第4話 初予報の報酬はコロッケ
予報士という仕事を始めたが、未だに一人のお客にも恵まれない。そんな中、近所の小学生の女の子と仲良くなり。初予報をすることになる。
◆初予報の報酬はコロッケ◆
やっと、もえちゃんとお話が出来た。
心が弾むようなうれしさを久しぶりに感じる。
レイラはもえちゃんが直ぐに帰ってしまわない様に、会話を切らさないように話を続けようとした。
「もえちゃんは何年生?」レイラの問いかけに、
「もえ、3年生」もえちゃんは、元気に答えてくれた。
レイラは、楽しくなって来た。
いいわ、いい感じ。もえちゃんとの会話が凄く楽しい。
楽しいのだが、
あれ?
この後の会話が思いつかない。
家は近所でしょ、名前は萌もえちゃんで、みんなから『もえちゃん』と呼ばれているのね。で、小学3年生か。後、何があったけ?会話って何を話せば続くんだっけ~。胸の内で絶叫する。
何か話さないと。大人の余裕を見せて、もえちゃんにも楽しいと思ってもらえる会話をしたい。と、思うのだが、次の言葉が全く出てこない。
なんだ、この無口な口は、なんか喋れ。
どうしたのレイラ。自分の口に願いを込め、口を動かして見る。
腹話術の人形の様に、あるいは、金魚の様に口がパクパクと動くだけだ。
ちょっとの沈黙があった。ひんやりとした空気が感じられる。
もえちゃんは、声を出さずに口だけを動かそうとしているレイラを見つめている。
見かねた、もえちゃんが話かけて来た。
「お婆さ・・、おねえさ・・・んっ?、おば・・・」顔をしかめながら「何て呼んだらいい?」
あらっ? 気を使ってる。結構いっちょまえ~。と、思いながらもほっとする。でも、『お婆』はないでしょうに・・・と、ちょっと思う。
「あのね、名前はレイラって言うの」
「レイラちゃんっていうんだ」
あら、(・・・ちゃんか)。クスッととレイラは笑って、
「そう、よろしくね」と応えた。
「うん」もえちゃんの顔も笑顔で崩れる。
「ねえ、レイラちゃん。毎日ここで何してるの」
耳の痛いところを鋭くついてきた。
「何ってー・・・。見たとおり、予報士屋さんをやっているのよ」
「占い師じゃないんだ。もしかしたら、占い師のお婆・・・、占い師さんかと思ったんだけど・・・」
「占い師とは違うのよ、みんなの未来を予報するの。どんな素晴らしい未来が待っているか、どんな素敵な人が待っているか予報するのよ。素敵でしょ」
と、両手を胸の位置で組み合わせ、自信満々に未来を見るかの様に空を眺めながら応えた。
もえちゃんは、いいずらそうに、
「あの~、それって占いじゃないかと」
さらに厚紙に書いた文字を指さし、
「そこに、あなたの未来占いますって書いてるんだけど」と小声で聞いてみた。しかし、空を見上げて自分が予報をしている姿を思い浮かべているレイラには届かなかった。
まあ、そんなところ突いても意味が無いかと思い、もえちゃんは少し大人になって、話を変えて見ることにした。
「レイラちゃん。そんな所じゃ何しているか分からないよ、もっと前に出なきゃ、お客さん来ないよ」
自信を失くしていたレイラは、日に日に八百屋さんである直志商店のシャッターに背中を合わせるような位置まで、ずるずると下がっていた。
「あっ。そうね」と言って30cm位前にテーブルを出して見た。
「レイラちゃん。街灯の下まで移動しようよ。明るくなきゃ目立たないよ」
街灯の位置は、シャッターの位置から3m近く前になる。もえちゃんはお客用の椅子をそこまで運ぼうとした。
高田町商店街には通りの両サイドに等間隔に『高田町商店街』と書かれた看板のある街灯があり、一晩中点灯している。
「いや、もえちゃん、そんなところまでは。ほら、そんな前に出したら通行する人の邪魔になるし。ねっ」
と言いながら、もえちゃんの手を止める。
「レイラちゃん。まだお客さん一人も来ていなでしょ」もえちゃんは、両手を両脇にあて、厭きれ顔になっている。
レイラは、ドキッとして肩が上がった。何で分るんだろ。と、ゆっくりもえちゃんの方を見てみる。
「やっぱりだ。全然慣れてないもん。恥ずかしがってちゃダメ!」
もえちゃんは、毎日早い時間に帰って行ってはいたが、レイラの日々の状況まで見破ってしまっていた。
もえちゃんは強引に、お客用の椅子と、テーブルを街灯の下まで運んで、ニヤっとレイラの方を見る。
レイラは、もえちゃんの言っていることが正しいので、仕方なく自分の椅子も街灯の下まで運んだ。
大人の威厳を見せられない。レイラは完全に小学3年生に主導権を握られている。
「よしっと、今日はここで頑張ってみてね」明日また来るから。
「はい」先生に支持を受けた子供の様にレイラは頷いた。
もえちゃんは走って帰っていった。
レイラは、ボッとして走り去るもえちゃんを手を振りながら見送った。
レイラは、今日も午後10時まで頑張った。
明るいところに出ると、じろじろ覗き見る人もいる。ちょっと恥ずかしかったが、それでも、いつも程苦痛にはならなかった。
テーブルと、椅子を片付ける為に物入れ小屋の扉を開けると、レタス、キャベツ、胡瓜、トマトと、和風ドレッシングが置いてあった。
「明日はサラダか。ノシさん、サラダありがとう」と呟き、50円を置いて帰路についた。
翌日、レイラが直志商店に来た時にはレイラの代りに、もえちゃんが既に準備をし終えて、ノシさんと楽しそうに会話をしていた。
テーブルと椅子2脚は、もちろん街灯の下に設置されていた。
「レイラちゃん。助手さんが出来たんだね」と、ノシさんが笑っている。
「えっ」と、もえちゃんを見ると、もえちゃんが照れながら肯いている。
「いや~、あははは」笑ってノシさんに応えておくのだが、すっかりもえちゃんのペースだ。
大人の・・・大人の威厳を・・・と思いながらも、何故かそれでも嬉しかった。
よし、ちょっといいところ見せよう。これで挽回するぞ。と思い、もえちゃんに聞いてみた。
「もえちゃん。何か占ってあげようか」
もえちゃんは、やっぱり占いじゃん。と思ったが、敢えて大人になって突っ込むことはしなかった。本当に占ってもらいたいことがあったのだ。
もえちゃんはレイラの昨日の行動から、占いの?いや、予報の初心者だとは分っている。それでも、レイラの占い、いや予報に対しては、直感的に疑ってはいなかった。と言うより、疑うと言う行為自体に気付いていなかった。
当たるのがあたり前かの様に・・・。
「うん、ホント。予報して。予報して」気を使って、占いと言う言葉を使わなかった。
ノリノリの言葉にレイラも嬉しくなり、気分が乗って来た。
「何を占って欲しい?」
「あのね、もえね、好きな子がいるんだ」
あら、まあ好きな子なんてもえちゃん。はっきりと口に出されると何だか恥ずかしくなる。レイラは赤い顔で俯きニヤニヤしている。
「あれ、レイラちゃん何赤い顔してるの?」不思議そうな顔のもえちゃんが、黒い大きな瞳でレイラを捉える。
獲物を捉える様に・・・。
レイラは咳ばらいをして、顔をつきを作り直す。顔はまだ赤い。
「もえちゃん、それで?」
もえちゃんは、黒い大きな目でレイラを見つめたまま続ける。
「実はね、将来を誓い合った子がいるの」もえちゃんの顔は深刻な顔になって来た。
あら、やっぱり子供ね。『大きくなったら結婚しようね』なんて約束したのね。可愛いわ。とレイラは思った。
もえちゃんは続ける。
「そう、あれは今年の春先。急の雨に降られて、もえは濡れた体で一人山道をさ迷っていたの」
山に独りで、何をしに行ったのかしら。レイラは思う。
「その時、後からそっと、自分のコートを脱いで、もえの頭に掛けてくれたの。雨に濡れないようにってね」
紳士ね。
「そして、山小屋を見つけた二人は、そこで一夜を明かしたの。彼の温もりを感じながら約束をしたの。そして・・・」
「えっ?ちょっと待って」何で、まだ小学3年生のもえちゃんが。私だってまだ・・・。
レイラの顔が真っ赤になる。
そして、ショックを受けたレイラはその先の言葉が出てこない。
レイラの反応を楽しむかのようにレイラの顔をのぞき込む。そして、耐えきれずもえちゃんは、笑いだした。
「はははは、うっそ~ぴょん。レイラちゃんって、おもしろいね」
レイラは、恥ずかしくて赤い顔をさらに赤くする。サルのお尻と区別がつかない位に赤い。
「レイラちゃん、サルのお尻見たい」
「もえちゃん。もう!馬鹿にしてるんでしょ」レイラは口を膨らまして怒る。
「ははは、ごめんなさい。だってレイラちゃん。直ぐ顔赤くして面白いから」
「もう、予報するの止~めた」レイラは膨れたまま、横を向く。ませたガキめ~。
「ごめんなさい。ごめんなさい。怒んないで占な、でない。予報して」レイラの顔を大きな黒い眼で除き込む。凄く可愛い。
許してしまいそう。
許そうかな?
許してしまう。
「占いじゃないのよ。予報よ。それで、何を占って欲しいの」
占いになっている。
「あのね、明日、席替えがあるの。班分けをして、班毎に席が決まるんだ。それで、一緒の班になりたい子がいるんだ。なれるかなあ?」
そっか、好きな子と同じ班になって、あわよくば、隣にすわりたいのね。
「好きな男の子の隣に座りたいのね」と、今度は意識的に平静を装って話して見た。少し顔が赤くなったかもしれないが、もえちゃんは突っ込んでこなかった。
「レイラちゃんよろしく」
少し安心して、予報を始めることにした。
極度にあがり症のレイラではあるが、もえちゃんとのやり取りがレイラから余計な緊張を奪い取ってしまった。
レイラに取って初予報になるが、自然体で予報をすることが出来そうである。
レイラは大きく深呼吸を2回した。
目を閉じ、レイラは集中する。依頼された内容以外の全てのことを頭の中の片隅に追いやる。
無心の状態から、心地よい緊張感に興奮を覚える。そして、目を開けた。
レイラの目には辺りが白いもやに包まれて見える。
気持いい。
そして、稲妻が降りる。真っ青な稲妻。
あれ?レイラちゃんが青く光った。もえちゃんには、間違いなくレイラが青く光って見えた。
レイラの脳裏には、未来が過去であるかのように記憶の中に刻まれる。
レイラがニヤッと笑う。
もえちゃんは、体がちょっと震え、完全にレイラの予報を信じる準備が出来た。
今までのレイラとは全く違い、落ち着いた口調が飛び出して来た。
「もえちゃんは生活係りね。今年春から、クラスのみんなが何処かの係に所属して、係り毎に纏まって座るのね」
えっ、生活係り?
なんで、そこまで分るのともえちゃんは思ったが、レイラに圧倒されて声が出なかった。
レイラは続ける。
「今回も希望を取って係を決めるから、体育係りを希望してね。でもね、希望する子が多いの。もえちゃんは、先生に『網だくじで決めるの?』って笑顔で言って見て。そしたらね、先生は黒板に網だくじを書くから、右から2番目か、3番目を選んでね」
レイラがきらっと輝いて見える。
もえちゃんは、具体的過ぎる予報に震えが止まらない。完全に尊敬の眼差しになった。
それでも、したたかで賢いもえちゃんは、チェックを怠らない。分らないことを有耶無耶にすることはない。
もえちゃんは網だくじをしらなかったので、右から2番目と3番目を選ぶと言うことが良く理解できなかったのだ。
「網だくじって何?」もえちゃんが訊ねる。
「あっ、そうね。分らないわよね。布製のバッグから、メモ帳とボールペンを取り出し、もえちゃんに説明をした。
一通りの説明が終わった後、もえちゃんは、喜んで帰って行った。
足取りは踊っていて、酔っ払いの様に楽しげにちょっとふら付いていた。
今日もレイラは無難に、何事もなく午後10時までの時間を過ごした。
残念ながら、たった一人の客もなく。
無償の予報は行ったが・・・。
今日、ノシさんが物入れ小屋に置いてくれた野菜は、キャベツ、ピーマン、エリンギ、ニンジン、長ネギだった。
「長ネギだ!!」バンザイ。
両手を上げて飛び上がった。レイラは長ネギが大好物だ。
しかし、今日の野菜からノシさんの意図する献立が思いつかない。レイラは、野菜炒めにすることにした。
翌日、もえちゃんは満面の笑みでレイラを待っていた。レイラに気付くと、右手を前に出して短い親指を一杯に立てている。
「親指・・・どうしたのかしら。攣ったのかな」レイラの瞳には、もえちゃんの笑顔は目に入っていない。つっぱる様に立てられている短い親指のみが気になってしょうがない。
レイラは、慌ててもえちゃんに駆け寄った。もえちゃんの右手を掴み、
「どうしたの親指、つっぱっちゃって、こんなに短くなってるよ。大丈夫なの。病院には行った?」
レイラの顔は蒼白である。
ちょっと心配になって来て、もえちゃんの親指を曲げたり伸ばしたり動かして見る。当然、全く問題はない。
「えっ、親指?多分大丈夫だと思うけど。短いのは多分親譲りと言うより、多分背の高さには合っている長さだと思うけど・・・」
レイラは、もえちゃんがませてはいるが、子供であることを思い出した。「あっ?そうね。長さはそんなものね。親指も攣ったわけじゃないのね」
もえちゃんは、大爆笑した。ノシさんも少し離れたところで、爆笑している。
「レイラちゃんの言うとおりしたら、上手く行ったよ」と、言いながらもえちゃんは、親指を立て
「オーケー」と言ってウインクをした。
レイラも納得して、親指を立てた。
もえちゃんの話では、体育係は4人。男子2人と女子2人の班だったらしい。女子の体育係希望は7人いた。
もえちゃんの一言が採用されて、網だくじで決めることになったとのことである。
先生が、黒板に網だくじを書いたのだが、レイラを信用していたもえちゃんにも問題が一つあった。 それは、もう一人の体育係りの女の子よりも、もえちゃんの方が主導権を握れなければ、せっかく、同じ体育係りになれても、意中の男の子と隣同志になれないかもしれないのである。
そこで、もえちゃんは余り、みんなの輪の中に入れない大人しい女の子を体育係りに誘った。その女の子は、萌ちゃんに誘われたことが嬉しかったのか、もえちゃんの言う通りに体育係りを希望した。
網だくじも、もえちゃんの言うとおり、右から2番目を選んでくれた。
もえちゃんは、右から3番目を選び見事にもえちゃんの思惑は達成。
選ばれた男子2人、女子2人で話し合った結果、意中の男の子と、隣り合わせの席になったとのことである。
「レイラちゃんのおかげだね。ありがとう」
レイラは、自分の予報が役に立ったことが嬉しい。予報士になろうと決意して良かったと心底思った。
ただ、無償ではあるが・・・。
でも、全くの無償でな無かった。
「レイラちゃん。お腹空いてる?」
「うん、今日は食べて来なかったから。ぺこぺこ」
「良かった」と言い、もえちゃんは。首から下げたポシェットの中かからタッパーを取り出した。
中には、コロッケが4個入っていた。
「お母さんが作ったの。レイラちゃん食べて。お母さんのコロッケ美味しいよ」
レイラは、タッパーの中から、まだほんのりと温かいコロッケを取り出し噛付いた。
「美味しい」思わずこぼれる言葉に、もえちゃんが微笑む。
「でしょう~」
嬉しそうだ。
コロッケは、ノシさんには悪いが、ノシさんからの野菜よりずっと美味しいかった。
しかし、それはレイラと、もえちゃんのお母さんの料理の腕前の違いなのではあるが・・・。
最初の報酬はコロッケ2個であった。
< つづく >