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第16話 夏休み納涼”へろへろ女”生け捕り作戦8

レストランで食事をしていた様子を覗いていた女の子は、ペンションでアルバイトをする麗美の妹であった。もえちゃん達は、その女の子、愛ちゃんと仲良くなっていく。

◆事故◆

まな、コテージ見に行こうか」

 愛は外で一人で遊んでいた。麗美が近づいていくと、愛も走って近づいて来て体を寄せてくる。

 愛からは子供特有の甘い香りが漂ってくる。麗美はそれが大好きだ。


「お姉ちゃん、出来たの!」

「うん。今、おじさんから聞いたんだけど、もうねぇ、コテージの中に入れるんだって」

「ホントー?」

「うん」

 麗美が頷くと、小学1年生の愛は食入る様に黒目がちの瞳を向けて来た。

「わーー、いくいく」

 

 中学3年生の麗美は小さな愛の手を引いて、完成したコテージに向った。避暑地とは言え、陽が少し傾いた位では湖畔の道路はまだまだ暑い。


「暑いね」

 愛が嬉しそうに言う・・・。



 愛が生まれたのは、麗美の通っていた小学校が湖の底に沈んだ年である。

 たった1年しか通えなかった小学校である。たった1年だったけど、学校の子供達はみんな仲良しで、麗美には楽しい思いでが沢山あった。


 その学校が湖に沈んだ。湖に沈むと共に麗美の元から沢山のものが奪われていった。

 よく通った大好きなお店屋さんも無くなった。優しかった学校の先生。苦手だった坂道に秘密の隠れ家もなくなった。

 それに、それに大切なお友達も。みんないなくなってしまった。


 幼い麗美の心は暗く冷たい水の底に沈んでしまいそうだった。

 楽しい毎日が一転してしまった。


 愛が生まれたのは、そんな時だった。


 赤ん坊の愛はいつも元気で、麗美の心に力を与えてくれた。

 愛のおかげで、麗美の心の曇りは次第に晴れていった。


 麗美には、いつもヨタヨタと後を付いて来る愛がとても可愛かった・・・。



 新築のコテージを見学した帰りの二人は、すっかりコテージ気にいってしまっていた。

「愛、おじさんとおばさんのコテージ、奇麗だったね」

「うん。愛、あそこにお泊まりした~い」

 愛の足取りは、一緒に歩く麗美が歩きずらいくらいに弾んでいる。


「駄目だよ。あそこはお客さんが泊まるところだからさ~」

「やだ~。愛、泊まる~」


 麗美は少し考えてみたが結論は、

「無理だよ~、おじさん駄目って言うと思うな~」

「愛、おじさんに頼んでみる」

 そう言って愛は、麗美と繋いでいた手を放して走りだしてしまった。


「愛、待って危ないから」

 麗美に嫌な予感が過った。多分それは、少し前から騒音を放つ何台ものバイクの音がこだましていたからである。麗美はコテージを出てからそれが気になっていた。ただ、麗美はその予感をそれ程重視はしなかった。

 愛はどんどん走って行く。麗美は愛を小走りで追いかけた。


 バイクの音が近づいて来ると、敬遠した為か、その前を走っていた車が愛の少し前で、路肩に駐車した。

「愛!止まって!」

 麗美は愛が駐車した車を交わすのに、道路に飛び出すことを懸念したのである。

 騒音の中、麗美が叫ぶと愛は振り向いて

「うん、分っている」

 そう言った。


 愛は駐車していた車の手前で止まり、騒音が通り過ぎるのを待った。

 安心した麗美は、小走りだった足を少し緩めて、愛に近づいて行った。

 

 まもなく、騒音を思う存分放ちながら、派手なバイクの集団は通り過ぎて行った。

 愛は冷静にそれを見送っていた。通り過ぎたのを確認して、駐車した車を通り越す為に道路の中央へと出た。


その時・・・。


「危なっ!・・・」

 愛が道路に飛び出すタイミングと、バイクの後ろから走って来ていた車が駐車していた車を追い抜くタイミングが重なってしまった。


 ブレーキの甲高い音と、鈍い音が耳を貫いた。


 麗美は口を開け放ったまま凍りついた。自分の心が張り裂けそうな衝撃を感じた。瞬間、どうやって現実を疑おうかと考えていた。現実を否定することだけを考えた。

 だが、愛をひいた車から人が降りて来た瞬間、疑う余地がないことが分った。


「まなー!まなー」

 叫ぶ麗美には、それからのことが余り記憶に残っていない。


◆レストランの内外で2◆

 

「愛ちゃんは、バイクの騒音で後ろから来ていた車の音に気付かなかったのね。可愛そうに・・・」

 夫人は俯いて続けた。

「愛ちゃんをひいてしまった運転手さんは、何度も病院に御見舞に来ていたらしいわ。私も病院で一度だけ彼を見掛けたけのですけど、見ていられない位に落ち込んでいたわね。

 でも、麗美ちゃんはもっと見ていられなかったの。

 何でしっかり手を繋いでいなかったんだろうって。何で全速で追いかけなかったんだろう。口に出す言葉はそればっかり・・・。

 食事もほとんど取らずに、ずっと病院から離れなかったのよ」


 そこに帯人が納得いかない表情で、つい声を荒げてしまう。

「でも、運転手さんよりも、止まっていた車とバイクの方がもっと責任があるんじゃないかと・・・」


 夫人も本当は、そう指摘したそうに、

「駐車していた車も、バイクも何事もな無かった様に去って行ってしまったの」

「そんな・・・」


 それに、和美が応えた。

「そう、普通に考えると駐車していた車とバイクの方に責任があるわよね。でも事故ってね、違う事故が要因で起こったのでなければ、大方その一場面しか捉えないで片付けられてしまうの。いくらそこが駐車禁止の場所でもね。

 結局、愛ちゃんがひかれた一瞬の事実だけが問題とされちゃうの」

 

 帯人には、和美が実際にそんな状況を過去に見て来ているのだと思った。帯人にはそれ以上話す元気が無くなってしまった。


 帯人の様子を見て、和美が続けた。

「それで、愛ちゃんは車椅子に?」

「ええ、2人で手をつないで歩いていた姿を思い出すと・・・」

 夫人は目頭を押さえた。


「麗美ちゃんも運転手さんを攻めることはしなかったの。でも、そこから去っていった車と、それにバイク。何より自分に対しては、今でもきっと・・・」


 それを聞いていた弘史と昌史は、自分が起こしたことではないのだが、微動だにせず俯いたままであった。 



 レストランの中は暗い雰囲気飲まれていったが、外の子供達は絶好調であった。特に愛は・・・。

「おねえちゃんはさ、絵が凄~く上手いの。このレストランはね、お姉ちゃんの描いた絵を元に作られたんだ。家には賞状も沢山あるんだから」

「そうなの、お姉さんの絵みたいな~」

 美術好きの雄大くんが、その話に喰いついている。


「それに、中学生の時は陸上部で一番足が速くて、2年生の時に全国大会で3位だったんだから」

「ムむちゃくちゃ、すげ~」

 陽太くんは瞳を輝かして叫ぶが、快速自慢の健太くんは脱帽のポーズである。


「それにね、凄く優しいんだ。朝はお母さんが学校まで送ってくれるんだけど、帰りはお姉ちゃんが小学校に寄ってくれて、しゅけ介と3人、ううん2人と一匹で一緒に帰るんだ」


 そこで、愛ちゃんのトーンが急に落ちた。

「だから、愛のせいで、高校の陸上部に入れなかったの」

 愛ちゃんは自分に責任を感じていた。


 それに、真希未ちゃんが、

「愛ちゃんのせいじゃないよ。だって、愛ちゃんは麗美さんが陸上部に入ることを願ってるんだも。だから愛ちゃんのせいじゃないよ」

「う~~ん」 

「そうさ、そうだよ誰のせいでもないよ。願っても叶わないことってあるからさ。帯人さんも言ってたよ。希望が叶わなかったおかげで、今がこんなに楽しいって。そう言うことも、これからあるかもしれないし。いや、きっとあるよ」


「うん、ありがとう」

 愛には今日会ったばかりのお友達の気持ちが、とても嬉しかった。

 嬉しくなった愛は、さらに続けた。


「お姉ちゃん、頭だっていいんだよ。東京の大学に行くんだ。中稲畑大学なかてばたの建築学科に行きたいんだって」

 愛ちゃんの声が再び弾んできた。


 しかし、それには、みんな余り驚かなかった。

「へ~中稲畑大学って凄いんだ」

 陽太くんの言葉に、

「え~、凄いんだよ」

 愛ちゃんが応える。


 みんなが驚かなくて不思議そうな愛ちゃんに、さっきまで”しゅけ介犬”と遊んでいたもえちゃんが、芦毛のタヌキに、ウサギの様な耳を付けた動物を3匹従えて、デッキ越しにレストランの中を指さした。

「世間では結構な大学らしいんだけどさ、ほら、あそこの平凡な3人も中稲畑大学なんだよ。女の人と理屈っぽそうな細いのが建築学科で、でかいのが医学部なんだ」


 それには、愛ちゃんが驚いた。

「ホント、凄~い」

「あの身体の大きな庄蔵はそうかもしれないけど、後二人はお姉さん程じゃないよ」

 そう言ってのけるもえちゃんが従えている動物を見て、もえちゃんの方がもっと凄い様に感じて来た。


「うそ~」

 愛ちゃんが驚いた。


「やっぱり、いたんだ」

「何が?」

「”うさたぬき!”愛が見たって言っても誰も信じてくれなかったんだあ」

「これ?」

 もえちゃんが短い人差し指を、その変てこりんな動物に向けると、動物ももえちゃんの方を向いている。


「もえちゃん、すご~い。お話出来るのしゅけ介だけじゃないんだ!」

 愛ちゃんの大きな声に驚いて”うさたぬき”は逃げてしまった。

 もえちゃんは、それを手を振って見送る。


「いっちゃた。どうしよう・・・。もえちゃん、ごめんなさい」

「いいよ、きっとまた遊びに来るよ。ハハハ」

 気にするなとばかりに、もえちゃんは、両手を横に激しく振る。

 

 いつの間にか、しゅけ介は愛ちゃんの横に戻って大人しく座っている。

 うさたぬきは遊歩道に沿って走って行った。もえちゃんが遊歩道を指して、愛ちゃんに聞いてみた。


「この歩道は何処まで続いてるの」

 もえちゃんの位置からは、そんなに長そうには見えない。


「コテージの前まで。そこに広場があるの。前、愛の家がそこにあったの」

「コテージまで続いてるんだ。じゃあ、後でそこで遊ぼうよ」

「ほんとう!」

 思いもかけないお誘いに愛ちゃんは大きな声を出してまう。


「もちろん。ねえ」

 もえちゃんの言葉に、子供達みんが頷いた。

 真希未ちゃんは、危なく「イー!」と言い掛けそうになった口を押さえた。

   

◆自責の念◆

 食事を終えたレイラは、楽しそうに遊ぶ子供達を見ていた。勿論夫人の話が終えた後で、レイラが尋ねた。

「あの~、しゅけ介は、認定犬ではないですよね」

 しゅけ介の背中にある表示は、”思井沢バス㈱認定”と書かれている。介助犬認定書ではなかった。


 レイラの問いに、

「ええ、麗美ちゃんが愛ちゃんの為に育てたんですよ。本物にだって負けない位に立派な介助犬なんですよ」

 夫人は胸を張って応える。

「最初は自分が大学に行った後のことを考えてだったんですけど、今はここに残るって言ってるんです。”自分が残りたいからなんだ”とは言ってますが・・・。本当は愛ちゃんの為なんですよ。ご両親もホテルの仕事に忙しいから・・・」


 夫人はさらに続ける。

「しゅけ介は小学校に行く時も一緒なんですよ」

「学校も対応してくれるのですか」

 諸湖羅は、他人のこととは思えない様な顔つきである。


「学校の先生も、校舎の中まで入れてくれてるらしいですよ。子供のうちに補助犬と接して、対応の仕方も義務教育で知る事が大切だって言ってくれて」

 (※盲導犬や、介助犬等の総省を補助犬と言う。)


 和美も思う。法律何て知らない内に出来ている。法律で出来たから今日から全ての補助犬を受け入れろと言っても、理屈で分っていても生理的なものまでを何処まで自己制御できるか分らない。それよりは、まだ幼い頃から馴染むような環境をつくるべきだと思う。和美は先生判断に感服した。


「それで、学校からの帰りは麗美さんと二人で、プラス”わん”ですか」

 レイラは暗い雰囲気を和ませようと、犬の鳴き声と”ONE”を掛けてみたが、誰も気付かなかった。ショックだったが、それを現せる雰囲気では無かった。一番恥しいパターンである。


「はい、そうなんで・・・えっ、でも何故それを?」


 和美が口を挟む。

「レイラさんは、人気の予報士さんだから、色んなことが分るんですよ」

 帯人達三人も頷く。

「はあ~、そうなんですか」

「はい」

 自信満々に和美も頷くことが出来る。夫人は不思議がりながらも、あまり気にしないようにして続けた。


「登校の時は、奥さんが送るのですけど、帰りは麗美ちゃんとバスで帰ってくるんです。バス会社方も麗美ちゃんの熱意におされて、独自で基準を設けてしゅけ介の試験をしてくれたんです」

「それで、しゅけ介は合格と言うことですか」

 和美が言った。


「そうなの。背中の表示には、バス会社の認定書もあるんですよ。バス会社の社長さんが自らの責任で試験してくれたんです。凄い人です」

 と、言いながらも

(そう言えば?しゅけ介の名前、私言ったかしら?)

 夫人は、またしても不思議に思った。


「でも何で、しゅけすけの名前を?私、言いましたか?」

「ああ、はは、何となくそんな名前かなって」

 レイラが応える。


「やっぱり、そのー、予報と言うものなんですか」

「まあ、ハハハ・・・」


「そうなんですか」

 ご主人も驚いている。しかし、和美達は当然の様な態度である。ペンションの二人は、納得いかない自分達が可笑しい様に思えてきた。


「麗美さん、とても優しいんですね」

 一人娘の諸湖羅は、姉の存在が羨ましく思えた。


「え~、それはもう。ただ、夏に・・・」

 夫人が、話しを続けようとした時に、ご主人が夫人の話を途中で制した。


「せっかく遊びに来て頂いたんだ、この話はもうこの辺にして。それよりも・・・」

 ご主人が、思井沢高原の観光スポットについて熱心に説明を始めた。


 レイラには、確かに麗美の心に不安定さが感じられた。ご主人の話をみんが真剣に聞いている中、レイラは、もう一度麗美に会いたい衝動に駆られていくのであった。



 一方、外では靖子ちゃんと澄子ちゃんも戻って来て、一層ワイワイと騒いでいる。  

「今ねアクセサリー屋さんのお兄さんから、ヘロヘロ女の話を聞いたの」

 靖子ちゃんが愛ちゃんの方を向いて話してみた。


「ホントー、何だって言ってたの」

 男の子達が物凄い勢いで喰いつく中、愛ちゃんは話しに加わろうとはしない。

(愛ちゃんと話したかったのに。靖子のこと嫌いなのかなあ? それとも、こう言う話好きじゃないのかな?)

 靖子ちゃんは、少し心配になった。


「それは後で話すね。あのさ、愛ちゃん。夜にね、花火やるの。愛ちゃんも来ない」

 靖子ちゃんは瞬時に話を変えてみた。すると、


「うん、いいなあ~お姉ちゃんに聞いてみるー」

 愛ちゃんは元気に応えてくれた。


(さっきのは気のせいだったのかな~。でも、良かった)

 靖子ちゃんは、ホッとした。


◆パンク◆

「有難うございました。お食事も凄く美味しかったです」

 ご主人の説明が一通り終えると、和美が切り出した。

「そう言って頂けると嬉しいわ。こちらこそ有難うございました」

 夫人は心から嬉しそうである。


「そろそろコテージに移動しましょうか」

「そうですね」

 和美の言葉にレイラが応えると、みんなが頷いた。


「ところであんた達は何処に泊まるのよ?」

 和美の疑問が弘史に向けられた。

「大丈夫ですよ。お金はないけど、テントと寝袋持ってますから」

 窓からバイクの荷台を指すと、2台のバイクの後輪がぺったんこに潰れているのが目に入った。

「あ~~」

 二人の落胆が、可愛そうと言うよりは惨めな表情に見えてくる。


 弘史達の落胆の表情を見て、みんなが顔をしかめたり苦笑いする中、ご主人の顔付きだけが一瞬申し訳なさそうに曇った。

「明日、お昼前頃でも良かったら、トラックでスタンドまで送ってあげるよ。それから、ここはキャンプ場がないので、遊歩道の脇にテントを張るといいよ。そこも私達の土地だから。水もデッキの脇の蛇口を使うといいよ」


「ほんとっすかー、ありがとうございます」

 弘史と昌史は、ご主人の顔が神様の様に見えた。


 こうして、二人はペンションからコテージへと繋がる遊歩道の脇にテントを張ることになった。

 ”ヘロヘロ女の写真”を撮るのも歩いて行った方が撮り易い。そう思うことにした。


 ただレイラには、通常ではバイクのタイヤには刺さる訳の無い細い針が後輪に刺さっているのが見えていたが、心の中に留めた。

(誰が?)



 この後、みんなはレストランを後にした。

 レストランを出る時に音もなくレイラの右手からこぼれた黒色の小銭入れだけが、椅子の陰に隠れる様に、そこに残された。


◆コテージ◆

 ペンションからコテージまでは湖畔の道路を時計回りに300m位進んだ所にある。ご主人が原付バイクで先導してくれた。


 コテージは湖畔の道路を挟んで、山側の斜面を均して二棟が建てられており、朱真理湖を見下ろす向きに横に並んでいる。一棟は定員8人の2階建で、もう一棟は定員6人の平屋建てである。

 どちらのコテージも、外壁が木壁である以外は、外見上はペンションと良く似た作りである。


 人員の関係上、自然の成り行きで2階建ての方には女性陣が、平屋には男性陣が宿泊することになった。


「いいなあ、二階建てで」

 割り振り上、仕方ないとは分っていても小学生に取っては大きな問題である。

「ほら、寝る時だけなんだから我慢、我慢。男は女性に良い方を譲るものなの。知らなかった?」

 帯人の宥めに、


「それはさあ、十分分ってるんだけど・・・」

 と言う陽太くんに健太くんが屋根の方を指さした。

「あの小さい窓はなんだろ?」

「何かな~」

 雄大くんも不思議がる。

「行ってみよう」


 男の子達が平屋のコテージに入ると、屋根裏がロフトになっていて、そこにはベッドが二つ1m位の間隔で並んでいた。

「すげ~」

「うん」

「ほんと」


 すっかり瞳が輝き、気分が満たされた男の子達の為に、帯人と庄蔵は子供達が3人で寝れる様に、二つのベッドをくっ付けて並べた。

 結局、1階の寝室の4つのベッドは帯人と庄蔵のものとなった。


「庄蔵、4つのベッドに2人だぞ。どうする」

 すると、庄蔵は両手を胸の前で縦に組んだ。

「何。それ?」

「影分身の術。縮小サイズ」


「大きい体を二つに分けるのか?」

「ああ、大きさも半分に」


「お前も、アニメ観るのか」

「子供並に」

(意外・・・な)


 帯人は高校の時の修学旅行で、友人の意外な面発見したのを思い出してうれしくなった。

 その時、

「みんな、荷物降ろすわよ」

 和美の声が平屋+ロフトのコテージ内に響き渡った。

 みんなは一斉に玄関に向った。 

 

 

 レイラは一人、説明を一通り終えたご主人が、原付バイクでペンションに戻るのを見送っていた。


 レイラがご主人に話掛ける。

「この先の大きな木があるところに、バラ線を張り巡らせた芝生があるのですけど、あそこは何かあるのですか?」

 ご主人は少し驚いた顔を見せたが、ペンションでの不思議な件で既に大分慣れてきている。直ぐに、

「よくご存知で」

 そう応えた。


「ええ、ここへ来る途中で、高台から見て気になったものですから」

「ああ、そうでしたか」

 ご主人は、少し安心して続けた。

「あそこは、麗美ちゃんの大切な場所でしてね。そこが、心無いバイクに荒らされてしまったんですよ。それで、昨年私と二人で張ったんですよ」

 

「そうなんですか」

 レイラは応える。


「それじゃあ、ゆっくりと楽しんで下さい」

「ありがとうございます」

 ご主人は穏やかな笑顔を浮かべ、ペンションに戻って行った。


 和美の掛声で車から荷物を降ろした子供達は、直ぐに湖畔の遊歩道沿いの広場へ降りて行った。

 愛ちゃんの家のあった場所である。

 青々とした芝がコテージからも奇麗に見下ろせた。


 <つづく>

これから、この話の核心へと・・・。

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