第18話 五次元に並ぶ世界(半径500メートルの中心)
麗美はもえちゃんとの会話の中で、力の放ち方のヒントを掴む。
◆もえちゃん理論炸裂◆
もえちゃんは、再びサイコロを2個取り出した。そして、1個を左手の掌に乗せ、もう1個は右手に握り締めた。
「このサイコロを取って、違うサイコロを置けば・・・」
サイコロを同じ位置に入れ替えて見せる。
「今同じ位置にサイコロを置けたのは、麗美姉、なんで?」
もえちゃんは4次元を説明するにあたり、そんな質問を麗美にして来たのだった。
そんなこと、麗美には、除けたからとしか答え様がない。しかし、それがもえちゃんの期待している回答だとは到底思えない。
捻ってるのだろうか?
もえちゃん理論が正解とは限らない。だが、大学生と小学生の差を考えると、そこまでを見込んだ回答をしなければならないと、麗美のプライドが前身に冷や汗を掻かせる。
やば~・・・。
だめ、落ち着いて私。
整理しなきゃ、3次元と違うのは、時間軸、つまり時間の経過があるって言うこと。つまり、時間の違いがあるから・・?
考える・・・。
すると、あっつ!辛うじて叫ぶ言葉を飲み込んで、心の中で叫んだ。
「時間の経過の間にすり替えたってことか」
麗美はもえちゃんの顔を、そっと覗き込む。
正解であるように・・・と。
「そう、さすが、麗美姉。違う時間にサイコロを置いたんだ。これが4次元」
麗美は、当たった!
と心の中だけで叫ぶ。が、表情には明らかに喜びが表現されている。しかし、そこは言葉だけでも冷静を装う。
「えっ、まあ。そりゃあ、一応大学生だしね」
褒められて、ちょっと嬉しい。いや、正直言って凄く嬉しい。
額の汗を拭ってホッとする。
と、なると、この先5次元をどう説明するかに興味が惹かれる。麗美は元々そのウンチクを聞きに来たのである。
もえちゃん、そこから5次元をどうやって表すのだろう?
人間の思考で、どうやって5次元を捉えるのかに興味が惹かれる。すっかり、思考の先手をもえちゃんに取られてしまい、麗美はもえちゃんが何らかの答えが出て来ることを微塵も疑ってはいない。
でも、もう変なことを聞かないでね、お願い!
祈る気持ちも忘れてはいない。
もえちゃんの説明は、麗美の期待通りに続く。
「じゃあ、5次元はと言うと~。麗美姉、このサイコロの3つの辺が無限に長いと考えてね。すると、これが3次元空間の代わりになります」
「ふむ、ふむ」
もはや、「無限の長さ」と言う言葉を使っていることも当然のこととして、麗美は聞き流す。
麗美はもえちゃんワールドに頷く。何かワクワクするのを感じる。
もえちゃんは、さっき引いた場所とは違う場所にに、再び横線を引く。
「この線が時間軸。右に行くほど時間が経つと考えてね。
すると、同じ位置にサイコロを置けない。と言う事は、2つの3次元空間が同じ時間を共有できないことになるよね。
だけど、ほら、2次元の時の様に縦にもう1本線を引いて垂直にクロスさせると、同じ時間で、縦に位置をずらすことが出来るよね・・・」
そう言って、縦(y)軸方向に同じサイコロずらして並べる。
「ああ、そっか~」
麗美にも理解が出来た。
「そう、麗美姉の想像通りなんだ。縦の線を5次元軸とすると、同じ4次元軸、つまり5次元方向にずらすと、同じ時間上に2つのサイコロを置くことができるんだよ。このサイコロは3次元空間と仮定しいるから、同じ時間に3次元空間が存在出来ることになるんだ。つまり、同じ空間が同じ時間に存在出来ると言うことなんだ」
「そっかぁー、無理に5本の線を考えるからダメなのね」
麗美の科学オタクの血が勢い良く流れ出し、頭がすっきりとしてくる。
何て、科学って楽しいんだろう!
麗美はすっかり、えちゃんの話が楽しくなってしまい。続きが聞きたくて堪らなくなってしまう。
「そうなんだ。因みに、これに高さを設けると6次元になって、サイコロが1~3次元だから、この“縦”“横”“高さ”の線で4~6次元のもっと大きなサイコロで、1~3次元サイコロを中に取り込むと、6次元空間の模型の出来上がり。
でも中にあるサイコロが小さいからって、次元が小さい訳じゃあ~ないよ」
なに?いっか~ん、分からなくなってきたぞ・・・。
集中しなきゃ・・・。
麗美頑張れ!
自分に叱咤激励をする。
「実際には、それにさらに横と縦と高さの線を引けば9次元空間の模型が出来上がりだよ。
もえはさ、基本は全て3次元で括れると思ってるんだ。時間も3次元を進んでいると思うんだよ。だから、空間の3次元サイコロを包む大きなサイコロが時間の3次元空だと思うんだ」
えっ?何言ってるの?
楽しく感じたのも束の間であった。
焦燥感から麗美の額には、再び冷や汗が浮んでくる。
ごめん、もえちゃん「9次元」は要らないよ~。
と言いたいが、聞きに来たのが自分である為、ノリに乗っているもえちゃんに、そんなことは言いにくい。
さらにもえちゃんは早口で続ける。
「ただね、時間は逆戻り出来ないから、時間は3次元では平面や立体が出来ないんだ。線でしかないんだ。もし、出来てしまうと物質は、変化に対応出来ないと思うよ。だからタイムマシーンは出来ないと思うんだ」
だめ、立ち眩みだ・・・。
もう、もえちゃん、「思うんだ」じゃあないよ~。
勝手に思わないでよぉ~。
でも、水を得た魚のもえちゃんは止まらない。
「そして、この9次元に共有出来る次元軸があるはずなんだ。これが実際に異次元世界を存在させてる次元軸だと思うんだ。どの次元でも良い訳じゃないんだ。だって、成り立たないでしょ。
多分レイラちゃんは、この次元軸に自分を置いて未来や過去を見てるんだ。だから、色んなケースを想定出来るんだ」
麗美には完全に何がなんだか分らなくなってしまった。
はっきり言って全然ついていけない。楽しいと思ったのも束の間であった。
瞳が点程に小さくなり、眩暈に続いて吐き気を催してくる。
「空間のサイコロと、時間のサイコロ。そして、もう一つの3次元があって、合わせて9次元。それともう一つ、全ての3次元空間に共通して存在する次元とあわせて10次元。
もえは、この共通して存在する次元を5次元とするのが一番理想だと思うんだ。だからレイラちゃんの“予報”はきっと、その5次元軸から、時間の3次元空間の進む先を見て、空間の3次元見ていると、もえは思うんだよ・・・」
もうだめ・・・。
麗美は、過度に働かせた思考で重くなった頭は下がり放し。
麗美は、両目を閉じ思い切って、
「もえちゃん、ごめん。もう充分。ありがとう」
流暢に続くもえちゃんの話を強制終了させた。
「えっ、もういいの?これから面白いのに・・・」
そんなことを、水を得た魚のが言って来る。
なんだろう、この子。何を言っているのだろう?
そう思うが、すっかり小学生の言うことを、疑いも無く一生懸命に聞いている自分がいる。
理性では”想像に過ぎない”と思いながらも心では信じている。
理論合戦としては完全なる敗北である。
だが、自分の得るだけの知識とは違い、能動的に物事を考えるもえちゃんに敗れても、何か悔しくはない。むしろ自分も自分の頭で考えなきゃダメなんだと気付かされた気がする。
やっぱり、サヤナさんの言うとおり、もえちゃんの話を聞きに来て良かったと思う。
それに収穫はそれだけではない。それは、もえちゃんがレイラと五次元を結び付けていると言うことである。
やはり、レイラさんは異世界からやって来たと言うことなのだろうか・・・。
それに、
もえちゃんは、もしかするとレイラさんが異世界から来ていることを知っているんじゃないだろうか?
そんな話し方だった気がする。
もえちゃんは、既に知っているの?
聞いてみようか?
「ねえ、もえちゃんはレイラさんが・・・」
麗美はそう言いかけたが、そこで言葉を止めた。
もしかしたら、知らないかもしれない。それを知って、レイラさんともえちゃんの関係に変な影響を与えたら大変だ。麗美はそう思って途中で言葉を止めた。
「うん、な~に?レイラちゃん?
レイラちゃんは5次元の力を使ってるだけじゃないと思うよ。他にも使っているはずなんだ。例えば、この空間にあるまだ知られてない物体とかね」
もえちゃんは麗美の言いかけた言葉が、レイラの不思議な力のことだと勘違いしたようだ。
「もえはさ、多分まだ知られてしない物体があると思うんだ。もえ達普通の人は持ってないけど、何かその物体を動かす力があれば、きっとその人はレイラちゃん程じゃあなくても。空間にある不思議な力を使えると思うんだ」
もえちゃん、そんなことも考えているんだ・・・。
感心してしまう。自分なんかは能力が使えるにも関わらず、”ただ使うだけ”以上の事を考えたことも無かったのだ。
それに、もえちゃんの言っていることは、昨日サヤナから聞いたことと繋がっている様に思う。
麗美は、何故そんなことに気付くの?
とも思うが、それを本人に聞いても意味が無い。既に五次元の話でも大きく驚かされている。
きっと大好きなレイラさんの事が知りたくて色々調べたんだ・・・。
きっと、そうだ。そういうことにしておこう・・・。
それで納得することにした。
しかし、それは納得したとしても、自分が今まで考えてもみなかった自分の能力のことを、まだ小学生であるのに既に考えているのである。
その事実には、自分との明らかな差を感じてしまい、やはり情けなく思う。
「そ、そうなのかもね」
そう応えて麗美は反省する。
反省して、振り返る・・・。
そして、出て来るのは自分への憤り。
“そうかもね”じゃあない、自分も自分の頭で考えないと・・・。
思い出されるのは、昨日の健太君が襲われた事件のことだ。
自分が、もっともえちゃんの様に頭を使っていれば、もっと能力を使いこなせて、健太君に大怪我をさせなくても済んだかもしれないのだ。
麗美に後悔が襲ってくる。
悔しい・・・。
麗美は両手の拳を強く握り締め、
「その原理が分れば、健太君も怪我をさせずに助けることが出来たかもしれないんだよね・・・」
そう呟くと、急に元気をなくし、肩を落とす。脱力する。
そこに、もえちゃんが、
「もえは、良くわかんないけど、こう思うんだ」
そんなことを言ってくる。
「えっ?」
何か分かるの、もえちゃん?
今、麗美にある知識はサヤナさんが精霊に例えてくれた方法だけである。
それを元に自分なりの習得をしなければならないが、自分にはそれだけでは、力の放ち方を掴めそうにもない。
だから、麗美は既にもえちゃんの言葉にヒントがあることを願っている。
完全に小学生の子供だと言う認識は捨てている。
「例えばさ、コンピューターは”0”と”1”、”ある”と”ない”だけで、色んなことを計算するらしいんだ。
根本は簡単なんだ。だけど、どうやって”0”と”1”を高速に作るかとか。深いところをまでを考えると、もえの知識では難しいんだ。そして、”0”と”1”をどこまで使えるかを考えるのも奥が深い。
でも、コンピューターの様に物事には一番簡単に考えられる部分、つまり収束していく部分、基本があるはずなんだ。それは次元の考え方も一緒なんだよ。
きっと、麗美姉の能力にも操作し易い、収束された位置に基本があると思うんだ。その基本から発展させれば、きっと上手く使えるともえは思うんだよ。
たださぁ、もえにはその収束されたものが、思考なのか、感覚なのか、そうじゃなくて感情なのかが分かんないけど・・・」
「”0”と”1”の様な基本か・・・」
麗美はそう呟いた。
「そうだ、レイラちゃんには集中が大切だったらしいんだよ。それで、最初予報するときにね、集中する為に踊ったんだよ」
「踊ったってどう言うこと?」
麗美は目の玉が飛び出る位に驚いてしまう。
「そう、ほら予報の時の小さなテーブルがあるよね。あの上で高田町商店街のテーマソングに合わせてさ。でも、集中って言ってたけど、それは言葉の表現であって、単なる集中ではないと思うんだ」
「集中・・・?
そうなの?あそこで本当に踊ったの」
レイラさん、恥ずかしく無いんだ・・・。
と思うが、絶対に口には出さない。今はそんなことではない。
「そう、それがレイラちゃんの“0”から“1”にする何かだったんだよ。それを掴んだんだと思うんだ。だから麗美姉にも“1”にする何かがあるはずだと、もえは思うんだ」
麗美は、力を放つ方法が何か分かりそう、いや、分かる為の模索の仕方が分かった気がした。
ずっと、もやもやした心がスッキリした気分になっていくのを感じ、根が単純な麗美は再びやる気が満ちてくる。
「ありがとう、もえちゃん。私も、レイラさんの様に形振り構っていられない」
やる気が出てくるのを感じる。
「うん、いいんだ。麗美姉も踊ればいいかもしれないね。裸踊りとか、腹踊りとかさぁ・・・」
そう言って笑う。
「も~、もえちゃん!そんなこと言って・・・」
麗美の顔が真っ赤になる。
もえちゃんは、元気な麗美の様子を見て、嬉しそうに折り紙とサイコロを片付け始め出した。
「やっぱり、折り紙とサイコロ持って来て正解だった。そんな気がしたんだ」
「もえちゃんチンチロリンする為に、毎日持ってるんじゃ・・・」
「そんなわけないじゃん。もえギャンブルしないよ」
すっかり信じてしまっていた自分に、やっぱり私ってバカ正直なんだと、落ち込んでしまう。
麗美はやはり根が単純なのである。しかし、単純なりに、不思議なのだ。
あれ、何でだろう?
だったら、何でサイコロと折り紙持ってるんだろう?
それって、偶々?それとも、勘なの?
麗美の疑問が聞こえているかの様に、
「麗美姉は力が入り過ぎ。だから、もえの勘が働いちゃうよ。力抜いた方いいよ。
それにさぁ、麗美姉からは”不思議な力”って言う、い匂いがし過ぎだから危険な人が集まってくるから気を付けた方がいいよ」
そんなことを平然と言ってくる。
「は、はい・・・」
素直に返事をしてしまうが、
えっ、もえちゃん、もしかして知ってるの?
そんなはずないんだけど・・・。
麗美はスパーガールが、自分の目の前にもう一人居たのにも関わらず、今まで気付かなかったことに愕然としてしまう。
「やっぱり、私って周りが何にも見えてないダメ人間なのかな・・・」
麗美はどこまでも生真面目であった。
◆遺伝子《DNA》◆
へ~、麗美ちゃんからは”不思議な力って言う、い匂いがし過ぎ”なんだ~。
なるほどね~。
私にはもえちゃん、あんたが一番不思議なんだけどね~・・・。
大通りに面したの商店街の入り口で、もえちゃんと麗美のやり取りに聞き耳を立てていた一人の女性から半ば呆れた笑みが零れる。
もちろん車の騒音が大きい大通で、店一軒を隔てたところの会話が通常の人間に聞き取れる訳が無い。
その女性、サヤナには特殊な能力があるからこそである。
麗美ちゃんも、ホントに確認に来ちゃたのね、オタクパワーって凄過ぎよね!
確かに自分が高田町商店街から半径500メートル以内から出るなと言ったのだが、麗美が襲われる危険があるとも言ったのだ。それにも関わらず、命を掛けて自分の興味のあることを確認に来た麗美に脱帽だ。
二人の話しが粗方終わったところで、辺りの気配に気を配りながら、人通りに紛れて商店街の中へと進んでいく。通り過ぎた物陰では、まだもえちゃんがランドセルに折り紙と、サイコロを片付けているところである。
(さて、後はお願いします。オ・ジ・サ・ン)
二件先の高田町商店街の唯一八百屋さん”直志商店に向かい、無言の言葉を送る。それに、
(ああ、ご苦労さん、ありがとう。言った通りだろう)
八百屋の中から送られてくる言葉が、直接サヤナの脳に振動を送る。
(ホント、私と違って、分かり易い説明でした・・・)
サヤナはワザと捻くれた言い方をしてみせた。
(ハハハ・・・)
それに、”どうだ!”とばかりの笑いを声を返す。
(だけどさ、ホントにあの子自分の能力に気付いてないわけ?
そうは思えないけど・・・。
気付いてなきゃ、ド天然よ。謎のサイコロ師は・・・)
(どうなんだろうね?誰にも言わないからね。レイラちゃんも気付いてないようだよ)
サヤナの話し相手は、陳列している茄子を袋に詰めて、笑顔でお客に渡している。
話し相手は、この店のご主人である。
(まあ、今使えている能力が、通常の勘の良い人を更に凄くしたタイプの能力だから、気付かないってこともありかもしれないけどね。
それに、光も出ないし・・・。
ホント、オジサンの血統は変てこリンな遺伝子《DNA》よね)
(変てこリンか・・・ハハハ。
まあ、何にしてもこれ以上の能力が目覚めなければ、私は嬉しいよ・・・)
(そうね・・・・)
サヤナは話し相手の八百屋”直志商店”のご主人の方を見向きもせずに通り過ぎ、線路を渡り足早に商店街を抜けて行った。
その気配を確認した八百屋のご主人は、お客が居なくなったのを見計らって店を出ると、麗美ともえちゃんが居る物陰を覗き込んだ。
「もえちゃん、麗美ちゃん、そんなところで何してるんだい?」
「あっ、ノシさん」
「こんにちは、ノシさん」
もえちゃんと、麗美がそれに応える。
<つづく>
ちょっと、めちゃくちゃな次元理論を展開してしまいました。
適当な作り事として流して下さい。