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第18話 五次元に並ぶ世界(スーパーウーマン)

14話(マジックと予報)依頼の平城サヤナと、16話の御手洗和美が登場。

平城ひらきサヤナ◆

 空間を一様に埋めた大気が、ランダムに運動をする。今、その大気中をつんざく耳障りな騒音が突発的に発生した。

 人的行為により発生した気体の分子の玉突き運動が、規則正しく一直線上を高速に押し進んだのだ。

 そして、それに遅れて砂埃が舞い上がる。


 通常の人には見えないその衝撃波も、その放つ騒音の異常さから誰もが口を閉ざして立ち止まる。


 進む先は、なすすべも無く跪いたままの女性。華奢な体、それに、まだ顔には若干の幼さが残っている。

 

 今、彼女に向うその威力は、彼女に終止符を与えるには充分な能力ちからであった。


 だが・・・。


「ズドーン」と言う物凄い衝撃音が華奢な女性を外れ、少し先のアスファルトを捲り上げた。


 突然と現れた薄紫色の影が、その騒音の行く手を妨げ、弾き飛ばしたのだ。

 瞬きの間に現れたのでは? そうとしか思えないその影は、左手一本で埃を払かの動作を見せただけであった。


 そして、

 

「・・・ホンと、無粋だわね~」

 

 一瞬、静まりかえった繁華街に呆れながら吐き捨てる言葉は、バリバリなお姉口調である。


 麗美の目の前に現れたのは、茶髪で肩より少し長い”ほつれカール”を振りみだした薄紫色の鳶職姿の女性?(恐らくは)が仁王立ちしている。


 彼女は左手を燃える様な緑色に輝かせ、余裕の笑みを浮かべている。

 ただ、今この輝きが見えているのは、この当事者の3人だけである。

 

(良かったぁ、間に合ったわ。ホント無茶するんだから、可愛いわね・・・この子)

 彼女はその表情とは裏腹に、心の中では胸を撫で下ろす。


 彼女のこの世界の名は”平木サヤナ”。

 自世界である”異世界フェアル”から、遠い祖先の残した負の遺産の後始末と、新たな不法移動者の監視に派遣された”フィンラウンダー”と言う組織の一人である。


 サヤナの意志は決まっている。”ここで大きな騒ぎは起こせない”である。


 あの女とここで本気でやり合ってしまえば、周りに被害が出るだけでは済まない。

 世界中に広がる大きな騒ぎとなってしまう。


 それを起こさないのが彼女の任務である。

 その為に敢えて、女の放った攻撃をいとも簡単に振り払った様に見せたのだから。


 案の定、女の表情は驚いた形で固まっている。

 

「さ~て、私が相手だけど、ど・う・す・る(はーと)?」

 サヤナはラブコールで女を挑発する。


 サヤナは手櫛で髪を整えると、肩に掛けた白い文字入りの粗品のタオルを額に巻く。タオルには”直志商店”と書かれている。


 そして、

「いくわよ~ん」


 見物人達に色気を振りまきながら、彼女は左手を空を鷲掴みにするように掌を広げる。

 先ほどまでのニコヤカな顔付が、女に視線を合わせた瞬間から鋭い怒りに満ちた顔に移っていく。

 

 茶髪のほつれカールの髪の毛が、強風で巻き上がった様に大気の中を踊りだす。

 全く自然の法則を無視している・・・。


 野獣のような唸り声と共に、彼女の左手には緑色の光が眩く大きくなっていく。


 衝撃波を麗美に放った女は、最初サヤナの挑発に苛立ちを見せていたのだが、その光を前に一歩後退する。

 サヤナの威嚇に、彼女の力の大きさを認識したのだ。


 光が強くなるにつれ、一歩、更に一歩と下がって行く。


 そして、


「ずっ、ど~ん!」

 と大声がビルに反響する。

 見物人達も、身を屈めて目を伏せる。


 サヤナが空に向け上げていた左手をピストルの形に変え、女の方に向けて、そう”口”で言った時には、女はその場から消えるように去っていた。


「私の口鉄砲も、結構な威力なのよねん~」

 いつの間にか、茶目っけたっぷりの顔つきに変わっている。


 距離を取って心配そうに見ていた見物人達には、威圧して追い払った様にしか移っていない。

 実際、本当に威圧して追い払ったのである。だが、麗美にだけはそうは映っていない。


 麗美にだけは、目の前の彼女の能力が見えている。

 自分を遥かに超える力を持った”あの女”を更に凌ぐ力を直ぐ目の前で見てしまった。

 麗美は驚きのあまり、口を開けたまま茫然とする。

 

「あ~ら、これからなのに行っちゃったわね~。ざ~んねん!」

 

 サヤナは女が去って行ったのを確認すると、驚きの表情で固まったままの麗美を振り返る。そして、笑って見せる。


 それに、麗美は戸惑ってしまう。

 余りに凄過ぎる能力だけではない。その余裕の凄さに魅せられてしまい声にならない。


 周りからは、何処からともなく拍手が舞い上がる。

 それに、サヤナは頭上で両手を組んで応えている。


 恐怖と驚き、それに安ど感が目まぐるしくやって来て、何が何だか自分でも整理がつかない。

 だけど、良く分からないが、興奮しているのは確かである。


 やっと、辛うじて開きっ放しの口は閉じることは出来たが、未だ表情は強張ったままである。


「あ~ら、そんな怖がらないでよ~。私もか弱~い女性なんだからん(はーと)」

 そう、目尻に小皺を寄せて麗美に笑い掛けてくる。


「あ、あ、あ、はい」

 麗美はお礼の言葉も忘れて、地面に座ったまま姿勢を正す。


「良かった、大丈夫そうね」


 サヤナが一歩前に出て手を差し伸べる。それに、恐る恐るその手を掴む。

 その手が思ったより柔らかい。それに、


 それに、指先が赤く腫れているのに気づく。


(きっと、さっき守ってくれた時なんだ)

 そう思った。


 決して余裕でそこに立っていた訳ではなくて、きっと無理をしていたんだ。

 何でもない振りをしていたんだ。


 そう思うと、いつまでもオドオドして何かいられない。そんなことは自分の正義感が許さない。


 麗美に、いつもの自分が戻って来る。


「あ、有り難うございました」

 麗美は、きっちりとお礼の言葉を口に出した。


「もう、無茶し過ぎよ。フフフ。

 と言ってもまさかあんなのが居るとは思わないからしょうがないかぁ。ね。

 もう~、危なくレイラに怒られるところだったわよ」 

 

 サヤナは、そう口にした後に「うっかり言っちゃった」と言う顔をして舌を出す。


「えっ、レ、レイラさんをご存知なんですか?」

 確かにこんな凄い人なんだから、レイラの知り合いであっても何の不思議もないかもしれない。

 しかし、麗美はそんな話をレイラから何も聞いたことはない。


「あっ、ああ、まあーね。でも私のことはさぁ、内緒にしといてよね」

 そう言って、両手を拝むように合わせる。


「な、何でですか?」

 麗美にはその意味が分らない。


「私にも分かんないんだけどさ、何かそう言うおっさんがいて・・・」

 と、言い掛けたところで、


「・・・あっ、警察だ。面倒だから逃げるわね。後でまた合いましょうね。約束よ(はーと)」


「は、はい・・・」

 麗美の返事に振り向きながら手を振って、猛ダッシュで行ってしまった。

 

(誰なんだろう? レイラさんの知り合い?)


 麗美は風の様に去っていく後ろ姿に見とれていたが、ハッと、そんな場合ではなかったことに気付いた。


「あっ、健太くん!」


(ばか、ばかなんだから、全く・・・)

 自分に襲い掛かった恐怖と、それから解放された安堵感で、元々の自分の目的をすっかり忘れてしまっていた。

 麗美は自分で自分に腹が立つ。


 誰かが読んだのか救急車の音が聞こえて来る。


 人だかりは次第に去っていき、移動するスペースが充分に出来ている。

 そのスペースから、今更ながら警察が麗美に近づいて来るが、カマって等はいられない。


 見ると、健太くんは体をくの字に折り曲げて、左腕を自分のお腹で支えている。

 右手には三つのバッグを持ち、身体を曲げたまま奈々枝の側に近づいて行く。


「バッグどれですか?」

 痛そうに顔をしかめながらも、奈々枝に向かって一生懸命に笑顔を浮かべている。


「・・・大丈夫」

 麗美は傍まで近づいたところで、言いかけた言葉を止める。

 そこから先へは近づくことが出来なかった。


(健太くん・・・)

 彼が頑張った証しが、まだ終わっていないからだ。


「あ、ありがとう」

 奈々枝は、そこまで頑張る健太くんの姿に怯えた目付をしながらも、お礼を言って受け取った。


 それに麗美は喜びを感じた。


◆ぼやき◆

「もう、ホンと警察って中途半端な時にくるのよね~。もっと早く来るか、遅く来るかどっちかにしなさいって言うのよ」

 サヤナは、もう少し麗美と話がしたかったのだ。

 でも、いい。後でまた会えばいいと思い直す。


 それにしても、

「あ~痛い。もう、女の子相手にあんなに力入れて撃たなくてもいいじゃない」

 サヤナにとって、実戦らしきものはこちらの世界に来て初めてであった。


 自分の予想よりも強く撃たれたのを、力を使って弾き飛ばしたとは言え、十分な時間がないまま見栄を張って手の甲で払いのけたのだ。

 サヤナの指先は結構腫れている。  

 

「ちょっと勘が鈍ってたわね。まあ、でも彼女が無茶してこなくて良かったわ」  

 そう言って、改めてホッとする。

 

◆親代わり◆

「では、ご苦労様でした」

「はい、ご苦労様~」

 頭を下げる若い警官に上から目線で応えるのは、健太くんの同級生である陽太君の母親の御手洗和美みたらいかずみである。

 

「ほら、そんなに怒らないで。無事済んだんだからさ」

「でも、喧嘩なんて酷い!喧嘩なんかじゃないのに」

 和美が宥めるも、麗美の怒りは納まらない。


「そんなもんよ、人間の半分はね」

「悪いと思ってるのよ、今送ってくれた若い警官の方はね」


「そうですか」

 麗美は、怒りで全く周りが見えていない。


「そう」

 和美は、麗美の真っ直ぐな所が自分の昔の姿に似ていて大好きだ。


「それよりも、ありがとね。健太くんを助けてくれて。健太くんのお母さんの代わりにお礼を言わせて」


「私は何も・・・。私も助けてもらったんだし・・・あっ!」

 そう言ってから内緒であることを思い出した。


 助けてくれて工事現場から来た様な女性は、”レイラに対して内緒”だと言っただけではあったのだが、何処からレイラに伝わるか分らないと、生真面目な麗美は警察の取調べに対しても、その女性のことは黙っていたのであった。


 そして、もちろん自分の(保護者)代わりに来てくれた和美に対しても黙っているつもりであった。


「あら、麗美さんを助けてくれた人がいたの?」


「ん・・・えぇ、まあ・・・」

 歯切れが悪い。


 麗美の力が、普通の人では絶対に適わないことは和美も気付いている。

 何せ2年前のあの”思い沢高原での事件”に、和美も最前線で関わったのである(第16話)。

 と、言うことは和美にも、その助けた人と言うのが何となく、どんな人物か想像がつく。


「世の中って不思議な人が居るのよねぇ~、まあ、麗美さんもその内の一人だし、レイラさんは別格に不思議な人だけどね」


「はっ」

 和美のかけたカマに見事に引っ掛り、レイラの名前が出たことで麗美は背筋を伸ばして驚く。わかり易い。

「フフフフ」

 それに抑えきれなくなって、小さな笑い声が漏れる。


(やっぱり、レイラさんと関係のある人なのね・・・)

 だが、それについて聞き出そうとはしない。和美も似たような経験が過去にあるからだ(第16話へろへろ女17)。

 その時に、自分も軽々しく他人に話してはいけないと感じたからだ。


「良かったは、麗美さんも無事で・・・」

 麗美は自分が助けたと思われていたことに恥ずかしくなり、顔が赤くなる。


 それでも、和美は

「麗美さんも、ありがと。今度は私から」


「えっ?」

 自分が助けたのではないとバレたのに、お礼を言われて驚いていしまう。


 しかし、若い頃に相当やんちゃだった和美には麗美に出来たすり傷や、服の乱れで分ってしまう。

 麗美も相当、身の危険を感じながら頑張ったことを。だが、


「私も健太くんを助けてもらって嬉しいのよ。わたしだけじゃなく、七面鳥レンジャーのお友達も、そのご両親も、それに麗美さんの仲間の帯人さんに庄蔵さんに緒湖羅さん、みんなきっと麗美さんにお礼を言いたいと思っているわよ」


 敢えて麗美が頑張ったことにではなく、健太くんを助けた一人としてお礼を伝える。

 それに、麗美は涙が出そうになってくる。

 

「ありがとうございます」

「へんねぇ、麗美さんがお礼を言うところじゃないわよ。ハハハ」


「うんん、みんなに優しくしてもらって、今だって、和美さんが来てくれなかったら・・・」

「まあ、でも私が来なくても、一泊まですることは無かったから大丈夫よ」


「そうでしょうか」

「ええ、彼らの仕事が増えるからね」


「それって?」

「和美さんが少し悪かった、ただの喧嘩にしたかったのよ。あの中年の警官わね」

 麗美には、その意味が分らない。


「逃がした、その女より、捕まえた麗美さん・・・ごめんなさい捕まったって言っちゃいけないわね。

 連れて来た麗美さんを少しだけ喧嘩の悪かった原因にして、”ちゃんちゃん”で終わらせれば仕事が減るでしょ。どうせあの女は捕まらないしね」


 諦め顔で和美がそう言う。


「そんな、怪我をした健太くんは、どうなるんですか」

「女にぶつかって転んで骨折ってとこね」


「健太くん骨折したんですか?」

 麗美は顔全体で驚きを表現する。


「ん・・・、うん。今、息子が病院に行ってるわ」

 麗美の怒りに任せた元気が急になくなる。


 暫く黙っていた後に、警察に戻っていきそうな勢いで顔を赤くする。

 和美はそれを察して、


「何も変わらないわよ・・・、戻ってもね」

 それに、麗美の肩の力が抜ける。


「その女から何かした訳じゃなければ、骨折の直接の原因は自転車転んだこと。それに、歩道の上だしね」

 そう言われると、麗美もグウの音もでない。和美の言うことが正しい。


「世の中なんてそんなもの、そんな事が沢山あるのよ。残念だけどね」


 黙ってしまった麗美の顔を、和美が覗き込む。

 和美は、少しの時間を麗美に与えようと黙っていた。


 静かな夜が平和に感じられる。

 二人は警察署を出て、和美が乗って来た車の前までやって来た。


「和美さんて、凄く強いんですね」

 立ち止まった、麗美はいきなりそう呟いた。 


「えー、ははは、そんなことないわよ。弱いわよ。もの凄〜くね」


 そう言ってから、


「でも、ちょっとだけ慣れたかな?」

「慣れ?」

 麗美には意外な言葉だった。


「そう、麗美さん知ってる〜?」

「何をですか?」


「慣れると飽きるは人間が生きていく上で最高の武器なのよ。まあ〜、最も大きな欠点でもあるんだけどね」

 麗美は少し考える。慣れるは意味が分る。今までの話から。

 でも、飽きることが必要とは思えない。


「”飽きる”もですか?」

 そう、率直に聞いてみた。


「そうよ失恋のとき諦めるには、好きなことに飽きないと苦しくて、苦しくて。ね。

 それに、パチンコも飽きないと、依存症になっちゃうわよ。ハハハ」

 

 和美が笑いに変えて説明してくた。


「慣れなさい。人の流れにね。そして、飽きなさい。今日の事にくよくよすることにね。

 神様が与えてくれた最高の武器を有効に使うの。


 この先人間って捨てたもんじゃないって思うことより、人間なんてたいしたことないって思う事の方が圧倒的に多いからね。得に、真面目過ぎるあんたにはね」


 でも、和美は、本当は人生の終わりを受け入れながら生きる為に、一番必要な武器だと思っている。ただ、まだ若いに麗美には伝える必要がないことだと思い、口には出さなかった。


 それでも、麗美には考えさせられる言葉だった。

 助けてくれた紫色の女性といい、和美といい、人間の大きさに圧倒されてしまう。

 自分の恵まれた環境に、”人間って捨てたもんじゃないどころか”、”拾い足りない位だ”そう思う。


「和美さんって、スーパーウーマンですね」

 麗美の素直な感想だ。


「えっ?何それ、ハハハ」

 和美も笑ってしまう。が、


(ただ、好調なだけ。調子がいいからこその余裕かもしれない)

 和美はそう思う。


「さあ、車に乗って。病院に行くでしょ」

「はい」


 和美の言葉に、麗美も元気に応えることが出来た。


 <つづく>

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