第18話 五次元に並ぶ世界(特異能力)
麗美の能力の起源は異世界からの遺伝であった。
◆麗美の翌日(1)◆
「も〜う、本当にいるのかと思ったー~。嘘だなんて・・・」
翌日になった今でも、何かしっくりこない。
腹が立つって言う程ではないのだけど、ちょっとムカついてしまう。
麗美は本当に自分の放った力が、精霊に起こさせものだと信じて感激していたのである。
精霊が自分の願い通りに縦一列に並んでくれたのだと思ったのである。
しかし、それは麗美でも能力の使い方が理解出来るようにとの表現だと言うのだ。
「私ってそんなに子供っぽく見えるのかしら。最初っから論理的に話してくれてもちゃんと理解出来るのに。ホント、失礼しちゃうんだから」
つまらないことと言えば本当につまらない他愛も無いことなのだが、それが嘘だと知って、いや、自分用の表現方法だと知って、麗美は自分でも驚く位にがっかりしてしまっていた。
今日、麗美は早朝から助けてもらった女性に教わった”力の放ち方”を、昨夜と同じ河原の藪の中に潜んで練習をしているのだが、そのせいなのかどうも気が散って集中出来ないでいる。
「あれ、おかしいな~、昨日は上手くいったんだけど・・・」
昨日もそれ程上手くいった訳ではないのだが、それにすら到底及ばないでいる。何故か一向に上手くいかないのだ。
今日は昨日別れ際に説明された力を放つ論理意識して練習している。しかも、今日は初めてではない訳だから、絶対に昨日よりも上手く”力を放つ”ことが出来るはずである。麗美はそう思って張り切って来たのだった。だが、昨日どころか、川面に雨粒が落ちた程の変化が時々起こるのがやっとである。
そうなると、尚更昨日の精霊の件が頭の中をグルグルと蠢き出してくる。最初はちょっとしたムカつきであったのだが、次第にムカつきも大きくなってくる。
いつまでもムカついているものだから、いつもで立っても上手く放てる訳がない。そうなると、更に色んな事にムカついて来てしまう。
「それに、なんで科学お宅の私の解らないことが、小学生のもえちゃんに説明出来るって言うのよ!」
昨日、科学オタクのプライドに着けられた火が、上手くいかないと言うイライラを燃料にして燃え盛ってしまう。これが良く燃える。
すると、尚更集中が出来ないので、やっぱり上手くいかない。堂々巡りだ。
「だ~めだー、やっぱ才能ないのかなぁ~」
麗美は、練習をを止めてその場に大の字に寝転がった。
見上げると、堂々巡りを繰り返している内にいつの間にか太陽が真南から西へと移動している事に気付いた。
「いつの間に昼過ぎちゃったんだろう・・・」
麗美は溜息を一つ付くと、体を起こして大きな石の上に腰を掛けた。そして、少し冷静になって考えてみると、何故そんなことの方ばかりに気が行ってしまうのか、麗美自身に取っても不思議であった。
そうなのだ、昨日、力の放ち方を教えてくれた女性はそれよりも、もっと重要な話をしているのである。だから、今、一生懸命?に力を放つ練習をしているのである。
その女性は、昨日襲って来た背の高い厳つい女に、もしかしたらではあるが、自分が狙われるかもしれないと言ったのである。麗美には全く歯が立たないあの女にである。
ただ、それなのにどうしてしまったのだろう、麗美はそれに対してそれ程不安を感じないのである。もちろん全く恐さを感じない訳ではない。もしかすると自分が殺されてしまうのかもしれないのだから。
理屈では理解している。
それでも、それよりも彼女が話していたこの力の放ち方や、もえちゃんに説明してもらうと解り易いと言っていた”五次元”や”異世界”等の信じられない事柄が”科学お宅”の脳をくすぐってしまう。
そのことに気が取られてしまい、自分の身に迫るかもいれない出来事に対して、あまり恐怖を感じられないのでいる。
「私って、少しかわっているのかな~。あの女性も変わっていたけど・・・」
また、あの女性のことを考えてしまう。妙に魅力を感じる女性であった。
昨日助けてくれて、力の放ち方を教えてくれたあの女性が、言っていたことが常に頭から離れない。
彼女は、何であんな話を自分にしたのだろうか?
どして私を気に掛けてくれるのだろうか?
一体何者なのだろうか?
「確か、名前を平城サヤナと言っていたけど」
麗美は昨夜サヤナが話してくれたことを、また振り返ってみるのだった・・・。
◆運の良し悪しは気の持ちよう◆
「うん~やっぱり麗美ちゃん、あんたは、てんさ~い・・・」
まだ、たった3回だけ小石を投げた程の水音が耳に届いただけであった。
それでも、目の前の女性は麗美の事を天才とはやし立ててくれている。まだ、目の前の女性の力から比べれば足元にも遠く及ばない力なのにである。
それでも、今日初めて試したことなのだ。もしかしたら、本当に目の前の女性の様な力が放てる様になるのかもしれない。今日、新宿で健太くんが襲われた様な出来事がもし起こった時に、対抗出来る様な力を持てるようになるのかもしれない。
麗美はそう思って内心浮かれそうになったのだった。だが、
「でも・・・余計な才能を背負っちゃったわね」
女性はそれを余計だと言って来たのだ。
「えっ?余計って、この力のことがですか?」
自分に妙な力の放ち方を教えて喜んでいたくせに、いざ麗美がその気に成り出すとそんなことを言って来る。全く言ってる意味が理解出来ない。
それに、麗美には今まで余計だなんて感じたことが無かった。むしろ、麗美はこの能力がなければきっと、他の人よりも心も体力も劣っていると考えている。それだけに、能力を持って生まれたことによって、多少なりとも人を助けようとする意思が湧いてくるのだと有難く思っている。
だから、確かに自分しか持っていない特殊なことだけれど、力があることに感謝こそすれ、余計何て事を考えたこと等無かったのだ。けれど、
「そう、余計な・・・もの受け継いじゃったわね」
聞き返してみても、目の前の女性は目尻を下げて悲しそうに繰り返して来た。
陽気で強気なお姐口調しか聞いたことの無い女性から届いてくる言葉が、不相応にしみじみとした口調なのである。
そして、その表情からもまじめに言っているのが明らかである。さらに、
「そして、運も悪過ぎ・・・」
そこまで言われてしまった。
麗美は天才と持ち上げられた後だけに、ガクッと力が抜けてしまう。 脚の力が抜けて、ちょっと目眩がしそうである。
「わ、私の運って、そんなに悪いですか?」
「最悪ね」
真剣な顔を少し崩して、少し笑いながら言う。
(何かちょっと、バカにされてるみたいな・・・)
麗美は今まで全く意識したことが無い事を初めて指摘されてしまって。それも、笑いながら”最悪”とまで言われて、何とか否定しようと、20年間の人生を足早に振り返って見る。
確かに、実家に居た時は運が悪かったし、力がなかった方が幸せだったかもしれない気もする。だが、今は結構運が良くなったと気がする。”そんなことはないと思います”そう言おう。と思ったのだが、女性は麗美より先に、
「そう、こんな力を引き継いでしまったばっかりに色んな事に自分から首を突っ込んじゃって、悩んじゃうの。そして、こんな危険な目にまで遭って・・・」
今度は、笑った顔を戻して親身にそうに言ってくる。
さっぱり、真意が解らない。
確かに危険な目には何度も遭ったり、悩みもしたが、その特異な力で凌いで来ている。それに、何よりレイラ達と知り合うことが出来たのもその能力のお陰である。結構、今の生活に満足しているのだ。
そう思うと、真面目に心配されているのか、おちょくられているのか分らなかったが、ちょっと反論したくなってきた。
「そんなこと絶対無いです。お蔭で、レイラさんとか、もえちゃん達それに、和美さんに帯人さんや、庄蔵さんや諸湖羅さんと同じ大学に通えて、あの力のお陰で一杯いいことだってありました。きっとこれからだって、私次第で一杯楽しいことがあるはずです!
それに、今だって・・・今だって、お名前、まだ聞いて無かったです・・・。」
麗美は、今、目の前の女性から受けている気持ちだって嬉しくて幸せだと思っている。最初はどんな人か解らなくて警戒もしたし、今はちょっとムカついてもいるが、自分を助けてくれて、今も恐らく半分は本当に心配してくれている。と思う。思いたい。
ちょっと変わった人だけど・・・。これも自分が力を持っているお陰なのである。
だが、それを伝えようと思ったのだが、話の途中でまだ女性の名前を知らないことに気付いてしまい、話を止めてしまったのだった。
「ハハハ、遅れました。私の名は”サヤナ”。平城サヤナよ。よろしくね、麗美ちゃん」
サヤナは、いきなり話の途中で名前を聞いてきた麗美に大笑いしているが。嬉しそうな顔で続けた。
「そうよね、確かにあんたの言う通りかもしれないわね。自分次第よね。だったら、危険は回避して、一杯楽しまないとね」
「えっ、き・け・ん”を回避って”・・・」
危険って何だろう、自分に何があると言うのだろうか。サヤナと言う女性、自分以上の不思議な力を持っているだけに思いっきり信じてしまう。
「麗美ちゃん、あんたは、今日襲われた背の高い厳つい女やその仲間達に狙われるかもしれないの」
「え~っ?!」
目が飛び出る位に見開いて、ヨダレを垂らいそうな位大きな口を開けてしまう。
足が竦んでしまい。恐怖で血の気が引きそうになってしまう。
どうしよう、どうしよう・・・。
脚がガクガクと震えてくる。が、驚いてばかりもいらない。麗美は気丈さを少し取り戻し、その訳を聞かなければ解決策も考えられないと思い直す。それに何より、もう一つ聞きたい・・・。
「ど、どうしてですか」
「あんたに、その特殊能力があるからよ」
「じゃあ、健太くんは大丈夫何ですか?」
「あん?また自分のことよりも他人のこと?・・・クッ、らしいわね」
サヤナは余りの人の良さに可笑しくなって鼻で笑ってしまった。
「可笑しくなんか、全然ありません」
麗美にとっては当然のことなのに、何故か笑われてしまい腑に落ちない。
「その意気なら大丈夫か・・・ナ、フフフ。そう、あの男の子なら能力がないから大丈夫よ。またあんな無茶をしなきゃね。それよりも、自分のことを心配しないとだ~めよ~ん」
麗美は健太くんが大丈夫と聞き一安心したのだが、自分があの女に襲われてどうにかなる訳がない。きっと、あの女の仲間達であれば、きっと一緒だろう。
(どうしよう・・)
それに、どうして一方的にやられていた自分を襲う必要があるのか全く分からない。
サヤナに仕返しをするのなら麗美にも話は理解が出来るのだが、何で自分なのか?
(サヤナさんじゃ負けてしまうから、代わりに私を?
だったら、どうしよう。とことんやられてしまう・・・。)
あんな人に襲われたら今度はどうなるか分かったもんじゃない。そう思うと、一度治まった足の震えがまた始まってくる。
「な、なんで私なんですか?」
「それはね、麗美ちゃんの運が悪い・・・ああん、麗美ちゃんに能力があるからなのよん。この私同様に麗美ちゃんが自分の敵になる人かと思ったかもしれないのよね~、困ったことに」
”同様に力がある”?
”敵になる人”?
サヤナさんは、あの女を前から知っているということ?
意味が良く解らないが、それよりも、一体自分の心配なんてどうしたらいいのだろう?
「あの~、私、どうしたらいいんですか?」
「ほ~ら、だからさっき練習したでしょ~。もっと練習しておくのよ。麗美ちゃんだったら、、直ぐに凄んご~いの撃てる様になるんだから。
それでも、あいつらも普通じゃないから、麗美ちゃんじゃ当分の間は普通に打っても駄目よ~ん。防がれちゃうからね~」
気が付くと、またお姉口調に戻っている。
「あいつらは、麗美ちゃんが撃てることを知らない。だからもし、何かあったら油断した隙に一発だけ一番痛そうな処に当てて、えっさ、ほいさ~で全力で逃げるのよ。
足は速いんだから。麗美ちゃんだったら、一発当てときゃ追いつかれはしないわね。
まあ、最後っ屁って言うやつね。くっさ~い一発が打てる様に練習してね。
あっそうそう、危険だから幾ら悪い奴でも一般人に向けて撃っちゃだめよ。加減の仕方が分らないでしょ。あいつらの場合は、麗美ちゃんが全力で撃っても、まあ、大丈夫だから安心して撃っていいわよ」
何だか良く解らないけど、練習しなければ不味い。そんな気持ちでそわそわしてくる。
ただ、あれ?大丈夫なんだろうか?麗美は力を放つにあたって不安が生じてきた。
「はい・・・。でも。あの~精霊さんはいつも現れてくれるんでしょうか?」
「はっ?」
「だから、私がお願いした時にいつも来てくれるんでしょうか」
「ハハハハハハハ・・・」
サヤナは腹を抱えて大爆笑をした。
麗美は爆笑して止まないサヤナをポカ~ンと口を開けたまま、暫くの間眺めているのだった。
◆特異能力◆
麗美がいくら話し掛けても、サヤナは笑いっ放しで上手く言葉にならない。
「そんなに笑わなくたって・・・。サヤナさんがそう言ったくせに・・・」
自分の命が掛かった質問にいつまでも爆笑されたままで、麗美は次第にムカついて来た。
「ごめん、ごめん、ハハハ」
「もう、笑わないで説明して下さい!」
サヤナは麗美が感覚的に力の使い方を捕らえやすい様にと、精霊と言う架空の存在に例えたのであったが、生真面目な麗美は本当に力が放てるものだから、すっかりそれを信じてしまっていたのである。
「この力はね、次元を超えた空間に存在する極微細物質を集める事によって生じるものなの。ハハハ、
と言っても、何でもかんでも集めれば良いと言う訳では無くて、有用な同じ種類のものを集めないとならないのよ。フフフははは。
その集められるエネルギー体の種類が、私と麗美ちゃんではほぼ同じ物なのよ」
「はぁぁぁぁ・・・?もう一度お願いします。あの~笑わないでお願いします」
麗美の怒っていた顔が呆けてしまう。
いきなり、笑いながら説明されるものだから、つい油断して聞いてしまって、内容について行けなかった。いや、正直”何言ってるの”って感じだ。面喰ってしまう。
「ふふ~ん何言ってるのって感じね。じゃあ、もう少し具体的に言うとね。本来真空と言う空間は存在しないものなの。そこには必ず埋め尽くしている物質が存在するのよ。もちろん宇宙空間にもね」
(確かに光、X線、マイクロ波まで考えると、無の空間は無いけど・・・。でも、原子間には隙間があって、特に気体はその距離が大きいから、真空と言っても、それは素粒子間であっても・・・)
麗美の科学オタク心に灯火がともる。
「はは~ん、多分今、原子間や分子間には隙間があると思ったでしょ。
確かに、原子間や分子間には隙間があるわよね。個体や液体であれば、電子雲で埋め尽くされているとも考えられるけど。
気体何んて分子間が広くて電子雲で埋め尽くすこと何て出来ないから、やっぱり真空は存在すると考えるべきと思うわよね。
それは、現在解っている範囲の科学であってね、そこには元素の種類以上の原子核や電子よりも微細な物質が存在しているのよ。
それは原子核や電子よりも、もっと小さな現在素粒子と言っている物質間でも同じことなのよ。素粒子間にも量子力学とは別の法則で存在している物質があるのよ。
その物質、そうね~”エネルギー体”と言っても言いわね。それを私たちは”アンストリング体”と呼んでいるのよん」
「ドライアイスを入れたしぼんで密閉された袋が、ドライアイスが気体になると袋は膨らみますけど、それは、気体分子間の隙間が広くなって膨らんだのではなくて、袋を通してその隙間にエネルギー体が入ったということなのですか」
「そう、流石麗美ちゃんその通りよん。ほら中が膨らんだ分は、外がその分狭くなるでしょ。中に入れなきゃ窮屈になるでしょ。ね」
と言いながらサヤナは自分のお腹を凹ませて見せるが、科学オタクの麗美はそれを無視して、のめり込む。
「微細だから袋自体も通してしまう?」
「そうよ。その場合は、”エネルギー体”だけではなくて、素粒子も通してしまうけどね。
この”アンストリング体”と言うエネルギー体は原子や分子、更に素粒子の隙間を埋めるものだから、障壁等存在しないのよ。更に次元を超えて存在する物すらもあるの。それを利用すると、違う空間との行き来が可能なのよ。自由にとまではいかないけどね。
まあ、それは置いといて、この物質の内、特定な物を選び出し個々人の能力で有用な大きさに結合させる。そして、それを能力を使って利用することにより、私たちは色々な現象を引き起こすことが出来るのよ」
何となく理解が出来た気がする。本当にその物質があればなのだが、あると考えた方が色々なことの説明が簡単なことも事実である。
「つまり、私はその物質を利用する能力のDNAを引き継いでいるということですか」
「ご名答!!私達の世界、異世界のDNAをね」
サヤナ拍手しそうな勢いで大きな口を開いた。しかし、麗美はそのサヤナの仕草を真剣な目付きで無視をする。
「異世界?」
(えっ、さっき言ってた”異世界”って、真面目に言ってたのだろうか?)
力の放ち方を教わる前にも確かそんな様なことを言っていた。しかし、その時は言っている意味が解らないは、突っ込む余裕も無いはで流してしまっていた。
だが、今度はちゃんと聞いてみなければならない。
「私には、その異世界人の血が流れているってこと何ですか?
その異世界って、どう言う世界の事なんですか?」
「まあ、驚くことではないのね。元々、この世界には麗美ちゃんみたいに異世界の血を引いた人が沢山いるわけよ。ただ、能力を使える程のDNAを引き継いだ人が、もうそんなにはいないっていうだけなのよん」
「た・く・さ・ん・・・!
私の他にも沢山いるって言うこと何んですか・・・」
「うん、もちろん。勘のいい人っているでしょ。
その勘のいい人の遠い昔の故郷が、さっき言った麗美ちゃんの先祖と、私の先祖とが繋がっているかもしれないと言った世界と同じって世界だって言う可能性は大なのよん。
それに、 ほら、世界には不思議な力を使うと言われる人がいるでしょ。触れただけで病気をなおしたり、予言をしたり、スプーンを曲げる超能力者とか、例えばシルクハットを被った種が分らないマジシャンとかいるでしょ。まあ、偽物能力者が殆どだけどね。中には本物の能力者もいるわよ。ああ、マジシャンの場合は、能力を使う方が”種”がないから偽物よね、ハハハ」
確かに、この世の中には不思議な能力を持っている人がいる。その人たちが能力を持っているから出来ると言えるのならば、その方が説明がし易いと麗美は思う。
そう思うと、麗美は興味が惹かれていき、目が輝き、興奮していくのである。
そんな麗美を感じ、サヤナは、
(この子、自分が異世界人の血をひいていることに対してはショックが無いようね。よし、もうチョイ話してしまうか~)
麗美が真実を話すに値する子だと判断する。
「で、私の場合は麗美ちゃんとはちょっと違っていて、祖先ではなくて、じゃぁ~ん! 実は私自身がその世界、”異世界”から来てるので~す。
そんでもって、ついでに、あの襲ってきた女もね。驚いた?」
「うそ?」
とは言葉の流れ上言ってみたが、話の流れ上はそんなことになるだろうと言う気はしていた。
だが、簡単にそんなことは信じ難い。
異世界なんて、アニメや小説に出て来る世界としか思っていなかったのだから
本当に異世界だなんて、そんな世界が何処に存在するんだろう。本当に存在するのだろうか。
確かに目の前のサヤナが自分に嘘をつく必要など全くない。だが、幾ら興奮しているからと言っても、そんな簡単には信じるとは言えない。例え、完全にそんな世界があるなんて凄~いと、心で肯定したいと思っていても。
「あら~半信半疑なのかしらン」
サヤナは首を傾げてみる
「だって、そんな世界があるなんて、簡単に信じることは・・・」
とは言っているが、サヤナには麗美の心がダンスしているのが良く分る。そこで、さらに盛り上げたくなってしまう。
「本当なのよ~、五次元軸を超えて来たんだから。えっさほいさってね」
籠を担いで走る真似をして見せるが、生真面目な麗美の思考の範囲には入らない様で、
「五次元!」
要点のみの質問をするのみで突っ込んでくれないことに、サヤナはがっかりして直ぐに姿勢を正すが、内心よでは、よくぞ喰い付いてくれたとガッツポーズを取る。
「五次元って何んですか?」
”五次元”と言う言葉。
新たな展開に麗美は興味を惹かれるが、例え実際に五次元と言う存在があったとして、それがどう異世界と結びつくのかさっぱり解らない。同時に、頭の上に大きな”?”も踊ってる。
「そうよね~、いきなり言われたって信じれないわよね~。
ん~、3次元は解るわよね。立体を考えれば良い訳だから。それに時間経過を入れると四次元よね」
麗美は真剣な目で喰らいついた。その次を待っていますと言う顔つきで。しかし。サヤナの説明は、
「それにもう一本あると思えばいいのよ」
誰でも出来る当たり前の説明であった。
「はっ?」
聞き直すがそれだけであった。
しょうがなく、麗美は自力で五次元を頭の中でイメージするが、
「あの、5本目の軸が引けないんですけど・・・」
それを聞いて、サヤナは空に指で線を引き始めながら首を傾げる。
「ああ~ん。そうよね~ん、私達は子供の頃から聞かされているから感覚で捕らえることが出来るけど、麗美ちゃんには難しいわよね~」
麗美はサヤナには説明が無理と思い、話を変えてみる。
「何ですか?その五次元を超えた異世界って地球ではないんですか?」
サヤナは、質問が自分のテリトリー内であることにホッとして、
「もちろん、私たちは自分たちの住んでいる空間を”アルツァ”と呼び、この麗美ちゃんに居る宇宙空間を”スペーズ”と呼んでいるのよ。つまり空間自体が全く別なのよ」
「”アルツァ”・・・。本当に別の空間が本当にあるだなんて・・・」
驚きで、ドキドキが止まらない。
「これは正真正銘本当の話。信じるか信じないかは麗美ちゃんの自由。麗美ちゃんなら知ってるでしょ。”ちょ~ひも理論”とか”エム理論”とか数学上の10次元、11次元理論のこと」
「はい、まあ大まかには」
と言いながらも、そう言った類の書物の概要を読んだに過ぎない。こんな時でも知らないと言うのは、悔しくて言えない。
「私達の世界では物理学上、と言うよりは経験値で5次元を認識しているのよ。論理ではこっちの世界の方が数段上なのだけど~、あれは私たちの経験とはちょっと異なってま~す。
なので、別と考えてくりゃしゃんせ。あの次元とは別のもう一つの次元があると思ってもらってもいいわよん」
「それが五次元なんですか?一体どうやって移動してくるんですか?」
「”五次元ポケット~”から入っちゃえば、ほらね!なんて、簡単なわけには行かなくて、これもさっき言った、”アンストリング体”と言う素粒子の隙間に埋め尽くす”エネルギー体”の内、五次元を超えて存在するものを集める事で可能になるのよ。五次元軸を超えて存在する”エネルギー体”を集めて扉を開くって言う表現が的確かもしれないわね」
「そんな事が出来るなんて・・・」
麗美は興奮を超え、驚きで固まってしまう。サヤナはその様子を見ながら少し和らげようと、
「だいたいこの世界の遺伝子だとしたら、私や、あんたの力もおかしければ、あんたの良くしっているレイラさんの力もおかしいでしょう」
「どうして、レイラさんを知ってるんですか?って、もしかしてレイラさんも」
麗美はあの厳ついオンナに襲われた後で、レイラには自分の存在を内緒だと言われていたのを思い出す。
「そう、私と同じ世界から来たからね」
「ええ~っ?まさか・・・」
「五次元軸の壁を超えてやって来たのよ」
麗美は驚くことばかりで、すっかり自分が狙われるかもしれないこと恐怖が薄らいでいた。
何か、自分も凄い世界の一員になってしまった気持ちになっていた。
そんな大きくなり過ぎた気持ちに、サヤナが言った。
「そうそう、五次元の説明の事なんだけどレイラのところに居る小さな女の子に聞いてみてよ。きっと、あの子なら同じこの世界の感覚で応えてくれるわ。麗美ちゃんにも分かるように噛み砕いて・・うん、そうそう」
「あの~、レイラさんの小さな女の子って、もしかして、もえちゃんのことですか?」
「そう、そう、そのもえちゃん、もえちゃん」
もえちゃんは、確かに小学生としては賢いが自分が分からない理論が分かるとはとっても思えない。
何で、もえちゃんの名前が出てくるのか疑問なのだが、取り敢えず、
「まさか・・・、それは無理かと思いますけど・・・」
確認した訳ではないので控えめに言ってみる。しかし、
「まあ、試しに聞いてみそ。」
サヤナは自信満々に応えてくる。
何で、もえちゃんが応えられるって解るのだろうか?
名前すらもちゃんと覚えていないのに。と言うより、会って話したことがあるとは思えないのだ。
しかし、それも彼女の能力で、解るのだろうか?
麗美には、全くその根拠が理解出来ないのだが、小学生に教わってくれと言われたことに理不尽さを感じ、”科学オタク”のプライドにちょっと火が点いてしまうのだった。
「まさか・・・」
<つづく>
文中の法則の類は作りものですので軽く流して下さる様お願い致します。