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第16話 夏休み納涼”へろへろ女”生け捕り作戦23 

第16話の落ちです。

◆帰り◆

 出発の前、愛ちゃんを家まで送りに行く時であった。

 ペンションのご主人が、コテージまでわざわざ鍵を受け取りにやって来た。

 ご主人の後ろにはもう一人、肩よりも少し長い黒髪をさらさらと靡かせて歩く女の子がいる。麗美である。


「あっ、お姉ちゃん」

 愛ちゃんの喜ぶ声に、麗美が神妙な顔を付を崩して笑顔を見せた。


 笑顔に硬さは見られたが、この硬さはみんなの前で多少緊張していた為のもので、二日前にペンションで見せた硬さとは全く別な表情である。

 硬さの中には確かな温かさが感じられた。それに和美は安心する。


「これから、愛ちゃんを家まで送ってから、鍵を返しに行こうと思ってたんです」

 そう言う和美に、

「ええ、そろそろお帰りなのを麗美ちゃんが教えてくれたので、愛ちゃんを迎えに来ました」

 愛ちゃんは、車椅子を姉の元に移動させると反転させ、みんなと向き合う格好となった。


 このオンタイムの登場に和美は、始め少し驚いたのだが、今更驚くこともないことに気付いた。

 麗美には感じる力があることを自分は既に知っているのである。


「そうでしたか」

 和美は不思議な少女に笑顔を向けた。


「色々、有難うございました」

 ご主人が頭を下げると、麗美も一緒に無言で深々と頭を下げた。


「いえいえ、こちらこそ。凄く楽しかったです。ねえ、みんな」


「うん、凄く楽しかったよ」

「おじさん、また来るね」

 子供達からの声が飛びかう。


 そんな中、和美はレイラも麗美に話があるだろうと思い、レイラを探すのだが、さっきまで側にいたレイラが見つからない。


 気配を感じれるのは麗美だけではないのである。ここには、大御所がいるのだ。

 麗美が近づくのを感じたレイラは、一番後ろで目立たない様に、体の大きな庄蔵の影に隠れてしまっていた。

 しかし、それに気付いている麗美の方から、レイラに近づいて行った。


 麗美が庄蔵の前に立つと、気を利かせた庄蔵が一歩横に移動した。すると、後ろから何に怯えているのか、腰を曲げて落ち付かない様子のレイラの姿が顕わになった。


(緊張してる~)全員が頭を抱えてしまう。


 それに、麗美は笑みを浮かべて、

「ありがとうございました」

 再び、深々と頭を下げた。


 麗美から、どの様に思われているのか不安を抱いていたレイラであったが、その姿にホッとすると、震えながらも口を動かした。


「い、いえ、私は何も」


 それに、麗美はそれに首を横に振る。

「ううん、レイラさんのお陰です。レイラさんのお陰で前を見ることが出来ました」


 レイラの顔が、恥ずかしさでパッと赤くなる。面と向かってそう言われると答えようがない。

 麗美の顔もそれに合わせて赤くなっていく。

 二人は恋人同士の出会いの様に、はにかんで俯いている。


 みんなが二人に注目をしている。もう、この旅行には結末があることを感じている。

 それは見逃せない。


 麗美は少し俯いていた顔を上げると、言葉を続けた。

 レイラにどうしても伝えたいことがあった。それを早く伝えたい。


「私の前にあるもの・・・、目標が決まりました。レ・・・」

 麗美が俯いたままのレイラをじっと見つめる。


「が、頑張って下さい。きっと、素晴らしい建築デザイナーになれますから」

 レイラは俯いたまま、目まで閉じているので、麗美の話と被ってしまった。

 それに、麗美が笑顔になった。

 (不思議な人だ) 


「それもそうなんですけど、それは最終目標では無くなってしまいました」


「えっ?」

 愛ちゃんから見た麗美の未来がレイラの頭を過った。 


「私は、私はレイラさんを目指します。

 レイラさんみたいな人になれるように頑張ります」


 俯いていた顔を上げ、一瞬にして固まってしまうレイラを見上げて、

「それは、どうかと思うなあ~」

 みんなの感動を遮る様に、もえちゃんが呟き、笑いをさそう。


 その一言で、レイラも緊張が解れ、横目でもえちゃんに膨れてみせる。


「今度はレイラさんみたいに、あの場所に彼らが来ても救って追い返します!」

 そう、真剣な目で決意をする麗美に、レイラが先ほどまでの緊張が嘘の様に、麗美に話し掛けた。


「麗美さん。それは、偶然にそうなっただけで、一人の人間としてするべきことではないと思うの。

 掛け離れたことをすると、そのリスクは必ずやって来るから。

 そして、それが一人の力としては幾ら掛け離れていても、それだけでは最終解決には多分至らないの。

 それ程の力では全く無いの」

 

 レイラは真剣な顔を一転させ、

「それに・・・」


 レイラは思う、ヤンキー達を事故から救った上で、追い返したとは言え、自分と彼らの間に圧倒的な力の差があったからこそ出来たことで、威圧して追い返したことには変わりはないのである。

 決して、合意が得られた訳ではないのである。


 レイラは自分達の力は一時凌ぎでしかない。或いは、手立てのパーツでしかないと麗美に分って欲しかった。能力だけでは最終解決はしないのだと・・・。

 最終的な解決は、人間の心を解決しない事には、なし得ないことであるのだと。


 それは人間が心で動いている以上当然のことなのであるから・・・。


 だが、人間の文化も道徳もそんなに優れてはいない。まだ、本当の平和的解決が出来る様になるのは、何百年、いや、何千年も掛かるだろうとレイラは思う。

 だから、力や武力も残念ながら必要になってしまう。


 ただ、余りにも大きな力を持ってしまった人間と言うのは、時として周りが見えなくなって、その力を誤って使ってしまうことがある。

 その弊害は大きいのだ。

 危険と背中合わせ、それも知ってもらわなければならない。


 この世界には、不幸にもレイラの世界の遺伝を継いでしまい、この世界の人間以上の力を持ってしまった人達が沢山存在している。

 

 そんな人達をレイラは守らなければならない。


 レイラはその為に育てられ、この世界に来たのだから。



「・・・それにね、もう彼らは来ないのよ。あの場所も動物達ももう大丈夫だから」


 麗美は思う。確かにそうかもしれない、あのレイラの圧力に押されて帰って行ったのだから。しかし、何もこの先あの場所を乱す者は彼らに限定された訳ではない。


「でも、他の人達が・・・」

 麗美の不思議そうな顔に、

「それも、大丈夫。ねえ帯人さん」

 レイラの微笑む顔が美しい。


「はい、後はあのウサタヌキ達が解決してくれます。特別天然記念物のね」

 レイラにふられ粋に感じた帯人が、レイラに代わって麗美に説明をした。


「直に、色んな人が来ると思いますよ。でも、大丈夫守りに来るだけですから。

 まあ、あれだけ数がいれば、狭い檻に入れられることもないと思いますよ」


「そ、そう、何ですか?」

 麗美の驚きはもっともである。麗美はあの動物達を幼いころから知っており、そんな動物達だとは思ってもみなかったのである。


「そう、だから麗美さん。安心して自分の人生を、未来を追いかけてね。

 この先、後悔をしなくていい様に」


(あの動物達が・・・)

 麗美にも、力だけでは解決しないと言うレイラの言葉の意味が分った気がした。レイラは彼らを追い返したことだけで解決だとは全く思っていなかったのである。

 力以外の手立ても、ちゃんと行っていたのである。


「そうよ、後悔は未来の為であって、過去を追いかける為のものじゃないのよ」

 和美がそう言う。和美が最も身に詰まされる言葉である。


「過去は、追っても追っても、いつまで追っても絶対に捕まえることは出来ないの。

 この先の未来にね、この今の時を追いかける時も来てしまうのよ。

 だから、今を全力で生きて対処しないとね。 

 みんなも分ったー」


 子供達を見回すが、若い子供達には和美の様な後悔はまだ無い。意味は分るが実感はあまりない。

 何となく頷いているだけである。


「そうです・・・ね」

 麗美には心に染み入る言葉であった。


「そうそう、麗美さんうちの大学志望何ですよね」

 緒湖羅がそう聞く。


「はい、一応はそうなんですが・・・入れるかどうか」

 そうは言うが、昨日見た未来の”夢”?では、何処かの大学に入学していた。

 それも目も前の子供達が近くにいたのである。


 あれは、きっとレイラが見せてくれたものだと麗美は思っている。だが、それを今聞いては行けないことだと直感で分っている。

 恐らく特別に自分に見せてくれたのだと・・・。


 だからと言って安心はしない。

 それでは夢の通りに成り得るはずがないのだ。

 夢の様にならなければ、愛が歩いている姿の夢も、現実にならなくなってしまうのかもしれないのだ。


 きっと、麗美のその気持ちも見越しての未来の夢なのだと麗美はそう思う。

 だから、あの夢を現実にしなければならない。


 それが、みんなへの恩返しとなるのだと。


「大丈夫、麗美さんは頑張り屋さんだって愛ちゃんも言ってたし」

 緒湖羅と愛ちゃんが目を合わせる。


「はい、頑張ります」

 麗美の目つきは既に先輩を見る目付きになっている。


「そうしたらね、良かったら、うちの”予報研究会”に入ってくれると嬉しいな」


「そう、是非入って下さい」

 緒湖羅の願いに珍しく庄蔵が自分の希望を口にした。


「予報研究会って?」


 麗美の問いに、

「簡単に言えば、レイラさんのファンクラブよ」

 和美がそう答えた。


「それなら、是非入れて下さい!」


 そこで、帯人がもえちゃんに耳打ちをした。

「もえちゃん、麗美さん入れてもいいかい?」


 ことレイラのことになると、大学生と小学生の大きな違いがあっても、もえちゃんの許可がないと事が上手くいかないのである。


「まあ、大丈夫だよ。中稲畑大学くらい。帯人や諸湖羅だって入ってるんだから」

(OKってことか)

 もえちゃんの言葉に帯人は、来年予報研究会にも新人が一人ふえることを確信した。が・・・。


「ええ、私もそこに入ってしまうの?もえちゃん」

 諸湖羅は、もえちゃんに帯人と並べられたことに不満そうである。


「ちょっと待った。諸湖。私もってことは、僕だけが駄目な奴みたいじゃないか」

 意外な諸湖羅の言葉に、帯人から不満の言葉が漏れた。

 もちろん諸湖羅のジョークだとは気付いているが・・・。


 それを見て和美は笑いながら、仲裁に入った。

「陽太~うちは、みんな頭悪いから、ごめんね。あんまりいい遺伝じゃなさそうよ。頑張ってね」


「そんなことないですよ、和美さんは頭、凄くいいですよ。反応早いですし」

 緒湖羅がすかさず否定する。


「高校の先生が言ってましたよ。頭は使い方次第で、本来の能力を相当カバーできるんだって。

 僕もそう思います。

 僭越せんえつながら和美さんの頭の使い方は100点満点ですよ」

 と、帯人の言葉に、反応の早い和美は気付いてしまった。


「て言うことは、基本能力は低いって言うことじゃない」

 和美は、危く褒められたと思って喜ぶどころだったと、不機嫌そうに胸を撫で下ろす。


 それに、

「あ~すみません。そんな意味では・・・。でも、そう言う意味になりますか・・・」

 慌てる帯人に爆笑になった。 


 この後、レイラ達は名残を惜しみながら3台の車に乗り込み、思井沢の地を出発した。

 麗美と愛ちゃんは、3台の車が見えなくなっても湖畔道に残された思い出の残像を味わっていた。


 明日からの未来に気持ちを切り替える為に・・・。


◆母の思い◆

 子供達は、帯人と庄蔵の2台の車に分乗した。

 和美の車には、助手席に諸湖羅が、後部座席にはレイラが乗っている。


「ああ、楽しかったわぁ。うんん、充実してたっていうのかしら」

 そう、言いながら車を運転している和美の顔を木漏れ日が通り過ぎていく。


 両サイドから白樺の木に覆われた、国道77号線に向う通称思井沢通りの光は、木々の優しさに包まれている。

 たった二泊三日だったけど、和美はその思い出に心が満たされていた。


 レイラも、その和美の気持ちが体に染み入るのを感じている。

   

「子供達が何で、いつもレイラさん、レイラさんって言うのが良く分ったわ。

 本当は、心配してたのよ。

 レイラさんに纏わりついてご迷惑かけているんじゃないかって」


「そんなことは、全然・・・」


 そう、レイラにとっては高田町商店街に来て、いつも孤独だったところを救ってくれたのが、この子供達なのである。

 心の支えになることはあっても、迷惑の欠けらも感じたことはない。


「でも、安心したわ。そうじゃなかったのよね。レイラさんの近くにいれれば、それだけでいいのよね。

 あの子達、良く分ってるのね。

 近くにいるだけで、凄く楽しいのよね。

 それが良く分ったわ。ねえ、諸湖羅さん」


「はい」

 諸湖羅の珍しい元気な声が車内に響いた。


「なんか恐縮です」


「いや、ホントよ。靖子ちゃんのお母さんにジャンケンで勝って、ホント良かったわ」

 和美は頷きながら、ジャンケンの勝利を噛みしめ、そう言う。


「私はさ、この旅行の話を聞いて、最初っから大賛成だったの。自分も行きたかったしね。だって、時の人レイラさんと親しくなりたいじゃない」


「時の人って・・・」

 レイラの戸惑いを、和美は笑い飛ばす。


「でも、まさか7人の子供達の親御さんがね、子供達の計画に賛成するとは思って無かったの。

 でもね、どの親御さんからも何の反対が無くて、それどころか、みんな行きたがっちゃってね、大変だったのよ。

 特に、お父さん達がレイラさんと行きたがっちゃって。

 スケベ共が、ハハハ。


 でも、子供達の会にしたいって気持ちは、親御さん達みんな持ってたのね。親主体の会にはしたくないってね」

 そう言うと、和美は真剣な表情に戻っていた。


「みんな、レイラさんを信じているから、子供達を信じているからなのよ。

 どの子の親御さんもホントいい人なのよ。自分の子だけじゃなく、7人子供達のことを良く見えているの。

 幼い頃の友達の大切さを、みんなまだ覚えているのね。凄いことよね」


 レイラは、和美を初めとする親御さん達の愛情を一杯に受けている子供達が、羨ましく思えてしまう。


「陽太にはね、この仲間をずっと、大切にして欲しいの。素晴らしい子達をね」

 

 和美を初め3台の車の速度は、行きの時と比べると格段に遅い。

 残り少ない時間をみんなが惜しんでいた。

  

「こんな、私が言うのもなんだけどさ。

 あのヤンキー達をかばう気はないんだけどね。

 子供にはカッコ良く見えちゃうのよね。

 お堅い規則に従わないことが、自分の意志や強さを持っている様にみえちゃうのよ。

 結局、個人の強さで無く、集団の力を借りてるんだけどね。


 結構ね、みんな悪いことと知っているのよ。でも、許される悪いことと思っちゃてるのよね。

 サラリーマンだって、仕事の中で結構色々やってるでしょ。仕事だと悪いことって意識がなくなるのよね。自分がやっている意識がなくなるの。会社がやらせてるんだってね。

 それと変わんないかもね。


 それに、不良が更生すると、美談に褒められるのよね。ドラマや、映画でもそうでしょ。

 最初っから良い子の方が褒められるべきなのにね。

 まあ、それじゃドラマにならないけどさ。


 そして大人になったから自慢話よ。将来に良くなれば若い内は許されると思い込んでいたりするのよ。 子供だからって許されるわけじゃないのに。


 私はそれだけは絶対にしたくないの。


 私は過去を子供には絶対に知られたくないの。私の過去が子供に影響しなくなる歳までは絶対にね。

 過去を後悔して生きなきゃね、迷惑を掛けた人達に申し訳ない気がしちゃってね」


「和美さんは、もう充分ですよ」

 真剣に聞いていた、諸湖羅がそう言う。

「和美さんが思っている程、和美さんは悪いことしてないと思います」

 

「うんん、私が強いと言うことになって、頭にいた訳だから、直接手を出していなくても、それだけで十分よ。 

 あの子も、私の血を引いているのね。なんとなく私と同じみちを辿りそうな気がして。

 でもね、今のあのなんでしたっけ、”七面鳥?”と言う仲間に入れて貰えたのが嬉しいの。

 みんな物凄くいい子達だから。


 あの子もこの半年で、只のやんちゃ息子から凄くいい子になったのよ。

 親ばかかもしれないけど。

 それも、レイラさんや、梢の子のもえちゃんや、みんなのお陰なの」


 レイラには、和美の目が潤んでいる様に見える。


「そんな、私はみんなからお世話になってるだけで・・・」

 レイラは本当に褒められ過ぎで、恐縮してしまう。


「そんなこと無いわよ、レイラさん。

 子供ってかっこいいと思ったものに惹かれるのよね。私は、変なものにかっこいいと思っちゃって路を踏み外したけど。うちの子は、今ほら、鳩でないいすずめでなくて・・・」


「七面鳥ですか」

 レイラは和美がワザと間違っている気がして、苦笑いをする。


「そう、七面鳥の行動が凄くかっこいいのよ。それは、レイラさんが他の誰よりも物凄くカッコいいの。 真希未ちゃんのお陰でこの仲間に入れて、陽太は凄く喜んでいるの。

 ホントはね親として私の方が、もっと喜んでいるの。旦那もね。

 ただのわんぱくのガキが、一著前のこと言うのよ。凄く成長したの」


 それは、レイラにも良く分る。

 まだ小学4年生で、出会って1年も経っていないのに、あんなに幼かった子供達がすっかり変わってしまい、みんな驚く位にしっかりとしている。


 そんな、喜びをレイラに伝えていた和美であったのだが、

「ただ、ちょっと心配なのが、これからいいことが沢山あるはずなのに、全部今の楽しさに霞んでしまうんじゃないかって・・・贅沢な悩みね」

 そう言った。

 

 この後、麗美が来てからの”予報研究会”の活動についてで、一盛り上がりをみせた。


 和美は高田町に到着前に、私たち親の応援をして欲しいと、レイラと諸湖羅にそうお願いをした。

 その親の気持ちに、すっかりレイラは心を打たれてしまった。


 レイラには親がいない。いるとすればこの世界に来た時に、1年弱の間お世話になった漁師のおじいさんと、おばあさんである。

 レイラは、久しぶりに「帰ってみよう」そう思った。


◆ただいま◆

「ノシさ~ん、凄く楽しかったよ」

 翌朝、高田町商店街の八百屋さんである直志商店の店主”ノシさん”の元に靖子ちゃんがやって来た。 昨日、帰りがけに寄ったもえちゃんに続いて二人目である。


「ああ、靖子ちゃんお帰り。それは良かったね」

 ノシさんの目尻は急激に下がっていく。


「あのね、ノシさ~ん、”へろへろ女”でなくて”ヘラヘラ女”だったよ」

 靖子ちゃんにとっては、ノシさんが間違えたことが驚きであった。


「あれ?間違っちゃったかい。ごめんごめん」

 ノシさんは、自分の頭に手を当てて反省のポーズを取って見せた。


 それに、

「うん、どっちでも良いんだけどさ」

 靖子ちゃんは、只の報告とばかり笑いを返した。

 

 本当はノシさんは敢えて間違っのだった。それは、お酒の弱い鉄鎖にお酒を飲ませて、”へろへろ”にしてみようと言う、遊び心からであった。

 そして、実は弘史や昌史達が”へろへろ女”のことを知ったのもノシさんからの情報であった。


「それがさあ、ヘラヘラ女は男の人で凄くかっこ良くって、いい人なの・・・」

 靖子ちゃんの鉄鎖賛辞は永遠に続くと思われたが、何とか終わりに近づいた時、手にしていたバッグの中からお土産のマグカップを取り出した。

 そして、ノシさんに渡した。


「はい、お土産」

 マグカップには、朱真理湖の景色と”ノシさんへ ありがとう”と文字が彫られている。

 それにノシさんは、目をさらに細める。


「ありがとう、靖子ちゃん。早速今日から使わせてもらうよ」

「うん」

 靖子ちゃんが嬉しそうに頷いているが、何かもじもじとして、カップを眺めている。


 ノシさんはどうしたのかと思い、ふとカップを回してみると、そこには・・・。


 大きなハートマークがあった。


 それに、ノシさんは”ドキリ”として、息が詰まりそうになったが、裏返して見ると、そこに靖子ちゃんには見えない小さな傷程度の大きさで「おっさんへ、わかったで。鉄鎖」と書かれてあった。


 この大きなハートマークが鉄鎖のお酒の仕返しとわかり、


(あいつも、やるようになった・・・)

 そう思うと、笑いが込み上げてきた。


 靖子ちゃんは、帰り際に、

「大丈夫、ヘロヘロ女のことは、みんなには従兄のお兄ちゃんから聞いた話しってことにしておいたから。ノシさんから聞いたことはちゃんと内緒にしてるよ」


 そう言って、走って帰る靖子ちゃんのお土産を入れて来たカバンからは、七色の鈴が奇麗な音を響かせていた。


 それに、ノシさんは

(鉄鎖もいい男になったもんだ)

 そう呟いた。


 靖子ちゃんの話からは、最後まで麗美の話は出て来なかった。

 それは、靖子ちゃんなりの判断からなのだろうとノシさんは思った。それは、昨日寄ったもえちゃんも同じであった。


 靖子ちゃんの姿が大通りに消えるまで見送ったノシさんは店の奥に入ると、靖子ちゃんのお土産が、もえちゃんのお土産の”朱真理湖饅頭”とが並んだ。


 ノシさんはそれをみて、今日これからから来るお土産を想像すると、ドキドキするのであった。

 

◆この後◆

 大きな木のある芝地は、ウサタヌキの保護区となった。それと共に付近の湖畔道は、車両通行禁止となり、守られることとなった。

 そして、夏休みも終わりバイトを辞めた麗美は、安心して受験勉強に打ち込んだ。


 雄大くんの描いた特別天然記念物のウサタヌキ2匹に、愛ちゃんと介助犬しゅけ介。それに四つん這いのもえちゃん絵”すけすけ犬と仲間たち”は、思井沢高原の観光ポスターとなり有名になっていった。


 そして、このことがきっかけとなり雄大くんは芸術家を目指すようになった。

 後に、某駅前広場の銅像を造ったのが誰かは、言うまでもないことである・・・。


 <つづく>

2泊3日の旅行のお話に半年かかってしまいました。予定の倍以上の長さになってしまいました。


この長い16話で一つ分ったことがあります。それは、

”う●こ”の登場はアクセス数を数倍にすると言うことです。

この先、偶に登場して頂こうかと考えております。


次話は、題名が決まっております。


”第17話 晩 夏”


冬本番なのですが、物語の中では晩夏です。

2週間後位に更新する予定?でおります。


その時は、また、よろしくお願い致します。


長い16話をお読み頂き、本当に有難うございました。

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