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第18話 五次元に並ぶ世界(始まり)

麗美の前で起こった事件。そして、誰?

◆無茶◆

(うそ、あの娘何やってんのよ・・・)


 奈々枝は、(バカ、何カッコ付けてんのよ)とも思うが、現に、誰も近づけなかった女の腕を麗美が捻りあげている。

 間違いなく、そのせいで自分のカバンがアスファルトの上に落ちている。


(まさか、あの娘が・・・)


 もしかしたら、そんなに無謀な事ではないのかも・・・。


 そう思ったのも束の間だった。

 女が麗美の掴んでいる腕を捻ると簡単に麗美は掴んでいた手を放してしまう。


(バカ、無茶よ!)

 やっぱり、見た目通りの結果が予想される。

 

 しかし、麗美に逃げる様子はない。

 ビラ配りのバイトをしていた時のおどおどとした頼りない目付きが嘘の様に、鋭い眼光で女を睨み付けている。


 女は麗美の手を振り解くと、振り向き様に麗美の首を目掛けて回し蹴りを放つ。


 奈々枝は、その瞬間、


「キャッ」

 声を出して顔を伏せ、目を瞑っていた。そして、奈々枝はそっと目を開ける。


 その時には、麗美が次々に女の攻撃をかわしている姿がそこにある。


 その姿は人間業とは思えない位に素早い。

 が、麗美の姿が目に痛い。


「バカ、早く、逃げなさいよ!(そんなに早いんだから・・・)」

 奈々枝は思わず叫んでいた。


◆なんとかしなきゃ◆

(だめ、かわすので精一杯)


 麗美は反射的に飛び出してしまったけど。思った通り、目の前にいる女は自分のレベルを遥かに超えている。


「な~んだ、威勢良く出て来た割には、その程度かい?」

 そう言う女は、さらに麗美に向って進み、右足を振り上げた。


 それを麗美は身を低くして交す。

 麗美は女の両手両足を目まぐるしく放ってくる攻撃を俊敏にかわしていく。



 ・・・今、奈々枝の前では、あの華奢で弱そうな麗美が人間とは思えない女に挑んでいる。異様な気迫とスピードで。


 少年を助ける為に・・・。


 気真面目と馬鹿にしていたあの麗美が本当に呆れる位の正義感で戦っている。

 いや、戦って等いない。防戦一方で、自分と少年から遠ざかっていく。


 奈々枝は、握った拳に汗を掻いて見ていることしか出来ない。

 何か、自分に物足りない物を感じながら・・・。


 麗美は一歩一歩後退していく。

(もう少し、もう少し気付かれない様に遠ざけないと)

 麗美は少しづつ、自転車で倒れた少年から女を遠ざけて行く。



 ・・・麗美は少し前、バイトのビラ配りが終えたので真直ぐに帰ろうとしていた。

 しかし、残りのビラを配り終えてホッと安心すると、奈々枝への腹立ちが少しずつ消えて行った。

 普通なら、気持ち良くなるはずなのだが、何故か胸の中に支えるものが感じられる。


(何か、嫌な予感がする)


 何の根拠もないけど、麗美の勘が働いた。

 こんな時、必ず麗美の周りで何かが起こる。今までもそうだったのだ。


 丁度その直後だった。遠くの方から、ざわめきが伝わって来た。

 麗美はいつの間にか、そのざわめきの方に向って走っていた。そして、気付いたらそのざわめきの中に身体『み』をおいていた。



(まずっ!)

 麗美は、歩道にあった小さな窪みに足を取られ、体制を崩してしまった。

 次蹴られたら、多分かわせそうもない。


 そう思った時、 

 

「麗美姉ー!」


 倒れている少年が、麗美に向って叫んだ。それに女が気を取られ、少年の方を振り向く。

 

「おや?、そうかい。あんた、もしかして、少年から遠ざけようとしてたのかい?」


 身体の俊敏さに比べ、喋りはゆっくりとしている。

 女には余裕があった。麗美を直ぐに倒す必要がないだけの余裕があった。

 麗美はそれを感じていた。


 だから、その間に何とかしなければならないと思っていた。

 だが、もうそんな時間はない。

 

 

「奈々絵さん健太くんをお願い!」

 麗美は咄嗟に叫ぶ。自分が身体『み』を投じた意味がなくならない内に・・・。


 しかし、そう言われた奈々枝は驚くだけである。

(お願いって、私にどうしろって言うのよ!)


 

 奈々枝のバッグを取り返そうと自転車で飛び出したのは、今朝、もえちゃん達と自動公園に集まっていた健太くんだった。

 自転車と共に飛ばされた健太くんは、力の入らない左腕を右腕で抱えて、倒れていた体を起こそうとしてる。

 ズボンの膝は敗れ、血が滲んでいる。頬にも擦り傷がある。

 

 奈々絵も腰が抜けて動けなかった体を、引きずって遠ざかろうとしているところだった。


「無理、無理言わないでよ・・・」

 

 奈々枝には麗美の心が痛く刺さるが、自分だってどうしようもない。

 身体は大丈夫だからと言って、自由に動き回れる状況ではない。仮に、自由に身体が動くのであれば、とっくに、この場を離れている。



 麗美は、女が健太くんの方を振り向いた瞬間に、右足を高く振り上げた。

 女を健太くんに近づける訳には絶対にいかない!


 だが、簡単に右手一本でそ麗美の蹴りを受け止める。そして、その脚を振り払うと麗美の体はバランスを崩して歩道の上を転がった。

 

 麗美は転がりながらも体制を立て直す。


 左膝を立て上体を起こし、女の方に目を向けると、女が自分に右手を向け、掌を広げている。

 女の掌が赤い炎の様に光る。


 頭は反射的にその状況の拙さに気付くが、体の反応が間に合わない。

 防ぐ方法も知らない。


 麗美は直感的に気付いた。


「あっ!(もう、だめだ・・・)」


 そう思った瞬間、麗美は目を閉じていた。

 力が入った肩を竦『すく』めて眼を閉じていた。


まなごめん!)

 自分を慕う妹の名前を呟いていた。


 そして、


「Guwann・・・」

 と言う、空気が裂けるような音と共に、

「ZuZaZa・・・・・」

 と言う、震動音が連鎖する。


 風圧が・・・麗美の体を掠める?


 掠める? そう、掠めるだけであった。


 恐れていたものが、何も起こらない。


(どうして?)


 麗美はひざまずいた姿勢のまま恐る恐る目を開けた。


 すると、麗美の前に薄紫色の物体が仁王立ちしている。


「えっ?」


 恐る恐る、見上げると間違いなく人間である。


淡い紫色のニッカポッカにべスト、そのベストの下には赤紫色のポロシャツを腕まくりしている。

 そして、首からはタオルを下げている。

 真冬の格好としては、明らかに薄着である。


 さらに見上げると、茶髪で肩より少し長いほつれカール。

 格好は鳶職そのものではある。だが、おネエでなければ間違い女性だ。


 その女性は麗美と女の一直線上に結ぶ間に立ち塞がっている。


「や~ね~、も~。

 あんた、こんなところで、何やってんのよ~。

 ホンと、無粋だわね~」

 

 おネエ言葉には、恐ろしい位の余裕が感じられる。


「えええ・・・・」


 麗美は一瞬目を閉じた間に移り変わった展開が全く理解出来なかった。


 <つづく>


短くしてみました。

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