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第5話 恋のカリスマになりゆく (小学生の間では)

予報士と言う商売を始めたレイラではあるが、未だにお客は誰も来ない。

しかし、最近ちょっとだけ小学生の間で人気が出て来た。残念ながら収入には繋がらないのだが。

 ◆レイラ天気予報をやって見る◆

 今日も、もえちゃんはやって来た。もえちゃんに初予報をしてから10日が経過したが、休むことなく毎日やって来る。


 ちょっと変わったのが、日に日にデレデレやって来る様になったことである。

 元々、そう言う子だったのか、隣の席の男の子と仲良くなり過ぎたせいなのか、レイラには分らなかいのだが、デレデレした姿がとても似合うので、きっと元々そう言う子で、レイラに慣れて来たせいだろうとレイラは思っている。


 昨日のレイラの予報も当たった様だ。もえちゃんは、レイラに向けて短い親指を真直ぐに突っ張っらせて立っている。


 もえちゃんの学年、3年生の今日は遠足だったらしい。

 それで、昨日はもえちゃんと天気の話になったのだ。あいにく天気予報を見て来なかったレイラは話の成り行き上、自力で予報することになってしまった。


 だが、昨日はどうも調子が悪く集中が出来なかった。あるいは、自然現象は苦手なのかもしれない。真っ青な稲妻は見ることが出来ず、弱々しい、豆電気程の光が体を霞めた程度であった。


 レイラは、なんとなくお水っぽい気がしたのでもえちゃんには、かっぱを持って行くように伝えた。

 もしかすると、高田町商店街に来る途中で、髪を奇麗に頭の上げて膨らまし、2倍位の頭の大きさに見える髪型で出勤するホステスさんが印象に残ったからかもしれない。


 それでも、雨具は用意するに越したことはないので、まあいいっかとレイラは思った。その程度の予報であった。


 ところが今朝は気持ち良い秋晴れになってしまった。

 今回の予報に自信の無かったレイラは、やっぱり外れてしまったかなぁと、頭を掻いた。

 それが午後になると、一転してして何処からともなく鈍よりた分厚い雨雲が神風に吹かれてやって来たのだ。


 そして、短い時間ではあったが遠足の帰りに、かなり強めの雨、にわか雨がお降り遊ばせたのである。


 もえちゃんは、朝出かける時に天気予報を見ていたお母さんの「今日は雨降らないよ」と言う言葉を受け入れず、レイラの予報を信じて雨ガッパ1着と、傘2本を持って出た。

 どうも、自分の班の4人分を持って出たらしい。


 この数で、何故かもえちゃん的には丁度良い数であった。

 もえちゃんは、レイラにもう一つ予報を頼んでいた。

 それは、ジャンケンと、網だくじのどちらに運があるのかだ。レイラは、ジャンケンにに今年最大の勝負運あると予報してあげていた。

 この予報にはレイラも自信があった。


 雨が降り始めた時、もえちゃんの班のメンバーは誰も雨具を持っていなかった。そこに、もえちゃんは待ってましたとばかりに、ドラエもんの様に『ジャン』と傘を一本取りだした。

 さらに、もう一本取り出した時には、班のみんなから「うぉー」と歓声があがり、さらにカッパが出て来た時には、尊敬の眼差しで見られた。もえちゃん株は急上昇。


 そこで、班内で公平に雨具争奪ジャンケンを行った。公平なもえちゃんの態度にもえちゃん株はさらなる高値を打った。

 もえちゃんは見事に?負け、勝者の二人には、それぞれにカッパと傘1本を譲ることになった。

 二人からは、

「ごめんね、もえちゃん」

「ありがとう。もえ」

 と言うことばをかけられた。


「いいの、きにしないで。公平なジャンケンなんだから」と、悲しさを堪えて笑顔を見せると言う出来た子を演じるもえちゃんは、残った一本で意中の男の子との相合傘を勝ち取ったのである。


 遠足から帰って来たもえちゃんは、レイラにその状況を詳しく話してくれた。

「ありがとう、レイラちゃん。レイラちゃんの予報は、完璧だね」とレイラの予報を絶賛してくれた。 


 それよりもレイラは、もえちゃんの強かさと計算力に脱帽だった。

 あたかも周囲からは自然の成り行きにしか見えない見事な手口である。

 帽子をかぶってなかったのが、残念でしょうがないレイラであった。


 それにしても、半ば適当な天気予報が見事当たってしまい、

「天気予報士になるのではないかしら」と錯覚しかけたが、瞬時に

「無理よね。予報士の試験は難しいらしものね」レイラはあっさりと断念した。


 もえちゃんがこの話を友達に話したことから、数人のもえちゃんの友達の間では『恋のカリスマ レイラ』が、レイラの知らないところで育って行くのであった。


 もえちゃんは、話を終えると直ぐに帰って行ったが、その後に2~3人の小学生のうろつく姿が、気になったレイラである。


◆真希未ちゃんは色っぽい◆

 真希未ちゃんは背が高い。小学3年生で140cmは有に超えている。おっとりとした性格に見えるが、なかなか大人の雰囲気を醸し出したりする。

 したたかさが大人っぽいもえちゃんとは、また違うタイプの女の子である。


 レイラが、予報士を行っている閉店後の八百屋さん(直志商店)に到着すると、二人の女の子がレイラを待っていた。

 一人は勿論もえちゃんで、もう一人は、もえちゃんと同じクラスの真希未ちゃんと言う女の子である。


「レイラちゃ~ん」

 もえちゃんが、待っていたとばかりに両手を振りながらデレデレと迎えてくれる。

 隣には見慣れない?いや、確か昨日もえちゃんが帰って行った後に、この辺りをうろうろしていた様な気がする。


 レイラが先に聞いてみた。

「もえちゃんのお友達?」

「そう。真希未ちゃん。レイラちゃんのことを話したらね、お願いがあるんだって」

 真希未ちゃんは、緊張しているのか、小さなもえちゃんの後ろに隠れて、ハニカミながら、挨拶をする。

「今晩は」

 小さな声である。

「今晩は」

 レイラも優しく応え、真希未ちゃんの肩に手をのせる。


「もしかしたら、恋の悩みかな?」

 多分、もえちゃんが連れて来たのだから、そんなことなのだろうと思った。

 もえちゃんの恋を叶えたことで、今はちょっと余裕がある。

「凄い。何で分ったんですか」

 言葉使いを知っている礼儀正しい子だ。


「あら、礼儀正しいのね。誰かちゃんと違って」

「それ、もえのこと?」

 もえちゃんの頬が、風船の様に膨らむ。怒った顔も可愛い。

「あれ?もえちゃん被害妄想よ」

「うそ、ばっか言って」

 ぶつぶつ言っている。


「それで、どんはお話かな?」

 もえちゃんを無視して、既にもえちゃんが準備してくれている椅子に座る。


 もえちゃんは、レイラの助手の様に毎日先に来ては、閉店後の八百屋『直志商店』の前にテーブルと椅子2脚を準備していてくれる。


 残りの一つの椅子を二人で譲り合っていたが、真希未ちゃんが座った。

 何か、今日は余裕がある。

 収入にならない予報とは言え見事にもえちゃんの恋が叶って、収入にはならないとは言え予報を信頼して次のお客?が来たのである。


 偶々小学生なので、多分また収入にはならないのだが、これから予報士としてやっていく自信にはつながる。

 レイラは、ホント収入にならないのは残念だが、気分的はとてもハイになっている。何か、真希未ちゃんを喜ばせてあげたいと言う気持ちになった。


 ホント、収入にならないのは、重ね重ね辛いのだが。 収入か。


 もえちゃんが言う

「真希未ちゃん、あんまり時間がないんだ。昨日も遅く帰って怒られたんだって」

「そうなんだ」

 やっぱり昨日うろうろしていた子なんだ。そっか、結構思い詰めているな。小学3年生とは言えこの子は大人っぽいものね。昨日は、きっと声を掛けられずに帰っていったんだ。

 レイラは、いじらしく思う。


「どんなお話か聞かせてくれる」

 レイラの優しい言葉に真希未ちゃんは、安心したかの様に緊張した肩の力を抜いて話し始めた。

 話はこんな恋の話だった。


 真希未ちゃんには好きな男の子(陽太くん)がいる。

 調子が良く、エッチでスカートめくりが好きだ が、頭が切れる背の小さな男の子だと言うことである。


 3日前、真希未ちゃんは、久しぶりにスカート姿で登校をした。クリスマスの様な真赤なひざ丈のスカートで、自分でも自信の一着であるらしい。


 朝、教室に入ると既に教室で友達と話をしていた陽太くんと目が合ったそうである。

 陽太くんは、真希未ちゃんの真赤なスカートに見とれていたと言う。

 もちろん、真希未ちゃんの話ではだが。


 一時間目の国語の時間が終わった後の休み時間であった。

 真希未ちゃんが、もえちゃんと話をしていたら、誰かが後から近づいて来て華麗な手捌きでスカートをめくり上げた。


 スカートを捲られて驚いたことと、何より、お気に入りのスカート悪戯されるのではないかと思い、真希未ちゃんは、いつものおっとりとした動きからは想像もつかない程の速さで、スカートを捲った腕を掴み上げ、思いっきり投げ飛ばしてしまったらしい。


 体力で劣る男の子は、仰向けで空に浮いた形となり、机を一つ越え隣の列の机をなぎ倒してしまった。真希未ちゃんは、華麗過ぎるスカート捌きに、咄嗟に陽太くんと気がつかなかったことを悔やんでいる。


 それ以来だ、いつもからかいに真希未ちゃんのところに来ていた陽太くんは、全く近づかなくなってしまった。


 真希未ちゃんにとって陽太くんの話は、からかい半分ではあるが、話は面白く機転がきいており、しかもやさしさまでもが隠されていて、とても楽しいのだそうだ。しかも可愛いとも言っている。


 絶大なほめ言葉にレイラも聞いてて恥ずかしくなって来た。

 悔しいわね、相思相愛じゃないの。何も悩むことないじゃないかとも思ったが、これが恋の悩みってもんね。小学3年だし。


「わかったわ。真希未ちゃん」

 3年生から青春をやっている真希未ちゃんを見ていると、自分の生活との違いに切ない気持になってくるが、大人の余裕を見せたようと、穏やかな表情を必至で保った。


「予報するわね」

「ありがとうございます」

 真希未ちゃんの表情が安心した表情になる。


 レイラは、目を閉じる。

 商店街の雑音が急に飛び込んでくる感じがする。

 集中する。

 もえちゃんがいると、落ち着く。そんな気がした。


 大きく深呼吸をする。

 さらに集中する。

 依頼された内容以外の全てのことを頭の中の片隅に追いやる。

 周りの音が小さくなっていく。

 心地よい緊張感に興奮を覚える。そして、目を開けた。


 レイラの目には辺りが白いもやに包まれて見える。

 気持いい。

 そして、稲妻が降りる。真っ青な稲妻。


 あれ?やっぱり、レイラちゃんが青く光った。最初に占っ、いや、予報してもらった時のように。

 もえちゃんには、間違いなくレイラが青く光って見えた。でも、真希未ちゃんは驚いていない。

 どうしてだろう?もえちゃんは思った。


 レイラの脳裏には、未来が過去であるかのように記憶の中に刻まれる。

 レイラがウフッと笑う。

 もえちゃんは、震えを感じた。

 そして、レイラは落ち着いた口調で話し出した。


「真希未ちゃん。明日はお祭りよね」

「はい。うちのすぐ近くの神社のお祭りです」

「お父さんと、お祭りに行くのよね?」

「多分、お姉ちゃんと行くと思いますけど」

「ホンと、で、お父さんの名前を教えてくれる?」

「賢太郎って言います」


 真希未ちゃんは、話がかみ合ってないなと思いながらも、さっきまでとは違った、レイラの雰囲気に圧倒されて、質問されるがままに答える。

「”賢さん”ね、わかったわ。あと、明日は赤いスカートでお祭りに行ってね。そして、境内に一番近い綿菓子屋さんに行ってみて。お父さんは措いて、そこには一人で行ってね」

「一人でか~。巻けるかな~」


 『巻く?』真希未ちゃんは、刑事ドラマが好きである。

「心配しなくても大丈夫。賢さんには、賢さんの事情が出来るから」

「そっか。分りました」礼儀正しい。


「あとは、思うままにね。頑張って!」

 と、レイラはニコッと笑って締めくくった。

「えっ、それだけでいいの?」

 真希未ちゃんは以外とばかりに驚き、タメ口になる。

「大丈夫。レイラちゃんを信じて」

 もえちゃんが太鼓判を押す。


「う、うん。やってみます」

 半信半疑ではあったが、とにかく信用することにした。

「早く帰んないと、怒られるよ」もえちゃんが心配する。

「あっ、そうだった。じゃ、また来ます」と言って、

 真希未ちゃんは、走って帰っていった。


「もえちゃん、真希未ちゃんの持っているの、筆箱?」

「そう」

「何で、筆箱持ってるの」

「レイラちゃん、小学生はここに来るだけでも色々大変なの」

 レイラには、意味が分からない。もえちゃんに聞いてみると、真希未ちゃんの門限は18:00である。二日続けて、門限を破ることは出来ないので、もえちゃんの家で一緒に勉強をしたことにして、一度18:00頃に家に帰った。

 その後もえちゃんが真希未ちゃんの家に筆入れを忘れたことを教えてあげる電話をする。そして、筆入れを取りに行くことを口実にして家を出て来たと言うことである。


 もえちゃんの家に行ったことは本当らしい。もちろん勉強はしていないが。

 手が込んでいる。


「もえちゃんが考えたんでしょ」

 レイラは、横にいるもえちゃんに目だけを向けて聞いてみた。

 もえちゃんは、声を出さずに笑っている。

策士である。


「ところで、前から不思議だったんだけど、もえちゃんの門限って遅いのね」

「えっ、萌家ね。萌家は普通じゃないから。でも、そろそろ帰るね」

 もえちゃんにはぐらかされた。


「ちょっと待って、明日は一緒にお祭りに行ける?」

「えっ?」

 意外な言葉にもえちゃんの目が輝く。

「ホンと!行く!!行く!!!」

「じゃ、明日ここで、4時待ち合わせにしようね」

「うん、わかった」

 子供っぽく、もえちゃんの声が弾んでいる。レイラは、珍しい姿を見た気がした。そう言えばもえちゃんの子供らしい姿って、あんまり見ないと思う。あまり、子供の匂いがしない子である。


「もえちゃん、頼みがあるんだけど」

「なに?」

「お酒、家にある?」

「たくさんあるけど」

「一本もらえるかな。お祭りだしね」

「レイラちゃん、お酒好きなの」

「明日はね」

「わかった。じゃ、何か持ってくるね。一本でいいの」

「うん。一本で十分。小さいのね」


 もえちゃんも帰っていった。レイラは、その後も午後10時までは頑張った。頑張って通り過ぎる人の数を数えた。215人だった。確率は215分の0であった。数値にならない。

 

 翌日、真希未家では、普段は仕事が忙しく休日である土曜日も遅くまで仕事をしている真希未ちゃんのお父さんが、珍しく午後には家に帰って来た。


 そして、祭り好きと言うか、屋台好きのお父さんは、珍しく真希未ちゃんを連れてお祭りに向かった。

 真希未ちゃんは、レイラの言う通り例の赤いスカートで出かけることにした。


 直志商店の前にはレイラより先に、もえちゃんが来ていた。

 16時を5分だけ過ぎていた。


「レイラちゃん遅いな~忘れてるんじゃないよな~」

 楽しみにしていたもえちゃんは、20分も前に来てレイラを待っている。

 店の前をうろうろして、落ち着きがない。


「お待たせ!ごめんね」

 後から、声がする。あれ、レイラちゃんだ。

 もえちゃんは、レイラが近くに来るまで全く気がつかなかった。


 もえちゃんが振り向くと、奇麗なお姉さんが手を合わせて誤っている。あれ?

「あれー!ホンとにレ、レ、レイラちゃん?」もえちゃんは、驚いて大きな声を出してしまった。

「そう。レイラよ。レレレのおじさんじゃないわよ」

 ちょっと恥ずかしくてボケてみた。


 レイラは、濃紺のタイトなミニスカートに、黒のストッキング。それに踵の高い紺のパンプス。上は白のセーターにデニムのジャケット。ストレートヘアーには、軽くウエーブをかけて、化粧までしている。


「時間かかったわ、眉毛を描くのって大変よね。普段しないから、もうくたくた」

 とは言うものの、ちょっと自信ありげにポーズ取りながら話している。


 奇麗だと認めるのは、何故か分らないが癪に障るので、敢えてそこには触れずに

「遅いよ~、待った」とだけ言った。

「ごめんね」

 手を合わせるレイラちゃんは、いつもの何倍も奇麗だ。


「ところで、もえちゃん持って来てくれた」

「あ、うん。」

 可愛いポシェットから、ワンカップの日本酒が出てきた。

「おっつ、日本酒かー久しぶりだけど、大丈夫かしら」


「ビールの方が良かった?温くなるから日本酒にしたんだけど」

 と、言いながらレイラに渡した。

「うん。大丈夫。おじいさんと飲んだことあるし」

 と言い、蓋をカパッツと空ける。


「レイラちゃんのおじいさん?」

 そっか、レイラちゃんも家族いるのよね。何故かそう思った。

「そう。お酒強いのよ。」

 と言いながらぐいぐいと一気飲みをする。

「グヒ~。くるわよね」


 大きな口を開けているレイラを、もえちゃんは唖然として見てしまう。やっぱり、着飾ってもレイラちゃんね。

 もえちゃんは、ちょっと安心した。


「さあ~て、もえちゃん祭りに行くわよ。お酒が回らないうちに説明しとくわね。グヒ」

 二人は、祭りに向かって歩き出した。


 レイラは、もえちゃんに「恋の真希未ちゃん大作戦(一人で綿菓子買えなかった)」の説明をした。

 最後の方は、下がもつれてきて上手く説明出来なかったが、頭の回転の早いもえちゃんは、既に話の途中で自分の役目を理解していた。


 祭りの人ごみのざわめきが風に乗ってやって来る。

 その音は、次第に近づいて来て、ざわめきの中にメリハリのある音が聞き取れる様になって来た。


 もえちゃんは、心が躍る気持ちになって来た。

 なって来たのだが、レイラの様子がどうも心配だ。

「もえちゃん見て、私、結構胸あるのよ」「これでも女なんだから」なんて言って胸を寄せて見せ付けてきたり、そうかと思うと涙ながらに貧乏生活の話を始める。

 もえちゃんも、そこそこはレイラの貧乏さには気付いていた。

 最初は、ウザいなと思ってレイラの貧乏の愚痴を聞いていたが、想像以上の貧乏さに同情してしまった。


 大通りから、境内に向かう一本道の両側には夜店が間隔を開けずに立ち並ぶ。

 その入り口に、真希未ちゃん親子がいるのが遠目からでも直ぐにわかった。

 赤いスカートが目立っている。


 もえちゃんが、真希未ちゃん親子に気づき、「レイラちゃん大丈夫」と声を掛けようとした時には、既にレイラは行動を起こしていた。

 ふらふらしながら、真希未ちゃん親子に近づいて行く。


「あ~ら賢さん。お久しぶり」腰をくねくねさせて近づいていく。

真希未ちゃん親子は、変な女に絡まれたと言うような顔をしている。


「そんな顔して忘れたんじゃないわよね~。け~んさん」

「すみません人違いじゃないですか」人の良い真希未ちゃんのお父さんは、優しい顔に汗をかいている。

「あ~れ~賢太郎さんでしょ」

「はい、そうですが~~」

「・・・・」

 真希未ちゃんが、不振な顔でお父さんの顔を見ている。


 もえちゃんは、祭りの余興としてもう少しレイラの猿芝居を見ていたかったが、真希未ちゃんのお父さんを見る不振な顔付を見ていると、ちょっと心配になってしまい猿芝居に加わることにした。


「あっ、もえちゃん」

 真希未ちゃんが先に声をかけて来た。恥ずかしいところを見られてしまったような顔をしている。

「真希未ちゃん。今来たの」

 もえちゃんの問いかけに、真希未ちゃんは、お父さんの方をちらちら見ながら応える。

「うん。そうなんだけど・・・」


 もえちゃんは、「一緒に行こう」と声を掛けて、真希未ちゃんにウインクをしてみた。

 真希未ちゃんは、もえちゃんがお父さんを巻けと言っている合図であることが直ぐに分かったが、それどころでない気がする。

「あの、まじめなおとうさんが~」と言った顔をしている。


 そこで、真希未ちゃんに耳打ちをした。

「あの不気味な女はね。レイラちゃんなの」

「うそ~」

 真希未ちゃんは、ぶっ飛びそうなくらい驚いた。

「だから、大丈夫。任せて」

 真希未ちゃんには、もえちゃんが頼もしく、凄い大人に見えた。


「おじさん。今晩は。真希未ちゃんの友達の萌です。真希未ちゃんと先に行ってますね。境内入り口で待ってま~す」

 真希未ちゃんのお父さんが何か言いかけようとしたが、レイラが喋らせない様に話かける。

「違うお店に行ってるから、うちに来てないんじゃないでしょうね。けんさん」


「じゃ、先行ってます」もえちゃんは、真希未ちゃんの手を引っ張って夜店の通りの中に消えて行った。真希未ちゃんは、お父さんの方を何度も振り返っている。

 レイラは、「頑張れ真希未ちゃん」と心の中で声を掛けた。


 二人を見送ったレイラは、少し時間稼ぎをして、「あ~ら、高志さん」と言いながら、違う男に近づいて行き、真希未ちゃんのお父さんを解放してあげることにした。


 真希未ちゃんのお父さんは暫し、呆然と立ち竦み、娘への言い訳を、しきりに考えるのであった。


「あの人、本当にレイラさんなの。凄く色っぽかったっけど。」

「そう。あれでも、女なのよ。自分で言ってた」

 二人は、くすっと笑った。


 道の両脇には、絶え間なく出店でみせが続いている。本当はあちこち寄り道をしながら歩きたいのだが、レイラとの打ち合わせ通りに、今日は真っ直ぐに目的地に進む。


 100m近く続く出店の最終地点である、境内への入り口の手前には、確かに綿菓子屋さんがあった。

 もえちゃんは、真希未ちゃんを送り出し、綿菓子屋さんの斜向のたこ焼き屋さんで、たこ焼きを買った。

 そして、たこ焼きやさんの裏に隠れて、様子を伺うことにした。


 ホントに、何か起こるのかなあ?

 そんな感じ、全然しないけどな。そう思いながらも、もえちゃんはワクワクするものを感じている。


 真希未ちゃんは、少し戸惑いながら綿菓子屋さんの少し手前に立っていたが、決意したように頷いて、綿菓子やさんに近づいて行った。


 ドキドキする。心臓が高鳴る。

 踏み出す一歩をこんなに意識したのは初めてである。

  

 綿菓子屋さんに行ってからどうしたら良いんだろう?ちゃんと聞いておけば良かった。

 後悔をしているうちに、綿菓子屋さんの前まで来てしまった。

 どうしよう来ちゃったけど、どうすればいいの?もえちゃん。と、後を振り向いてみたが、何処にももえちゃんは見当たらない。


「いらっしゃい」店のおじさんが声をかけて来た。細身の気のよさそうな60歳近いおじさんである。

 綿菓子屋さんには、綿菓子機の周りに、ビニール袋に入れた十個前後の綿菓子が吊るしてある。

 ビニール袋の中には、ふんわりと膨らんだ色とりどりの綿菓子が2個ずつ入っている。


「どれにしようか」おばさんが声をかけて来た。おじさんよりも少し背は低いが、小太りで体重はおばさんの方が重そうに見える。

 夫婦でお店を出しているようである。


 おばさんは、嬉しそうにカエルのキャラクターが描かれている袋を指して、「これがいいかい」と言ってきた。


 大人二人に迫られ、真希未ちゃんは追い詰められた気持になってしまう。

 どうしよう。でも、ここにいないとならないから・・・。

 真希未ちゃんは。八方を塞がれた気持になってしまい、心細くなって来た。


「500円か。買うしかないのかな」真希未ちゃんは綿菓子機の前に書かれた値札を見て呟く。

 真希未ちゃんのお小遣いでは、500円は大金だ。財布には、850円入っている。買えないことはない。


「ネコのにするかい」おばさんが、真希未ちゃんの困った状況に満面な笑顔で攻め立てる。

 思わず、真希未ちゃんは肯いてしまった。あ~500円か。

 真希未ちゃんは、後悔の心を納めようと、綿菓子がどうしても食べたかったんだと、一生懸命自分に言い聞かせてみる。

 何度も何度も言いきかせながら、財布を取り出そうと、首から下げたバッグに手をかけようと・・・ない?

 あれ、ない。

 どうして。


 あっ!


 お父さんにバッグを預けたままであった。

 洋服の全てのポケットも一応触ってみる。やっぱりない。

 どうしよう。

 どうしよう。

 緊張して、言葉が出せない。


「どうかした?」おばさんは、相変わらず優しく声をかけてくる。

 もえちゃんを探して、後ろを見るが、どこにもいない。


 もえちゃん何処にいるの。助けて~。


 その時。

「はい、ありがとう」おばさんの声が聞こえる。

 あれ?何か起こったの?

 向き直って前を見ると何処から来たのか、真希未ちゃんより10cm以上背の低い、同じクラスの陽太くんがお金を払っている。


 陽太くんは、ネコのキャラクターの描かれている綿菓子を受け取ると、真希未ちゃんに手渡してきた。

「あっ、どうも」安堵よりも、驚きで何と言って良いかわからない。


 陽太くんは、すましているが、固くなっている様に真希未ちゃんには見える。

「弟さんかい。仲いいね。」おじさんが声を掛けて来た。


「いっ、いいえ違います。同じクラスです!」陽太くんを気遣いキリットした大きな声になってしまう。顔もちょっと怒った顔になっている。

 陽太くんは気にした素振りはなくニタニタしている。

 幼く見られていることには慣れているのである。

「あ~ごめん、ごめん」おじさんは、失敗したとばかりに後頭部に手をあて、頭をさげている。

 おばさんが、すかさずフォローを入れた。流石にいいコンビである。


「父さん、うちと一緒だねえ」

「はは、そうだな」

 おじさんは苦笑いしている。


「父さんとも、小さい頃からず~っといっしょでね。それこそ、お譲ちゃん位の頃はね、この人も私よりも10cm以上も背が低くくてね。弱いくせに、エロガキで自分より大きい女の子のスカートばかり捲ってばかりいたのよ」

「いやいや、たまにだよ。それも、母さんのスカートしか捲ってないって」

「どうだかね」

「ホントだって。何回も言ってるんだけどね。すぐ、母さんは話を面白くしようとするんだよ」

「父さんは、小さかったから、叩くと直ぐ吹っ飛んで面白かったのよ。それでも、毎日の様にスカート捲りにきたのよ」

「母さん手加減しなかったからな~。痛かったな」


「そのエロガキも、中学卒業する頃には、一丁前に私より大きくなっていたよ」

「お兄ちゃんは、心配しなくてもこれから大きくなるよ~」

 真希未ちゃんも何か笑えて来た。

 良く分からないけど、とっても嬉しくなった。


 真希未ちゃんは、綿菓子の袋を開けて二つの内の一つを取り、陽太くんに渡した。

「ありがとう」陽太くんは受け取る。

「こっちこそ、ありがとう」

 顔を見合わせ笑い、店から離れた。


「赤いスカート・・・似合ってる。遠くからでも真希未だって直ぐに分った」

 陽太は、いきなり言ってきた。ずっと、『似合っている』と一言、言いたかったのだ。

 そう言った後に、赤いスカートを見つけて、近づいて来たことがバレてしまったかと顔が赤くなる。


 真希未ちゃんは、陽太くんが見つけてくれて、近づいて来てくれたことに対し、何の違和感も感じなくなっている。

 真希未ちゃんの中では、今回のことで陽太くんとの仲は既に上手くいったことになっていた。

 この二人は、既に真希未ちゃん主導になっているようである。

 真希未ちゃんは、自分のスカートを見てみる。このスカートにして良かった。レイラさんの言った通りだと感謝した。


 たこ焼き屋さんの後ろで、もえちゃんは二人の良い雰囲気にちょっと嫉妬をして見ていた。

 自分も男の子と一緒に来たかったなあ。と、思っているところに、誰かが後から抱きついて来た。

 ビックリして、後を向こうとしたが、その前に温かい心地良さが伝わって来て、少し凭れた。直ぐにレイラだと分ったからだ。


「うまく行ったみたいだね」

「うん。そうだね」

 もえちゃんは、改めてレイラの予報の凄さに震えを感じた。

「もえちゃんも、男の子と来たかったと思っているんでしょ~」

「えっ、そ、そんなことないよ。うん。全然」

「ホントかな~」と言いながら、たこ焼きを持っているもえちゃんの左手首を掴んだ。

「ねえ。これ凄くいい匂い。丸いお好み焼きってあるのね。おいしそ~」


 たこ焼きは、最後の1個が残っていた。

「レイラちゃんたこ焼き知らないの?」もえちゃんが驚く。

「そうか~たこ焼きって言うんだ。いいなあ~。たこ焼き。」

 もえちゃんは、驚いた、たこ焼きを知らない人っているのホントに?でも、何故かレイラちゃんだったら、ありそうなことかな?とも思うのである。


 もえちゃんは、最後の1個を爪楊枝で刺すと、レイラの口の中に放り込んだ。

「美味しい!たこ焼きか~。イチゴショートの次に美味しい。長ネギより美味しい!」

「イチゴショート?長ネギ?」

「あははは・・・何でもない。さて、もえちゃんお祭り楽しもうか」

「あの二人はおいておくの?」

レイラが、指をさして、

「ほら、保護者が来たから大丈夫」

 もえちゃんが、レイラの指の指す方を見ると、真希未ちゃんのお父さんが、直ぐ近くまで来ていた。

「もえちゃん。見つからない様にいくよ~」

 二人は、真希未ちゃんのお父さんに見つからない様に、夜店の裏を少し周り、人通に出た。


 二人はお祭りを楽しんだ。

 もえちゃんが見守る中、レイラは金魚すくいをやった。小さい金魚を1匹すくって、二人で心臓を押さえ大興奮した。


 リンゴ飴屋さんで動かなくなったレイラをもえちゃんを慰め、イチゴ飴を買ってあげ、ごまかした。

 全てもえちゃんのお小遣いであった。それでも、もえちゃんは今までのお祭りの中で一番楽しく感じた。


 - その帰り道 -


「ねえ、レイラちゃん。あれで、二人は恋人同士になったの」

 まっ、小学3年生で、恋人同士なんてと、ちょっと思ったレイラではあったが、小学生は小学生なりの恋があるものねと思い、

「もともと、お互いを好き同士なのよね。陽太くんはね真希未ちゃんにチョッカイ出したくてしょうがないのよ。ちょっとエッチに正直だから真希未ちゃんのスカートをめくっちゃうのね。でもね、真希未ちゃん以外のスカートは捲ってないのよね。それとね、誰からも見えないように捲っているのよね。まあ、陽太君なりに最低限の礼儀は尽くしているのね。それ位、好きってこと」


「そう言えば、真希未ちゃん以外のスカート捲ったことないかも。だけど、そんなのも礼儀なのかな~」と、もえちゃんは思ったが。真希未ちゃんも、陽太君に捲られるのはいやそうではないから、多分良いのだろうと思った。


 その日の土曜日は、予報屋を初めて『臨時休業』にした。


 次の週の月曜日。

 陽太は、再び真希未ちゃんのスカートを捲りを復活させた。

 真希未ちゃんもしっかり、スカートを穿いてきている。

 真希未ちゃんは、スカートを捲られて、

 「他の女の子のスカート捲ったら、投げ飛ばすからね-」と叫んでいた。

 ちょっと活発になった真希未ちゃんがいた。


 <つづく> 

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