第16話 夏休み納涼”へろへろ女”生け捕り作戦5
3回目の休憩は、朱真理湖が見える景色の良い高台であった。そこは澄子ちゃんのお母さんの思いやりが見つけた場所である。
◆朱真理湖が見える高台◆
高速道路を降りてから、国道77号線を西に30分程進み、さらに両サイドを白樺の木で覆われた片道1車線の坂道(通称:思井沢通り)を30分程登ったところから傾斜がほぼ平らになる。そこから朱真理湖までの約4km程が”思井沢高原”と呼ばれている。
この”思井沢通り”沿いに近年別荘が多く建てられるようになったきっかけが、このダム湖である朱真理湖が出来たことだ。
今、3台の車は国道77号線から思井沢通りへ抜ける一般的な道順を通らずに、ちょっと遠回りをした、斜面を蛇のトグロの様にうねった急勾配の山道を登り、朱真理湖が見下ろせる小高い山の頂上に出た。
この小高い山の頂上附近には木々が少なく、朱真理湖までの眺望が開けているのである。
ここは、表立った観光スポットでは無い為、観光用に駐車スペースが用意されている分では無いが、自然に出来た数台分の駐車スペースがあり、隠れた穴場的な名所となっている。
3台の車が到着した時には、他には2台の車しか来ていなかった。
この山林に囲まれた青い湖を一望できる高台は、勾配のきつい斜面に自然の芝が美しく敷き詰められている。
眼下にある朱真理湖からは、水面を照らした陽射しが眩しく照りかえしてくる。
生温い風も爽やかに頬を打つ。
「いや~和美さん飛ばしますね~。ついて行くのがやっとですよ。なあ、庄蔵」
並んで停めた3台の車から。飛び出す様に次々と子供達が降りて行く。その中で、運転席から疲れ切った顔の帯人がゆっくりと顔を覗かせて、庄蔵と和美に話を向けた。
慣れない山道の運転から開放されて、ホッとした様子である。
庄蔵が帯人に返事をしようとした時に、靖子ちゃんが嬉しそうに庄蔵の手を引張りながら庄蔵の代わりに帯人に応えた。
「楽しかったよね~。車がボンボン跳ねてさ~。ね、庄蔵さん」
庄蔵は子供達のウケを狙って、ハードな運転をしたことをばらされて苦笑いをしている。
「ねえ、こっち、こっち」
庄蔵はそのまま靖子ちゃんと、澄子ちゃんに両手を引かれて、湖面の見える場所へ移動して行った。
その後ろでは、諸湖羅が陽太くんと雄大くんに押される様に連れていかれている。
さらにレイラも、もえちゃんと真希未ちゃん。それに健太くんの3人に引っ張られている。
その様子を和美と帯人は眺めながら、
「お互い人気がないわねー」
「ホントですね・・・」
と応えた後で、
「何がだめなんだろうな~」
小さい声で、帯人がぼやいている。
「ハハハ。そんなこと位で悩んでいたら、この先、親になんかなれないわよ」
和美は、諸湖羅の背中を押している陽太くんの方を眺めながら笑っている。
「ついこの間まで、母ちゃん、母ちゃんって、いつも後をついて来たくせに、今じゃこれだもんね。若いお姉さんには勝てないは。今じゃ、お腹が空いたとき位よ、母ちゃんって寄ってくるのは」
とは言うものの、和美の様子は決して寂しげではない。
帯人は和美の様子を見て、言葉を代弁してみた。
「それでも、子供の成長が嬉しいって言ったところですか」
「そうよ、その通り。結構分ってるじゃない」
「光栄です」
帯人が大げさに頭を下げて見せた。
二人は楽しそうな子供達を眺めながら、さらに話を続けた。
「ねえ、帯人くん達の親御さん達は、どちらにお住まいなの」
和美は帯人達の両親の気持ちが気になったのである。
「庄蔵だけが自宅で、僕と諸湖羅は地方からのお上りさんですよ」
「へえ~、それは都会に憧れてなの?」
「僕は有名大学に入りたかったから、それに近いかもしれませんね。諸湖羅はその通りですよ。都会で一人暮らしがしたかったみたいですよ。地元の国立大学をワザと落ちた位ですから」
「おや~、意外にアクティブなのねー」
「緒湖羅の実家は家具工場を経営していて、可愛い一人娘なんですよ。それで、出てくる時は大変だったらしいですよ」
「あ~、目に浮かびそうね」
和美は目を少しの間閉じて想像してみると、その様子が浮かんできて笑いが込み上げてきた。
他の二人のことも気になるところである。
「じゃあ、庄蔵くんの家は?」
「庄蔵の家は代々お医者さん何ですよ。開業医です」
「へ~凄いのね」
「そっか、和美さん知らないですよね。僕と諸湖羅は理工学部の建築学科ですけど、庄蔵は医学部なんですよ」
「ハ~、後継ぎってこと」
「いえ、それは庄蔵の兄さんが継ぐ見たいですよ。庄蔵は気楽な身なんです。ああ~、因みに母親も医者だそうです」
「参ったわね」
和美は降参したように両手を挙げた。
「それで、お宅はなんざましょ」
和美は余りの凄さにレベルを合わせようと、気取って聞いてみた。
「うちは、地上に下りた天上人って言ったところでしょうか」
「はあ?そりゃあ、なんだろか」
と言いながらも、問題形式の回答に、咄嗟に和美は頬に手を当て考え出す。
「考える時間は10秒ですよ~、急いで下さい。」
「あら、随分短いわね~・・・。そうねー」
「10、9、8・・・」
帯人が急かすようにカウントダウンを始めた。
「降りた天井人よね。降りた天上、下りた天・・・えっ、ホントに?」
和美は閃いて、
「ピカッ!」と擬態語で表現してみた。しかし、手を両手を打つが顔付きは半信半疑である。
「解りました?」
帯人が和美の顔を伺う。
「もしかして、天下りした元官僚さんなの?」
「さすが和美さん、凄い正解です。賞品はありませんけど・・・。父は3年前に早期推奨退職をして、今は某法人○○協会の常勤役員をやってますよ。」
「いや~、問題に正解したよりも、そっちの方が凄いわよ。実物見るの始めてよ」
「僕を見ても違いますって。でも、あれはそうですよ」
そう言って、帯人は自分の車を指さす。
「結構、退職金って貰えるんですよ。あれは、その恩恵ですよ。入学祝いで買ってくれました。お願いしたわけじゃないんですが、結構歳とってから生まれたもんで。甘やかされています」
「貰えるものは貰っちゃいなさいよ。でも、へ~借金まみれの国なのに、報酬はいいのね。うちの父ちゃんの会社は結構業績良いけど、給料安いわよ」
「すみません。株主?の国民の皆様よりいい暮らしさせて戴いております。憲法では”国民全体への奉仕者”なんですけどね。”奉仕”って何なんですかね」
「さあね~あんまり気にしちゃ疲れちゃうわね」
和美は苦笑いをする。
「僕は公務員じゃないんで、今回はせめてあの車で”一部の人”に奉仕ですよ」
と、もえちゃん達の方にめをやる。
「ホント?」
「うそです。自分が楽しみに来ました。当然です」
そう言う帯人の言葉に(子供達への奉仕と言うのも半分は本音かな?)と、和美は思った。
「3人共、凄いわね~」
「親がですか?」
「いや~、あんた達よ。みんなお金持ちっぽくないもの。それに、中稲畑大学って難しいのよね」
「でも、僕の予定では棟大に入る予定だったんですが~、見事に落ちました」
「へ~、それまた凄い」
「落ちましたけど・・・?」
「受けるレベルであるだけで凄いわよ。私なんて問題の意味も分かんないわよ。それに、どっちに行った方が幸せかなんて分かんないしね」
「否、そこだけは自信があります。今では、ホントに棟大に落ちて良かったと思っています。あの時、落ちて、寝込む位ショックを受けたのがバカみたいですよ」
「結果オーライなのね。私達にとっても帯人くんが中稲畑大学に来てくれてオーライよ」
「結果オーライ過ぎです」
「あの子達もみんな、この先結果オーライな人生になるといいわね」
「絶対になりますよ。みんなしっかりしてるし。持ってるもの持ってますしね」
(内の子が一番しっかりしてないかな~)
と、和美は思ったが、きっとみんなに追いつくと信じている。今の陽太の変わり様には、自分も驚く位なのだから。
和美は、この学生達が何となく可愛く思えて来た。
「あぶれた者同士仲良く、景色を楽しみましょうか」
そう言って、帯人の手を取ろうとした時に、澄子ちゃんが二人の前にやって来た。
「どうしたの、澄子ちゃん?」
和美は少し残念な気持ちを封じ込めた。
「帯人くん、あそこの木にカブトムシがいるんだけど、庄蔵くんじゃ太ってて木に登れないの」
庄蔵、諸湖羅と、靖子ちゃん、陽太くん、雄大くんが、木を見上げている。
「よ~し、任せて澄子ちゃん。僕が取ってあげる。庄蔵じゃ無理だよね」
やっと子供達からお声の掛かった帯人は大喜びで、澄子ちゃんをおいて、先に木に向ってまっしぐらである。
「落ちるんじゃないわよ~」
「任せて下さい。天上りしますから」
「ハハハ」
高台には、風が気持ち良く吹いていた。
ここに居るみんながそれを感じていた。
「ねえ、おばさん」
「なーに、澄子ちゃん」
「一緒にみんなの所に行こう」
澄子ちゃんが和美の手を取ると、女の子のいない和美は、手を引かれてちょっとドキッとした。
(いやー嬉しいわ~、気を使ってくれてるのね。帯人くんの気持ちが分るわ~)
と、思いながら、
「ありがとう、澄子ちゃん。よし、おばさんも木に登っちゃおうかしらね」
笑顔を向けると、エヘエヘと澄子ちゃん首を傾げて笑ってくれる。
和美は女の子もいいな、なんて思う。
和美はこの旅行中にどうしても澄子ちゃんに話したかったことを思いだした。
「ねえ、澄子ちゃん。ここ良いところでしょ」
「うん」
言葉の少ない子である。
「ここね、澄子ちゃんのお母さんが調べてくれたのよ。ここの景色がいいから絶対に寄っててさ。そう言ってたのよ」
「お母さんが・・・」
「そう、ここも、この後の昼食を取るところの予約も、泊まるコテージも、それから、車に沢山荷物積んだでしょ。あの荷物を用意する分担も、ぜ~んぶ澄子ちゃんのお母さんが考えて、みんなのお母さんに連絡してくれたのよ」
「ほんと・・・」
澄子ちゃんには信じられなかった。澄子ちゃんの母の真理子は余り積極的ではなく、人の決めてくれたことに従うタイプなのである。
家族で出掛ける時は、いつでも全てお父さんが決めるのである。
澄子ちゃんには凄く、以外な母の行動であった。
◆分担◆
和美を中心として、この旅行決行の全家庭の合意と、レイラの承諾が取れた翌日のことである。
御手洗家の電話が鳴った。
「はい、御手洗ですが」
和美のはっきりとした声に、控えめの声が返ってきた。
「あのー湖水ですけれども」
「ああ、澄子ちゃんのお母さんですか。今晩は」
「どうも、今晩は」
控え目である。
「子供達の旅行の付添は、御手洗さんか那須波さんが行って頂けるそうで、有難うございます」
「いいえ、とんでもない。二人とも行きたくてしょうがないのよ。今、靖子ちゃんのお母さんとの争いよ。だから気にしないで下さい」
「私は、子供達を楽しませてあげることが下手なんで助かります。それで、せめて段取りだけでもやらせてもらたいと思いまして・・・」
真理子は、大人しくて無口な澄子ちゃんが、良い仲間達に囲まれた感謝の気持ちを表したかったのである。
それは、和美と全く同じき気持ちであった。
ちょっと不安に思っていた陽太がこの仲間に入ったことによって、急激に変わっていったのである。きっと、澄子ちゃんのお母さんの真理子もそう思ったのだと和美は思うのである。
「いいんですか?そうして頂けると、助かりますわ」
「その位しかできませんから」
「とんでもない、一番大変な役目ですよ。ありがとうございます。みなさんには私からお話しておきます」
そんなことで、全ての計画案は真理子が考え出したものである。そして、その案をそのまま、今行動しているのである。
◆その動物は?◆
澄子ちゃんは、母の気持ちが嬉しかった。こんな余り知られていない景色の良いところまで、自分達の為に調べてくれたのである。一所懸命に調べれくれたのが伝わってくる。
澄子ちゃんは、この日から少し積極的になっていった。
自分も何か出来る。そんな気持ちになったのである。
和美と澄子ちゃんが、帯人が一所懸命木に登っている所にやって来た時には、みんなが集まっていた。様だったが、そんな中で、もえちゃんだけが少し離れた所で見たことの無い動物と向い合っていた。
もえちゃんも、カブトムシ取りに加わろうとレイラと一緒に向かったのだが、その時藪の中から”ヒョン”と言う感じで可愛い小さな動物が顔を出したのである。
「あれ?何だ」
もえちゃんが近づいても、その動物は全く逃げようとしない。それどころか、もえちゃんが舌を鳴らして呼ぶと近づいて来るのである。
「あ~、可愛い」
屈んで、顔を近づけるとその小動物も顔を近づけてくる。
その動物は、芦毛のタヌキに耳をウサギの様に長くした動物で、「クークー」と小さい声で鳴いている。
もえちゃんには、「食べ物が欲しい」と言っている様に感じるのである。
ポケットの中からビスケット出して、それを半分に割って手に平に乗せると、器用に両手で挟んで食べ出した。
もえちゃんが頭を撫でても全く逃げる気配が無い。
ビスケットを食べ終えると、少し前に進んではもえちゃんの方を振り向く。
「クークー」
(ついて来いって?)
もえちゃんは心でそう思うと、口からひとりでに「クークー」と、唸る様な小さな音を鳴らしていた。
それに、動物が頷いた様に見える。
もえちゃんは、後を付いて行ってみた。
すると、動物は高台の端にある高さ50cm位の大きな岩の上から、湖に向って見下ろしている。
もえちゃんが、動物と並んで見下ろして見ると、湖に近い所の芝の奇麗な平らなスペースを見下ろしている様である。
そこに、レイラがやって来た。
「もえちゃんどうしたの?」
そう言った瞬間に動物は逃げて行ってしまった。
「あ~あ、レイラちゃんが来たから、動物が怖がって逃げちゃったよ」
「ごめんなさい。えー、もえちゃんは平気なのに、私がそんなに怖かったのかしら~。そ、そんな~」
そう、答えながら、
(野生の動物が人間に?あれって、もしかしたら、絶滅危機の特別天然記念物”ウサタヌキ”かしら。でも、こんなところに?)
レイラは、不思議に思った。
「レイラちゃんは怖いんだよ」
もえちゃんは、ウシシシと、ケンケンのような笑いでレイラを見つめてくる。
「あの動物ね、あそこを見ていたんだよ」
もえちゃんの指さすところは、芝が奇麗に生え揃っている緩やかな斜面に、枝を広々と伸ばした大きな木が一本空に向って幹を伸ばしており、凄く印象的である。
ただ不思議なことに、そこだけがバラ線で囲まれているのである。
「変な雰囲気なところね~」
「うん、何で、あそこだけバラ線があるんだろう」
レイラともえちゃんが、見下しているところに、カブトムシを見事捕獲した歓声が聞こえて来た。
「捕まえた見たいね」
「そうだね」
「もえちゃん、みんなのところに戻りましょうか」
「うん」
二人は、みんなの所に小走りで向かった。
戻ってみると、今まで見たこともない位に大きなカブとムシが2匹と、自慢げな帯人が一人陽の光に輝いていた。
「さて、そろそろ昼ごはん食べに行きましょうか。二人が待ってるわ」
二人とは、弘史と昌史のことである。
和美の言葉に、
「『は~い』」
とみんなが返事をする。
その元気な声の中で、健太くんが、
「カブトムシは逃がして行こうよ。虫かご持ってないしさ」
それに、
「そうだね」
陽太くんが応える。
「じゃあ、逃がして行こう」
もえちゃんの言葉に、逃がして行くことに子供達が頷いている。
「そんな~、せっかく捕まえたのに」
帯人の叫びに、優しく真希未ちゃんが囁いた。
「大丈夫。ちゃんと、みんなの心には残ったから」
その大人びた言葉に、ちょっと固まる。
「さあ、行きましょう」
諸湖羅が帯人の肩に手を乗せた。
「う、うん」
納得出来た様な出来ない様な、そんな気持ちの帯人であったが、妙に気分は良かった。
みんなは、また3台の車に分乗した。
今度は、和美の車に子供達が乗り込んできた。
◆思井沢高原到着◆
思井沢通りを走る3台の車の視界には、大きなホテルが見えて来た。湖が見下ろすせる”思井沢高原ホテル”である。
通りに沿っての両サイドには、最近急激に増えて来たペンションや別荘が散在している。
思井沢通りの最終地点は、湖畔近くでロータリーになっている。
周りには駐車場。それに、湖に一番近い所には、お土産屋さんとレストランが入っている”レストハウス朱真理”と言う2階建ての建物がある。
その他には、小さな商店とペンションが一つ。それに公衆トイレがあるだけである。
やっと、最近知られ始めただけの避暑地なだけあって、一番の観光スポットのこの場所も、まだ広々としている。とは言っても、駐車場は一杯に埋まっていた。
3台の車は、そのロータリー沿いにあるペンション”わらい茸”の駐車場に車を止めた。ペンションは、3階建ての北欧調の建物で木製の外壁に温か味を感じる。これから昼食を取るところである。
ペンションの駐車場には、先に来ているはずの弘史と昌史のバイクがが停まっているが、二人の様子が見当たらない。
どこにいるかと、みんなで辺りを見回すと、弘史と昌史がレストハウスの前のベンチに座って、暑さでへたばりながら、今か今かと待っていたる様子が伺える。待ち合わせ時間を15分程過ぎていた。
子供達全員が元気に走って二人を呼びに行ったが、女の子達はレストハウスの前のワゴンで、引っ掛かってしまった。
”レストハウス朱真理”の周りが、この辺りでは一番賑やかな場所である。
建物の中から外に向ってソフトクリームやかき氷を販売している。建物の前には幾つかのワゴンが出ており土産品を販売している。
その中で、女の子達の目を引いたのは思井沢記念のお土産として、若者向けにペンダントやマグカップに文字を彫って販売しているワゴンである。
そこには、愛想良くヘラヘラとした感じの気の良さそうな若い男が、サンプル品としてマグカップに文字や、キャラクターの絵を彫っていた。これが結構上手くて、子供達の気を惹きつけるのである。
「可愛いお嬢さん達いらしゃい。ちょっとだけでも見っててな~」
気の抜けた様なその声に、靖子ちゃんがワゴンに向って走って行った。必然的に澄子ちゃんも付いて行く。
もえちゃんと、真希未ちゃんもゆっくりと後を追う。
「へ~これおじさんが彫ったんだ。上手いね」
靖子ちゃんの言葉に、
「ありがとなー、おじさん上手いやろー」
おじさんと云われたことは、あまり気にしていない様である。
「うん、ホントはもっと見たいんだけど、今これからお昼だから後でまた来るね」
男の子達が弘史と昌史を連れて来たのを確認して、靖子ちゃんと澄子ちゃんのは二人は、ヘラヘラした若い男に手を振ってワゴンを離れた。
「待ってるで~、ホンマに来てなー」
若い男はへらへらと二人を見送りながら、視線はレイラの方に向いている。
「やっと、来てくれた~。待ってたよ」
男はそう、呟いた。
子供達と弘史と昌史が戻って来て、ペンション”わらい茸”前に全員が揃った。
「じゃあ、お待たせしました。お昼にしましょ。ここの食事は美味しいらしいのよ。ね、澄子ちゃん」
和美はにこやかに続けた。澄子ちゃんも笑顔で応える。
「二人の分も、サービスエリアから電話して確認したから大丈夫よ。さあ、入りましょ」
和美の言葉を合図に、総勢14名がぞろぞろとペンションの中に入って行った。
レイラは、木の香りが優しく心に浸透してくるのを感じた。
<つづく>