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第16話 夏休み納涼”へろへろ女”生け捕り作戦4

思井沢高原に行く途中の2度目の休憩で、子供達を喜ばせようと、和美と庄蔵は腕相撲大会を始めた。

◆揚げ餅買出し罰ゲーム杯腕相撲&今番の夕食後片付け免除ギャンブル大会 始まり◆

 そして、和美と庄蔵の二人の盛り上がりで、勝手に腕相撲大会になってしまった。和美の一言には何かみんなを惹きつけてしまう。そんな統率力が不思議とあった。


 腕相撲大会の参加者は当然大人全員と行きたいところなのだが、必然的にどんなハンデキャップを与えても最下位決定の若干1名を除いて行われることになった。若干と言うのは、もちろん緒湖羅である。

 諸湖羅は審判役にまわることになった。


 よって腕相撲大会は、庄蔵、いやいや参加の帯人、ヤンキーの弘史に昌史、それに和美とレイラの6名である。


 ルールは、和美の独断で決められた。

 庄蔵、昌史、弘史、帯人、レイラ、和美の順の勝ち抜き戦で、最後に残った者が優勝である。男性の強そうな者の順に勝負数が多いことになる。よって、庄蔵が一番不利で和美は一勝で優勝である。


 そして、一度も勝利の無い者同士が戦い、負け残った者が最下位である。


 優勝者は、旅行中の炊事当番の免除。そして、最下位はこのサービスエリアに売っている揚げ餅を全員に奢るのである。

 和美の腹では、最後に庄蔵と戦い、場を盛り上げるのが狙いである。ちょっといんちきで勝ってやろうと、作戦も考えているのであった。



 サービスエリアの駐車場からトイレに向う途中になる木製のテーブルと椅子のある休憩スペースがある。今、そこに大人と子供合わせて総勢14名が円を組む様に集まっている。

 

 この勝負には、観戦者である子供達が一番乗り気である。もちろん和美も半分はそれを見込んで、普通に勝負しては、勝ち目の無い庄蔵に勝負を挑んだのである。それは庄蔵も暗黙に承知している。

 子供達の為の、思いつきの一つ目のイベントである。


 だからと言って、庄蔵も故意に負ける気は全くない。自分も勝負を楽しもうと思っている。ただ、当然どんなハンデが与えられも受け入れるつもりでもある。


 そんな気持ちを知ってか知らずか。子供達は大盛り上がりである。

 誰が勝つかで、夕飯の後片付けを当番を決める掛けをすることになった。勝者に応援すると片付け免除である。もちろん言いだしっぺは、あみだくじ好きのもえちゃんである。

 

 もえちゃんが言う。

「どうせさ~、みんなは庄蔵を応援するんだから、もえはレイラちゃんを応援するよ。レイラちゃんの為だったら後片付けするよ」

 と、下向きさを強調する。


 レイラが横目でもえちゃんを見ると、悪戯な笑顔をレイラだけに向けて来た。

 それを見て、しょうがないな~と思いながら黙っていることにした。


 それに、健太くんが続いた。

「僕は、やっぱ庄蔵さん。いくらレイラさんでも力じゃあ庄蔵さんじゃないのかな~」

 その言葉に、

「俺も」「俺も」

 と男の子は全員後片付けが嫌なので本命の庄蔵の応援に回った。 

 それには、

「私も」

 と、靖子ちゃんも庄蔵派である。靖子ちゃんもお手伝いはあまり得意ではない。


 この一方的な状況に、和美は不満げな表情を見せる。

「ちょっと、陽太は母ちゃんの応援しなさいよ」

  

 しかし、息子の陽太は、肉親よりも現実の厳しさを見つめていた。

「でも、母ちゃん。幾ら母ちゃんでも現実は厳しいよ。他の人には勝っても、無理なものは無理だよ」


「陽太には、家族愛が無いの。寂しいわね~」

 と、寂しいそうな振りをすると、はなから片づけをするつもりでいる真希未ちゃんが、

「私は、おばさんの応援しますね」

 と気遣う。

 和美は嬉しさのあまり、真希未ちゃんを抱きしめた。

 

「真希未ちゃん、ありがとう~。おばさん頑張るよ~」

 そんな、和美の臭い芝居に陽太くんは、敢えて見ない振りをして庄蔵の腕を揉んでいる。

 親子でも勝負は勝負と言いたげである。


「澄子ちゃんは、誰の応援?」

 真希未ちゃんの問い掛けに、帯人が、

「澄子ちゃん、気を使わなくてもいいからね」

 そう謙虚に言ってみた。もちろん同情票が欲しかったので、気を使ってくれることを期待しての言葉だったのだが・・・。


 澄子ちゃんはマイペースである。

「うん、そうする。私はヤンキーの兄ちゃんにする」

 意外な言葉で、注目を浴びる澄子ちゃん。


 靖子ちゃんには、その真意の分からない所が魅力である。

(やっぱり将来は、”たらこすじこ”見たいに澄子ちゃんと漫才氏を目指そう)

 そう誓うのであった。、”たらこすじこ”は、高田町フェスティバルの時に出演した女性漫才師である。


 意外にも子供好きで、気のいいヤンキーの弘史と昌史は、思いもかけない気遣いに大喜びだが、帯人は自分の人気の無さにがっかりである。


 そこに、

「私は、負けても応援してる」

 と諸湖羅が負けを前提に帯人を励ます。期待通りの諸湖羅の発言に、帯人も俄然やる気がみなぎって来る。

(どんな卑怯な手を使っても、最下位にはならないぞ~)


 これで、諸湖羅も含め、子供達の掛け先は決まった。

 掛けの胴元のもえちゃんが最終確認をとる。

 

「じゃあ、ヤンキーの兄ちゃんのどちらかが、万が一勝ったら澄子ちゃんの勝ちでいいよ。それと、帯人が億が一勝ったら諸湖羅さんの勝ち。それで、男の子全員と澄子ちゃんが庄蔵で、真希未ちゃんが、和美おばさんでいいよね。それに、もえがレイラちゃん。

 優勝者の応援した人は、今日の夕飯の後片付けを当番は免除と言うことで、いい」


 それに、

「『イー』」

 もえちゃんに対する子供達みんなの返事は、”もえちゃん率いる七面鳥レンジャー”のいつもの返事で統一された。


 それを始めて聞いた、和美が大爆笑だ。

「いいね、その統率力。流石もえちゃんだ。ハハハ」


 もえちゃんも、それには、ちょっとだけ上目使いで和美を見るのであった。



「それじゃ、初めましょうか」

 和美の声に腕相撲大会は、高速道路のサービスエリアの休憩場所一角で始まった。それが、あまりの盛り上がりに、次第に見物客まで集まってくる大騒ぎになっていくのである。


 1回戦の庄蔵対昌史は、澄子ちゃんの手前、庄蔵のパフォーマンスで見掛け上接戦となったが、当然庄

蔵が勝利した。そして、2回戦の庄蔵対弘史は、パフォーマンスを止め庄蔵の秒殺での勝利。


 そして、3回戦。帯人対庄蔵である。

 帯人は庄蔵に近寄ると、耳打ちをするように口を近づけた。

「はんそくー」

 と子供達の避難の中、庄蔵が笑い転げている。


「どうしたの~」

 澄子ちゃんが不思議そうに庄蔵に聞いてみた。そこに、諸湖羅が真面目な顔で怒っている。

「澄子ちゃん、今ね帯人は庄蔵くんの耳に息を掛けたの。もう~子供達の前で」


 それを見ていた、もえちゃんと和美が大喜びをする。

「ハハハ」

 爆笑である。

 男の子達もべんちの上で転がって笑っている。


 腕相撲で絶対に勝てない帯人の、せめてものパフォーマンスである。

 諸湖羅に怒られても、帯人は勝った気分である(芸人として)。しかし、勝負になると、やはり2秒と掛からなかった。

 

 照れ笑いする、帯人にみんが笑った。数か月前の帯人からは、とっても自ら道化を演じること等、全く考えられないことである。


 そんな姿にレイラは楽しかった。生まれて初めての旅行と言うイベントに感激であった。

 子供達に負けないくらいに楽しかった。

(来て良かった・・・ノシさんありがとう)

 そう思った。


 4回戦である。

 この勝負はもえちゃんの楽しみなところである。唯一レイラの強さを知っているもえちゃんであるが、実際に力自慢の庄蔵と比べ、どの程度の強さであるかは未知である。

 それでも、もえちゃんには絶対の自信がある。

 わくわくして来た。


 それは、レイラの肉体的な力を知らない庄蔵や帯人もちょっと、ドキドキである。

「レイラさん、手加減して下さいね」

 と言う庄蔵の言葉には、強さは分らないが、手加減してもわざと負けることはしないようにと言う遠回しの気持ちが含まれていた。


 和美は、まさかレイラに不思議な力があるとは知っていても、今回は単に力勝負である。腕の太さを見れば物理的に無理なのが歴然としている。

 それでも、

「そうそう、レイラさん。本気でやっつけちゃってよ。男なんかに負けないでね」

 と、一応の応援の言葉を掛けてみた。


「そ~う?じゃあ」(いいのかな?)

 と、根が真面目なレイラもちょっとだけその気になって来た。

 レイラは何気なく右手をテーブルの上に出し、庄蔵と腕を組んだ。


 このイベントに、集まって来た見ず知らずの見物人達は、この組み合わせの凸凹さに苦笑いをしている。


 しかし、

「あれ?」

 庄蔵が言う。

「ちょっと、レイラさん。手をもう少し強く握ってもらっていいですか」

 レイラは、庄蔵の言っている意味が分らなかったが、少し力を入れてみた。


「庄蔵さん、やらしい~」

 靖子ちゃんが冷やかす。が、ちょっとだけ顔を赤くした庄蔵は、

「あ~みんな、ごめん今日の晩御飯の片付けは頼むよ。俺も手伝うからさ」

 と、弱気である。

 

「え~なんで~。負けそうなの~」

 庄蔵応援の子供達は、レイラならば有り得ないことではないと思うので、そんな声を掛けるが、和美は庄蔵のリップサービスだと思っていた。


「じゃあ、いきま~す」

 諸湖羅が声を掛ける。

「レイラさん、ゆっくりお願いします」

 庄蔵が一応念を押す。

「はい」

「よ~い、ドン」

 諸湖羅の気の抜けた合図で始まった勝負は、顔を真っ赤にして頑張る庄蔵を、涼しげな顔のレイラが労わるかの様に、緩やかに庄蔵の手をテーブルに押し倒した。


「うそ~、ホントに」

 和美が半身半疑で驚く。弘史と昌史はわざと負けたと思っている。

 庄蔵応援の靖子ちゃんと陽太くんは

「うそ~と」

 がっかりである。


「おお~」

 通りがかりに集まって来た見ず知らずの見物人達は、感嘆の声を上げている。


「何かそんな気もしたんだよな~」

 健太くんはちょっと後悔している。


 そこに一人だけ、気付かれないようにと、含み笑いでニタニタとしている子がいた。それは、もえちゃんである。もえちゃんは、思惑通りだ。

 (みんな騙された)

 と言わんばかりである。


 それを真希未ちゃんは見逃さない。小声でもえちゃんに聞いてみた。

「もえちゃん、レイラさんの強さ知ってたんでしょ」

「エヘヘヘ」

 笑って答える。

「もう~、もえちゃんはずるいんだからー」

 真希未ちゃんは、呆れてしまう。


◆決勝戦◆

 そして、

「じゃあ決勝戦ね」

 半身半疑の和美が半袖でのシャツを肩まで捲り上げた。気合い満々である。

「レイラさん真剣勝負よ」


「母ちゃん頑張れ」

 応援していた庄蔵が負けたので、一応母親に声援を送ってみた。親子愛である。

「陽太、最初っから応援してくれないと、母ちゃん力が出ないわ」

 そう言って、切り返す。

 陽太くんはすまなそうに、両手を合わせている。


 レイラは二人の親子関係を羨ましく思う。しかし、

(ここは、勝負よね)

 手は抜いても、わざと負けては失礼なだとばかりに、ちょっとだけポーズを決めて、

「かっち、かちでしょ」

 と、僅かな力瘤を叩いて、レイラもパフォーマンスをしてみせた。しかし、誰から見ても強そうには見えない。


「じゃあ、決勝戦」

 諸湖羅の言葉を合図に、二人が腕を組む。逞しい和美の上腕二頭筋に力が入る。


 しかし、・・・その途端。

「あ~駄目、不戦敗」

 やはり庄蔵と同じ様に和美にも、それだけでレイラの強さが分る。


「和美さん、どうしたんすか」

 弘史が不思議そうに声を掛ける。

「駄目、真剣にやったら、腕の骨折れちゃうわよ」


「また~、そんなわけが・・・」

「嘘だと思ったら、やってみな」


 二人はレイラにお願して、腕を組んで見た。庄蔵と腕を組んだ時以上の威圧を感じるが、一応信じられなくて、勝負をしてみた。最初は昌史である。手加減の中、緩やかにテーブルに沈んだ。

「う、うそ~」

 慌てて、弘史も腕を組んで見たが、勝負をする前に辞めてしまった。

「すげ~握力!」


「やだ、そんなことないのよ」

 レイラはかなり手加減したのに驚かれてしまい、ショックを受けてしまう。

 

 和美がその勝負に目もくれない、もえちゃんを見て、

「もえちゃん、知ってたんでしょ」

 そう聞いてみた。


 もえちゃんは、ただ「エヘヘヘ」と笑っている。

「参いったね。流石だ」

 和美は、ぬかりのないもえちゃんに、

(さすが梢の子だけあるわ)

 和美は内心、もえちゃんに感心してしまった。



 この後、最下位決定戦をやり、 結局接戦の末負けたのは弘史であった。弘史は14個分の揚げ餅2800円の出費となったが、和美が可哀相に思い半分お金を出してあげた。


 意外にも、帯人が最下位でなかったことは、見ず知らずの見物人を除いたみんなに取っては、レイラの強さ以上に驚きであった。

「みんな、ちょっと驚き過ぎじゃないのかな~」

 帯人は人気の無さに加え、評価の低さにショックを隠しきれない。

 実は最近、レイラの強さに憧れ、力だけでもと鍛え始めていたのである。


 そんな中、帯人が最下位でなかったことに唯一ご満悦の緒湖羅は、うれしそうにレイラに耳打ちをした。

「レイラさん、帯人さんは脱いだら結構凄いんですよ。ウフ」

 と、ちょっと息使いの荒い言葉に、レイラはちょっと意味を完全に捉えている自信は無かったが、

「そうなの」

 取りあえず相の手だけは入れておいた。


「はい。ウフ」

 諸湖羅は満足げに頷いた。


 この後、弘史の買って来た揚げ餅をみんなで食べた。

 みんな楽しそうである。負けた弘史もである。


 レイラには感動であった。

 揚げ餅は、大好きな出店の”たこ焼き”と同じ位に美味しく感じた。


◆次の目的地へ◆

 弘史が帰り際に、

「皆さん凄いですね。流石和美さんの見込んだダチだけあるっすね」

「見込むだなんて、何言ってるのよ。私なんか、彼女や学生さん達やこの子供達から比べれば普通の人よ・・・」

 と、言いながら”普通の人”と自信を持っていえる、今の自分が和美には誇りである。

「・・・彼女凄いでしょ」


「はい、何か桁違いのスケールを隠していると言うか」

「そう、超大物よ。大物はあんた達見たいに、ちょっとのことを直ぐに披露しないのよ」

「はあ」

 弘史と昌史はちょっと耳が痛い。


「でも、この子達も凄いのよ。ホント、良い子達なの。あんた達や私よりよも全然ね」

 胸を張って自慢げにそう言う。


「和美さん、変わりましたね。良い母親っす」

「何言ってるのよ。元からよ」

 と、弘史の背中を平手打ちする。


「イタタタ・・・。和美さん力強すぎっすよ」

「ハハハ、ごめん、ごめん」 

 和美は、心の中では(その通りよね)と呟くのである。



 気が付けば、陽は大分高いところまで登って来ている。

 そろそろ、サービスエリアを後にすることにした。


 最後に和美が、子供達に念を押した。一応2泊3日は7人の保護者である。

「みんなは、こんななっちゃ駄目よ」

 弘史と、昌史を指して言う。


「酷いな~、和美さん。僕らだっていつまでもこんなことしてないですよ。もう少ししたら止めますよ」

「だったら今すぐ、辞めなさいよ。若いからっていい事じゃないのよ。年は関係ないの」


「和美さん(だって、昔は)・・・」

 と言いかけたところで凄い顔で睨まれた。弘史も子供達の前だと気づき続きを濁した。彼も気持ちは和美に近づいているのである。


「大丈夫です。もう自分からは何もしませんよ。さっき見たいなのは不可抗力ですよ」

 そう言って、バイクに跨った。


「ところで、あんた達、何処行くのよ」

 和美が聞いた。


「罰ゲームで、ヘロヘロ女の写真を撮りに、思井沢までっす」

 と言い、カメラを取り出し指をさす。


「あんたらも、思井沢に行くの?」

「和美さんもですか?」

「じゃあ、お昼ごちそうするから、そうねー、12時半に湖畔に下りる途中にある”わらい茸”と言う、ペンションの前に来て。そこで昼食を取ることになってるの」

「ホントですか」

「ええ」

 二人は大喜びである。


「じゃあ、和美さん、みなさん。また後で」

「気をつけるのよ」

 和美を初め、みんなが笑顔で手を振って送る中、二人は先に思井沢に向った。


 二人は、お互い口にはしなかったが、こんなのもいいなと思うのだった。


「さて、私たちも次に向いましょうか」

 和美の声に全員が車に乗り込んだ。


 和美はへろへろ女を聞き流したが、もえちゃん達はお互いの顔を見合わせながら、心の中で「やばい」と呟くのだった。 

 しかし、誰も何も言わなかったのでひと安心をして、何も聞いていない振りを装った。


 乗車割は、帯人の車には男の子3人が、庄蔵の車には、女の子4人が乗り込み、和美の車は諸湖羅とレイラの3人になった。


 車の中に入ると、早速緒湖羅が和美に質問をした。

「和美さん、さっきのお二人は何方なんですか?」

 そこで、和美は庄蔵とレイラ以外に紹介をしていなかったことに気付いた。

 

 良く考えると、何者か分からないヤンキーに対して、みんな快く対応してくれていたのである。

「ごめんなさい。私、皆さんに紹介もしてなかったのよね」

 自分の気遣いのなさに顔が赤くなる思いである。


「そんなことは、全然いいんですよ。楽しかったですし。ちょっと何方かなと思いまして」

「勝手にお昼までさそちゃってごめんなさい」 

 それに、レイラが応えた。

「少しくらいのハプニングがあった方が、みんなも面白いと思ってますよ」


 和美は、自分の頭を叩きながら、

「そう、言って貰えると・・・」

 

 その後に、和美は続けた。 


「彼らは昔の親友の弟で、私の後輩なの。ハハハ、あんな格好しているけど、素直な良い子なのよ。気がちっちゃくてね。ちょっと、虚勢を張っているだけなの」


「何となく分る気がします」

 諸湖羅が応える。


「でしょう。なのに、姉に憧れて・・・。自分が弱かっただけに、姉の姿がカッコ良かったのよね。

 まあ、私も人のこと言えないんだけどさ。

 あれじゃ早百合も心配ね。自分が自分なだけに強くも言えないだろうし」


「和美さんも、ヤンキーだったんですか?」

「そう、バリバリの馬鹿やってたわよ。色んな人に迷惑かけたわ」

 恥ずかしそうに、照れ笑いをしている姿からは、緒湖羅には想像がつかない。

 どちらかと言うと、弱気を助ける。豪快な姉さんって言う感じである。


「若い頃ってさ、何かこう、人に屈しないとか、力があるのがカッコ良くみえちゃったりするのよね。そんな人間に憧れちゃうのよ。まあ、根本にあるものはおっさん達が社会的地位が好きなのと、あんまり変わんないかもしれないんだけど」

 和美は昔を思い出すように苦い顔で続けた。


「力を持つには集団が必要でしょ。そして、集団の中に入ると、そこだけの世界が出来てしまって、周りが見えなくなってね。外とぶつかっては、虚勢の張り合いのゲームになっちゃうのよ」


「ゲームですか」

 諸湖羅にはあまり理解が出来なかった。

 

「ゲームなのよ。大人になったら辞めようと思っている人達にはね。

 だから、あまり悪い事をしている気がしないのね、その時は。熱い本気のゲームなのよ。

 でも、まだゲームの領域で止められる人は、まだ戻れるのよ。

 それを超えると取り返しがつかないことになっちゃうかもしれないから」


「和美さんは、ゲームエンドが出来たんですね」

 和美は、その言葉にちょっと言葉を詰まらせた。


「うんー、私はね、ちょっとやり過ぎてしまって、危く戻れないところに行くところだったの。凄く後悔しているの。親や、兄弟みんなに迷惑を掛けてしまって」


 それを聞いて、レイラには子供達に対する和美の熱い思いが伝わって来た。


「私には、自慢気に昔悪かったなんてとっても言えやしないの。

 悪かったなんて、大きな声で言ったら、迷惑を掛けた人達に失礼だものね。

 でも、本当は・・・懐かしい思い出も少しはあるんだけどね」

 と笑って、見せる。


 ずっと、聞いていたレイラが声にした。

「私は人生はトータルでどうか何じゃないかと思います」


「そうね、借りたものは返さないと。借りた人とは、違う人になるかもしれないけど・・・」 


 その時、帯人の車が、レイラ達の乗っている車を追い抜いて行った。

「もう、また飛ばして。直ぐ調子に乗るんだから。」

 諸湖羅は、帯人にカンカンである。


 そんな、帯人の姿も諸湖羅の姿も、和美にとってはとっても嬉しい。

 子供達のことを考えてくれていることがとっても嬉しい。

 顔が自然とほころんでくる。


 それは、レイラに取っても当然同じである。


 旅行はまだ始まったばかりである。

 子供達の夏休みは、先に生まれた者達の御膳立てで、この先も盛りだくさんになりそうである。


 きっと、最高の思いでになると、レイラは思った。


<つづく>


長い前置きになってしまいました。次回の終盤から、事件に入れると思います。

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