、絶対わざとだ」わざと手の汚れを拭き取った。

 レイラちょっと怒ったお陰で少し血液が戻って来た。


 男は、気付かずに話し出す。

「実は、明日デートなんだが・・・・・・ナガナガ」

 見た目30前半と言える男が、デート等と、恥ずかし気もなく淡々と話し始める。レイラは聞いていて恥ずかしくなってくるが、そこを突っ込めるわけもなければ、余裕もない。聞くので精一杯である。


 やっと終わった男の話は、要するに次の内容であった。

 この前の日曜日にお見合いをしたとのことなのだ。さして結婚をする気も無く、乗り気でなかったが、知り合いの紹介で断れなかったそうである。


 ところが、お見合い相手に会ってみると一目で気に入ってしまい、一気に気分は盛り上がってしまった。

 そこで、積極的仲人さんに取りはからってもらい、明日の土曜日に二人で会えるようになったとのことである。


 何処に行けば良いか、まさに隣り街の親宿に下見に行こうと向っている途中であったとのことである。

 全く、けな気な初中年男しょちゅうねんおとこなのである。

 

 落ち付けレイラ。

 占い、いや、予報しなきゃ。

 落ち付け。


 レイラは自分に言い聞かせるが、頭の中は漂白剤を使用したかの様に真っ白け。

 もえちゃん助けてよ。こんな時にもえちゃん何で転ぶのよ。子供なんだから・・・。

 そんなことを考えても、どうしようもない。

 そうだ、取りあえず名前を聞いてみよう。レイラは取り敢えず、名前を聞いてみることにした。


「あの~お名前は」

 常に上目使いになってしまう。

「申し遅れました。私は佛田と申します」

 名刺を差し出された。

 予報屋さん相手に丁寧な人だ。レイラは思った。


 レイラは名刺を出される意味が分らなかったが、取り敢えず震える右手で受け取った。

 名刺を見ようと、震える右手に震える左手を添えたが、震えが強震して倍に震える。

「おろろろ。おろっ?」咄嗟に身体も震えさせ、両手に同期させてみた。結構読見易かった。


 ”常務取締役 佛田 経理”「じょうむとりしまりやく ぶつだ けいり。結構、偉いんだ、ふ~ん。経理って名前ではなくて、部署なのかしら。ま、いいや。ぶつだじょうむって呼んでみよ」

 レイラは意を決して話し始めた。


「ぶ、ぶつだじょうむさんの、う、占っ。いや」首を横に振り訂正する。

「予報してほしいことは、もしかして、デートのプランですか?」

「それ、その通り!良く分ったね。やっぱり凄い。流石だ! と、言うことで宜しく。それと、名前は”ぶつだつねみち”ウチの会社はアットホームだから、みんなは”ぶつだじょうむ”を略して”ぶつじょさん”って呼ぶから、そう呼んで構わないよ」

 マニアックな呼び方まで指定されて、呆気に取られるレイラであった。


 ◆天からの声商店街からの音楽◆

 取り敢えずいつも通り、予報の方向性を掴む為に色々聞いてみることにした。

 そのうち、落ち着くかもしれない。レイラはそう思った。

「あの~ぶつじょさん。聞いてもいいですか」

「なんだね」

「待ち合わせ場所とか、食事に行くとか、何か約束したことはありますか」

「ないよ」

 完全無欠なノープランだ。いや、完全全欠のノープランだ。

 待ち合わせ場所も決めないでどうやって会うのだろう?どうでも良いことだが、上目使いで一応聞いてみた。


「あの~待ち合わせ場所が決まっていなくて、どうやって落ち合うんですか?」

 答えは簡単だった。

「プランが決まったら、彼女に電話をする」携帯電話を指す。

 凄い、まだ誰も持っていない携帯電話も持っている。

 そこに驚いていると、さらに

「早く占って」

 せかされた。

「せ~・か・さ・れ・た~。せっかちな、せかせか男だ。」レイラは、心の中で叫ぶ。

 レイラは追い詰められた。手に汗を握りながら、おろおろする。


 焦る気持ちで頬が火照っていく。

 まだ、さっきよりもいいか。血が回っている。レイラは、どうでもいいことに冷静である。


 よし、何とか集中しなきゃ。レイラは頭の中で反復する。しかし、”集中しなきゃ”と言う言葉ばかりが頭の中を駆け巡り集中が出来ない。

 取り敢えずテーブルの上のガラス製の浮き玉を拭くふりをして、ハッタリをカマし時間を稼ぐ。

「どうしよう。何も浮かばない」


 予報が無理なら、適当に答えてしまおうかとも思う。しかし、緊張し過ぎて適当なことも思いつかない。

 絶対絶命。あ~、温かいお風呂に入って一杯やりたいなあ~と、逃避モードに入った時だ。

 こんな絶対絶命な時にヒーローは、飛んでくる。

 そう、必ず上からやって来る。水戸黄門の一キャラの”風車の矢七”が、何処で待機していたのか必ず

3回転位回って空から降って来る様に。


 レイラの場合、矢七ではなく音声であった。

 通常は日中しか流れない高田町商店街のテーマソングが、頭上から急に流れだす。「た・た・楽しいお買い物、た・た・退屈させない、た・た・高田町商店街~」

 その音楽に交じって声が聞こえた。多分。「レイラ、踊るのよ」天の声の様な気がした。


「んっ?」何だろう。

 レイラ自信の記憶が心の声になったのかもしれない。


 そう、この商売を始める時に(第1話の終わり頃)まだ自分の予報士としての力が上手く引き出せなかった時、踊ることにより無心になれた。そして、無心になることにより、正確な予報が出来た。

 その時、自分の予報としてレイラの脳裏には絶対に”成功する”と言う未来が記憶に刻まれた。

 もしかすると、その記憶が蘇って、声になったのかもしれない。


 レイラは、導かれる様にすくっと立ち上がり、目の前のガラスの浮玉と、”予報士 あなたの未来占います”と書かれた厚紙の置いてある小さなテーブルに軽々と飛び乗った。


 そして、高田町商店街のテーマソングに合わせて手を大きく広げ、高々と右足を上げた。


 <つづく>




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