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第16話 夏休み納涼”へろへろ女”生け捕り作戦9

レイラが、愛ちゃんの姉妹の将来を予報する。そして・・・。

◆自分の家のあった湖畔のスペース◆

 朱真理湖を見下ろす様に、湖畔道に沿って並ぶ二棟のコテージがある。今回、レイラやもえちゃん達一行12人が泊まるコテージである。

 そこから湖畔の道路を渡り、湖に向って土手を下ると直ぐに、ペンションから始まる遊歩道の終着地点に到着する。

 そこには青々とした芝生が敷き詰められた、バスケットボールコートと同じ大きさ位の広場がある。

 

 湖岸まではさらに、そこから緩やかな下り坂を下りることになる。

 

 コテージを飛び出した子供達7人は、そのままの勢いで広場へ向って駆け下りた。

 その先頭は、勿論もえちゃんである。もえちゃんが先頭なのは、本当に足の遅い澄子ちゃんを除いた子供達が、もえちゃんを抜かさないように細心の気配りで、歩調を合わせている為である。


「いっっちば~ん」

 嬉しそうなもえちゃんの声の後に、

「2ばん」「3ばん」「・・・」

 みんなの声が楽しそうに続く。そして、最後でも満足そうな澄子ちゃんが到着した。

「な、なば~ん。ハアハア」

 少し息があがった澄子ちゃんを最後に7人全員が横一列に並んだ。

 7人の視線の先に広がるのは、青い湖、朱真理湖だ。


 入り組んだ地形に押し込めれた湖。そこに陽を照りかえして輝く水面みなも

「うわあ〜、きれい」

 真希未ちゃんが、うっとりとした顔つきで、感嘆の声をあげた。

「うん、ホント」

「どこから見てもきれいだよね」

 それに、雄大くんと健太くんが応える。


 しかし、子供達は美しい故に尚更、心に支えてならない事がある。それに、健太くんが触れた。

「この下にさあ、学校が沈んだ何て・・・嘘みたいだよね」

 みんなが思っていて口に出しずらかった言葉。それを聞いて、他の6人の子供達は心臓が詰まる様にドキッとする。


 他の観光客の楽しそうなざわめきが、遠く流れてきる。

 静かな時間を感じながら胸を押さえていた真希未ちゃんが、健太くんの言葉につられて、ずっと思っていた言葉を溢した。

「うん。何か・・・、悲しいね」


 それに、

「うん」

 二人意外の子ども達も頷いた。それぞれが色々な思いで感じていた感情に胸を締め付けられてしまいそうな思いを感じていた。


「もし、もしさ、高田小学校だったら、みんなはどうする?」

 健太くんが、自分の中で抱えられなくなった疑問を投げかけた。


「どうって?」

 陽太くんが反応した。


「湖の底に沈んでしまうって聞いたらさ、黙って受け入れちゃうの?」

「ん〜、・・・分かんないや、その時になってみないと」

 陽太くんが応える。


 健太くんは、一番聞いてみたいもえちゃんに質問を向けた。

「もえちゃんなら、どうする」

「えっ?」

 もえちゃんはずっと沈んだ小学校で頭が一杯のまま、湖を見つていたので、健太くんの問いかけが全く耳に入っていなかった。


「もしさ、高田小学校が無くなって、高田町商店街も無くなって、レイラさんも・・・」

 一瞬にしてもえちゃんの顔が恐怖の顔に染まり震え出した。

「そんなのだめ!絶対にだめだよ・・・絶対に」


 もえちゃんは自分から大切な全てを奪ってしまう話を、頭の中で想像してしまわない様に、力を込めて目と耳を塞いだ。

 心がおかしくなりそうなのを必死で堪えた。


「そうだよね、そんなこと絶対ないよね。高田町にダムなんか出来っこないしさ」

 健太くんは、もえちゃんの様子に驚いてしまい、慌てて否定をした。

「そうだよね」

「そう、そう」

 雄大くんも、陽太くんも健太くんをフォローしてくれた。


 その時、

「ねえ、見て!愛ちゃんがこっちに向ってるよ」

 靖子ちゃんが、遠くの方から一所懸命にこちらに向って、遊歩道を進む車椅子を見つけた。隣には寄り添う様に、白い大型犬の”しゅけ介”がトコトコと並走している。

 靖子ちゃんは愛ちゃんが遊びに来るのを楽しみに、時々ペンションの方を気にしていたのだ。


「汗拭いてるよ。迎に行こうよ」

 澄子ちゃんが珍しく自分の意思を口にした。それに、靖子ちゃんが嬉しそうに応える。

「うん、そうだね。みんなで行こうよ」


 みんなが頷く。そんな中で、まだ、もえちゃんは全くいつもとは違う青白い表情のまま固まっている。


 考えたくないと思っても、自然と頭が嫌な方、嫌な方へと向ってしまうのだ。

 (もし高田町商店街が無くなったらどうしよう。お菓子屋さんも、お茶屋さんも無くなって。ノシさんも居なくなって。そして、レイラちゃんも・・・)

 想像するだけで、涙が出てきてしまう。ショックで血の気が引いてきてしまう。


 それを察した健太くんが、もえちゃんの肩に右手を乗せた。

「もえちゃん、ごめんね。そんなこと絶対にないからさ。ね」

 そして、真希未ちゃんが、もえちゃんの左手を握る。


「もえちゃん、大丈夫。そんなこと、みんなが絶対にさせないから」

 

「う、うん」

 もえちゃんは、両側から二人の優しさにに支えられた。今の自分には、友達が沢山いて、支えてくれる人も沢山いる。

(一人で悩むことはないんだ。3年前とは違うんだ)(第15話)

 そう思った。そう思うと力が出てくる。


 支えてもらった分は、自分も誰かを支えなければならない。そう思った。

 なんか、何も起こっていないのに怯えている自分が可笑しく思えてきた。


「ハハハ」

 もえちゃんの笑い声に心配していたみんも安心して、顔が自然と綻んでくる。

 元気の無いもえちゃんを見るのは、自分が元気がない時よりも、もっと辛く感じてしまう。子供達みんながそう思っている。


「うん、愛ちゃん迎えに行こう」

 もえちゃんに戻った元気な声で、7人は愛ちゃんに向って走り出した。当然、先頭のを走るもえちゃんを追い抜く者は誰もいない。


 その姿を、土手の上の”湖畔道”から見つめる二人は、

「さて、庄蔵。僕達を入れて全員で10人だけど、どうしようか?」

 帯人の下げている紙袋には、遊び道具が一杯に詰め込まれている。


「そうだな。戻って来るまでに、みんなで出来る遊びを考えないと、一緒に遊んでくれないな」

 バレーボールを手にした庄蔵が頭を捻る。


「伊達に大学生をやって無いところを見せつけないと、いつもで経っても小間使い扱いだぞ」

「ああ、そろそろ対等にならないとな。制限時間は5、6分位か。難問だ」


 二人は、愛ちゃんを含めて10人みんなで遊べる問題に取り組んだ。

 

◆動く?◆

 8人と一匹は、広場に向って遊歩道を進んでいた。車いすを押しているのは靖子ちゃんである。


「じゃあ、花火は来れないんだ」

 靖子ちゃんは残念そうである。


「うん、お姉ちゃんが夜は家を出たら駄目だって。今日は、お父さんもお母さんもホテルで仕事だから、お姉ちゃんが駄目だって言ったら家を出れないの」

 愛ちゃんは、友達と花火をしたことがないので、凄く残念そうである。


「わかった!じゃあ、その分は今遊ばないと。ね」


「うん、でも~・・・」

 愛ちゃんは、みんなと同じように動くことが出来ない。学校でも外での遊びは、いつも見ているだけである。

  

 そうなのだ。今遊ぶと言っても何して遊べばいいんだろう?靖子ちゃんには、みんなで遊べる遊びが見つからない。


「もえちゃん、何して遊ぼうか」

 靖子ちゃんが、そっと、隣を歩いているもえちゃんに助けを求めると、もえちゃんが広場で手を振っている二人を指さした。


「大丈夫だよ、あそこの二人が考えてくれるよ」

「ホント?」

「うん、さっきからあそこで、二人が固まって考え込んでいたから多分大丈夫だよ。伊達に大学生じゃないところ見せてくれるよ」


「そっか、そうだよね。庄蔵さん頭いいもんね」

 靖子ちゃんも納得だ。


 

 8人と一匹が広場に戻ると、帯人と庄蔵が待ってましたとばかりに迎えてくれた。


「さて、みんなで遊ぼうか」

 手薬煉を引いて待っていたかの様に、自信満々の顔付きの帯人である。


「何して遊ぶの」

「みんなで遊べる遊びがあるの」

 靖子ちゃんと陽太くんが、尊敬の眼差しで喰いついた。


「任・せ・なさい」

 帯人が胸を張る。

「なあ、庄蔵。遊びなんか、その時に合った物を自分で考えればいいんだよな」


「すごい」

「すげえ」

「さすが」

 余裕の帯人に、期待の声が飛んだ。愛ちゃんが目を輝かせている。


 それには、帯人もちょっと気後れしてしまい、功労者にバトンタッチすることにした。

「これから、庄蔵が説明するから」

「なんだ、庄蔵さんが考えたんだ。やっぱりな~」


 愛ちゃんは

(やっぱり、お姉ちゃんの目指していた中稲畑大学なかてばただいがくって凄いんだ。そう思った)



 そして、10人は思いっきり動き回った。避暑地とは言え少し動くと、どっと汗が湧きあがってくる。 それでも、みんは持参の水筒を片手に動き回った。


 この夏一番の笑いと歓声が、思井沢高原に響き渡った。それを、しゅけ介がポーカーフェイスで見守る。

 楽しい午後・・・。


 そこに、

「あれ?レイラちゃん・・・」


「もえちゃん、よそ見してたら負けちゃうよ」

 そう言いながら、もえちゃんの視線の先を健太くんが追いかけると、そこにはみんなの様子を嬉しそうに眺めているレイラの姿があった。


「ホントだ!レイラさ~ん」

 二人が手を振ると、その間に他の3チームがゴールイン。4チームに分かれた変則レースは、もえちゃんと健太くんのチームが負けてしまった。


「あ゛~今日のお風呂係決定だ~」

 珍しい健太くんの泣き顔が、みんなの笑いを誘った。

 

 帯人もレイラの姿を発見した。

「みんな、休憩にしよう」

 ちょっとドキドキと、ご機嫌を伺いながらであるが学校の先生みたいに、少し指揮をするかの様に言ってみた。それに、

「『は~い』」

 と言うすっかり打ち解けてくれた声が返って来た。

(ああー、聞いてくれた・・・)

 帯人はじ~んと、立ち止まって喜びを感じた。

(やっと、認めてもらえた・・・)

 

 そんな帯人を残して、レイラの元に真っ先に駆け寄ったのは、もちろんもえちゃんである。その後にみんが続く。その中には、当たり前の様にしゅけ介も混ざっている。


 みんなが駆け寄って来るのを嬉しそうに見つめるレイラに、もえちゃんが突然疑問を投げかけた。

 本当は応えは聞くまでもなかったのだが。


「レイラちゃん、和美おばさんと諸湖羅さんと一緒に、みんなの晩御飯の用意するんじゃなかったの?」

「う、うん」

 レイラが恥しそうに下を向いたまま顔を赤くしている。

「そっか、ちょっと休憩なんだ」

「う、うん」

 レイラはあやふやな返事をするだけである。


「あれ~?どうしたの」

 もえちゃんが、俯いた顔を覗き込んだ。

「・・・・」


「あ~、分った戦力外なんだ」

 もえちゃんが、ペンションまでも聞こえそうな大きな声で叫んだ。目尻が少し笑っている。


「戦力外って、そんなー。和美さんはそうは言ってないのよ。包丁を使うのは恐ろしく速いって褒めてくれたもの。でも、和美さんのお料理難しいの。切り方とか、順番とか。」

 レイラは自分の料理のレベルの低さにショックが隠せない。


 確かにレイラには繊細な作業が向かないのは、今や全員が周知している。

 笑いも起こらずみんな納得顔で、和美の早々の的確な判断に感服である。

 そこに、

「もえちゃん、あんまりレイラさんをからかっちゃあ可愛そう・・・」

 笑いを堪えているもえちゃを見て、真希未ちゃんがレイラに助け船を出した。


 みんなが、もえちゃんを見ると、いつのまにか一番隅に移動してお腹を抱えている。

 それを見て、爆笑が起こった。どちらかと言うとレイラの事よりも、笑い声を我慢しているもえちゃんの姿にである。愛ちゃんも大笑いをしている。


 そんな和気あいあいの中、レイラには気になることがあった。それは、遊んでいる最中の愛ちゃんの脚から微弱ではあるが、能力を感じたからある。ペンションのレストランで麗美から感じたものと同じ種類の能力である。


 レイラはそれを近くで確認をしたかった。もしかしたら、能力で愛ちゃんが歩くことが可能になるかもしれないと思ったからである。

 それには、動きたいと言う強い意志を、レイラの近くでもう一度愛ちゃんに感じてもらわなければ知ることが出来ない。


「ああ、愛ちゃん」

 レイラは笑っている愛ちゃんに、親しげに声を掛けて近づいた。


 そこに、突然と不自然な強い風が吹く。広場の回りの木々は小枝も揺らさずに穏やかであるのにだ。

「あれ?」

 子供達が突然の強い風に目を細めた。その時、庄蔵の足元に置いてあったバレーボールが風に押され、レイラの足元に転がって来た。

 

 タイミング良く、レイラの踏みだした左の黒いパンプスが、ボールの端を踏んでしまう。

 躓いたレイラは危く愛ちゃんの上に転びそうになる。

「あ~っ~」


 その時、愛ちゃんの脚が僅かに緑色の炎の様な光を纏って、ほんの微かにであるが動いた。動きたいと言う意思を示した。

 レイラはそれを見逃さない。

(多分、大丈夫だわ!)

 そう思った。

 

 転びそうになったレイラは、もちろん愛ちゃんに触れることは無い。愛ちゃんの横で、芝の上に軽く両膝を付いた。

「痛~っ~、ごめんなさい。愛ちゃん大丈夫だった?」

 レイラが顔をしかめながら謝ると、

「はい。全然、大丈夫。レイラさんは大丈夫?」

 レイラはそれに照れ笑いながら頷く。


「レイラさん、以外とそそっかしいところあるから」

「愛ちゃんの前で緊張してるんじゃないの」

 子供達から冷やかしの声が掛かるが、その中でもえちゃんはレイラの意図を理解していた。

 それは、もえちゃんもレイラが愛ちゃんの上に転びそうになった時、気のせいでなければ、ほんの僅かではあるが、違和感を感じたからである。


「愛ちゃん、もしかしたら最近少し感覚があるわね」

 愛ちゃんも気になっていたので、それだけでレイラの言っている意味が分る。

「えっ、何で・・・分かるの」

 確かに二日前から少し感覚があるのだ。


 それには、みんなが驚いた。もちろんレイラの能力については周知している。レイラが愛ちゃんの足の感覚が戻った事に気付いたことではない。レイラが敢えてそのことを口に出していると言うことの『意味』にである。


 驚いている愛ちゃんに、もえちゃんが説明をする。

「あのね、レイラちゃんは有名な予報士さんなんだ。色んなことが分るの。人の未来だって予報するんだよ」


 半信半疑ではあるが、たった今驚いたばかりである。それに愛ちゃんも占い系統には興味がある。

 その時、愛ちゃんの一番知りたいことが、頭の中に浮かんで来た。

 愛ちゃんにとって、とっても知りたい大切な事。


「レイラさん、予報して貰いたいことがあるんだけど・・・」

 レイラの様子を伺う様に小さく声にした。

 そこに、もえちゃんが直ぐにレイラの代りに応えた。

「大丈夫だよ。ね、レイラちゃん」


 そのことばにレイラが優しく頷く。レイラも見たいのだ。


 愛ちゃんが歩ける様になるには、目覚め始めた能力がこのまま伸びて行かなければならない。能力が伸びるかどうかは、潜在能力と、安定した精神状態が必要なのである。

 レイラも愛ちゃんの能力がこのまま伸び続けるのか、どうしても見てみたいのである。


「もちろん」

 そう、笑って応えた。


◆姉妹の予報◆

 愛ちゃんが遠慮がちに話しだした。

「あの~、お姉ちゃんのことなんだけど。愛、お姉ちゃんがどんな人になるか、凄く楽しみなんだ。お姉ちゃんのことを知りたいんだけど・・・」


「あれ?自分のことじゃなくお姉ちゃんのことなの」

 レイラが愛ちゃんに確認した。


「うん、お姉ちゃんのこと」

 愛ちゃんの顔がパッと輝く。


「わかったわ」

 その言葉にレイラの強い気持ちが動いた。

 レイラは、愛ちゃんの将来への希望が、全て大好きな姉に向いているのだとわかった。

 自分の将来への希望を全て姉に託しているのだ。

 レイラは、愛ちゃんに将来の希望を持ってもらいたい。そう思った。


 そして、決意した。愛ちゃんの将来に少し関ってみようと。


 レイラは、大きく将来に関ることを余り予報をすることは無い。それは、周りの他の人の将来に悪い影響を与えてはならないからだ。しかし、今回はどうしても愛ちゃんに関りたい。そう思った。

 もちろん周囲への影響は細心の注意を払いながら、愛ちゃんに正の影響を与えるのである。


 レイラは愛ちゃんの手をそっと握り、緩やかに瞼を閉じた。

 集中が始まる。その姿に合わせて、ざわめいていた子供達が急に静かになる。物音ひとつ立てずにレイラに注目をする。

 帯人と庄蔵、しゅけ介もじっとレイラを見つめる。 


 そして・・・。


 レイラが青い稲妻の様に光った。もえちゃんにしか見えない光である、しかし、今日はもう一人の目にも微かにではあるが、青く光を感じた者がいた。


(あれ、あれ、青く光った様に見えたけど、気のせいかな?)

 それは、愛ちゃんである。愛ちゃんは周りの人達をきょろきょろと見回すが、誰も青く光ったとも言わない。驚いてもいない。レイラはまだ集中をしている最中である。愛ちゃんは気のせいだったのかと思い心に押し留めることにした。


◆愛ちゃんの将来◆

 レイラは愛ちゃんの未来から姉の麗美の姿を探した。しかし、麗美の姿がなかなか見つからない。

(あれ?)

 愛ちゃんの能力はまだ弱い。愛ちゃんの能力では未来に影響することは出来ない。それであれば、愛ちゃんの未来から麗美の姿が見える筈なのである。

 例え、麗美が未来に影響する力が有ったとしても、暫定的な未来は見れる筈である。 

 

 しかも、愛ちゃんから見える未来は決して幸福なものでは無いのだ。この思井沢の土地から離れ、都会で両親との貧しいアパート暮らしなのである。

 しかも、車いすのままで歩けていない。

(どうして?能力が伸びないの?素質はありそうなんだけど・・・)


 レイラは、未来から現在へと時間を逆戻しにしていく。そして、やっと麗美の姿を見つけることが出来た。

それは、今日から一週間後のことである。その姿が、

(そんな・・・)

 さらに時間を戻していく。

(えっ、今晩!!)

 

 レイラは、心の驚きを見せたりはしない。顔色一つ変えず、未来を変える方法を探りだす。愛ちゃん一家にとって幸せな未来にする方法を。

 色々なパターンを仮想して未来を予報してみる。そして、愛ちゃん一家の代わりに、周りの人が不幸にならない最大公約数の未来を選び出す。


 レイラは目を開けた。


「愛ちゃん、ごめんね。明後日まで待ってもらえないかなあ?必ず、良い結果を予報出来ると思うから」

 レイラは、そう応えた。


 それだけで、愛ちゃんを除くみんなにはレイラの言った意味が、はっきりと分った。


 ― 何かが起こる ―


「愛ちゃん、良かったね。きっと良い未来になるよ」

 もえちゃんが、愛ちゃんの疑問が言葉になる前に消そうとする。そして、澄子ちゃんが、

「愛ちゃん良かったね」

 と言うと、それに、みんなが喜んで頷いた。


「明後日楽しみだね」

 健太くんの言葉に、一言だけ口にした。


「明後日?」

 愛ちゃんの言葉にレイラが優しい微笑みで頷いた。


 そこに、”うさたぬき”が現れた。毎度もえちゃんの周りを賑わしている特別天然記念物である。

 もえちゃんの横で、可愛く3匹肩を並べている。


「あっ、また居た」

 愛ちゃんが驚いた。すっかり、みんなの目は”うさだぬき”に向けられた。

 レイラはもえちゃんに向ってウインクをすると、もえちゃんはレイラに向って笑顔で返す。


「帯人さん、庄蔵さん。後はお願いします。これから忘れ物を取りに行ってきます」

 レイラの言葉に、帯人が小声で応える。

「わかりました。こっちは任せて下さい」

 そして、庄蔵も小さく頷いた。

 

 レイラは、一人ペンションに向った。

(しかし、何故もえちゃんの所にいつも現れるんだろう?)

 そう思いながら・・・。


 <つづく>


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