表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/101

第16話 夏休み納涼”へろへろ女”生け捕り作戦2

もえちゃんを隊長とする”七面鳥レンジャー”の小学4年生の7人の夏休みのイベントは、いよいよスタートした。


◆説得 -御手洗家みたらしけ-◆

「これで、良しと。陽太もそろそろ、もえちゃんの所から帰って来るころね。今日はハンバーグだから涎を流して喜ぶわねー、あの子。フン フフ フン」

 鼻歌混じりで、御手洗家の夕食の仕度をする母の和美である。

 和美は我が子の喜ぶ姿を想像すると、自然と笑みが込み上げて一人でニタニタしてしまうのである。


 そこに、勢いよく玄関のドアの開く音が聞こえてきた。

「ただいまー」

(ほら、帰って来た)

 和美はいつもの様にお腹を空かして「腹減った~」と、キッチンに直行して来る息子の陽太を想像して、ハンバーグの切れ端を用意するのである。

「うふふ」

 和美の楽しみでもある。


 案の定、聞こえてくる足音は和美のいるキッチンにまっしぐらである。


「お帰り。陽太、お腹空いたでしょ」

 と、後を振り向くと、息子の陽太は何かもじもじと体を動かしている。

 いつもであれば、「何作ってるのー」と言って、つまみ食いをする勢いで覗きこんで来るのである。

 そこで、息子の口の中におかずの切れ端を放り込んであげるのが日課であり、和美のちょっとした喜びでもあった。


「どうしたの、陽太?」

 身体の具合は悪そうには見えない。


「うん~、母ちゃん。あのさ~」

 以前として、もじもじしたままである。


「何よ、はっきり言いなさい。男の子でしょ」

 和美は内心何を言いだすかちょっと、ドキドキしてきた。


「うん。あのさ~夏休みなんだけど・・・」

「夏休み?」

 夏休みのことかと思うと、ちょっと安心である。でも、まだ6月中旬である。


「うん。夏休みに行きたいところがあるんだけど」

「何処なの?」

「思井沢高原って言うところ」


「思井沢高原・・・」

 意外な所である。和美も聞いたことはあると言う程度の、余り有名なところではないのである。

 御手洗家のいつもの夏休みは、夫の祖父母の家に行くのが恒例の行事になっている。

 和美も偶には違うところに行ってみたいとは思っているのではあるが、どうしてそんな処を息子が知っているのだろう。そんな思いである。


「へ~、陽太は思井沢高原ってどんなところか知ってるの」

 和美は出来上がったハンバーグの盛り付けを終えると、向き直って息子の口の中にハンバーグの切れ端を放り込んで顔を見た。

 いつになく緊張している。


「うん、ヘロ・・・」

 危なく、”ヘロヘロ女”のことをいつもの様に正直話すところであった。余計なことを言って自分だ行けなくなったら大変である。それよりも、自分のせいでみんなが行けなくなったらもっと大変なことである。(もえちゃんに責められる)瞬時に頭を過って言葉を止めた。


「・・・うんん、最近出来た避暑地で、奇麗なダム湖があるんだ。自然が奇麗で静かでいいところなんだって」

 陽太くんは、咄嗟に聞いていた情報にアドリブを付け加えて、母の和美の顔色を覗う。

「避暑地に、ダム湖、自然が奇麗でか・・・」

 和美は、その言葉にちょっと喜びを感じてしまう。それは、半年位前までの暴れん坊の自分の息子の言葉とは思えないのだ。しかも、(行きたい、行きたい)と駄々をこねるのではなく、遠慮がちなのである。


 和美は、息子の陽太がもえちゃんや、真希未ちゃん達と付き合う様になって次第に変わっていってるのが、手に取る様に分っている。

 以前とは違い、凄くしっかりして来て、周りに気遣いが出来る様になって来ている。さらに、驚いたことに偶にではあるのだが、大嫌いな勉強を自らすることもあるのだ。

 それを、和美は凄く嬉しく感じているのである。


「行こうか、陽太。一緒に父ちゃんに話してみよう。ねえ」

 和美は陽太にご褒美を与えたい気持ちなった。それに、何より自分も行きたい。


「あのね~」

「うん??」

 手放しで喜ぶかと思っていた息子の様子が、ちょっと違うのである。


「真希未ちゃん達とみんなで行きたいんだけど」

「えっ、みんなで?」

 それには、和美も驚いた。てっきり、もえちゃんや真希未ちゃん達から思井沢高原の話を聞いて、行きたくなったのだと思っていた。


「もちろん、子供達だけで行くんじゃないんだよ。そのー・・・」

 陽太は迷いながら続けた。

「・・・レイラさんや、大学の人(帯人達3人のこと)も行く。と・・・思うんだけど。たぶん。」


(あ~、そうなんだ。今日のもえちゃん家の集まりは、思井沢の旅行の計画の話だったわけね。じゃあ今頃は、みんな家に帰って、親の説得を頑張っているってところかしらねー)


 和美はだいたい理解が出来た。和美は息子の話の中で、レイラさん達が”行く”ではなく、”行くと思う”と正直に言ったところが気に入ってしまった。


「そうね~、みんなでねー。じゃあ、今頃みんなも家で説得してるんだ」

「多分」

 そこで、いきなり陽太がドタドタと座りだすと、土下座を始めた。

「母ちゃん、お願いします」


 和美は一瞬驚いたが、小さい体で土下座をしているのを見て微笑ましくなって、笑いが込み上げてきた。

 和美は屈んで陽太の肩に手を当てた。

「ばかね~、誰も行っちゃ駄目何て言ってないじゃないの」

「ほんと!」

 陽太が顔を上て、これ以上無いと言う喜びの顔を向ける。


「慌てないの。まだ、他のみんなが行けるか分からないじゃない。それと、レイラさんが駄目と言ったら、駄目よ」


「それは・・・。うん、分ってるその時は、諦める」

「諦めなくてもいいじゃない、あんたには、家族で行くって言う選択肢は無いのかしらね。寂しいわ」


「うん、その時は家族で行く。母ちゃん有難う」

「よし」

 和美は大きく頷くと、帰りの遅い旦那を抜かして、二人で食卓を囲んだ。


 息子の陽太が大好物のハンバーグに噛付いている。

 それを見ながら、和美は今はまだ小さいけど、きっとこの子は、今は遥かに大きくて大人である真希未ちゃんよりも直ぐに大きくなると、そう思った。

 

 食事が終わると、和美はさっそく電話に向い、ダイヤルを回し始めた。

「もしもし、伊都さんすか。・・・・・・

 ・・・・・・そうそう、そうなのよ。

 ・・・・・・はい。

 ・・・またお電話します。宜しくお願いします。どうも。」


 電話を置くや否や、

「さて、次は健太くんのうちね」

 和美は次々と全員の家に電話を掛けて話を纏めていく。


 その日、和美は子供達のイベントの為に精力的に動いた。子供達全員の親御さんに電話を掛け、息子の為に旅行の実現に向け励んだ。


 思っても見なかった母親の積極的な行動に

「母ちゃん・・・」

 陽太は唖然と母を見つめ、そう呟き感激するのであった。


◆説得 -伊都家いとけ-◆

 夕食の最中であった。電話の呼び出しに出たのは、真希未ちゃんの母の菜々美である。

「はい、伊都ですけども」

「あ、御手洗みたらしさん。今晩は」

「・・・」

 電話は陽太くんのお母さんからであった。


「えっ?何のことでしょうか・・、はい。あら、まあ陽太くんから」

 

 真希未ちゃんは、陽太くんのお母さんからの電話とわかり、ドキドキである。

 実は、真希未ちゃんはまだ旅行のことを、お母さんに話せないでいたのである。

 晩御飯の間もずっと、どうやって話したらいいかを考えていたのであった。そこに、陽太くんのお母さんから電話が掛かって来たのである。


「はい、全然話してくれないものですから」


「はい」


「はい」

 真希未ちゃんは、ヒヤヒヤしながら電話に聞きいるだけである。


「そうですね、私もそう思います」


「はい、分りました。それでは、はい、失礼いたします」


 母の菜々美は電話を切ると早速、真希未ちゃんに話し始めた。

「真希未、話してくれないからお母さん何にも知らなくて・・・びっくりしちゃった」

「ごめんなさい」

 真希未ちゃんは、すっかり怒られると思って覚悟していた。自分だけ行けないかもしれないと思って肩を落としていた。ところが、


「許してくれないと思って、喋れなかったんでしょ。バカね~、もうー」

 先手を打たれてしまった。

 でも、菜々美は口を膨らましてから、笑って見せるのである。


「そんな顔しないで大丈夫よ、反対ではないの。でもね、レイラさんが了解してくれないとね。陽太君のお母さんも同じ意見よ」

 真希未ちゃんの顔が、パッと輝いた。


「それなら、大丈夫。もえちゃんが説得してくれるから!」

 真希未ちゃんは、もうすっかり行く気満々である。

「お母さんありがとう。大好き」


 同じ様なことが、靖子ちゃん、澄子ちゃんそれに、健太くん、雄大くんの家でも起こっていた。


◆説得 -そして、萌家では-◆


 もえちゃんの家に集まっていた子供達が帰って行った後で、もえちゃんは母の梢に後ろから抱きついた。そして、背中に顔を押しつけて甘えながら話し始めた。


「あのさ~、さっきの話なんだけどさ・・・」

 さっきの話とは、梢が子供達にオレンジジュースとお菓子を持って行った時に、何の話しをしているのかを梢が聞いたのだが、もえちゃんが邪魔者扱いをして話してくれなかた。その時の話である。


「あれ~、教えてくれるの?」

 意地悪に言ってみた。

「後で話すって言ったじゃん」

「そうだっけ?」

「そうだよ~」

 もえちゃんは、顔を強く押しつけてくる。

 もえちゃんが甘えてくることなど、3年ぶりである。梢は面食らったが、魂胆は大体読めている。それでも、梢には久しぶりの温かい背中の感触が嬉しい。


「それで、どんな話かしらね」

「うん、みんなで夏休みに旅行に行きたいの」

「へ~、凄いわね~。みんなで考えたの」

 子供達の話声が大きかったので、梢には凡その見当はついていた。しかし、初めて聞くように楽しそうに聞いてみた。


「それで、何処に行くの」

「思井沢高原」


「ダム湖のあるところよね」

「知ってるの」

 実は、ついさっきの靖子ちゃんの話が聞こえて来て知ったところである。でも、”ヘロヘロ女”のことは黙っていた。

「そりゃ、知ってるわよ。いい処よね」

「いいでしょ、ねえ。お母さん・・・」


「・・・」

 もえちゃんの説得は続く。それを、ちょっと意地悪して、梢は楽しんで聞くのである。


「レイラちゃんも、誘うの」

「そうね~、レイラさんが行ってくれれば、いいのだけど。レイラさん、ご迷惑じゃないかしらね」

「大丈夫だよ、きっと」

「そうなの~」

「そう」


 普段、もえちゃんを泊まりで連れて行くことが出来ない梢は内心、旅行を成功させてあげたい気持ちで一杯である。それでも、やはり心配である。

 レイラには申し訳ないと思いながらも、やはり子供達の安全を考えるとレイラが一緒に行ってくれれば良いと言うのが大前提である。


 梢は何とか行かせてあげられれば、正直なところ少しは肩の荷が楽になる気がした。梢は、ノシさんに相談してみよう。そう思うのだった。


◆残るはレイラの説得だけ◆

 そんなことで、もえちゃん率いる七面鳥レンジャー7人の各位の親達は何度も電話で話し合い、レイラが参加してくれるのであれば安心とのことで、他に引率の親が一人付くことを条件に全家庭一致で話が纏まったのである。


 車のことも、真希未ちゃんが帯人達に話したところ(もえちゃんが、帯人に話すのを嫌がったので)、なんと実家が裕福な帯人は一人暮らしにも関わらず車を持っており、また庄蔵も自宅の車を出してくれることを快く引き受けてくれた。


 ただ、二人は免許を取ったばかりであることに心配する声も上がった。そこで、旅行に参加したかった帯人達は、陽太くんのお母さんの和美と、真希未ちゃんのお母さんの菜々美を乗せて、二人の買い物に付き合い運転技術を披露した。

 すっかり安全運転に安心した母親二人は、何処で用意して来たのか「合格」の札を上げて、太鼓判を押してくれた。


 和美も菜々美も、若い男の子と買い物に行きたかったのだろうと言う事実は、誰もが頭を過ぎったが、誰一人として指摘することは無かった。

 当然、運転手として二人が認められたのは、レイラも行くと言うことで安心されたのは言うまでもない。


 こうして、後はレイラの説得のみになった。

 説得役はもちろん、もえちゃんである。


 今日もいつものように予報の準備を終え、もえちゃんはレイラを待っていた。

(何て話そうかな~?)

 そう思っていると、間もなく全身真っ黒な衣装で、大通りからレイラが姿を現した。

 幾ら夏の太陽が照っていても、黒い服がレイラの基本線である。


「レイラちゃ~ん」

 もえちゃんは待ち切れずに通りの真中まで出て、レイラに向って手を振った。

 それにレイラも胸の前で小さく手を振って応える。


 レイラは、もえちゃんの前まで来ると、

「も・え・ちゃん。今日も有難う」

 そう言うと、日当と書かれたポチ袋を手渡す。中には100円玉が1個入っている。

「ありがとう」

 嬉しそうに受け取る姿にレイラは安心する。どうも、まだ要らないと言われそうで渡す度にドキドキしてしまうのである。


「それで、もえちゃん。何の用事?」

「用事って、何で分ったの?」

 レイラには今日のもえちゃんが、そわそわしているのが一目である。いつもはドライを装っているのに、今日は手まで振ってきたのである。感情を抑えきれていないのである。

 これは、何かお願いごとがあるに違いない。予報をしなくても簡単に分ることである。


「さっき、振ってくれた右手に書いてあったわよ。お願いがあるって」

 そう、笑って見せると、

「ばれた」

 と、言いながら久々にもえちゃんがデレデレと寄り添ってきた。

 やっぱり、もえちゃんには、この方法しかないのである。


「ねえ、レイラちゃん。もえの夏休みにさあ、どっかに行こうよ」

 デレデレとべったりくっ付いて来る。


「そっか、もえっちゃんには夏休みがあるのよね。でも、まだ先じゃない?」

 まだ、一か月以上も前である。


「来月の20日から何だけどさあ、ほら色々と準備が必要だから」

「準備って、何処に行きたいの?」

「あのさ~」

 もえちゃんは、少し言いずらそうにもったいぶる。


「うん?どうしたの」

 今日のもえちゃんは、やっぱりおかしい。

「みんなで行きたいんだけど・・・」


「そうよね、どうせ行くんだったら、その方が楽しいわよね」

「そうでしょ!ねぇー」


 もえちゃんの顔が急に明るくなり、快活な喋りになった。

「もう、みんなで話て、家の人も良いっていってくれたの」


「そう、良かったわね。それで、何処に行きたいの?」


「うん、それで、思井沢高原のコテージに2泊3日で行こうと思うんだ」

 もえちゃんは少しトーンを落として、いつになく首を横に曲げレイラの顔色をうかがってくる。


「えっ、2泊3日で?」

「うん、やっぱりさ、せっかくの夏休みだからさ~、泊まりがいいなって思うんだ」

「梢さんも良いって?」

「うん。もえのお母さんも、みんなのお母さんもレイラちゃんが良いって言えば良いって」

「えっ、私が?」

「そっ」

 簡単に応える。


 レイラは、これは随分信用されてしまったなと思った。本当はレイラも行きたいのである。みんなで騒いだら楽しいなと思う。しかし、7人もの小学生を連れて行く責任が肩にずしりと重たい。

  

 レイラの能力を知っている人達からは特別な能力で簡単に予報をしている様にみられるが、レイラの中では日々葛藤なのである。


 どこまで人の人生を覗いていいのか、どこまで関って、教えてしまってもいいのか。

 それは、その人だけの問題ではない。色んな人が関わってくるのである。

 後から予報したことのお陰で、先に予報した人に伝えたことが狂ってしまうことだってある。

 先が分らないからこそ、人生が楽しいのだと言うこともレイラは当然理解している。


 基本的には、複数の人間に影響することは、特別なことが見えない限り、あまり詳細は伝えない様にはしている。それに、極力部分的にしか覗かないことにはしている。それでも、反省の毎日なのである。

 そんなに自分に自信はないのである。


 そんなことで、自然と予報以外の行動も慎重になって来ているのである。



「陽太くんのお母さんも来てくれるんだ。後、どうでもいいんだけど、予報研究会も来るよ。みんな、レイラちゃん次第なんだけど・・・」


(そうよね、私一人ってことはないわよね。それでも・・・)

 自分が行けば安全と思われているのである。確かに予報をすれば、まず間違いなく危険からは回避出来る。それは自信がある。

 予報後に自分が何か特別なことをしない限りは、大丈夫なのである。仮に何かをしなければならなくなったら、また予報をし直せば良いのである。


 しかし、旅行の行動を具体的に一人一人の詳細まで予報することが、この子たちに良いことなのか。守られていると分って行動すること、守られ慣れしてしまうこと。それが良いかというと、レイラの心に引っ掛かってしまう。


「う~ん」

「駄目?」

 もえちゃんの顔が一気に悲しげな顔になって行く。

 それを見るのもレイラに取っては非常に心が痛い。


 そこに、タイミング良くノシさんが優しい笑顔で現れた。

 実は先ほど、梢が親宿のスナックへの出勤前にレイラの同行の相談で、ノシさんのところを寄ったのであった。


「レイラちゃん、そんなに難しい顔してどうしたのかな?」

「あっ、ノシさん」

 もえちゃんが、助っ人を歓迎する。ノシさんはいつでも、もえちゃんの味方である。


 もえちゃんが、助けを求める。

「夏休みに、みんなでレイラちゃんと旅行に行こうと計画したんだ。お母さん達も良いって言ってくれて、後はレイラちゃんだけなんだけどさあ~・・・」


 レイラは、難しい顔をしたままである。

「難しく考えないで、楽しんでくるといいと思うよ。そんなに最善のことばかり考えなくてもいいさ。陽太君のお母さんも行くって言う話なんだし」

 

 レイラも、もっとその場その場ので行動出来ればどなんに楽しいかと思う。

 レイラだって一緒に楽しみたいのである。しかし、子供達が安全であることだけでいいのだろうか。そう考えるのである。

 

「もし、心配ならば、旅行から帰って来てからのもえちゃんの行動を予報させて貰うといいよ。そこからみんなの無事を確認すればいいさ。見えない部分は精神的な部分だから、そこまでは何時もだっていっしょさ。旅行に行った時が特別じゃないと思うよ。みんな賢い子達だよ」

 ノシさんは、そう言ってくれた。


「ありがとう、ノシさん」

 レイラは、ノシさんの言葉で気持ちが楽になった。ノシさんの言う通りである。あまりみんなのことを考え過ぎるのは失礼なことかもしれない。そう思った。


 ノシさんの言う通り、最低限の身体的な安全だけを考え、後は自分の気持ちに素直になることにした。自分も思いっきり楽しもうと思った。


「じゃあ、もえちゃん。行きましょうか」

「わ~、行こう行こう」

 両手を上げて喜ぶもえちゃんに、それだけでも楽しく感じるレイラであった。


「そう、思いっきり楽しまないと、一緒に行った子供達が楽しくないよ」

 ノシさんは、そう言い残すとレイラの元を離れた。


 離れた後で、

「へろへろ女のことも頼んだよ。いつも通りに接してくれるだけでいいのだから」

 そう、ノシさんは呟いた。


◆待ちに待った出発◆

 そして、ついに、計画は実行されることになった。


 ただ、”へろへろ女”のことは、特段打ち合わせもしなかったのだが、みんが親達に対して口を噤んでいたのは言うまでもない。みんなの中にはもえちゃんの母である梢も含まれている。

 と、言うことで今、児童公園に集まっているのである。


「みんな、もう~そんな厳しいことばっかり言わないで、にっこ~りとして笑顔で出発しましょう。ね」

 遅れて来た(実際はオンタイムなのであるが)レイラを責める眼差しに和美がフォローを入れる。


 それに、

「そうですね、そろそろ行きましょうか。みんな待ちくたびれていますし」

 帯人が応える。

 

 その言葉に、ダレきっていた七人の子供達の歓声が上がる。いきなり、しゃきっと背筋を伸ばし入場行進の様に予め決めていた車に向って行進を始めた。

 本当は、レイラに対して誰も怒ってはいないのである。ちょっと心配していただけで、やって来た今では来てくれたことに安心しているのである。


 もえちゃんは、

「レイラちゃん、何でそんなに大きな荷物が必要なの?コテージだから一応の物は揃ってるんだけど」

「え~!そうなの?だって、バーベキューは、当然やるわよね・・・」

 レイラは、キャンプの様な感覚でいたのである。レイラにとっても生まれて初めて経験で、実は子供達と同じくらい楽しみにしていたのである。


 それで、レイラは数日前から少しずつ準備をしていたのである。色々調べた上での先走りであった。

 今朝も本当は早くから起きていたのであるが、興奮の余り頭が働かず持ち物のチェックに時間が掛かってしまっていたのであった。


「レイラさん、車に積んでおけばいいから大丈夫よ」

 陽太君の母の和美が優しく応え、レイラのカバンを持ち上げようとした。そして、驚いた。

 持ちあげることは辛うじて出来るのであるが、とっても背負って走れる重さでは無いのである。


(まさか、これを背負って・・・)

 結局、カバンは庄蔵が重そうに車に運んでくれた。庄蔵はさして不思議に思っていない様である。

 和美は首を傾げながら運転席に乗り込んだ。

 

 いよいよ、3台の車は総勢12人を乗せて出発した。行きの車は、途中でメンバーをチェンジしながらワイワイと大騒ぎで目的地に向った。 

 

 楽しい旅行の始まりである。


 <つづく>

 


第16話は結構長くなるかもしれませんが、出来れば最後まで読んでやって下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ