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第16話 夏休み納涼”へろへろ女”生け捕り作戦7

ペンションで食事を取るレイラ達を、羨ましそうに覗いている白い大型犬を連れた女の子がいた。もえちゃんが、それに気付き外に出た。

その女の子と、ペンションでアルバイトをする麗美との関係は・・・。

そして、3年前に起こった出来事とは・・・。


◆厚いガラス◆

(あっ、居たっ)

 まながペンション”わらい茸”のレストランを、デッキドアのガラス越しに覗くと、これでもかと言う位にバターロールパンを、口一杯に頬張っている女の子が見えた。笑っている。

 女の子は自分と同じ位の年恰好で、ほんのりと赤いほっぺが印象的である。


(何の話をしてるのかな~?)

 気になる。でも、おもむろに覗いてしまっては見つかってしまう。

 きっと、変な女の子だと思われてしまう。もしかすると、気味の悪い子だと思われてしまうかもしれない。

 愛は直ぐに車椅子を後ろに下げ、女の子を自分の視界から外した。

 心臓がドキドキして、息使いが荒くなっていく。


(どうしよう・・・もう一回覗いてみようかな)

 たった一人の女の子が見えただけなのに、中の様子が凄く楽しそうに思えてしまう。


 愛は先ほど、わいわいと総勢14人の大人と子供が、ペンションの前に集まっているのを自宅のベランダから羨ましそうに眺めていたのである。

 何の集まりなのか全く想像が付かない組み合わせだったが、その雰囲気がとても楽しそうで気になってしまったのだ。


 ただ、先程までは姉の麗美がペンションにいた。お客さんが居る時にペンションに遊びに行ったのが見つかると姉に怒られてしまう。それで、自宅のベランダからペンションの入り口を眺めるだけで、自分の気持ちを抑えていたのである。


 しかし、姉がペンションを出たのをベランダから確認すると、家の中で黙っていることが出来なくなってしまい、相棒の白い大型犬を連れて、つい覗きに来てしまったのである。


(よ~し、そうだ!)

 好奇心を押さえることが出来ない愛は、一緒に連れてきた白い大型犬を偵察に覗かせてみることにした。

「前」

 愛が横で行儀よくお座りをしている白い犬の背中を軽く押すと、犬は数歩前に出た。

「左」

 愛がレストランの中を指すと、それを見た犬はデッキのドアから、レストランの中に顔を向けた。


 愛はレストランの中の誰かが犬に気がついて、デッキに出てくることを願ったのである。これならば、覗いたの自分ではない。犬なのである。

 もしかすると、それをきっかけに中の人達とお話が出来るかもしれない。そう思ったのである。


 しかし、少し待ってみたたが、誰も出て来ない。

 愛の中では相当の時間に思えているだが、実際はたったの10秒前後の短い時間である。


「戻って」

 そう声を掛けて犬に繋がれているロープを引くと、犬は直ぐに愛の隣に戻り、また行儀良くお座りをする。

 本当にデッキに出てきたらどうしよう。そう思うと、ドキドキしてしまって、長い時間覗かす度胸が出ないのである。


(駄目か~)

 そのくせ、ちょっとがっかりして肩を落とす。心は裏腹なのだ。

 しかし、愛は簡単に諦めたりはしない。気持ちを立て直し、真剣な表情で唾を「ゴクリ」と飲み込むと、再び車椅子を前に出した。もう一度自分で覗いてみることにしたのである。


 愛はデッキに隠れるように上体を下げ、そ~っと前に出てみる。そして、顔を上げた。

(あっ~!こっち、見てる~!)

 慌てて上体を下げ車椅子を後ろに下げる。

 ドキドキ・・・ドキドキ。心臓が頭の先から突き抜けそうに高鳴っている。


「大丈夫かな~?」

 犬に話掛けるが、愛の方を向くだけで表情はいつもの通り。優しい目つきで愛を見るだけである。


「玄関に出てくるのを待ってみようか~」

 そう話しかけてみる。犬は暑さに息をハーハーするだけである。

「でも、駄目だー」

 もし、なかなか中から出てこなかったら、戻って来た姉に見つかって怒られてしまう。

 普段はとても優しい姉であるが、用も無いのにお客さんのいる時にペンションへ行くことは禁じられている。


 それは、愛も理解していることである。でも、今日のお客さんは気になってしょうがないのだ。友達になれそうな気がするのである。


「やっぱり帰ろうか~」

 そう、呟いた時である。後ろから足音がした。


「あっ見つかっちゃった」

 反射的にその場から逃げ様と、足音の方に振り向きながらも両手をクルマに乗せた。


 見つけて欲しいと言う気持ちで覗いたのだけど、今の愛はあからさまにドアから中を覗こうとしている体制だ。不審者である。それに、いざとなると話掛ける度胸もない。

 もしかするとさっき覗いた時に既に見つかっていて、既に不審者扱いされているのかもしれないのである。


 それでも愛は気になって、車椅子を動かす前に振り向いたのだ。

 愛は視線の先を女の子の顔に合わせてみた。

 すると、その視線の先では女の子が笑っていたのだ。あからさまの作り笑顔だ。そして、ゆっくりと近づいて来るのだ。感覚的に敵意の無いことが分る。


 愛は逃げようとしてクルマに乗せたいた手で、反射的に車椅子を反転させた。近づいてくる女の子の方に対峙した。


 一瞬足を止めた女の子は、さらに近づいて来る。

 仲良くなりたい。お友達になりたい。そんな気持ちが、自分を追い詰める様に行動を促してきた。

(どうしようか)

 でも大丈夫だ。こんなときどうしたら良いのか、本当は知っている。


 最高の作り笑顔を返せばいいのだ。

 問題はその度胸だけだ。


 思い切って口を横に開いて見た。そして、愛は一生懸命の笑顔を返してみた。

 作り笑顔は得意な方である。それは、いつもならである。

 でも、ここ一番の今日はちゃんと出来たのか不安だ。


 不安で作った笑顔は、ゴムの様に元の不安の顔に戻りそうなってしまう。

 しかし、そんな不安も一瞬であった。

 大丈夫てあった。女の子は更なる笑顔を返してくれたのだ。愛の気持ちに気付いてくれたのである。そして、愛の気持ちと同じであったのである。


(良かった。)

 安心した愛は、自然な笑顔に移っていった。もう不安な顔に戻る心配は無い。

 女の子はそのままの顔を崩さずに、ゆっくりと近づいて来た。今度のドキドキは、期待と喜びの鼓動である。


「良かったね」

 隣に座る白い大型犬に顔を向け、頭を撫でた。犬も顔を少し動かして、喜びを表現する様な仕草をとっている。一人と一匹は、喜びを分かち合っていた。多分・・・。


 そこに・・・。


 足音が急に賑やかになった。ゆっくりと歩いていたと思った女の子が、いのししの様に一直線に全速力で近づいて来るのである。

「え~~っつ?」


 愛が驚いている間に、いきなり白い大型犬に抱きついたと思うと、首に手を回し頬づりをしている。

 しまいには、芝の上で一緒に寝転がっている。

 大型犬が強引に押し倒されたのである。犬も最初は驚いて、困った様に視線をそらしていたのだったが、次第に尻尾を振りながら寝そべって喜んでいる。


 愛は暫く呆気にとられ見ていると、女の子は犬と共に急に起き上がった。

(何?)

 お互いに四つん這いになり、至近距離で顔を向い合わせている。

 女の子が「わん」と吠えた。

 それに、犬は応えるかの様に微かに喉を鳴らし、感情を現す仕草をとる。めったことで吠えない様にしつけられているのである。


「わんわんわん」

 女の子がさらに吠えると、犬も仕草で応える。犬はしっぽを元気良く振っている。


「うふふふ」

 愛が思わず声を出して笑ってしまうと、振り向いた女の子と目が合った。

 女の子は愛に話し掛けて来た。


「今日は気分が良いんだって。友達だってさ」

「言葉が分かるの?」

「ううん、言葉は喋らないからわかんない。だけど、そんな感情が伝わってくる気がするんだ」

「へ~~」

 愛はこれだけの会話で女の子が好きになった。楽しかった。興奮する自分を感じた。


「名前は何て言うの?」

 女の子が犬を見ながら聞いてきた。


まな

「ん?」

 女の子が不思議そうに小首を傾げている。

(あれ、おかしなこと言っちゃったかな?)

 今度はフルネームで応えてみた。


主家愛しゅけまな

 女の子は、犬を指さして、

「しゅけまな?」

 と言う。


 愛は気付いた。

(犬の名前を聞いてたんだ)

 間違えたと思うと、ちょっと恥しくて顔が赤くなったが、慌てて言い直した。積極的になれそうな気がして来た。


主家助しゅけすけって言うの」

 女の子は理解してくれたようで、愛に指をさし

「あ~、まなちゃん。しゅけまなちゃんって言うんだ。で、こっちがしゅけすゅけ犬だ」

 女の子は唾を飛ばして愛と犬を交互に見ている。


 愛は応える。なんか少し変だなあ~と思ったけど。

「うん、そう!」

 自分の名前を覚えて貰えた。それだけで凄い喜びを覚えたからだ。


 しかし、女の子は犬を指さし首を傾げる。

「しゅけすゅけ犬なの?」


 愛は”しゅけすけ犬”と言う種類の犬と間違われたと思い説明をしてみた。

「ううん、愛の苗字の”主家”に、”助”を付けて、”しゅけすけ”っていう名前なの」

「あ~そうか、”しゅけすゅけ犬”って言う名前なんだ」

 唾は飛ぶ。


(あれ?さっきから”しゅけすゅけ”って言ってるな~。”しゅけすけ”なんだけど、ちょっと違うけど~・・・)

 と思ったが、愛はそのうち分ると思い、

「そう」

 と頷いた。


「もえはね、”もえもえ”って言うの」

「えっ?”もえわね・もえもえ”」


「うんー、そっかあ~。私は”もえ・もえ”って言うんだ。よろしくー」

 普段言い慣れていない”私”なんて言葉を使ってしまい、照れくさくって顔が真っ赤になってしまう。


「もえ・もえ?」

「そっ、苗字が”もえ”で、名前が”もえ”」

「な~んだそうか、”もえもえ”ちゃんだ」

「ハハハ、うん。そう」


 愛の言葉に頷いた”もえもえちゃん”は、犬と自分を何度も交互に指さし、

「しゅけすゅけ犬、もえもえ、しゅけすゅけ犬、もえもえ・・・・」

 一人で満足そうに喜んでいる。


 愛は何で犬だからと言って、いちいち名前の”しゅけすけ”の後に、”犬”をつけるのか良く分らなかったが、

(いっか~)

 しゅけすけも喜んでるし、何より新しいお友達があんなに喜んでくれている。愛は嬉しかったので、気にしないことにした。


◆新しい仲間◆

 もえちゃんの大きな笑い声が開けっ放しの窓から進入して来た。


「もえちゃん誰かと話しているよ」

 食事を終え、立ち上がった陽太くんが窓から外を覗いて見つけたのだ。


「やっぱり、もえちゃんの話声だったんだ。行ってみようよ」

 健太くんがそう言うと、

「うん」

「そうだね」

「『ごちそうさま』」

 男の子達3人は厨房の前に立っている夫人の所へ、自分の食器を運んだ。そして、それぞれが声を掛ける。

「おばさん、美味しかった」

「凄く美味しかった」

「パン一個もらってもいい?」


 それを一人ずつ受取りワゴンに載せる夫人は、幸せそうな笑顔を浮かべ応える。

「ありがとう、いいよ持って行って。・・・みんな、ホント偉いのね~」


 もえちゃんが食器を下げたので、みんなはそれに習っているのである。

 夫人の言葉に恥しそうに頭を下げて、3人は外に飛び出して行った。


 食事を終えた和美も、窓からもえちゃんの様子を覗いて見た。

「あ~ら、ホントだ。もえちゃん、もうお友達を作ったのー」

 和美の視線の先には、車椅子の少女がもえちゃんと楽しそうに話している。

 それに、間もなく男の子達3人加わって来て、一瞬のうちに大騒ぎである。ざわめきがレストランの中まで伝わって来る。


「やっぱ、梢の遺伝子は最強なのね」

 和美はそう一人呟いた。


 女の子達も慌てて食器を下げ、外に飛び出して行った。それにつられ、大人達も食事を終えた者から各自食器を下げて行く。とても、気持ちの入った美味しい食事であったのだ。子供達には負けられない。

 そして、未だ食事を楽しんでいるのはレイラだけである。


 食事を終えた帯人と庄蔵も外の様子を覗いて見ていた。

 楽しそうではあるが、帯人は女の子が気になった。

「あの子は、さっきの・・・」

 夫人に聞いてみた。


 いつの間にかみんなが窓から外の子供達を眺めていた。レイラも子供達の楽しげな様子を顔を乗り出して、デッキドアから少しだけ眺めたが、テーブルに戻って一人黙々と食事を続けた。何せまだ食事中なのは自分だけなのである。しかし、レストランの中ではざわめきでしかない子供達の会話も、耳だけはしっかりと残さず聞いていた。


 帯人の問いかけに夫人が応えた。

「そう、麗美ちゃんの妹さんの愛ちゃんですよ。珍しいわね~」

 夫人は微笑ましいそうに笑っている。


「普段はお客様が居る時は来ないんですけど、きっと凄く気になったのね」

 ご主人も厨房から出て来て外を眺めている。


「麗美ちゃんが、いなくなった隙に来たんだろうよ。麗美ちゃん仕事に厳しいからね」

 ご主人も目を細めて見ている。


「あの~、脚はずっと悪いんですか?」

「実は・・・」

 帯人の聞きずらそうな言葉に夫人が応え始めた。


「・・・」


◆アクセサリー屋さん◆

「ねえ、直ぐに戻って来るから待っててね。絶対だよ」

 そわそわした様子の靖子ちゃんは、みんなにそう確認をとると、澄子ちゃんを誘ってレストハウス朱真理の前でアクセサリーに文字を彫って売っているワゴンに向って走り出した。


 本当は、愛ちゃんに「待ってて」と言いたかったのだが、さすがの活発な澄子ちゃんも、一言も話していない愛ちゃんに直接お願いする度胸が無かったのである。


「うん、大丈夫だよ」

 もえちゃんが応える。他の子供達も「そんなに慌てなくても大丈夫だよ」と言いたげにニコニコしながら頷いている。


 靖子ちゃんは思井沢に到着した時に見つけたアクセサリー屋さんで、昼食後にお土産を買おうと思ったのである。しかし、文字を彫ってもらうと時間が掛かると思い、お土産を買うのは明日にして、取り敢えず明日もお店がやっていることだけを確認しよう思ったのである。

 

「おじさ~ん」

 遠くから叫ぶ靖子ちゃんの声に、アクセサリー屋の若いおじさんが、ヘラヘラしながら手を振って応えてくれた。

 真剣に走ってしまうと澄子ちゃんより、靖子ちゃんの方が断然速い。靖子ちゃんが先にワゴンの前に到着したのである。


「ねえ、おじさん・・・」

 と言い掛けて、靖子ちゃんが首を傾げる。


「あれ、もしかしておじさんまだ若いの?」

 おじさんの顔を改めて覗いてみると、どう見ても若いのである。

 澄子ちゃんは、日焼けして麦わら帽子をかぶった露店の男性は、みんなおじさんであると言う固定観念があった。


「さっき来たお嬢さんやね。早かったね」

 そう応えると。おじさんは麦わら帽子を取り、靖子ちゃんの前に顔を出した。そこからは若い爽やかなお兄さんが現れた。

 靖子ちゃんの顔もパッと輝く。

 

 そこに、靖子ちゃんの後を追いかけて来た澄子ちゃんが到着して、感想を先に口に出した。

「あれ、おじさんじゃないの」

 お嬢さん達程やないんやけど、結構若いつもりなんやけどな~、お・じ・さ・ん・も」

 どう?と、回答を待つように問いかけた。


 靖子ちゃんは、ちょっとドキリとした。内心カッコイーと思ったが、澄子ちゃんの手前、

「うん、お兄さんだった」

 と、お兄さん同様にヘラヘラと笑ってみせるに留めた。


「お兄さんに、お名前教えてくれんやろか」

 アクセサリー屋さんは、一応お兄さんを定着させようと”お兄さん”を強調してみた。

「うん、私が靖子でこっちが澄子ちゃん」

 指さす靖子ちゃんに、口を開きかけた澄子ちゃんは名前を飲み込んだ。

 その変りに澄子ちゃんが、いつになく積極的にお兄さんに質問をした。


「兄ちゃんは、何て言うの?」

 靖子ちゃんはちょっと驚いた。


「俺かい、俺はね、鈴音鉄鎖すずのねてっさっていいます」

 姿勢を正して、改まった口調で応える姿が二人には可笑しかった。

 自己紹介の後は親しげに二人に話掛けて来た。


「靖子ちゃんと、澄子ちゃんは、今日はペンションにお泊まり?」

「ううん、コテージって言うところに泊るんだよ」

「そうなんだ、じゃあさっき一緒にいた大勢で泊まるんやね、それは楽しみやね~」

「そう、色んなことして遊ばなきゃ」

 鉄鎖には二人の抑えきれない気持ちが、体全体から伝わって来るのを感じた。自分も楽しくなってしまう。


「ええな~、何して遊ぶ?」

「今日はね、夜に花火をやって、その後に肝試しをしたいんだけど。ねえ、鉄鎖さん此処って”へろへろ女”が出るって本当なの?」

「てっさんでいいよ。言いにくいやろ」

「うん。てっさん」

 靖子ちゃんは親しがな呼び方を使ってしまい、心が弾んでいく。

 鉄鎖は頷いて話を続けた。


「ヘロヘロ女?」

 と言った後に少し考えて、

「ヘロヘロ女が出るって誰から聞いたん?」


 靖子ちゃんは「八百やお・」まで言い掛かって、「あっ」と言い、訂正して続ける。

「大学生の従兄から聞いたの」

 それを聞いて、鉄鎖は笑いそうになるが堪えた。靖子ちゃんはさらに続ける。

「ペンションではね、ヘロヘロでなくて、ヘラヘラした女の人が出るって聞いたんだけど」


「なるほどな~。そう、確かに女の人はね~~」

 そこで、何故か無風だった高原にどこからともなく風が吹いた。靖子ちゃんと澄子ちゃんの頬を生温い風が撫でる様に通り過ぎる。

 二人は、ちょっとザワっとした。


 そして、充分な溜めをつくった後に鉄鎖はゆるりと続けた、

「ホンマ、でるらしいで」

「え~~~」

 出ないのも困るが、出るのも困る。二人はヘロヘロ女の話を聞き、ドキドキしてくる。


 鉄鎖はさらに続ける。

「その女はな、寝苦しい夏になると出るんや。引きずりそうに長いヨレヨレの白いドレスを着ててな、前髪を垂らして真っ白な顔を半分隠してるんや。そして、不気味にニタニタと笑うんや」

「ヘラヘラじゃないの」

「それは人それぞれの見方やな」

「ふ~ん」


「そして、藪の中に居たと思ったら、次の瞬間には、今度は木の上に現れたりかするんや。気がついたら、いつの間に直ぐ後に来ていて、言うんや」

「うん」

 二人は生唾を飲み込む。


「”喉がからから”ってな。逃げても駄目やで。物凄く脚速いから。バイクより速いらしいからな」

「お酒を上げると良いってホント?」

 これは拙いと思った澄子ちゃんが、思いつめた様な顔をせり出して言った。


「お酒?・・・うん。あ~お酒があれば大丈夫や」

 少し考えて鉄鎖はそう答えた。

「でもな、冷えたビールが一番良いらしいで。それさえあれば、心配せんくてもえ~安心や。なければ、そうやな~、二番目は冷えた酎ハイやな」

 

「あ~良かった。だったら大丈夫だね」

「大丈夫なん?」

「うん」

 二人はホッと肩を撫で下ろす。

 すっかり鉄鎖の話に聞き入っていたが、安心したとたん急に思い出した。


「いけない、早く戻らないと」

 靖子ちゃんの言葉に

「そうだ、そうだよ」

 澄子ちゃんが頷く。


「明日そのマグカップ買いに来るねー」

 靖子ちゃんの指は黒いカップを指している。

「誰かにプレゼントかい」

「うん。ノシさんに!」

 固有名詞を出してしまった。

(ノシさん?)

「わかった」(待ってるで、ホンマ待ってたんやで)


 二人が走って戻って行く姿をった後で、

(しかし、あのおっさん、なかなかやるやないか~。どおりで、あんな商店街に居つくわけや。

 鉄鎖は、そう呟いた。


 ◆レストランの内外で◆

 外の子供達は、愛ちゃんを中心に話が盛り上がっている。もえちゃんは、未だしゅけ介とジャレ合っている。

 

「愛ちゃんは、何処から来たの?」

 雄大くんの言葉に、

「あそこ」

 と指さす先は、ペンション”わらい茸”から少し離れた2階建の家である。


「え~、ここに住んでるの。凄~い」

 雄大くんは羨ましそうである。しかし、その応えに健太くんは、別のことが気になってしまった。

「じゃあ、もしかしたら、ここで働いている麗美さんって・・・」


「うん、お姉ちゃん」

「そう言えば、愛ちゃん麗美さんに似てるよ」

 健太くんの言葉に、

「ホント」

 愛ちゃんの目がパッと輝き、嬉しそうである。

 そのはずである。

 愛ちゃんはお姉ちゃんを尊敬しているのである。ちょっと煩いところもあるけど、優しくて大好きなのである。

「お姉ちゃんって凄いんだ」

「ホント、どう言う風に?」

 愛ちゃんは、嬉しそうに姉の麗美のことを話し出した。

「・・・」



 一方レストランでは、帯人の質問にペンションの夫人が3年前の事故について、辛そうな面持ちで話し出した。

「そこの遊歩道は、コテージの直ぐ下まで続いてるの。うちで作ったものなんですよ」

 子供達の遊んでいるペンションの庭の直ぐ隣には、湖畔に沿って短い遊歩道がある。この遊歩道はペンションが所有しているのである。

 

「遊歩道の最終地点に芝生の小さな広場を作ったんですけど、元々そこには麗美ちゃんと、外で遊んでいる、愛ちゃん達家族の家があったの。

 今は、うちの隣に家が一軒あるでしょ。そこに住んでるんですけどね」

 夫人は家の方向を指さした。


「家も古かったので、建て直す時にロータリーの近くに引っ越したかったらしいの。

 観光地になって色んな人が来るでしょ。夜になると湖畔の道路も暗いのよ。

 それで、麗美ちゃんと愛ちゃんの為に夜でも明るいロータリーの近くが良かったのね。

 ご両親にとってもホテルが出来てから、そこで働いていいるので、近い方が良いですし。

 偶々私たちがその話を聞いた時、丁度うちもコテージを建て様と思っていたところだったの。

 それで、麗美ちゃんの家の場所も良かったので、ちょっと離れているけどそこでもいいかなって、ね」

 夫人はご主人と顔を見合わせる。

「ああ」

 ご主人がそれに頷く。


「結局は簡単に言えば、うちが持っていた内の隣の土地の部分と、麗美ちゃんの家が持っていた、麗美ちゃんの家の建っていたところと、道路を挟んで今ペンションの建っている土地の部分を交換することになったの。

 それで、3年前最初に麗美ちゃん達の家を隣に建てて、引っ越しが終わってから、コテージを建て始めたの。

 その頃に、丁度麗美ちゃんが都会の大学に行くからお金を貯めたいって言い出して、忙しい時にうちにアルバイトでお手伝いをしてくれるようになったのよ。

 二人とも可愛くって、仕事の無い時でも遊びに来てお手伝いしてくれたわ。二人は手を繋いで来るのよ」

 和美や帯人達には、夫人が二人を愛しているのが凄く伝わってきた。夫人はさらに続ける。


「それから、3か月程経った丁度今頃のことだったの。

 コテージがほぼ完成して、麗美ちゃんと愛ちゃんが二人でコテージを見にいったの。

 あれは、その時に・・・」

 夫人の表情が曇っていく。


 レイラは外の子供達の話と、夫人の話しの両方をリンクさせて聞いていた。

 何かが起こる。そんな予感がした・・・。

 

 <つづく>

 


 

今回はテンポを気にせず、文章を省略せずに書いてみたので、かなり長くなりそうです。

何卒お付き合いの程宜しくお願い致します。

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