第18話 五次元に並ぶ世界(そして2年)
レイラの故郷と、レイラが現在住む世界。
異なる二つの世界の往来は昔からあった・・・。
◆五次元の中に並ぶ世界◆
異世界と呼ばれる世界の存在。
それは同じ空間座標の異なる三次元空間が、同じ時の流れの上に存在する四次元世界。
この存在を実現する為には、四次元を超える次元が最低一つ必要となる。
ある高次元を任意に一つ選択し、この高次元軸と平行に四次元的には全く一致する空間を綺麗に並べたとする。
するとこの並べた四次元世界は、全く同じ時間の同じ空間座標に、別の世界として存在することになる。
便宜上、この高次元の中で最も移動可能な次元を五次元とすると、この五次元の距離を移動することにより、異世界への移動は可能となる。
今、異次元に共通して存在することが可能であると分っているのが重力である。
この重力は、同じ時に同じ位置から同じ方向に存在することが可能である。つまり、重力は重なり合って存在が可能なのである。
それは極微細な波である為と考えられている。
この微細波は一つの四次元空間では一定周期である。もし、この重力の周期を変えることが出来るのであれば、逆に四次元的に全く同じ物体でも違う周波数上に存在が可能と言うことになる。
この周波数を重力周波数と言い、この重力周波数が高次元の一つであり、五次元と呼ぶことが出来る。
この重力周波数の違いは四次元までの数値とは違い、移動的には極密接して存在していると三次元的に捉えることが出来る。
それは、電波の周波数の様にだ。
ここに、五次元空間から見ると、四つの次元がほぼ同じ位置で、五次元的には常にほぼ一定距離で近接する四次元空間が存在している。
この二つの空間世界を”アルツァ”と呼び、他方を”スペーズ”と呼んでいる。そして、さらにこの4次元的に重なるアルツァ空間とスペーズ空間内には、いくつかの3次元的に位置を重ねる星がある。
その中で、知的生命”人類”と呼べる生物が存在している星は限られている。
アルツァ空間の惑星に”フェアル”と言う惑星がある。
この惑星の人類は、もう一方のスペーズ側に四つの次元同じくする惑星の存在があることを、時間を遡ること1000年以上も前から認識していた。
それは、科学の発達の前に実体験と知っていた為である。
”フェアル”の人類の極一部には、次元トンネルを開ける(重力周波数を変える)事の出来る能力者が存在したのである。
そして、この能力者が複数人集まることにより、人間の次元移動を可能としたのであった。
この移動先、スペーズ側の惑星の現在名を、フェアルでは”地球”と呼んでいる。
フェアルの能力者たちは、初めは興味本位で、極短期間だけのチキュウへの移動を行っていたのであるが、時を経ると共に故郷を捨て、移り住む様になっていった。
それは、チキュウでの暮らしにある優位性を見出した為である。
やがて、彼等は無秩序に地球への移動を始めることになって行った。
そして、彼等がべーズに住み始めて百数十年後のことである。
彼らの一部の人間達の行動が地球の人類の存在を乱し、それにより自らの世界にも混乱を起こすことに繋がって行った。
その当時、彼らの存在をチキュウの人類は地域を変えて”魔女”、”鬼”等と呼び、恐れ嫌う存在へとなっていた。
チキュウでは、彼らを弾圧しようとするが、もちろんチキュウの人類にそれだけの力はない。
実際はチキュウと言う大地での、フェアルの血筋をひく人類同士の戦いであった。
だが、フェアルとチキュウの人類が混血していく中で、そう簡単に一括りにすることが出来ず、様々な形で周囲を巻き込む悲惨な出来事となってしまった。
しかし、それも十年余りで終焉を迎えた。
一方のフェアルの人類が勝利を収めたからだ。
その勝者側の選んだ道は、お互いの社会の秩序を乱さないことであった。
フェアルの人類はこの不幸な出来事を教訓として、全ての人間の能力を完全義務教育の中で認識、選別を行い、能力の管理体制を取ること。さらに、物理的に次元移動が可能な地点への入所を禁止とした。
つまり、次元移動の完全管理である。
その目的の経年維持の為に、彼等は能力と秩序、道徳に優れた血筋を残す政策をとることとした。
また、地球側には主に過去の能力者の子孫がもたらす社会への影響を抑制する為に、「知能」「調和」「能力」「意志」に秀でた先鋭による監視組織、”フィンラウンダー”と呼ばれる少数先鋭の組織を常駐させていた。
普段は一般チキュウ人として暮らしす彼らにはもう一つの役目があったが、ごく稀に現れる次元侵入者への対応である。
そのフィンラウンダーの現在の長は、フェアル第5位の実力者”ヤオラ・ミタドル・ノシア”である。
異世界であるチキュウでの彼の職業は、とある町の商店街にある八百屋の店主であった。
◆異世界への憧れ◆
少ない陸地の殆どが岩壁と山岳地帯である惑星”フェアル”。
その中にあって、唯一広大な盆地が広がる中心の地”ミラ”。
この星の立法、行政、教育を司る機関、中央維持監視庁。通称”中央庁”を始め、殆どの機関はそこに集約されている。
その中心部から西へ約150kmの小都市。
そこには、まだ建てられて2年余りの”手書きの家”と呼ばれる、この世界では比較的大きな自律支援院(孤児が自律するまでの支援をする施設)がある。
その院長室の書庫から狭く暗い階段を降りると、地下の二室に通じている。
その一つに、ある組織の男女4人が会同していた。
この4人の中で中心的人物と思われるのは、チャコールグレーに細い白の縦縞のブレーザーに、膝までのタイトスカートをセクシーに着こなしている女性である。タイトスカートの後のスリットは、かなり際どく切れ込んで入る。
見た目は20代前半だが、その落ち付きと威厳からは、見た目を遥かに超えた実年齢なのかもしれない。
そして、ブレザーに付けている襟章からは、この4人の中で一番身分が高いのが明らかである。
「オルディアラ、いいのか。彼女達に行かせて」
そう彼女に切り出したのは、彼女より少し年上の細身の神経質そうな男である。
彼女が選出したメンバーは、この施設から育った今のこの組織のやり方に不満を持っている者達ばかりであった。
「ええ、もちろんよ。何の問題もないわ」
オルディラは彼の荒い言葉にも平然と答える。
それに、
「彼女達が、向こうの世界の情報を入手して大人しく戻って来るとは思えないんだが・・・。
それに彼女達の戦闘に対する能力と次元を超える能力は我々の中では上位だ。
一度に高い能力の者が4人も行ってしまうのは、今後の私たちの体制にも影響を与えるんじゃないかと思うのだが・・・」
そう、温和な口調で話すのはこの自律支援院”手書きの家”の院長だ。
「そうだ!裏切って、自分達だけで向こうの世界で暮らそうとするんじゃないのか?」
お洒落に着こなしたスーツの腕を捲繰上げ神経質そうな男が眉を吊り上げる。
しかし、
「それで、いいのよ」
それに対しても、オルディアラは落ち付いた口調で応える。
「どういうことなんだい?」
院長は短く揃えた顎髭に手をあてた。
彼は言葉を荒げている男を宥めるかのように、ゆったりと訊ねた。
「返って好都合なのよ。彼らの実力を知るにはね・・・。
彼女達は彼らの能力を舐めているわ。それに彼女、ネリアは”フィンラウンダー”の一人レイラ・ミル・リルクールに対して遺恨を持っている。
だから、必ず早々にぶつかることになるわ。そして、100%捕らえられる」
彼らにとって不都合そうなことを平然と言ってのける。
「それに何の意味があるんだね?次元を超えたことがばれてしまうだけではないのかい?」
常に温和に院長が尋ねる。
「どうせ、移動したらばれるのよ。どんなに静かに次元トンネルを空けても、中央庁には重力の歪を感知する装置があるの。
気づいた以上は必ず調査を始める。彼らの能力を甘く見てはいけない。100%戦うことになるわ。
そして、言うまでもないわね。
何の準備もなく勝てる相手ではないわ。
だから、彼女達4人のみでの計画にしなければならない。
彼女たち4人で向こうの世界に行ったことにしなければならないの。
その為にはそれに相応し能力者を揃えなければ、次元を超える手助けをした者を探すことになるでしょ」
オルディアラが応える。
「彼等が掴まって、我々のことを吐いてしまわないのですか?」
心配そうに初めて口を開いたのは、この4人で一番若い、まだ頬に丸さが残る成人前に見える女性である。
ストレートヘアーを後ろで束ねている容姿から清楚に見えるが、眼光に意思の強さが伺える。
「それに意味はないわね。私達までが捕まったら、彼女達を助ける可能性のある者がいなくなるわ。
彼女達がそんなことをするはずがない。この中央庁に嫌悪を抱いている彼等が・・・。
きっと、藁をも縋りたい気持ちになるはずよ」
「なるほど、分ったよ」
院長の言葉に、若い女性が頷く、それに遅れて否応なしに神経質そうな男も頷いた。
「先ず、我々は彼らの能力を正確に手に入れないと。
でなければ我々が、向こうの世界に移動することなんて出来はしない。
大丈夫、この場所は簡単にはバレたりはしないわ。その為に、2つの移動地点が見つかるまで待ったのだから。
捨て場所を見つける為に今まで・・・時間を掛けて・・・」
女性がそこまで言い掛けたところで、神経質そうな男が、声を上げた。
「しっ!来たぞ」
「大丈夫よ、この扉を越えてこちらの話を聞く程の能力は彼女には無いわ」
オルディアラは余裕の笑みを見せる。
そこに、一人の女性が階段を降りてきた。
そして、地下室の前に立ち、分厚い扉の真鍮色の取っ手に手を触れた。
それだけで部屋の中にいる4人には、その女性が何者かが認識される。
4人は意思を確認し合う様に頷くと、院長が取っ手に向って人差し指を向ける。
すると、それだけで鍵が開く。
「失礼します」
ドアを開け入って来たのは、オルディアラとは同年代の女性である。
「ああ、お疲れさまネリア。座ってちょうだい」
「はい、ありがとうございます」
この女性、ネリア・ミストの眼つきが鋭い。言葉遣いは下手であるが、その上下関係に不満があるのは明らかである。
「話しは聞いていると思うんだけど、私達の仲間も相当数になったわ。中央庁内にもそれなりの人材が加わったの。
あなたの探し出した例の場所から通路を開けば、安全に”むこうの世界”に行ける。
その実験が済んでいるのはご存じよね。
そろそろ、いい時期かと思うのよ」
オルディアラは、同意を求める様に、女性の顔を覗う。
「私は、前からいつ始めても良いと思っている」
ネリアは今まで待っていたことに対し、不満そうに応える。
「そうね。頼もしいわね」
オルディアラは気圧された様に応えるが、これも彼女の芝居である。
「私は、まず向こうの世界の調査が必要と思うの。
そこで、ここで育ったこの組織の当初からのメンバーのあなたにまず向こうの世界に行ってほしいの。
その権利があなたにはあると思うの。
どうかしら?
もちろんあなたの気持ち次第よ」
ネリアは思う。そこから開けた次元トンネルの実験には、自分も参加している。安全性はこの目で確認している。向こうの世界に誰よりも先に行きたい。その気持ちはずっと変わりはしない。しかし、
「私、一人が?」
自分一人では、野望は果たせない
「まさか、君にそんな負担を掛けることはしないさ。他3名も考えている。みんなここで育った仲間だ」
そう言って、神経質そうな男が微笑みながら名簿を見せる。
ネリアを含め、4名の実力はかなりのものだ。
だが、自分の目的を・・・達成するには足りない。
「もう一人連れて行きたいのだけど・・・」
「誰を?」
オルディアラが親身な顔で聞き返す。
「この施設の”ティアノ・トゥーラル”を」
「ティアノを?確かに能力はあるが、彼はまだここの施設の管理下じゃないのか。まだ15歳だろ」
神経質そうな男が応える。
「ええ、でも志は一人前・・・」
そう、言い掛けたことばを遮って、
「彼の意思しだいね、彼が良ければいいでしょ。後の処理は、私と院長で行うわ」
オルディアラが応える。
「有難うございます」
ネリアは頭を下げた。彼にはそれだけの価値がある。
ティアノのは高い評価を得ている。だが、ティアノの本当の力はそんなものでないことををネリアは良く知っている。
今だったら、もしかすると自分も敵わないのだはないか?とも思うのだ。
絶対に彼の力が必要だ。
「院長いいですね」
「ああ、大丈夫だよ」
オルディアラに微笑みかける。
「では、出発は5日後の午前5時、例の場所に集合のこと。ティアノにはあなたから打診して見て貰える?
他のメンバーの意思は、今朝確認済みなの。決定事項は私から伝えるわね」
「分かりました」
そして、話が纏まるとネリアは部屋を出て行った。
地下室の中に、再び不満気な空気が流れる。その風上に居るのは神経質そうな男だ。
「彼の能力値は、同年代の中では断突に高い。今後有望な人材だ。彼まで連れて行かれるのは拙いだろう」
男は口調を意識的に抑えてはいるが、納得は全くいっていない。
「いや、彼は、きっと私達とは馴染まない。既にその傾向が出ている。彼は、辛うじてネリアに対する恩義のみで協力しているに過ぎない」
院長が応える。
「確かにその通りではあるが、これから導けば」
「もう、既に彼の性格は確立されている。もう遅いだろう」
それに対しても院長が否定する。
二人の女性が院長の言葉に頷いてしまうと、この男も言葉を取り下げるしかない。
これで、4人の話は纏まった。
◆次元移動◆
ネリアにだけはこの話が一週間前から内々的にあった。そして、彼女はその時から考えていた。
自分は調査等をするつもりは全くない・・・と。
ネリアの目的は、彼女がこの組織を数人の孤児達と立ち上げた頃から決まっている。
この施設に贈られることになった原因の”あの女”を潰し、自分達が彼ら”フィンラウンダー”に取って代わることだ。
その為にその後加わった中央庁の奴等に上に立たれることにも我慢してきた。
それは、自分達が向こうの世界に立った時に中央庁を抑える力が必要であったからだ。
彼女はずっと、想い続けて来た。
「あの女よりも私の方が、小さい頃からずっと実力があった。私が向こうの世界に行っているはずだったのに・・・それなのに、たった一度のテストが抜かれたことで・・・。
私は、私は彼女を許さない・・・」
そして、五日後。
ネリアは、ティアノを含む4人の男女と共に向こうの世界に安全に繋がる場所に集まった。
次元トンネルを安全に繋げられる、ネリアがやっと探し出した場所。
捨て場所に・・・。
トンネルは、安定性を保つ為に彼ら以外にも5人の能力者が集まり、空けることとなった。
「では、半年後の同日、午前5時に同じ場所にトンネルを開ける。全員無事に戻って来て下さい。決して無理をしないように」
「「はい、有難うございます」」
5人は組織の実力者と共に、空間に開けた暗闇を抜けて行った。
そして、その2時間後。
「さて、2人は彼等の行動をしっかり観察してくれ。彼等に何があっても、決して見つからない様にすること。
お前たちは、情報を持って帰ってくることに専念して欲しい。絶対に無理せずバレないことと、彼女たちの起こした事件には間違っても関らないこと。
その二点に細心の注意を払って欲しい」
「「はい」」
2人は、ネリア達の時と同じ5人の実力者達が、先程と少しだけずらして開けた次元トンネルの暗闇に消えて行く。
「ネリア達は、向こうの世界で何をするか分からないが大丈夫かね」
いつのまにか院長がオルディアラの横に移動していた。
「どっちにしても、必ず彼らとの戦いになるのだから、多少のリスクは背負っても彼らの実力を知らなければ、事は始まらないわ。ネリア達には好きに行動させればいいのよ」
オルディアラの顔には、遊び心の笑みが浮かんでいる。
◆高田町界隈での事件◆
思井沢高原で”へろへろ女事件(第16話)”を解決して2年半が経過した。
高田町商店街にある唯一の八百屋、”直志商店”の閉店後から始めるレイラの予報屋稼業は、今も順調に継続している。
とは言っても、一時の様にレイラが予報を始める前になると、もえちゃん担当の”予報の権利を得る為のくじ引き”に大勢の人が行列が出来る程ではなくなっていた。
それはレイラに”故意に予報を外す”という行為が平然と行える度胸が付いた為である。
そのことにより、”高田のはは”ブームは徐々に下降して行った。
しかし、それでもレイラの人気は、まだまだ健在である。未だ、もえちゃんのくじ引きが無くなる事はない。
今日もくじ引きで1番の権利を得た女性が、錆付いたパイプ椅子に着いた。
フリーマーケットで安価に購入した中古の椅子もテーブルも、かなり痛んで来ている。
彼女は二十歳そこそこの女子大生と言ったろころで、一見社交的で要領が良さそうにも見えるが、何処で何を行っても余り長く続きはしないと言う、ちょっと”自分”が強そうなタイプである。
彼女は椅子に座るなり、自分から捲くし立てる様に話しを始め、自分のペースを存分に披露し始めた。
「最近、私の周りに変な出来事が沢山起こるんです。ひったくりがあったり、公園の前にある自動販売機が壊されたり、それに、日中堂々と盗みを働いたりするんですよ。
だけど、誰も犯人を捕まえることができないの。追いかけようと思っても体が動かなくなったり、近づくと勝手に体が飛ばされたりするっていうウワサなの。
昨日なんか、私住んでいるマンションの前で、一蹴りで自動販売機に穴を空けて缶コーヒーを盗んだらしいの。お金を盗まないで、缶コーヒー1本だけなんですよ。
それって、おかしいですよねぇ。
それに、私の部屋の上の階から夜になると物音がするの。誰も住んでいないはずなのよ。怖くて・・・。
勿論、管理人にも言って調べてもらったんだけど、そしたら、誰も居ないの。
ねえ、このまま住んでても大丈夫と思います?」
彼女は「大丈夫」と言わようとばかりに、食い入るようにレイラの眼を見つめて来る。
要は、自分の住んでいるところが大丈夫かと聞きたいのである。
大丈夫と言われ無かったとした時の対処がないからだ。
レイラは彼女の話が一段落着いたところで、彼女の身の回りの確認を始める。もっとも、本当は確認するまでもないのだが、個人情報なので、一応”聞いた”と言う形式を取る為である。
「え~と、お住まいは?」
と聞きながらも、彼女が答える前に、
「中塚ですね。それから、白山女子大の2年生で、一人暮らしね」
中塚駅は、親宿駅から高田町とは反対方向に2つ目の駅である。白山女子大の最寄りの駅もそこである。
「は、はい」
それに女性は驚き、続きを話そうとしていた出鼻を挫かれた。
「その、変な事件はいつ頃からですか?」
「え~と、そう、新しいバイトに行った日からだから、3日前からです」
最近小さな事件が多いと言う話は、もちろんレイラも知っている。
でも、今聞く話が本当であれば、通常の事件ではない。
それに、1週間前に錯覚かとも思っていたのであったのだが、空間の歪みを感じた様な気もした。
「それ、もえも今日学校でも聞いたよ。
隣の豊瀬町の”豊瀬川運動公園”の自動販売機も壊されたんだって。穴が空いていて、お茶が1本盗まれただけだったらしいよ」
珍しくもえちゃんもレイラの予報に加わって来た。
恐らく、彼女の話が本当であると言うことを告げたいのだとレイラは感じる。
もえちゃんも何かを感じていたのだ。
レイラが彼女に集中を始める。
と言う、ポーズを取る。
実は既に予報は済んでいる。今のレイラにはそれだけの能力がある。
「取り敢えず、上の階からの影響は無さそうだから安心して」
未来が良くない場合は、それを回避する為のパターンを色々と予報するのだが、今回はそれの必要もなかった。
彼女は、レイラの予報で安心したのか、ここぞとばかりに、将来や恋愛に結婚と、眩暈がする程色々と聞いてきた。
それにレイラはそこそこ当てたり、無難に外したり暈かしたりと、慣れた口調で答えていく。
もえちゃんは、レイラの話が上手くなったことを改めて感じる。
話口調が、若干胡散臭くなるように少し芝居掛かっているのだ。
そして、レイラは最後に忠告として付け加えた。
「明日のバイトは真面目にやらないと、後で痛い目に合うから気を付けてね」
「あっ、痛い目ね、はい、はい」
彼女は余り気に掛けずに帰って行った。
その日も、午後10時までの3時間で10人の予報を行った。
これは2年半経っても、全く変わっていない。
<つづく>
出だしの法則は全くの作りものですので軽く流して下さい。