第16話 夏休み納涼”へろへろ女”生け捕り作戦10
今晩何かが起こる。それは何か?
時間は次第に過ぎて行く中、レイラは思考を巡らせる。
◆忘れ物◆
「ごめんください」
レイラが再びペンションにやって来たのは、丁度、今日宿泊のお客さんの対応と、夕食の準備とが相まって忙しい最中あった。
中からのざわめきは伝わってくるのだが、一向に誰も出て来る気配が感じられない。
「すみませ~ん」
最初は忙しそうであったので、控え目に声を発していたレイラであったが、誰にも聞こえなかったのだと思い、今度は少し大きな声を発してみた。
その声は少しばかり大き過ぎた。ペンション中に異様響く良く通る声であったので、中からは驚いたご主人と夫人、それに麗美の3人から大きな声が返って来た。
「は~い」
「はい~」
「少々お待ち下さい」
(あら?大きな声を出し過ぎたかしら)
ちょっと顔を赤らめたところに、エプロン姿の麗美が小走りでやって来た。
「はーい」
作り笑顔でやって来た麗美であったが。レイラを見た瞬間、その笑顔が消えた。そして、緊張の面持ちとなった。
「お忙しいところすみません。先程、レストランに忘れ物が無かったでしょうか?あの~、黒い小銭入れ・・・」
レイラが全てを言い終える前に、麗美はエプロンのポケットに手を入れると、中から黒い小銭入れを取り出した。
「あっ、それです。有難うございます」
レイラは慌てた口調でそう言うと、嬉しそうに頭をぺこりと下げ右手を出した。
それに、麗美は俯きかげんで一応の作り笑顔を見せてくれた。
レイラは麗美の笑顔にホッとする。
「いえ・・・」
麗美は小銭入れを持った右手を、レイラに向かって差し出そうとした。
その時である。
麗美は何か違和感を感じた。ほんの僅かであるが自分の動きをぎこちなく感じたのだ。それは、体が重いのではない。脳裏に負荷を感じたのである。心を覗かれるような、漠然とそんな力を感じたのである。
(何か変?)
その瞬間、麗美の能力は、自然と心に力を込めていた。
(この人?)
麗美は何か不自然さを感じたが、そのままレイラに小銭入れを渡そうとした。しかし、次の瞬間、
目の前が眩み、そして右手に痺れを感じた。
すると、レイラに渡そうと差し出した黒い小銭入れが、自分の意志に反して右手から零れ落ちてしまった。
「あっ」
そう口から漏れたが、麗美は言葉よりも早く小銭入れを手放してしまった右手が、小銭入れを掴み取ろうと動いていた。 麗美の右手からは緑色の閃光が走る。
常識では考えられない速さで、素早く落下軌道の先回りをした。
麗美の能力からすれば、落とした位置から30cmも下がらない位置で掴み取る事が可能である。事実何かを掴んでいた。
もちろん、小銭入れの落下の先回りをしたのだから、右手には小銭入れが有るはずである。
しかし、麗美の右手の感触は小銭入れのそれでは無かった。人の手の感触である。
(あれ?)
それは、レイラの右手であった。麗美よりも素早くレイラの右手が動いていたのである。
(気づかなかった・・・)
「ありがとうございます。何処に落としたのかと探してたんです」
小銭入れを手にしたレイラが、ニッコリと微笑んだ。
それに、引きつった顔の麗美が応える。若干声が震えるだろうことは自分でも予測出来るのだが、抑えることができない。
「い、いいえ」
これで2度目である。
レストランで、落としたグラスを掴んだ件に続いてである。
どんなに好意的に考えても、絶対に偶然ではない。間違いなく自分と同じ能力があるのだ。それも、自分よりも遥かに上の能力なのだ。そして、あの心に感じた違和感も気に掛かる・・・。
(いったい、この人は誰?)
気がつくと麗美は驚きと、警戒観でレイラを見つめていた。
「あら、すみません。気がつかなくて、後でコテージまでお持ちしようと思ってたんですよ」
そこに、丁度夫人がやって来た為、緊張感が和らいで行った。麗美とは対照的な、目尻の下がった優しい顔つきである。
「こちらこそ、すみません。ありがとうございます」
レイラも満面の笑みを夫人に返した。
「年を取ると、駄目ね。気がつかなくて。麗美ちゃんが戻って来て直ぐに見つけてくれたの」
夫人にとっては、麗美の存在が本当に頼もしいのである。
「そうなんですか、麗美さん有難うございます」
レイラは二人に、一生懸命の笑顔でぺこぺこと何度も頭を下げてお礼を言うと、ペンションを後にした。
「今日も、8時までお願いね」
後ろから、麗美に話し掛ける夫人の声がレイラの耳に届いて来た。
レイラが去ったと同時に、麗美はいきなりの解放感を覚えた。
緊張感から解かれ、驚きの表情も元に戻すことが出来た。しかし、暫くの間、麗美はどうしても手の震えだけは抑えることが出来なかった。
◆予測◆
(麗美さん、怖い顔してたけど、本当は凄く優しいのよね)
レイラは、小銭入れを落とさないようにと言う、あの瞬時の反応から麗美の本質を、そう理解した。
確かにレイラの能力に驚いていたと言うのもある。だからと言って、レイラはほんの少し能力を見せた位で、今まであまり怖い顔をされた経験はない。
レイラは警戒されるまでの行動は見せないようにして、麗美の気持ちを推し量って見たのである。つまり、驚きの先がどちらに向くかである。
その結果、警戒の方に心が向いた。
何かが、麗美の優しさを塞いでいるのだ。レイラはそう思った。
それは、3年前の愛ちゃんの事故が原因であることは間違い無いとは思う。しかし、10年前に小学校が湖に沈んだことも許容した麗美さんが、憎しみは持っても、基本的な性格まで変わってしまうだろうか?
愛ちゃんに対してもそうだ。愛していることは、十分に伺える。しかし、愛ちゃんの気持ちを理解しようとする余裕が見受けられない。
レイラは3年前の事故を引きずる何かがある。そう考えた。
レイラは、麗美の昔の優しさを見てみたい、そんな衝動に駆られてしまう。
レイラがそんな麗美のことを考えて、ペンション前のロータリーを歩いていた時、一人の男とすれ違った。その男はレイラに親し気に声を掛けて来た。
「こんにちは~」
真っ黒に日焼けした、麦わら帽子を深くかぶった愛想の良い男である。
「ヒッ?こ、こん、に、ちは?」
思わず、緊張で声がうわずる。レイラはどうしても初めてのことに緊張してしまうのである。
「ほんまに、暑いですねー」
「ああ?ええ、ああ」
気の抜けた男の喋りは、やけに親しげである。レイラもその雰囲気に、ちょっとだけ落ち着きを取り戻して来た。
「はい、そ、そうですね」
愛想笑いを返すことが出来た。
「今晩は、みなさんで賑やかになりそうですね~」
確かに、大勢で来て、賑やかなのは間違いは無いのだが、この男が何故そんなことを。昼食の時を見ていたのだろうか。レイラはそう思った。
「ハー、まあ、多分。どうしてですか?」
「さっき、靖子ちゃんから聞いたんですわ。素直な良い子でんな~」
レイラは若干緊張が解けたとは言え、不可思議な男から繰り出される会話のペースに引きずられたままである。
「はい・・、有難うございます・・」
そう言うのが精一杯だ。しかし、意外と会話は直ぐに終わってしまった。
「そんでは、ここは良い所でっせ~、楽しんでくださいなぁ。みんな楽しみにしてるみたいやから。僕も楽しみですわー」
と言うと、右手を上げて、いきなりペンションに向かって行ってしまった。
(変わった人。・・・。靖子ちゃん、あの人ともう知り合いになったのかしら?)
レイラも踵を返し、湖畔道に向おうとした。が、再び後ろから声が掛けられた。その男からである。
「あの、うさぎみたいな、たぬきみたいな変な動物、見ましたか?」
急に落ち付いた標準語である。さっきまでの変わった方言ではない。レイラも振り向いて応えた。
「はい・・・?」
「賢い動物ですよ。この辺のことは何でも知ってる。・・・ほな、また」
そう言って、また右手を上げると、ペンションに向って行ってしまった。
(何のこと?)
そう思ったが、それよりも今のレイラには考えなければならないことがある。
直ぐに思考を切り替えて考え始めた。愛ちゃんから見た未来の出来事についてである。
愛ちゃんが麗美と会うのは、レイラの予報からは、この後たった2回のみなのだ。それは、今晩とその一週間後である。その時の麗美は・・・
一つは、麗美から愛ちゃんへの一週間後の別れの言葉。そして、もう一つは、今晩の無言の麗美の表情と左手の擦り傷。
愛ちゃんの予報からは、今日この後何かが起こる。それが事実である。そうとしか思えない。
それに・・・。
レイラは先程、麗美から小銭入れを受け取る時に麗美の予報をしようと試みた。しかし、麗美の力は多少なりとも未来に影響を与えるだけの力を持っていた。その為、はっきりと予報することは出来なかった。
過去を見ようとした際も麗美に警戒され、能力で心を塞がれてしまった。
麗美の力がレイラの予想以上に強かった為に、違和感を持たれてしまったのである。
(もっと、そっと心に触れるべきだったわ)
レイラは麗美を侮って、安易に触れてしまった。そのお陰で、僅かな過去しか覗くことが出来なかったのだ。
しかし、それでも遠い未来は見えないが、確かに今晩に強い意志が行動になることは間違いなさそうであることは確認することが出来た。
そして、麗美から覗くことが出来た僅かな過去が、レイラにはヒントになりそうな気がした。
現時点で、麗美の感情を強く支配している2つ過去。
大切な過去と、憎しみの過去。
◆麗美から見えた2つの過去◆
- 大切な過去 -
麗美は10年余り前、小学1年生の終わりの春休みであった。麗美は、たった2人きりの同級生の男の子を家に呼んでお別れ会をすることになった。
最後の時間を少しでも長く持とうと、3人は早朝から集まることになっていた。
2人の家は、麗美の家からは、2km以上山を降りたところにある。
湖の底に沈んでしまう位置にあるのだ。
「麗美ちゃん、これ、家から持って来たんだ」
30cm位の3本の苗木である。一人の男の子、まーくんが両手に持っていた苗木のうち一本を麗美に差し出した。
「いいの?」
「いいよ、どうせ沈んじゃうんだからさ」
「そっか~」
「これ、3人で記念に植えようよ。記念樹って言うんだってさ」
「へ~、それで、まーくん持ってたんだ。何を持ってるのかと思ってたんだ」
もう一人の男の子、賢くんも乗り気だ。
「麗美ちゃんのところは殆ど沈まないからさ、何処かに植えようよ」
まーくんの言葉に、
「うん、じゃあさあ、前に3人で行った学校の見える広い芝生のところは?」
「あ~。あそこいいね。景色がいいもんね」
麗美の案に2人の男の子も賛成した。
最後の1日を思いっきり遊んだ3人は陽が沈む前に植樹に向った。
「ねえ、まーくん、ところで何の木なの?」
「知らない」
「え~、知らないの?」
麗美と賢くんは驚いた。
「だって、家の前の小さな木を掘ってきたんだもん。大きくなったら分るよ」
「そっか~、そうだね」
「楽しみだね・・・」
そう言って、3人は歩きながら思いっきり笑った。
いつも一緒に遊んでいた同級生の男の子2人。2人はいつも麗美を大事にしてくれた。麗美の大切なお友達だった。
「麗美ね、また~みんなで同じ学校に行く方法を考えたんだ」
麗美がそう言うと、男の子二人が話に喰いついて来た。
「うそー。そんなこと出来るの」
「うん、同じ都会の大学に行けばいいんだよ」
「大学?」
「そう、そしたらまた一緒に学校に通えるよ」
「そっか!そうだよね」
まーくんが嬉しそうにそう応える。
「そうだね。麗美ちゃんに負けないように僕、勉強するよ」
賢くんが、そう言うと、
「僕も頑張る」
まーくんも、そう頷いた。
3人は同じ大学で、また一緒になることを約束をした。
「その時は、この木も大きくなっているね」
「そしたら、一緒に此処に来てさあ、この木を見に来ようね」
「うん」
「うん」
この後、3人の話は将来に広がって行った。
- 憎しみの過去 -
麗美の目の前に映る沢山のライト。麗美に対しての恐怖の表情と裏腹に、麗美に向って突っ込んで来る。
それを麗美がいとも簡単に交す。そして、通り過ぎたバイクがまた戻って来る。
バイクの逆光で周りが良く見えない。
しかし、麗美の視界は逆さまである。
◆予測2◆
レイラは湖畔の道を歩いていた。背筋を伸ばして、感情を抑えた静かな表情である。しかし、頭の中では、この思井沢に来てからの全ての事が渦巻いていた。
今の麗美は、最も能力の伸びる時期である。通常、能力は9歳で芽生え、18歳で能力が大幅に伸び、27歳頃に全ての能力が確立される。
つまり、もえちゃんや、愛ちゃんの歳で能力が開花して、麗美の歳で大きく伸びる。そしてレイラ位の年齢で、全ての能力が確立するのが一般的である。
と言うことは、麗美は自分でも驚く位能力が伸びているかもしれないのだ。思った以上のことをしてしまい、事故を起こす可能性が高いのが麗美の年齢である。
レイラには、麗美が優しい子であることは分っている。しかし、色んな憎しみから、自分の大きくなった力を一瞬の判断の誤りで、使い間違う可能性があるかもしれないのだ。
レイラにはそんな心配が過るのである。
ふと、レイラは思った。
(そう言えば、もえちゃんも9歳だわ。能力が?まさか・・・)
もえちゃんからは能力を感じないのである。
(そんなこと、ないわよね)
レイラは思考を戻した。
レイラ達がペンションに来た時から、麗美は強い憎しみを持っていたことをレイラは感じていた。そして、麗美の中で現在強く思っている過去を僅かであるが見ることが出来た。
(あれだけ強い気持ちであれば、きっと関係があるはず)
大切な過去と、憎しみの過去。二つに関係があるとレイラは考えた。
(10年前か・・・。あの植樹した3本の木は、どこなのかしら?)
麗美の過去からは、順調に育っていれば10年前に植樹した木が3本、湖畔にあるはずなのだ。
(植樹したのはこの湖水が全部干上がったとしたら、湖底が良く見える場所だったのよね)
すると、少なくても当時は植樹をした場所から湖面までは、見通しが良かったことになる。
(そう言えば、麗美さん家の持っていた土地はコテージのから向こうよね)
レイラは、もえちゃん達の遊んでいる姿を見下ろしながら湖畔の道をコテージに向って歩いて見た。
(この辺ではなさそうね)
すると、宿泊しているコテージを100m程越えたところである。
そこで、レイラの真前を一匹の動物が通り過ぎた。
「あれ?ウサタヌキ」
ウサタヌキは、レイラの目の前を横切り、背の高い木に飛び乗ると四肢を器用に使い幹を登り始めた。
(賢い動物ですよ。この辺のことは何でも知ってる・・・)
レイラは、ペンションの前で会った男の言葉を思い出した。
「よ~し!」
レイラはウサタヌキの後を追って、背の高い木を登り始めた。
あっと言う間に3分の2程登ると、そこにはウサタヌキが腰掛けて、湖畔道の奥の方を見つめていた。
レイラは、一本下の枝から近づいて行ったが、ウサダヌキは一向に逃げようとはしない。
丁度、レイラの視線の高さが、ウサダヌキの位置と同じ高さである。
(ほ~ら、もえちゃんじゃなくても人懐っこいのよ。結構賢いのね)
レイラは自信を持って近づきたいところだったが、1m位手前で近づくのを止め、ウサタヌキが見つめる方を眺めてみた。本当は逃げられない自信が無いのだ。
そこには、バラ線の張られた大きな木の在る芝生があった。
(あの場所は・・・)
そこは、思井沢高原に来る途中に寄った高台から見た場所である。確か、高台でもウサダヌキがあの場所を見つめていた。
良く見ると、バラ線は、芝全体を守っている訳でもなければ、大きな木を囲っている訳でもはない。どちらかと言うと、大きな木と、そこから湖に向って真横に少し離れたところにある高さ2~3mの一本の細い木の両方を、囲んでいる様に見えるのである。
(確か、あそこは湖面までの視界は良好だっけ。ウサタヌキは、ここからあの大きな木が見えることを知って登ったのかしら・・・この辺のことは何でも知ってるんだっけ。ホントかしら?)
ペンションの前であった男の言葉が、また思い出された。
そこで、レイラは一つ試してみようと思った。
もえちゃんがにコミュニケーションをとるように、予報をして見ようと思ったのだ。動物に試すのは初挑戦である。
レイラは、枝に座るウサタヌキに集中した。
初めてである。レイラは、ウサタヌキへの集中の仕方、覗き方を手さぐりに変えてみる。そして、何度か試みると、
「見えた!!」
一瞬ではあるが、未来を見ることが出来た。
そこには、何故か麗美の顔だけがはっきりと見えるのである。月明かりに照らされた憎しみに覆われた麗美の顔である。
(多分、今晩?・・・。なぜ、なぜ麗美さんが? 何で、夜に?)
しかし、見えたのはそれだけである。思考を廻らせるレイラにウサタヌキは、レイラに向って話し掛ける様に鳴いている。
「くーくくく、くーくー・・・・・・」
一生懸命に鳴いている様に見える。
(何か言いたいのかしら)
そう思ったレイラは、ニッコリと笑い、
「な~に?」
と、手を差し伸べてみた。
すると、ウサタヌキは急いで逃げて行ってしまった。
「なに?あ~あ、懐いてくれたんじゃないんだ、かしこくな~い」
ちょっと、がっかりした。しかし、レイラの顔には心からの微笑みが戻っていた。
◆肝試し決行◆
レイラがコテージの前まで戻って来ると、丁度遊び終えて、愛ちゃんを家に送った後の元気な子供達と、疲れてぼろぼろの帯人と庄蔵の9人が、湖畔の道路を戻って来るところであった。
「レイラちゃ~ん」
もえちゃんが、レイラに駆け寄って来た。それに他の子供達も続く。
そこに緒湖羅が夕食が出来たことを知らせに外に出てきた。
「みなさん、食事が出来ましたよ~」
「『は~い』」元気にみんなが返事をする。その中には、帯人と庄蔵の少し太い疲れた声も含まれている。
この後の夕食は盛況ではあった。
特にレイラは、同じ材料でも作り方によって味がこんなにも違うのかと衝撃を受けて声も出なかった。もっとも声が出なかったのは、ショックにではなくて、美味しさの衝撃で食べることに集中してしまったせいである。
しかし、7人の子供達は夕食のカレーを胃袋の中に流し込むと、子供達の夕食はあっという間に終わってしまった。
思井沢高原に来る途中のサービスエリアで行った腕相撲大会で負けたもえちゃんを除く子供達は、まだ食事中の大人達を残して、早々に後片付けをした。そして、花火を持って先に出た、もえちゃんの待つ外に飛び出した。
「あら、あの子達ったら、もう遊びに行っちゃったわ」
和美は、花火をするのを待てなくて外に飛び出したと思っているのだが、実はもえちゃん達には別の目的があった。
それは、これから一大イベントが控えているのである。そのイベントを実行するには、もう一作戦を練らなければならない。
もえちゃんの後を追って外に飛び出した子供達6人は、
「七面鳥レンジャー集合!!」
もえちゃんの合図に、横一列に並んだ。続いて、
「それでは、”ヘロヘロ女生け捕り作戦開始”する」
もえちゃん隊長の司令に、
「『イー』」
コテージの中に聞こえないように、みんなが控え目に小声で応える。
そして、円陣を組んだ。
「さて、これからヘロヘロ女生け捕り作戦開始する」
もえちゃんの引き締まった声が、みんなの心を興奮させた。
「何か、わくわくするよね」
「うん」
靖子ちゃんも雄大くんも落ち着かない様子である。
「だけど、その前にどうやって出掛けるかなんだけど」
もえちゃんが問題を口にした。
「夜は出してくれないよね」
健太くんが腕を組む。
「うん、帯人さん達3人は何とかできると思うけど、問題はレイラさんと和美さんだよね」
真希未ちゃんの意外な言葉は、問題の的をついている。
本来、真面目な真希未ちゃんらしい行動ではないのだが、雰囲気がそうさせたのか、今回は凄い乗り気である。
真希未ちゃんの言うとおり、最大の難関は今回の引率者である和美を、如何にして説得するかなのである。
まず、もえちゃんが自分の考えを披露した。
「そこで、まず名目は、肝試しにしようと思うんだ」
「うん、なるほど!それはいいね」
陽太くんが、もえちゃんの案に関心した。
「そして、まず、帯人を取り込もう。みんなが寄って行けば、帯人は喜んで賛成してくれるよ」
帯人は完全に性格をもえちゃんに読まれている。
「そしたら、緒湖羅さんと庄蔵さんも大丈夫だよね」
澄子ちゃんもすっかり、自分の意見を言うことに慣れて来た。
「じゃあ、帯人は真希未ちゃんに弱そうだから、真希未ちゃんと、陽太くんに任すよ」
「うん、」「わかった」
もえちゃんの言葉に二人は頷いた。そして、続ける。
「健太くんと雄大くんは、諸湖羅さんと、庄蔵さんを任すよ」
「うん」「うん」
健太くんと、雄大くんも、もえちゃんの采配に納得で真剣な表情で頷く。
「和美おばさんは、どうしよう?」
靖子ちゃんが、最大の問題点に触れた。それには、一番和美を知る息子の陽太くんが、ニコッと笑った。
「母ちゃんは、そう言うのホントは大好きなんだ。そのくせお化けとかに弱いから、何とかしてお化けじゃないって証明したがるんだよ」
「うんうん、それで」
「だから、そこを攻めようよ。まずは、・・・」
陽太くんが、自分の考えを披露した。
「じゃあ、その作戦で行こうよ」
「いいね」
それに、みんは納得だ。
「和美おばさんは、私と澄子ちゃんに任せて」
靖子ちゃんが自信満々に名乗りを挙げた。
「うん、靖子ちゃんと、澄子ちゃんが適任だよ」
陽太くんが太鼓判を押した。
「じゃあ、レイラさんはもえちゃんしかいないから、丁度いいね」
靖子ちゃんがそう言った。
「うん、わかった。任せて。でも、もし予報で駄目って言ったら・・・」
「分ってるよ。そんなの。ねえ、みんな」
「もちろん、危険な目には会いたくないもん」
既に、レイラの予報の位置づけは何より優先されるのが七面鳥レンジャーの暗黙の了解である。
因みに、もう一つだけ規則がある。それは、七面鳥レンジャー内の恋愛は禁止なのである。
役割分担は決まった。これで、上手くいけば今回の旅行の最大のイベントが始まるのである。
みんなの目は、いつになく輝いていた。
<つづく>