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第16話 夏休み納涼”へろへろ女”生け捕り作戦1

待ちに待った夏休みがやって来る。

もえちゃんを隊長とする”七面鳥レンジャー”の小学4年生の7人は、夏休みのイベントを計画するのであった。

◆夏休み◆

 梅雨も明け空は、真っ青な快晴である。

 まだ8時前だと言うのに、気温もいいように上がっていき、既に茹だる様な暑さである。

 このところの晴れ続きの天候は、誰もの心と体をダレさせていた。


 高田町商店街から、親宿方面に100メートル程行ったところにある児童向けの小さな公園には、そんな暑さにダレてしまった子供たち7人が、今か今かと”その時”を待っていた。

 公園の脇には、公園を囲む柵に寄せて、3台の自家用車が停められている。


 公園の中には子供達7名の他に、大人5名が集まることになっており、総勢12名が揃うことになっている。

 今まさに、子供達にとって、この夏休み最大のイベントが行われるところなのである。


 ただ、揃うことになっていると言うことは、将来的にはということであって、未だその将来がやって来ていないのである。

 もう、暑い中15分位前から、11名のまま人員の変化が見られないのである。

 茹だる様な暑さに加え、待っていると言う事象が相伴って、時間は2倍にも3倍にも感じられる。


「遅いな~」

「何やってるんだろう」

「緊張して寝れなかったのかな~」

 子供達の言葉に、大人達は苦笑いをするのみである。


 そこに、やっと待ち人はやって来たのであった。

 背中には大きなバッグを背負い、両手にも大きな袋を提げて、最後の一人は物凄い勢いで駆け込んで来るのである。ジャストオンタイムである。


「はあ、はあ・・・ああ、はあ、間に合った。はあはあ・・・おはよう」

”ございます”と言う続きの言葉に水を注したのは、呆れ顔のもえちゃんである。


 もえちゃんは、今日の集まりの発案者でもある。

「遅いんだから! も~、レイラちゃんは、いっつも最後なんだ~」


「ごめんなさい。だって、ほら色々と用意しないとならなくて、・・・」

 そこに、

「レイラさ~ん、おはよう~」

「おはようございま~~す」

 息も途切れ途切れに話すレイラに対し、一応朝の挨拶が飛び交ってくるのだが、その中の子供達の声は、暑さを凌げる位に冷ややかである。視線もちょっと冷たい。

 

「すいません。ハア、みなさん、おはようございます」


 そこに少し間を空けて、温かい声が届いてきた。

「おはようございます。レイラさん・・・」

 そう声を掛けたのは、中稲畑大学なかてばただいがく予報研究会(実際は、レイラのファンクラブ)の緒湖羅しょこらである。


「みんな、早くからレイラさんを待っていたものだから、待ちくたびれてしまって・・・」

 ニッコリと笑う緒湖羅が暑さにも関わらず、元気一杯に明るく接してくれるのがレイラには救いである。


 子供達の7名は、それぞれベンチや、シーソーに腰を掛けてダレきっている。


「あれー?でも、ちゃんと時間には間に合って・・・」

と、レイラが最後まで話す前に、もえちゃんがそれを制する。


「レイラちゃん、基本は5分前集合なの。これが最低限のき・ほ・ん。もう、他のみんなは15分前には揃っていたんだから」

 その言葉に、何人かの子供達は頷いている。


「ホントなの?」

 そのレイラの問いに、もえちゃんを始めとする子供達は厳しい顔付きをする。その様子に笑いをこらえきれない中稲畑大学予報研究会の帯人たいひとが応えた。

 中稲畑大学予報研究会は、帯人と緒湖羅で起こしたものである。


「ハハハ、おはようございます。先生、ホントなんですよ。僕と緒湖も30分前には来たのですけど、7番目でした」

 帯人は、レイラのことを師と仰ぎ先生と呼んでいる。


「そうなの~。ごめんなさい」

 間に合っていたと思って、安心していたレイラは気落ちしてしまい、かぼそい声になってしまう。


 そこで、レイラはハッと、今日はもう一人大人が参加していることが気になった。 

 そのなのだ。と、言うことは、今回参加するもう一人の大人の引率者も早くからレイラを持っていたことになるのである。

 レイラは、その引率者にそ~っと目を向けてみた。


「みんな、もう~そんな厳しいことばっかり言わないで、にっこ~りとして笑顔で出発しましょう。ね」

 そう声を発したのが、もう一人の大人の引率者である、陽太君の母の御手洗和美みたらしかずみである。


 今回の一大イベントは、宿泊をすることと、移動車の運転手が必要と言うことで、保護者の代表として参加しているのである。 

 彼女はレイラと同じ位の長身で、女性とは思えない程の腕っ節をしている。かといって決して太っている訳ではない。何処かで肉体労働をしているのではないかと思える体格である。


 しかし、口調は一転、柔らかな温和な口調で、優しい性格が伺える。

 小柄な陽太くんからは全く想像がつかない、気は優しくて力持ちと言った感じである。


 その和美がレイラに近寄って耳打ちをした。

「みんな、レイラさんが来ないんじゃないかと思って凄く心配してたのよ。やっぱりレイラさんがいないと駄目なのね」

 そう、レイラに笑って見せた。


 気配りも効く女性である。


◆企画立案◆ 

 この一大イベントは、この夏休みを利用しての2泊3日の避暑旅行である。今、これから3台の車に分乗して目的地の”思井沢おもいさわ”に向かうところなのである。



 このイベントの計画は、実のところ”第一回 高田町フェスティバル”が終わった直後から、既に”もえちゃん率いる七面鳥レンジャー”の小学4年生7人で計画されていたのである。


 ”もえちゃん率いる七面鳥レンジャー”の小学4年生7人は、去年のもえちゃんの家で行ったクリスマスパーティーで、レイラをからかって遊ぶ為に結成された。”やまとなでしこ七面鳥隊”が原点である。

 

 7人は常に仲良く一緒に行動するのではあるが、去年のクリスマス以来、真希未ちゃんと、健太くの誕生日以外には、主だったイベントは何もやっていなかったのである。

 それで、更なる親睦を高める為に、今回七面鳥レンジャーの隊長であるもえちゃんの提案で、夏休みに向けて一大イベントを開くことになったのだある。


 勿論これは、高田町フェスティバルに感化されたことは言うまでもない。



 計画の最終決定はもえちゃんの家で行われた。いつもは、お母さんとの食事に使うテーブルを囲んで、今小学4年生7人が、真剣に話し合っている。


「みんな、考えて来た?」 

「うん、一応考えて来たけどさ~、どこがいいかなんで良く分んないよ~」

 もえちゃんの問いに、陽太君が応える。


「いいよ、取り合えず考えて来たのを言ってみてよ」

「うん、わかった。僕の考えたのは、前に家族で行ったことのある井豆いずの温泉なんだけど」

 その言葉に、真っ先に反対するのは、普段は大人しい澄子ちゃんである。


「え~、夏に温泉?」

 その言葉に、

「そこしか、知らないからさ~」

 陽太くんは恥ずかしそうである。


「私は絶対、安浦デブニーランドがいいな~」

 澄子ちゃんは、デブニーランドのキャラクターである”マウストゥーマウス”が大好きなのである。


 他には、沖紐おきひもや、世界遺産の知床しれゆかと言う意見もあったが、予算的に父兄各位への交渉の余地がないので、逸早くもえちゃんが却下した。


 そこに、靖子ちゃんが、面白い情報を持って来たのでる。

「あのね~、聞いて。デブニーランドも凄くいいんだけどさ、”思井沢おもいさわ”が良いと思うの」

「思井沢って、避暑地だよね」

「うん、僕行ったことあるよ」

 健太くんも知っている最近有名になったきた避暑地である。みんなの興味が靖子ちゃんに集まる。


「大学に行っている従兄から聞いたんだけどさあ、そこに、”へろへろ女”が出るんだって」

「へろへろ女?」

「聞いたことないけどな~」

 テーブルを囲んだみんながざわめき出し、男の子達は顔を見合せる。


「ゴールデンウイークに思井沢に行ったらね、泊まったペンションでそんな話をしてたんだって。

 従兄は見なかったんだけど。去年位から偶に見かけられる様になったらしいの。

 前からそんな噂はあったらしいんだけどね」


「ほんとー」

 それには、もえちゃんの顔が輝き出す。

「うん、ほんとだよ」

「いいね、そこいい。ねえ、靖子ちゃん”へろへろ女”ってどんな女なの?」

 陽太くんもノリノリだ。


 それに、靖子ちゃんは説明を始めた。

「思井沢には、朱真理湖しゅまりこがあるんだって」

「知ってるよ。”ダム湖”なんでしょ」

 健太くんが”うんちく”を披露する。


「”ダム子”って?へろへろ女ってそんな名前なの?」

 もえちゃんが、尋ねる。


「違うよ、もえちゃん。”ダム湖”は川に造ったダムで、出来た湖のことなんだよ」

 健太くんの説明に、靖子ちゃんも思い出した。

「あ~そう、そうそう。そうだって言ってた。健太、すごいね」

 この靖子ちゃんの正解発表で、

「『ウォー』」

 健太くんの”うんちく”に一同から感嘆の声があがる。


「やっぱり、健太の”うんちく”は凄ごいね」

 雄大くんの言葉に

「ホント、良く知ってるね」

 真希未ちゃんも続いて、感心する。


 そこに、

「ねえ、ねえ、”ウンチ君”って誰のこと?」

 澄子ちゃんが、興味津々な顔でみんなを見回してくる。


 そこに、笑っていたもえちゃんが、

「違うよ、ハハハ。澄子ちゃん、うんち君じゃなくてね”うんち喰う”なんだよ」

 途中で笑いを止め、真面目な顔で訂正?をする。


 その言葉には、澄子ちゃんも驚きを隠せない。

「うそ~。た、食べるのー。ホントに?」

「そうなんだよ。実は健太くんは、うんちを・・・」

 と、もえちゃんが続けようとしたところに、見かねた真希未ちゃんが、もえちゃんを制する。健太くんは、両手を振って否定している。


「もえちゃん、もう騙したら可哀相だよ~。澄子ちゃん、”うんちく”ってね、色んなことを知っていることを言うの」

「そっか、何~んだ。もえちゃん、も~」

 澄子ちゃんは自分の知らない異常な世界があるのかと心配ていたので、ホッとして口を膨らます。そして、もえちゃんを可愛く睨みつける。


 ちょっと乗り過ぎたもえちゃんは、

「ごめん」

 と、小さくなって謝るのだった。


「はい、続けま~す」

 靖子ちゃんは用意して来た、取って置きの話を聞いて欲しくて堪らない。みんなのざわつきを制して、話を先に進める。


「その湖沿いには静かな道があってね、昼はさあ、凄く綺麗なんだけど、夜になると暗くて、すごく静かで怖いんだって。

 でも、数年前からその道に、夏になると騒音を出すヤンキーの車やバイクが、時々現れる様になったらしいの。

 そしたらね、そんな車やバイクを襲う女の人が、何回か出たんだって。」


「『ふんふん』」

 みんなは、靖子ちゃんの話に静かになって聞き入っている。


「でもね、最初は本当に偶にだったんだって」

「『うんうん』」


「それが、2年位前からは夜でも少しずつ一般の車が通るようになって来たんだけど、でも絶対一般車は襲わなかったらしいの。

 ところが、去年のお盆明頃からは、一般車も襲う様になって来て、それだけでなくて、もっと街に近いところまで来るようになって、歩いている人も襲う様になったんだって。

 それでね、有名になって来たんだって」


「その女の人が”へろへろ女”なんだ」

「そう」

「どんな女の人なのかな~」

 陽太くんは、かなり食いついている。


 靖子ちゃんは、今度は”へろへろ女”について、詳しく説明を始めた。

「この女の人はね、背が高くて白い服を着ていて・・・・」

「じゃあ、あがり症なんだ」

 もえちゃんは、”第一回高田町フェスティバル”で、あがりまくっていたレイラの白い衣装を思い出して、突っ込みを入れた。

 それに、

「レイラさんじゃないんだから」

 と、裏手をもえちゃんの胸に当て、嬉しそうに靖子ちゃんが返す。


 流石に靖子ちゃんは、漫才師志望なだけある。もえちゃんも満足である。

 靖子ちゃんは、さらに続ける。


「レイラさん見たいなミニスカートじゃなくて、白くて長いよれよれのドレスなんだって」

 みんなは、また静かになる。


「その女の人はね、包丁を持っていて、濡れた長~い黒髪を前にたらして、ふらふらと近づいて来て言うんだって」

「何て?」

「酒をくれ~って」


「ぷっ」

 みんなが真剣な顔で聞いている中、もえちゃんは少し吹き出してしまったが、あまりにも周りが真剣な表情だったので、笑いそうになった顔を強引に引き締めて、咳払いでごまかす。


「それで、前に垂らした髪の毛を掻きあげるの。その顔がね、頬がこけていて、眉毛が無くてね、そして口が耳まで裂けていて、牙が出てるんだって」


 もえちゃんは、真っ赤な顔で笑いをこらえているが、笑うことが出来ない。それは、みんなが怖さのあまり真剣な顔付きになっているからである。


「お酒を上げると、一気に飲んで、へろへろとして戻っていくんだって」


「じゃあ、お酒を持ってなかったら?」

 雄大くんの疑問に、靖子ちゃんが応える。

「その女の人は、お酒をあげないと、(殺すぞ~)って言って追いかけて来るんだって」

 それには、もえちゃんもちょっと寒気がした。


 そこに、合わせた様にさっと素早く引き戸が開いた。

 これには、一番引き戸の近くにいたもえちゃんも驚いて、体をさっと仰け反らした。みんなは一斉に、引き戸の方を見つめる。顔面蒼白で口が開いている。


 引き戸を開けて入ってきたのは、もえちゃんの母の梢であった。

「『びっくりした~』」

 男の子達が口を揃える。


 靖子ちゃんの話に、もえちゃんが笑いを堪えていたのを分ったていた真希未ちゃんは、もえちゃんのうろたえ方が可笑しくて堪らなかった。しかし、もえちゃんのプライドを優先してあげて、笑いを堪えた。


 梢が部屋の中に入ってくる。子供達の話に興味津々である。

「何の話かしらね~、怖い話でもしてたの?」

「うん、まあそんなところ」

 もえちゃんも落ち着きを取り戻して、何事も無かったかの様に応える。

「あら、聞きたいわね」

 そう言いながら、梢はお盆に乗せて持って来たオレンジジュースと、お菓子をテーブルの上に乗せた。


「後で話すから、お母さんはあっちに行っててよ」

「あら、内緒の話なの?冷たいのね~」

 梢は大げさにがっかりして見せる。


「決まったら、後で話すから」

「そ~う、絶対よ」

 そう言って、梢は隣の部屋に戻って行った。当然引き戸も締めてあげた。梢には、最近のもえちゃんの行動と、何より時々聞こえてくる大きな声から、何の相談ごとであるかは、察しがついているのである。


「どこまで、話したんだっけ」

 靖子ちゃんが話を戻そうとする。

「お酒をあげないと、追い掛けて来るってところ。だから、お酒を持って行けばいいんだよね」

 健太くんが、確認するように靖子ちゃんに話の続きを促した。

「うん、そうだと思う」


「でも、危なくないの?」

 真希未ちゃんは心配である。

「大丈夫だよ。だってニュースになってないも」

 もえちゃんは、現実的である。


「あっ、そうだよね。どうせ都市伝説みたいなもんだよね。きっと」

 真希未ちゃんも現実派である。


 それに、

「そんなの分んないよ~」

 陽太くんが真希未ちゃんの背中に、静かに手を伸ばし脅してみせる。

「キャッ」

 と、控え目に声をあげ、一応真希未ちゃんは陽太くんを立てて驚いてあげると、みんなから笑いが起こる。みんなの雰囲気は、夏休みのイベントは思井沢に固まりつつある。


 そこに、もえちゃんがみんなの気持ちを代弁して、七面鳥(鶴)の一声をあげた。

「そこ、いいよね。そこにしようよ」


「でも、思井沢って遠くないのかな~」

 しっかり者の健太くんも、思井沢で良いとあ思っていたのだが、念の為に確認をしてみた。


「大丈夫だと思うよ、車で2~3時間だって」

「じゃあ、丁度いいよね。でも車が必要だよね」

「・・・・」


 この後も話は続いていった。


 漫才師志望なだけあって、この後も靖子ちゃんの説明は物凄く上手で、すっかり話に惹きつけられた一同は、2時間もこの話で盛り上がった。

 そして、結局次の様に決まったのである。


 日程:夏休み最初週末で2泊3日。


 場所:思井沢高原


 参加者:レイラちゃん、七面鳥レンジャー7人、運転が出来る大人数人。

  ※車を持っていれば、運転手で中稲畑大学なかてばただいがく予報研究会も参加可能。


 移動:車3台  



 後は、七面鳥各位の親への説得である。

 七人は、

「絶対に行こうね」

「『うん、絶対にみんなで行こう』」

 そう誓い合って、その日の集まりは解散になった。


 もえちゃんの家を出た6人の子供達は、興奮気味な足取りで家路につくのであった。


 <つづく>


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