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第6話 三角関係の内角の和は180°(後編)

小学生三年生の三角関係を解決する為に一肌脱ぐことになったレイラであった。レイラの予報の結果、みんなで野球の試合を観戦に行くことになった。

さて、その結果は・・・。

◆三角関係の内角の和は180°(後編)◆

 雀の鳴き声が心地よく耳に入ってくる。外は天気が良さそうな気がする。


 レイラの部屋は、夕方に僅かに西陽が入るだけなので、朝は天気が分らない。それでも。雀の声が天気を伝えてくれている。

 今日は、暖かくなりそうだ。レイラの気持ちも自然弾んでくる。


 澄子ちゃんの彼氏のお兄さんである孝弘くんと、もえちゃんの彼氏の健太くんが所属する野球チームの練習試合は、10:00開始である。

 レイラともえちゃん、澄子ちゃんに靖子ちゃんは、9:30に、レイラが予報屋さんをやっている直志商店前に集合することになっている。


「まだ、一時間以上も時間があるわ、ホントは何か持って行くべきなのよね。サンドイッチとか、お菓子類とかね。飲み物を用意したいわね。もえちゃん達も喜んでくれるだろうな」と思うのだが、何分お金がない。ここは、恥ずかしながら手ぶらで行くしかないのである。


「まあ、野球をちょっと見に行くと考えれば、何も持って行かなくてもおかしくないわよね」

 自分の都合の良いシツエーションを頭の中から選択して、イメージ化してみする。

 そして、無理やり合理的に自分を納得させる。


「うん。大丈夫。全然おかしくない。きっと、みんな遠足みたいな気分で来ないわよ」

 そう言うことにした。決めた。


 昨日、直志商店の店主のノシさんから10円譲ってもらった、さつま芋はあった。さつま芋チップであれば作れるのだが、油が残り少なかった。その為、その線は早い段階で消えていた。


 レイラが、待ち合わせ場所に向かう頃には、異常気象と思ってしまう位に暖かくなっていた。

 コートの必要が無い位である。気持の良い日だ。


 レイラが待ち合わせ場所の直志商店前に着いた時には、30分遅れてくることになっている雄大くんを抜かして、もうみんな揃っていた。

「レイラちゃんおはよ」

「おはよう・・・」

「おはようございます」

 もえちゃん、澄子ちゃん、靖子ちゃんがレイラに挨拶をする。


「あっ、お、おはよう」レイラの声は、控え目になってしまう。

 そう、みんな手荷物が沢山あり、レイラだけが手ぶらであった。

 それぞれが、水筒や、バスケット、手提げバッグ等の重そうな荷物を持っているのである。

 みんな爽やかに笑顔を輝かしているだけで、手ぶらあであるレイラに対して誰も突っ込みの一つもいれない。


 思いやりなのか、気にしていないのか、全く分からないのが返って心苦しい。もえちゃんまでニコニコしたまま、何も突っ込んでくれない。

「何て言ったらいいんだろう」軽い気持ちで来てしまったレイラは、一転して緊張してしまう。

「しまった、やっぱりさつま芋チップ位作って持って来るんだった」後悔しても、既に遅い。レイラは、自分のイメージを押しつけることにした。

「あーごめん。みんな本格的に準備して来たんだね。ちょっと応援に行く感じで考えてたんで何も持って来なかったの。ごめんね」

 そこに、もえちゃんが、

「大丈夫だよ、レイラちゃん。レイラちゃんの分は、みんなが用意してあるから」

「えっ?」と、言うことは、最初から私が何も持って来ない人間だと思っていたっていうことかしら。それも全員が?

「あの~それって・・・」

「みんなレイラちゃんがお金無いこと知っているから」

 もえちゃんは、レイラの気持ちをいじっているのか、気にしていないのか、サラッと言い切る。 

 子供よりお金が無い、ましてそれを子供に心配される自分が、恥ずかしいレイラであった。

「じゃあ、応援に行こうか」もえちゃんが元気に言う。

「行こう」「うん」とみんな元気に答えるが、レイラは一人小さく「くじけるな~」と誰にも聞こえない様に呟くのであった。


 練習試合は、近所の豊瀬川運動公園のグラウンドである。

 孝弘くんと健太くんの所属する少年野球チーム『高田町野球少年団』は、高田町の南隣にある豊瀬町の『豊瀬イーグルス』と言うチームと定期的に練習試合を行っている。 今日の試合は、3年生と4年生の二学年で構成されるチームでの試合であった。

 レイラ達が、公園に着いた時には、試合前の練習が終わり、それぞれのチームが円陣を組んでいた。

豊瀬川運動公園は、高田町商店街から南に徒歩で20分位のところにあり、豊瀬川の流域に作られた運動公園である。野球のグラウンドが大小一つずつの他、サッカーグランドや、テニスコートもある。

 今日の試合は、普段は練習用のグラウンドと使用されている小さい方のグラウンドで行われる。


 グラウンドには柔らかい陽ざし射し込んでいる。「楽しい日曜日になりそう」そんな風にわくわくさせる陽気である。


 選手である子供達の父母を中心とした(殆どは、おばさま達だが)応援や、見物人を合わせると、30~40人は来ている。

 レイラ達は、三塁側の堤防の斜面に敷物を敷いて座った。レイラは、もえちゃんが用意してくれた、カエルのキャラクターが描かれている可愛敷物に、もえちゃんと一緒に座った。みんな各自で敷物を用意している。レイラだけが、自分の座る敷物を持ってきていなかった。小学3年生でも気付くことが、出来なかったことに対し恥ずかしくて声も出ない。

 4人は横一列にホームベース側から、澄子ちゃん、靖子ちゃん、もえちゃん、レイラの順で座った。

 レイラの横に座ったもえちゃんが小首をかしげてレイラを見ている。

「レイラちゃん。今日ずっと大人しいけど、どうしたの?」

 本心から聞いているようだが、嫌味な位パッチリとした目に見えてしまう。そんな目をして見ないでとレイラは思ったが、引け目を感じていることを思わせないように左右に首を大きく振り応える。

「そう?そんなこと全然ないのよ、全然。応援の為に元気を貯めているだけ」

「ふ~ん。そうなんだ」

 妙に納得している。

「ねえ、もえちゃん試合始まるわよ。」

 審判が”プレーボール”をコールした。話をそらすには、丁度良いタイミングで試合始まった。

 高田町野球少年団 対 豊瀬イーグルス。先攻は、高田野球少年団だ。

「うん。ちょっとドキドキするね」

 もえちゃんは興奮気味である。もえちゃんは、お祭りに行った時もそうであったが、催事毎があると直ぐに興奮してしまう様である。両親に余り遊びに連れて行ってもらったことが無いのではないかと、レイラは思うのである。

 レイラは、靖子ちゃんを覗いてみた。性格からか、靖子ちゃんは楽しそうにグランドを見ている。活発な靖子ちゃんは、レイラが思った通り、勝負事が好きそうだ。

「澄子ちゃんは、落ち着かないか。当然よね」レイラが呟く。

 高田野球少年団は、1番、2番が三振で倒れた。相手ピッチャーはなかなかコントロールが良い。

 次に孝弘くんがバッターボックスに立った。

 レイラも、野球は多少知っている。野球観戦の好きなおじいしさんと、良くテレビでひいきのチームを応援したものだった。

「さておっぱじめるか」と、レイラは小声で自分に気合い入れた。土手に斜面に立ちあがり。大声で、声援を送る。

「いけー。孝弘くーん」

 孝弘くんがレイラの方を向く。レイラが手を両手振ると、軽く頭を下げた。もえちゃんも、澄子ちゃんも、靖子ちゃんも驚いてレイラを見ている。もちろん、土手の下で応援している。お母さん達もレイラの方を振り向く。

 そんな中、ピッチャーが1球目を投げた。ボールだ。そこで、レイラはもう一回大声を出す。

「いいぞー。良く見て~」

 また、みんながレイラを見る。通りすがりの野良猫までがレイラを見る。が、レイラは微塵も気にした様子はない(ように心がける)。

 ピッチャーが2球目を投げた。孝弘君のバットは空を切った。

「ドンマイ、ドンマイ!いい振りだ当たればホームランだ!」

 レイラの応援は、豊瀬川の向こう岸まで聞こえる大声だ。

 一人で張り切っているレイラに呆気にとられていた靖子ちゃんがもえちゃんに耳打ちをした。

「もえちゃん。今、打ってる人は、レイラさんの知り合いなの?」

「靖子ちゃん知らないんだ。雄大くんのお兄さんだよ」

 そこに、レイラが口をはさむかの様に声を掛ける。

「そうよ、みんな応援にきたんだから、孝弘くんを応援しないと。ねえ澄子ちゃん」

 レイラは、澄子ちゃんに、目で合図を送る。

 ピッチャーが3球目を投げた。今度は孝弘君のバットが捉えた。打球はピッチャーの頭上を越えた。

 レイラの声援に釣られて、高田町野球少年団の選手のお母さん達の声援も自然大きくなる。

 澄子ちゃんもドサクサに紛れて、声援を送る。

 センター前ヒットだ。ツーアウトランナー一塁。バッターは4番。長身の左バッターだ。

 レイラが声を張る。

「でっかいの頼むよーのっぽくん」

「そうだ~」澄子ちゃんが追いかける。ちょっと恥しそうではあるが。

 4番の男の子もちらっとこちらを見た。孝弘くんに負けない位、将来いい男になりそうだ。

 4球目引っ張った打球は、センターとライトの間を抜けた。

「いいぞ~!のっぽくん。孝弘くん走れ~」

「走れ~」

 レイラの声に、澄子ちゃんの声が重なる。吹っ切れたようだ。

「早くー。孝弘くん」

 澄子ちゃんの声が響く。

 孝弘くんは、3塁を回りホームイン。1点を先取した。

 レイラを筆頭に、高田町野球少年団の応援は初回から熱気に溢れる。

 しかし、その後5番、6番は出塁したが、7番が三振で、1回表の攻撃を終えた。

 高田町野球少年団は、3番、4番の活躍で、1点を先取した。


 1回の裏、守備についた高田町野球少年団のピッチャーは、孝弘くんだ。

 靖子ちゃんが、澄子ちゃんに話している。

「雄大くんのお兄さんってすごいね」

「ホント、すごいね。ピッチャーって知らなかった」

 騒ぐのが大好きな靖子ちゃんも、だんだん気分は盛り上がって来た。

 そんな中、一人だけ大人しい子がいる。

「もえちゃんどうしたの?大人しいけど」

 もえちゃんは、彼氏の健太くんを指差した。健太くんはライトの守備についた、もえちゃんはこれが不満のようだ。

「もえちゃん。3年生が4年生に交じって試合に出てるんだから、健太くん凄いのよ。ライトって言えば、あのイチローと同じじゃないの」

「少年野球だから。ライトはあんまり球飛ばないし」

 もえちゃんは、いくら4年生と一緒だとは言え、健太くんがライトであることにがっかりしている。

「孝弘くんはかっこいいなー」もえちゃんが呟く。

「ホントだよね」靖子ちゃんが、明るい顔で乗らなくてもいいところで乗って来た。

 まあ、いいか。今日の主役は靖子ちゃんだから、もえちゃんのことは後で考えよう。と、思うレイラである。

 豊瀬イーグルスの1回の裏の攻撃は、三振が1つと、ピッチャーゴロ2つの三者凡退だ。

アウトを一つ取る度に、レイラと澄子ちゃんが大騒ぎをする。選手のお母さん達も負けじと大騒ぎをするようになって来たので、靖子ちゃんも恥ずかしがらずに声を出せる様になって来た。


 2回の攻撃は、8番からだ。レイラは誰にでも声援を送っている。普段あまり騒がない澄子ちゃんまでが、大声で声援を送っている。派手好きな靖子ちゃんも次第にお祭りモードになって来た。

 しかし、8番は残念ながら、ファーストフライに終わった。

 一喜一憂、今度はため息が漏れる。8番くんは声援に応えられなく残念そうだ。

 次は9番健太くんだ。レイラも一際大きな声で声援したが、さらに上回った応援をする人ががいた。

 さっきまで大人しかった、隣のもえちゃんだ。

「がんばれ~。打ってー」

 健太くんもこちらをちらっと見た。健太くんは、もえちゃんの声援にプレッシャーを感じているようだ。見るからに硬い。

 もえちゃんは、両手を握りしめ目をつぶっている。

 しかし・・・。

 あえなく、三塁側ファールフライに終わった。

 レイラ達も声援を止めて、もえちゃんを見てしまう。

 肩を落とすもえちゃんは、悔しそうだ。健太くんは、敢えてこちらを見ていない様な気がする。

 2回表は、レイラ達の応援も空しく3人で終わった。

 2回裏になる頃には、守備側であるにも関わらず、レイラ達4人と、高田町野球少年団選手のお母さん達との同じチームを応援する者同士での応援合戦になっていた。

 特に、孝弘くんが投げている時の、澄子ちゃんと靖子ちゃんの応援が凄い。キャッキャ、キャッキャとサル山の日本猿の様な黄色い声援だ。

 片や、おばさま達も負けじと一時期の成田空港で韓流スターを持つおばさまのような黄土色の声援だ。

 2回の裏も声援に後押しをされたのか、高田町野球少年団は0点で抑えた。

 3回の表2番からの攻撃だ。高田町側の声援に押され委縮した相手ピッチャーは、フォアボールを出してしまった。

「あら、ちょっとやり過ぎちゃったかな」と思い、レイラは応援をもえちゃん達3人に任せて、大人しくすることにした。ちょっと、冷たくなりかけた微風が気持ち良かった。

 しかし、周りはエキサイトしている。そこに。今日の大スター孝弘くんがバッターボックスに立った。大騒ぎだ。

 そんな中、レイラは後ろに微かな人の気配を感じた。振り向くと、雄大くんが寂しそうに立っている。

「ほら、今日の兄貴光ってるわよ」と、雄大くんの頭を抱いて隣に座らせる。

「心配しなくても大丈夫だから、ここで一緒に応援しよう。ね。」

「うん」雄大くんは小さく頷いた。

 孝弘くんは、また打った。ノーアウト2,3塁。孝弘くんは、声援を力に変えられるスター性があるようだ。

 レイラは、ぼんやり眺めている雄大くんに話かけた。

「ねえ、雄大くんは、野球やらないの」レイラが聞く。

「僕は、スポーツより絵を描いたりする方が好きなんだ」

「そっか、芸術家タイプなのね。今度雄大くんの描いた絵を見せてね」

 本当に見て見たい気がした。

「うん」と、嬉しそうに大きく頷いた。

「応援しようか」

 雄大くんは、レイラの言葉に笑って答えてくれた。

 この子、結構大きそう?、いや大物になりそう。と、何となくレイラは思った。

 この回は、2点を追加した。


 余りの声援の大きさに、結構な人が集まり始めた。試合初めの倍位は見物している様である。

 人が増えるに従い、豊瀬イーグルスの声援が大きくなる。ここは、豊瀬町である。集まった人達の殆どは豊瀬イーグルスの応援になる。ここは、アウェーだ。応援が大きくなるにつれ、豊瀬イーグルスも元気が出て来た。


 成田空港で韓流スターを待つおばさま達と、サル山の日本猿の応援で大盛り上がりの中、試合は5回まで進んだ。高田町野球少年団の守りのミスがきっかけで、5回裏に4点を取られてしまった。5回を終わって3対4で、1点負けている。次の6回が最終回だ。

「最終回だ」もえちゃんは、ポテトチップをバリバリ頬張っている。やけ食いのように見える。

「あれ、もえちゃん野球は9回までなのよ」

「レイラちゃん良く見て、スコア―ボード。6回までしかないでしょ」

 レイラは、スコア―ボードを見た。そう、さっきから何で6回分しか書かれていないのだろうと思っていた。

「そうなの、大変。応援しないと」レイラが腕を捲る。

「ダメだよ、健太くんからだも」もえちゃんは、守ってはエラー、打っては凡退の彼氏である健太くんにご立腹である。

「そんなことないわよ。健太くん、次はやるわよ」

「そうかな~」もえちゃんは、腹を立てながらも健太くんのことが心配だ。

 健太くんがバッターボックスに立つ。ピッチャーが初級を投げた。健太くんはバットを寝かせセーフティーバントをした。 打球は、3塁線に転がる。絶妙なバントだ。健太くんは3年生で、高田小学校3年生で一番足が速い。快速を生かし優々セーフになった。

「よ~し。良くやった」 俄然、もえちゃんも元気が出てくる。

 健太くんは、もえちゃんの声援を後押しに2塁、3塁と盗塁を決めた。豊瀬イーグルスのピッチャーも頑張り、1番、2番を三振と、ピッチャーフライに打ち取った。

 ここで、真打 3番孝弘くんが登場する。

 歓声があがる。が、

「あれ、猿が一匹しかいない?」靖子猿の黄色い声援しか聞こえてこない。澄子猿は?と思ったたら、

「澄子ちゃんみっけ。あれ?ムフフフ」と心の中で呟き、レイラは見ない振りをして、最後の応援に入ることにして立ち上がった。

「タカヒロ~。いけ~」


 雄大くんの後から、肩に乗せる小さな手があった。澄子ちゃんは、雄大くんが来ているいるこを知っていた。ちゃんと分っていて、靖子ちゃんと日本猿をやっていた。雄大くんと、澄子ちゃんの目合う。笑う。

 レイラと、靖子ちゃんは、肩を組んで叫んでいる。 

「タ~カ~ヒロ~」

 孝弘くんは声援に応え、またしても打った。三遊間を破るヒット。健太くんが生還し4対4の同点。

 レイラと、靖子ちゃんは手に手を取って踊る。フォークダンスの様に。

 それを見て、もえちゃんはちょっと嫉妬する。


 6回裏も、ランナーは出したが0点で終わった。

 白熱した試合? 応援が白熱した試合は、4対4の引き分けで終了した。

 みんな、水筒のお茶をがぶがぶ飲んでいる。喉は応援で空からだ。レイラも、もえちゃんの水筒にかぶりつく。もえちゃんは、レイラがもえちゃんのお水筒で飲んでくれてちょっと嬉しい。

 みんな一仕事終えたようないい顔をしている。

 グランドでは、選手達が軽いキャッチボールをしたり、体操をしたりしていたが、円陣を組むと、直ぐに解散をした。

 孝弘くんは真直ぐにレイラ達の方に向って来た。健太くんも、母親らしき人のところに寄った後、 孝弘くんの後に続いてやって来た。

「お疲れ様」レイラが拍手で迎えると、みんなも後に続いた。

 澄子ちゃんと、雄大くんは仲良く並んで立っている。靖子ちゃんは、その様子が全く目に入っていない様で、孝弘くんを見ている。

 もえちゃんは、靖子ちゃんに自分の持って来たタオルを隠れて、そっと渡した。多分、健太くんに渡す為に持って来たタオルだとレイラは思った。

「もえちゃん厳しいな。余り、活躍していない健太くんにはタオルは要らないってことか」レイラが嘆く。

 いつの間にか、隣に戻って来たもえちゃんに聞こえてしまったのか、睨まれた。

「お疲れ様」靖子ちゃんが、孝弘くんにタオルを渡した。

「ありがとう」

 孝弘くんの爽やかな笑顔がこぼれる。柔らかな光を浴びて汗が輝く。

 いい感じだ。

 一方、もえちゃんのところに来た健太くんは、もえちゃんの機嫌を察したのか腰が低い。

 もえちゃんの小さな拳が、健太くんの頭に乗っかると、しきりに健太くんは誤っている。

 既に、もえちゃんが主導権を握っている。レイラは、可愛そうと思ったが、良く考えると自分も握られていた。ちょっと、笑ってしまった。

「レイラちゃん、何が可笑しいの」すかさず突っ込まれるのだった。

 その後、みんな(レイラを除く)が用意したお弁当を食べて解散をした。


 帰り道の途中から、レイラともえちゃんの二人になった。 

「いいわね~小さな青春か~・・・」レイラが呟く。独り言だったのだが。

「小さな?」もえちゃんは、”小さな”に引っ掛かったみたいだ。

「いいわね~青春ね」レイラは独り言を言い直した。 

「ねえ、レイラちゃんどうして分ったの?」

「何を?」

「靖子ちゃんと、孝弘くんのこと」 

 レイラは咳払いを一つする。

「予報士だからね」

 休みは、車通りも少ない。道を歩くのも気持ちがいい。

「澄子ちゃんには話してたの?」

「全然。澄子ちゃんは、一見幼く見えるけど、ちゃんといつも周りを見て理解しようとしているのね。普段は周りを気にしすぎて、喋れないのかもね」

「澄子ちゃん今日は、凄く応援していて、もえ驚いた」

「やることが一つに決まっていれば、澄子ちゃんは度胸があるのかもね」

「度胸なの」

「そう、初めは結構無理してたみたいね」

 もえちゃんは、自分が気がつかなかったことが、ちょっと悔しい。

「これで、また二組できちゃったかな。ハハハ」レイラが笑う。

「う~ん、確かにもう三角関係じゃなくなったみたいだけど・・・」

 もえちゃんは、何かただの結果オーライのような気がして、本当に予報通りだったのか良く分からない。もえちゃんは、レイラの予報が100%であって欲しいのだ。

 そんなもえちゃんに気付いてか、レイラが続ける。

「きっと、澄子ちゃんが興味を持ったものに、靖子ちゃんも惹かれるのね。仲がいいから。今回はね、雄大くんのお兄さんだったから上手くいったのよ」

「そうんなだ」

 もえちゃんにも何となく分って来た。靖子ちゃんは、澄子ちゃんの影響を受けやすくて、澄子ちゃんが好きになったものを一緒に好きになってしまう。澄子ちゃんの芝生は青いのだ。そこで、雄大くんと同じ芝生に住んでいて、しかも1つ年上で雄大くんよりスポーツマンのお兄さんを目にすると、活発な靖子ちゃんは魅かれて行っていまう。まして、先に澄子ちゃんが熱心に応援すれば、その影響を受けてしまう。レイラはそう考えたのだと、もえちゃんは思った。


「もえちゃん三角形てしってる?」

 レイラの問いかけにもえちゃんは、何が言いたいんだろうと思う。

「三角形くらいしってるよ」

「失礼しました」

「じゃあね、三角形の内角の和って何度か知ってる?」

「なにそれ?」

 レイラは、地面に三角形を描いてみる。

「”角度”って知ってるよね」

「うん。急な坂は角度がきついって言う角度だよね」

「もえちゃん。凄い良い例え」

「ありがと」

「どんな三角形を描いてもね、内側に出来る角度を足すと180度っていう大きさになるの」

「へ~そうなんだ」

「例えば、この三角形の角二つを近づけると、細長い三角形になって、近づけた二つの角は丸っこくなるけど、もう一つの角は尖っちゃうでしょ」

「うん」

「そう。だからね、三角関係は二人が近づくと、一人は尖っちゃうんだよ。取り残されてね」

「だから、三人に共通の一人を連れて来て四角形にするの。そうすると、二つの角を近づけても、もう二つの角が近づけば、誰も尖らないで済むのね。一人入れば自然に解決なの」

「わかる?」

「ほ~、なるほど。レイラちゃん上手い事言うね。座布団1枚」

「もえちゃんは山田くんかい!、そこもっと関心するとこなんだけど・・・」

「今晩は、山田もえです」もえちゃんは、澄ましてレイラに挨拶をする。


 二人は、一旦別れて再び、午後6時50分に直志商店前に集合した。

 予報屋さんを行う為だ。

 今日は、雄大くんが一人で来てくれた。もちろんお客さんは誰も来なかった。


 <つづく>

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