表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/101

第18話 五次元に並ぶ世界(もえちゃんの理論)

科学オタクの麗美であったが・・・。

◆ 麗美の翌日(2)◆

「よし、ちょっと早いけど行ってみようっと!」

 

 今から小学校に向かえば、恐らくは丁度もえちゃんの下校時間とぶつかるはずである。

 だから、直ぐにでももえちゃんの知識がナンボのものであるのかを確かめたい麗美にとっては、小学校の校門の前で待つことが一番手っ取り早いのだが、麗美は敢えてもえちゃんの通学路である高田町商店街の入り口で待つことにした。


 それは、サヤナから人通りが多いところを通ると言うことと、この商店街を中心とする半径500メートル以内から出てはいけないと言われたからである。


 本来であればそんな危険状態なのだから、サヤナが練習場所と指定した、全く誰も来そうもない現在の川原にそのまま居るか、或いは家に戻ってジッとしていればいいのである。

 だが、自称科学オタクの大学生である自分が、小学生のもえちゃんよりも劣っている扱いをされたことが、どうにも悔しくて堪らない。真っ直ぐで負けず嫌いの麗美としては、ついつい行動を起こしてしまうのである。


 そんなことで、麗美は力を放つ練習を一時中断すると、急いで人通りの多い大通りに出て、高田町商店街に向った。


 川原から離れると、上手く行かない”力を放つ”練習から開放されたことでホッとした気持ちになる。どうにも、麗美は自分自身の問題になると力が入らない傾向があるのだ。


「あ〜あ、どうしてこんなにダメ人間なんだろう。もし次にあの女に会ってしまったら、どうなるか分らないと言うのに・・・。

 何か、もえちゃんの処に行くことを大義名分にして練習サボってるみたいな感じだなぁ・・・」


 もしかしたら、もえちゃんに五次元の事を聞いてみたいと言うことよりも、練習から逃げたいと言う気持ちの方が強い様な気もしてくる。


 自分なりに自分を分析してみると、そんな悠長なことをしていられるのも、サヤナが助けてくれるだろうと言う事に依存してしまっている様な気もする。いや、残念ながら絶対そうであると麗美自身思う。


 サヤナの言っていたことが真意であるか、本気か冗談か掴めていないのにだ。


 本当に、この笛吹いたら自分を助けに来てくれるんだろうか?

 また、オネエ口調で、笑いながらやって来てくれるのだろうか?


 ちょっと不安に思い、首に掛けている、昨日別れ際にサヤナからもらった金色の笛の付いたネックレスを右手で握りしめてみる。


 そして、もう一度昨日のサヤナの言葉を振り返って確認してみる・・・。


 ◆昨日、別れ際で◆

 サヤナに力の放ち方を教わった後に、アパートまで送ってもらったその別れ際での事であった。


 麗美は科学オタクの血が少し覚めてくると、もし自分が力を放てる様になる前に、“万が一、あの女に襲われたら”と言う不安に襲われて来た。

 ちょっと不信な匂いのする人とは思うが、このままサヤナと分れてしまうのは、余りにも不安過ぎる。


 もう、アパートに着いちゃう。ちゃんとお礼言わなきゃ。それに・・・。


 今までサヤナがしてくれたことのお礼を改めてしなければ・・・。と言う麗美の気持ちに嘘はないが、本当はお礼を言うことよりも、その話の流れで何とかサヤナとコンタクトを取り続けたいと言うのが本音なのだ。もじもじと考えた末に、

 

 よし!


 募っていく不安に俯いてしまっていた麗美であったが、意を決してサヤナに話しかけることにした。

 そして、サヤナに向って顏を上ると、そこに待っていたのは、


「うわぁっ!ビックリした~・・・」


 先を歩いていた筈のサヤナの顔であった。

 サヤナはいつの間にか、間近で麗美の顔を覗き込んでいたのである。その距離20センチメートル弱。


 麗美のそんな叫びを全く無視して、


「あ~ん、そーよねー。不安だわよね~。それに、逃げっ放しは疲れるわよね~」


 恐らくは、あの厳つい女にあったら“一発放って逃げれ”と言ったことに対しての言葉であることは麗美にも想像がつくのだが、

 はっきり言って、逃げるまでこぎ着ければ、まだしもなのである。


「そうそう、それでは~! 逃げ疲れた時の為のグッズを紹かい、しょうか~い。

 ジャン!“この笛吹いたら助けに行くよ~笛“。

 

 んっ?

 あれ、名前に笛が二回入っちゃ変かな?


 まあ、細かいことは抜きとして、そしたら、電光石火!の如く、このサヤナさんが助けに来ますのよ~ん。って言うのはどうかしらん?」


 と言って、自分が首から下げていたペンダントを外して麗美に差し出して来た。


 ちょっと不安の的は得ていないが、言っていることの結果は充分に嬉しい。


「あっ、そうそう、でも高田町商店街から半径500メートル以内に居るのよ~。あんまり遠いと笛の音聞こえないでしょう。それと、私じゃない人が来ても、いつもみたいな人見知りはしないでねん」


 何か、言ってる意味が良く解らない。

 500メートルどころか、100メートルも離れない内に、この笛の音が届かなくなると思う。


 それに、何で商店街が自分の行動半径の中心なんだろう?

 ついでに、“いつもの人見知り”って言うのが納得いかないが、それはさて置き、“人見知り”って他にもそんな強い人が居るってことなのかしら?

 サヤナさんと一緒に働いてる建築現場の人達かしら?

 やっぱり高所で働く人ってみんな凄いのかしら?


 そう思う。

 サヤナの薄紫色の衣服は、とび職そのものなのだ。


 それとも、レイラさんのこと?


 でも、レイラのことは知っていても、何かレイラさんとは距離を置いている気がする。

 それに、レイラが商店街に居るのは夜の3時間だけである。


 何て思いながら、サヤナが渡して来た、金色の小指大程の笛の付いたペンダントを受け取った。


「試に吹いてみそ?」


「はっ?」


 いきなり静寂な夜の住宅街で笛を吹け等と言われては麗美も戸惑ってしまう。


「口に咥えて、“ぷ~”っとね。あ~ら、もう、しゃぶっちゃ、いや~ん、いやぁ~ん」


 サヤナは体をクネラセながら、口をそれっぽい形にして目をつぶって見せる。


 生真面目な麗美には笑えない冗談だ。


「あっぁぁぁぁ・・・」

 も~う!こんな時に、またぁ~・・・。


 と思うが、麗美にとっては恩人のサヤナを怒るわけにもいかず、口を膨らませるだけである。恥ずかしくて顔がちょっぴり熱い。


「アハハハハ、冗談冗談。まあ、いいから吹いてみそ」


 麗美は音が余り大きくならない様にと、加減しながら笛を吹いてみた。

 すると、僅かに笛の細かな振動が指先に伝わるが音は全くしない。更に強く吹いてみるのだが一緒だ。


 恐らく相当な高周波であることが想像出来る。きっと、通常の人であれば、この振動すらも分らないであろう。だが、吹いた瞬間にその音に反応して、


「ワオ~ん、ワオワオ、ワオ~ん」

 とサヤナは空に向かって吠えた。犬の遠吠えの様に。


 音が鳴らなくても分かるんだ。

 でも、な、なんで犬なの?


 そう思うが、幾ら生真面目で真っ直ぐな性格の麗美にも、サヤナのキャラは多少掴みかけてはいる。


 軽く流してみた。すると、


「すったり、ぺろぺろしたらダメよ~ん」


 そんなことを言ってくる。正直、肩の力が抜けてくる。


「も~う」

 きっと、反応を示さなかったせいだ・・・。


 麗美はそう思い、にらみ付けると、サヤナはその反応に嬉しそうにしながら、大げさに縮こまってみせる。


「まあ、本当に襲って来るかどうかは五分五分位だから、やることをやったら、後は自分の運に掛けるしかないわね」


 サヤナは少し真面目な顔で微笑みを見せるのだが、


「さっき、私は凄ごく、運が悪いって言ってたと思うんですけど!」


 麗美には突っ込みたい言い分がある。


「あっ、そうだ!ハハハ、余計なこと言っちゃってたみたい。キャッ」


 やはり、サヤナの真剣な顔は10秒も続かなかい。


 なんだろう、この人・・・。


 そうは思うが、もし、このサヤナと言う人では無く他の人と話しをしいたら、こんな気持ちでいられるのだろうか?

 倒れてしまいそうな不安に襲われてしまうのではないだろうか?


 麗美はそう思う。本当にそれを意図して行っているのか、遊んでいるのかは麗美には全く分からないのだが、最初はウザかったこのキャラが、次第に好きになっている自分がいることだけは確かに感じられる。

 

「いい、もしそうなったら、直ぐには助けに行けないから、諦めないで精一杯逃げるのよ。人ごみの中に逃げると関係ない人を巻き込んじゃうなんて、思わなくていいのよ。必ず、人の多いところに逃げること。

 彼らも人前で顔が割れることは本来好まないはずだから、今度は昨日の様な派手な真似はしないはずよ・・・」


 サヤナの目が少し心配そうに変わったのを麗美は感じた。


「・・・これは、必ず守って欲しいの。自分も他人も同じ大切な人間なの。自分を犠牲にしないこと。

 自分も含めて最善と思う方法を選択すること。最大公約数ってやつね。いい?」


 そう言うと、サヤナは麗美を抱きしめて来た。


 凄く暖かくて、そして、細身で華奢に見えるが筋肉質なのが分かる。

 だが、細身で筋肉質なのに、思った以上に柔らかい。


 あれっ?大っきい・・・。

 結構、巨乳であることが分って、ちょっと悔しい。

 麗美はこの体の何処にあんなパワーがあるのだろうと不思議に思ってしまう。

 

「は、はい」


 麗美が頷くと、サヤナは手を解き、麗美の両肩を強く掴み、


「いい、くれぐれも人通りの少ないところには行かないこと。それと、目立つ行動はとらないこと。あんたは正義感強すぎだから、気をつけるのよ」


 サヤナはそう言って麗美の前から去ろうとしたが、ニッコリ笑って振り返った。


「ああ、そうそう。それから、くれぐれもレイラちゃんには私のことはもう少し黙っていてよん。ヨロピクね!」


 そして、走って去って行く。


「は・・・い? あの~、今日は有り難うございました~!」


 麗美の声に、サヤナが振り向きウインクで応える。


 サヤナが去った後、最後の言葉が引っ掛る。


「レイラちゃん?

 もう少し黙って?

 ヨロピク?」


 一体レイラさんとどういう関係なんだろう?

 麗美にはやっぱり、掴めない人物であった。


◆ついていけません◆

 麗美が昨日のサヤナの言葉を思い出しながら大通を進んでいると、いつの間にか高田町商店街の直ぐ近くまで来てしまっていた。

 だからと言って、もちろん辺りの気配には最新の注意を怠っている訳ではない。


 本当に襲われたらどうしよう。


「危なくなったらこれを吹けか~、・・・ホントに来てくれるのかな」


 そう呟く麗美は、昨日サヤナから貰ったばかりの、首からぶら下がっている金色の笛のペンダントを手にしてみる。


「悪いと言われた運に掛けてみるしかないか・・・」


 そんな気持ちになれる自分に「やっぱりサヤナの影響だ」と微笑んでしまう。


 けれど、それには微笑むが、高田町商店街が近づくにつれて腹が立ってくることもある。

 それは、サヤナから言われた「小学生のもえちゃんに聞いてみて」と言われた“五次元”のことについてを思い出したからだ。


「なんでよ~。そりゃぁ、小学生にしては、もえちゃん、凄く賢い子だけど。私も小学生の時は神童って言われてたんだから、もう大学生だし・・・」


 その教えてもらえと言われた言葉には憤慨しながらも、練習から開放されたせいもあるのか、気分はちょっと良くなって来ている。それに、絶対に小学生のもえちゃんがそんな説明を出来るわけ無いことはも分っている。一体どんなことを言ってくるのかの興味もある。


 もっとも、練習に関しては自主的にやっていることであり、止めたところで誰から攻められるわけではないのだが、重要なことを完全に割り切って止める様な度胸のある麗美ではない。


 麗美は高田町商店街に到着すると直ぐに、家の陰に身を隠しもえちゃんを待つことにした。

 幾らそれなりの人通りがあるとは言え、人ゴミに身を隠すと言える程の人通りはではない。麗美は通りでジッとしているのは危険であると判断した。


 麗美は家の陰に隠れると、ふと気付いてしまった。もえちゃんに会いに来たはいいのだが、


「いきなりそんな非日常的なことを聞いたら、もえちゃんに、おかしくなったと思われるんじゃないかなぁ~。何て切り出そう・・・」


 そんなことで悩んでしまう。

 麗美は、未だにもえちゃんに対し、気軽に雑談を話しかけられないのだ。

 唯でさえそうなのに、いきなり“五次元”何て訳の分らない話をしても、もえちゃんには寝耳に水の話なのである。

 何だか、科学オタクの心に火が付いたことが恥ずかしくなってきてしまう。


 やっぱり聞くのは止そうかなぁ・・・。


 そんなことを考えていると、2月末にしては温かい陽気と、一向に上手く行かない練習からの開放。そして、日中ののどかな商店街の雰囲気から不覚にも少し眠気がさして来てしまった。


 そんな時である。

 前屈みになっている自分の背中を後ろから突く者がいるのだ。


 しまった、後ろを取られてしまった!


 麗美は不覚にも無防備な後ろを取られてしまった。

 幾ら眠気がさしたからと言っても、その辺の一般の危険人物に後ろを取られる麗美ではない。となると、自ずと絞られて来る範囲は物凄く狭くなる。


 瞬間、麗美の背筋に冷たいものが走り、ビクついた両肩が持ち上がるが、その後は恐怖で体が固まって全く動けない。


 だめだ、だめだ、殺されてしまう・・・。


 そう思う。


 でも、そう思う暇がある。


 さらに、後ろの人物は再度背中を突いて来た。


 つんつんと。


 んっ?


 少し冷静になった頭が、分析を始める。

 突かれた指先が小さければ、それに手は下から伸ばしている感じがする。


 あれ?


 すると、少し安心したところへ、五本指を立てて背中を掻きむしる様に上から下へと振り下ろされた。


 だめ~!


 心で叫び、膝が崩れそうになるが、半分大丈夫だろうと言う期待もある・・・。


 あれ?

 やっぱり痛くない。全然大丈夫だ!


 麗美は硬直していた筋肉が若干解れ、ゆっくりと後ろを振り向くと。


「何してんの?」

  

 大柄でいかつい女とは、全く正反対のランドセルを背負った女の子が不思議そうに立っていた。


 もえちゃんである。


「あ~あ、もえちゃんびっくりさせないでよ~、死ぬかと思ったー・・・」


 麗美の前身の力が一気に抜けた。


「大丈夫、そんなことしないから。もえは人畜無害なんだ」


 と無表情を装いながらも、麗美の驚いた表情を楽しむかの様に笑いを押し殺しているのが、麗美にもうかがえる。


「もえちゃん、ワザと驚かそうとしたでしょ、もう~・・・」


 本当にもえちゃん、人の気もしらないで・・・。

 と言い掛けたが、おかしいのだ。


 仮にもえちゃんが、麗美の姿に先に気付いて驚かそうとして後ろに回ったとしても、それに自分が気付かないはずがないのである。


 どうしてなんだろう?そう思っていると、


「もえに、何か用があるの?」


 それに、そんなことまで言って来たのだ。用があることまでバレている。


「何で分るの?」


 不思議だ?


「もえを待ってるって、感じだったよ」


 そんなことを簡単に言ってくる。


 そんな感情が体に出てしまう位に私ってバカ正直なのかしら?


 確かにそんな風に人から言われるけど・・・。


 麗美は全面的に否定したいのだが、完全に心の中がバレているのだ。

 そんな単純な自分にがっかりしてしまうが、ここは、


「ううん、そんな訳じゃないんだけどさ。でも、もえちゃんとか、真希未ちゃんとかさ、誰か通らないかなとは思ってたんだ」


 ちょっと、嘘をついてみた。


 この後、「何で隠れてたの?」なんて言われると、応えに詰まってしまうと心配していたのだが、意外にももえちゃんはそれには触れては来なかった。


「そうなんだ。麗美姉(れいみねぇ)は暇してたんだ。で、もえと何して遊びたいの?」


 暇と捉えたようであった。


「えっ?遊び・・・」


 かくれんぼでもしていると思ったのだろうか?

 もえちゃんもやっぱり子供なんだなぁと、麗美はちょっと安心するのだったが、麗美はこの時点ですっかり後ろを捕られたことを忘れてしまっている。

 すっかりもえちゃんのペースに乗せられて会話しているのだが、麗美は全く気付いていない。


「もえね、サイコロと折り紙持ってるよ」

「えっ、サイコロって何に使うの?」


 折り紙ならば、小学生だから持っていることもあるだろう思うのだが、サイコロが不思議である。


「チンチロリンに決まってんじゃん」

「チンチロリンって何?」


 麗美には聞いたことの無い変な単語だ。


「ギャンブルだよ。サイコロ3個をね、ドンブリの中に振るんだよ。麗美姉は知らないんだ」


「いっ、いぃぃ~・・・」


 子供だと思っていたら、ギャンブルの為のサイコロを持ち歩いているなんて言われて、麗美はちょっと焦ってしまい、


「そ、それよりさぁ、もえちゃん、5次元とか異世界の話って興味ないかなぁ~なんて・・・」


 と言ってしまう。言ってしまってから、


 あっ、いきなり聞いちゃった!変な人だと思われないかなぁ~。


 とドキドキしてしまう。


 もえちゃんのことは大好きなのだが、やっぱりもえちゃんに自分から話し掛けるのは、あがってしまっているのが手に取る様に分かる。


 本当は自然な流れで話を持って行きかたのに、会話の予習をする機会を失ってしまった麗美にはアドリブが効かない。


 なんで小学生と話すのに揚がってるんだろ~。


 麗美は余りの自分の会話力の無さに、情けないと思ってしまう。が、そこは汗をかきながらも極力平静を装う。


「異世界?」


 そんな麗美の様子も分かっているはずなのに、もえちゃんは無視して麗美の言葉に、そう呟いて空を見上げて考えている。


「はぁ~っ」


 やっぱり、いきなりでもえちゃん、戸惑っている・・・・。

 言い訳しないと・・・。


「そう、異世界ってさ、理解するのに5次元が必要とかね、5次元ってどうやって考えたら分り易いんだろうなぁ~、何て・・・・」


 そう言って、もえちゃんの顔色を窺ってみると、「何をいってるんだろう」と言う顔をしている様に麗美には見える。


「・・・・そうよね、いきなりそんなこと言われたって何のことか分らないわよね。へへへ、ごめ・・・」


 やっぱり、その話は止そう。違う話でお茶を濁そうとすると、それを遮る様に、


「うん、良くは分んないけどさ、もえはね、こう思うんだ」

「えっ?」


 以外にももえちゃんは真剣に話しを始めた。

 それも、ちょっとオタクっぽい顔に変わっている。その顔付きに、麗美は不覚にも大人気なくライバル心を持ってしまう。


「5次元って、進める方向が5種類あることだと思うんだよ。空間ってさぁ、縦と横と高さの三つの方向に進めるから、それで3次元だよね。それに、時間も進むからそれも合わせると4次元になるんだ・・・」


 うん、うん、やっぱり可愛いや、x軸、Y軸、Z軸でなくて縦、横、高さかぁ。

 やっぱり、小学生・・・。


 なんて麗美は微笑ましくなってしまう。

 だが、五次元を意識したことがあると言う事実には麗美は悔しく思う。多分、自分が小学6年生の時には考えもしなかったことなのだ。


「もえ達の世界には、この4次元と言う4つの方向があるって言うのは誰もが分っていることなんだけど、本当はさ、もっと違う方向があると思うんだよ。見たことがないから分からないだけでさ」


 もえちゃんは、次元を大きさの推移する方向と考えているのね・・・。

 でも、次元が4つじゃない何て、まさか最近の理論は知らないわよね・・・。


 麗美はそう思いながらも、黙って話を聞くことにした。


「だから、本当は10次元かもしれないんだ。

 仮に10次元だったとして、9次元までが全く等しければ、残りの1つの次元の位置を変えれば、同じ9次元空間が何個でも在出来るんだ。


 仮にこの変えた次元を5次元目と仮定すれば、5次元の位置の違いで、違う4次元世界が存在することになると、もえは思うんだ」


 うそ・・・何言ってるの、もえちゃん。

 いきなり予想外の回答に、油断して聞いていた麗美にはピンとこない。聞き直すのもプライドが許さないので、聞き方を変えてみることにした。


「そ、そっか、そうかもしれないね。で、もえちゃんは、五次元ってあると思うんだ?」


「全体にあるよ、じゃなきゃおかしいんだ」


 もえちゃんは思う。そうでなければ、2年前の夏にレイラと一緒に行った海(第17話)でのこと。

 そこで聞いた、レイラが生まれ育った世界が無いことになってしまう。


 もえちゃんは、レイラの生い立ちを聞いてから、色々なこと調べたり、自分なりに考えていたのである。

 レイラの世界のこと、それに、レイラの能力の未来や過去を見れることについてを。そして、辿りついたのが“5次元”であったのだ。


「じゃあさぁ、5次元って、”値”じゃなかった、さっき言った”位置”って言うのが違うと、何で違う世界が存在することになるのかなぁ?」


 “値”と言う言葉を、もえちゃん流の“位置”と言う言葉に合わせることで、麗美は”本当は知ってるけど、聞いているんだよ”と言う雰囲気を出して見た。


 麗美は、もう驚くような回答が出ないだろう。今度は一体どんな子供らしい回答が出て来るのかと、希望的な興味を抱いた、いや、願ったが・・・。


 もえちゃんは、背中のランドセルから数枚の折り紙と2個のサイコロを取り出した。


 へー、うそ、本当にサイコロ持ってるんだ・・・本当にギャンブルするのぉ~?

 麗美は、先制パンチを喰らってしまう。


 そして、そのサイコロの内1個を左手の掌に置き、麗美の前に差し出した。


「このさいころと同じ場所にさぁ、もう1個のサイコロを置くことは、麗美姉(れいみねえ)出来ないよね」


「ええ」


 それはそうだ、透け透け人間ではないのだから。


 一体何が始まるんだろう?

 麗美は、何かちょっとドキッとする。


 もえちゃんは、さらに右手に持っているもう1個のサイコロを左手に持ったサイコロの上に重ねる。そして、最初に左手の掌に有ったサイコロを取り除くと、その上に乗っていた後から出したサイコロが、最初のサイコロに替って同じ位置に落ちる。


「こうすれば、同じ位置に置けるんだよ。5次元って言う方向があれば、4次元空間が幾つか存在出来るのも、これと同じことなんだ」


「えっ」

 ええ~・・・。


 麗美にはさっぱり分らないが、取り敢えず驚きは飲み込んだ。

 分った振りをしようにも、今、もえちゃんが言ったことが間違っているかもしれないのだ。いや、その可能性が大きいと思う。であれば、分った振りして認めるのも、自分も解っていなかったことを後々気付かれてしまう。


 生真面目な麗美が何て言おうかと固まっていると、もえちゃんはそれを察してくれた。


「麗美姉ちょっと、待ってもう少し分り易く説明するから」


「ん、うん、ありがと・・・」


 一応お礼は言うものの、話を噛み砕かれることにショックを受けてしまう。見栄も張れない。


 もえちゃんは落ちていた木の切れ端を拾うと、地面に1本の線を引いた。そして、線上に1個のサイコロを置く。そして、もう1個を上に重ねて置いた。


「いい、サイコロを点と考えてね。今、この線上の同じ位置にサイコロを2個置けないよね。これが1次元なんだ。だけど・・・」


 もえちゃんは、今引いた線の中央でクロスする様に垂直な線を引いた。そして。上に重ねたサイコロを縦方向に置いてサイコロを並べる


「この線を”縦”、さっき引いた先を“横”と呼ぶとすると、縦に位置を変えると同じ”横”の位置にサイコロ置くことが出来るでしょ。これが2次元なんだ。横と言う1次元上では同じ位置に置けるんだ」


「ふむ、ふむ」

 はっきり言って分りやすい説明だと、麗美は頷く。


 そして、折り紙を2枚取り出してクロスさせた右上の欄に折り紙を1枚置く。


「この折り紙と同じ位置にもう1枚の折り紙を置くことはぶつかっちゃって出来ないよね。だけど・・・」


 もう1枚の折り紙をきれいに重ねて置き、先程引いたクロスさせた線の交点に、線を引く為に使っていた棒を立てる。


「この棒を高さ方向の線とすると、”高さ”違いで、”横”と”縦”が同じ位置に折り紙を置くことができるんだよ。これが3次元」


 麗美にも、もえちゃんの説明したいことが分って来た。

 既に、麗美は教わっている立場になっている。


 もえちゃんは、再びサイコロを2個取り出した。そして、1個を左手の掌に乗せ、もう1個は右手に握り締める。


「このサイコロを取って、違うサイコロを置けば・・・」

 サイコロを同じ位置に入れ替える。


「今同じ位置にサイコロを置けたのは、麗美姉、なんで?」


「うっ・・・」

 

 言葉に詰まってしまう。


 何で、今聞くのよ。3次元の時に聞いてよ・・・。と、思うがそんなことは口が裂けても言えない。

 何とか、正解を答えなければと思うと冷や汗が出てくる。


 しかし、それはけたからとしか答え様がない。だが、そんなこと答えたら笑われるのは目に見えている。


 考える・・・。


 麗美の掌は汗でベタベタだ。


<つづく>



 後書きに書くまでもありませんが、話中の理論は全く”でたらめ”です。

 話の中の世界での法則と思って下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ