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第14話 レイラ商店街のイベントギャルになる(心の匂い)

真理恵の心は確かに変わった。

◆最終日(日曜日)◆

 午後2時からの”ミス高田町”の発表の時には、特設会場が設けられている空地では観客が隣接する道路まで溢れ出す盛況ぶりであった。


 最後の締めのイベントである。終わりよければすべて良し。いや、今回は最初っから最後まで良かったことになる。


 高田甘味堂のご主人 高田会長や、レイラを抜擢した佐崎商店のご主人 佐崎副会長を初め、商店会の関係者達は、この”第一回高田町フェスティバル”の盛況ぶりに、自然と目頭が潤んでくるのだあった。


 ステージ上には、真理恵を含む7人の候補者が並び、その横には司会の粟屋薬局の粟屋さんと、アシスタントのレイラが並んでいる。


 今日のレイラも、いつも通り全身真っ白のレースクイーン張りの派手な露出の多い衣装である。


 それでも、もえちゃんは気のせいか今日のレイラを少し地味に感じていた。

 (もえが、見慣れたせいなのかな?)

 とも思ったのだが、隣にいる真希未ちゃんも、

「あれ?華がない」

 と年寄り染みた言葉を呟いている。

 真希未ちゃんも見慣れちゃったのかと思ったが、そればかりでは無い。

 確かに初日のステージの時とは違って緊張感な見られないのだが、はっきり言って余計な動きが野暮ったい。


「それでは、レイラさん。9日間に亘りました”ミス高田町”の投票の結果がつい先ほど出ました」

「はい、待ってました!なんて」


 そこに

「レイラさ~ん。奇麗~」

 の声に、ちょっとセクシーポーズを取って見せる。そして、後を向いてお尻を突き出して見せる。

 司会の粟屋さんは苦笑いをして続ける。


 それを見たもえちゃんは思わず、

「田舎臭っ」

 と、恥ずかしくて下を向いてしまう。

(レイラちゃん何してんだろう?)

 首を傾げてしまう。

 

 そんな、もえちゃんの表情を帯人は横目でちらちらと窺う。


「楽しみですね~、優勝がレイラさんだったらどうします?」

「商品のお米で、ご飯を炊いて富士山を作ってみようかな。うふ」

 と笑顔で言うが、ウケる訳が無い。

 完全にちょっと自由が行き届き過ぎである。


 もえちゃんは、レイラを見て唸リ続けている。 

 帯人はまたもえちゃんが怒り出すのではないかと、ステージともえちゃんを交互に見ては冷や冷やものである。


 さらにこの後、レイラは二度程躓き転びそうになる。しかし、ベタだがそれだけは結構ウケた。

 

「レイラさん、緊張してるのかしら」

 諸湖羅の言葉にもえちゃんが、頷きながら応える。


「う~ん、おかしい。あれは、ワザとだよ」

「何で?」

「さあ~ね、よく分んないけどほっとこうよ。レイラちゃんは、自由人だから」


(そうか、ワザとだったんだ。今更、緊張するわけもないか)

 諸湖羅との会話を横で聞いていた帯人は、レイラが変な人になってないことに安心した。しかし、帯人にはワザとであっても、あれは酷すぎるのではと思えるのである。

(でも、もえちゃんはワザとであれば、あれでもOKなんだ)

 帯人はもえちゃんはなりの信念があることに感心してしまった。


 そんなレイラであっても、ミス高田町の候補者と比べると、別格な人気であった。あちこちから掛かる掛声の大半がレイラに対するものなのである。



「それでは、もう一度候補者を紹介しましょう」

「はい」

 レイラが7人の名前を順に読み上げる。ここは普通に読み上げた。


「それでは、ミス高田町の発表です」

「ドドドドドド・・・・・」

 発表のドラムロールの演出が会場に鳴り響く。


◆投票結果集計中◆ 

 

 ミス高田町の投票は、昨日一杯で締め切られているので、集計は朝の段階では既に出ている。


 今朝、レイラはいつも高田町商店会の会合を行っている、”高田甘味堂”の会長宅に呼ばれていた。

 会長宅は、2年前に敷地内に住居を新築した為、今まで住居として使用していた店舗と厨房のある古い建物の2階が空いてしまった。そこで、今は商店会の会議部屋として使っているのである。


 ミス高田町の集計は、ここで毎日行っていたのである。

 レイラの目の前には、高田会長、佐崎副会長他、2名の役員が揃っている。


 高田会長は、会議室にやって来たレイラに向い、困惑の表情を浮かべ話し出した。

「レイラさん、実はミス高田町の投票結果なんですが、あなたが選ばれてしまいました」

「えっ?」

「いや~、正確に言うと無効票なのですが、これをどの様に扱うかを悩んでいるのです」

「すみません。言われている意味が良く分からないのですが」


 会長の話は、こう言う話であった。

 レイラに投票したと思われる票だけで過半数を軽く超えているのである。ただ、その投票用紙の記名は、”予報の人”とか、”白い服の人”、”アシスタントで慌てていた人”等が大部分とのことである。しかし、それを無視できないのは、例えそれを無効票としても、レイラの名前が明記されている票だけでも、僅か数票差の2番目の票数を集めているからである。


「2番目ですか~」

 レイラは残念そうに続ける。

「準優勝がないのが残念です。名前の無いのは当然無効票ですよね~。私への票であれば良かったのに・・・。残念です。商品のお米に、お酒に洗剤か~ホント残念です」


「ははは・・・・」

 会長はレイラの気遣いの言葉のわざとらしさに、嬉しさの笑いが込み上げてきた。

「レイラさんの気持ち分りました。そう言って貰えると無効票扱いがし易い。レイラさんには日当をはずみますから、お米に、お酒に、洗剤を是非商店街で買ってやって下さい」

 しっかり、会長もレイラの言葉にジョークで応える。


「有難うございます。会長」

 レイラも会長の心遣いに、会長始め役員全員にお辞儀をする。

「いやー、お礼を言いたいのはこちらの方です。お約束にないことまでお願いをした上に、こんなに盛り上げて貰って。レイラさんの御蔭です。本当にありがとうございます」


 会長のレイラの賛辞に、レイラを推薦した佐崎副会長は鼻高々である。


 結局、有効票は投票数の半数弱で、レイラを除く候補者7人の票差も、ほんの僅かであった。 

 

◆ミス高田町◆

 会場に響き渡っていた長いドラムロールが鳴りやんだ。

 レイラの口から、結果が告げられる。

「第一回ミス高田町は・・・」


 会場では、所々で優勝はレイラではないかとヒソヒソ話が聞こえてくる。実は、巷ではレイラを押す声が上がっていて、それに乗った人が多かったのであった。


「・・・エントリーナンバー7番。伊藤真理恵さんです」


 その声に一瞬会場が静まり返った。それから起こった拍手も、特設会場から溢れ出るばかりの熱気と人の数からすると、明らかに気の無い疎らな拍手である。


 無効票を含めると、候補者で無いレイラが全体の過半数を裕にを超えているのである。

 会場の大部分の人がレイラのサプライズ優勝を期待していたのである。この高田町商店街であれば、その位のことを行う甲斐性があると信じている人が多いからこそのレイラ表である。


 7人の候補者に票を入れた人の中でも、正直レイラファンは多い。

 発表前にちょっとくらい間の外れた野暮ったいジョークを言った位では、殆どレイラ人気には影響はしてはいない。

 しかも、ここ数年の真理恵しか知らない人は、真理恵に対して好感を持っていない人も結構多い。こんな時程、真理恵の顔の広さが仇となる。


 慌てて、司会者とアシスタントのレイラは、大げさな拍手をしながら盛り上げにかかる。

「「おめでとうございま~す」」

 真理恵もこの雰囲気に戸惑ってしまい言葉が出て来ない。


 そこに・・・

「「「真理恵さん~」」」

 そこに、会場の一角で大きな歓声が起こる。

 もえちゃん引きいる七面鳥レンジャーの小学4年生7人である。掌が痛くなる位の拍手に、もえちゃんの掛声に声を合わせて真理恵に声援を送る。


 さらに、帯人達の予報研究会の3人が、もえちゃん達の声援の上に声を乗せる。

 さらに控えめの隆康までも命一杯声を張り上げる。

 会場に来ていたもえちゃん達の家族も大きな拍手を合わせる。


 会場の一角ではあるが、そこでは最大級の声援を体全体を使って表現している。

 それにつられる様に、会場に拍手の輪が広がって行く。


 思わず真理恵は、会場の派手な応援を披露してくれている一角に両手を振って応えていた。

 最初は、たかがちっぽけなミスコンだと思っていたのだったが、いざ優勝をして声援を受けてみると、今まで感じたことがない喜びを感じてしまう。

 気持ちを貰えることがこんなに嬉しいとは、今まで感じたことが無かった。

 そして、その気持ちに応えることがこんなに嬉しいとは思ってもいなかった。

 今まではステージの上で素の表情を見せること等、恥ずかしくて一度も行ったことが無かったのであるが、今の真理恵は心から自分を表現してしまう。


 こんなちっぽけな7人だけのミスコンに優勝しただけなのに涙が出てくる。

 

 この後、商品を受け取る時には涙で曇った視界で2度程躓いて転びそうになったが、何故か会場から起った笑い声に恥しさを感じなかった。むしろウケたことに対する心地良さまでも感じてしまうのであった。 


 もえちゃんは真理恵の様子を見て、不可思議なレイラの行動が分った気がした。


◆フェスティバルが終わって◆

 結局真理恵の優勝は僅差であった為に、もえちゃんやその家族、そして、帯人達の投票が最後の決め手になっていた。

 帯人はちょっとだけ心配していたのだが、レイラのステージ上での下手くそなボケにもえちゃんが怒ることは無かった。

 

 帯人は、やっぱりこの子は侮れない。子供でも尊敬するに値すると思い、仲直りを迫って見たのだが、あっさりと足蹴にされてしまった。

 もえちゃんの弟子でも、七面鳥レンジャーの隊員でも良いと言ったのだが、9人だと九官鳥だから駄目だと言われてしまった。


 全く諸湖羅と庄蔵を無視をした帯人の交渉であったのだが、9人だと多分自分が入っていないと気付いた庄蔵は九官鳥でなく、ジュウ(十)シマツだと訂正の要求していた。


 ジュウシマツには、もえちゃんも少し悩んでいたのだが結果は変わらなかった。

 悩んでいた理由は謎である。


   

 翌日の月曜日、レイラは直志商店(八百屋さん)の前で何時もの様に予報屋さんの仕事を終え、帰ろうとしている時である。そこに、大きな俵を台車に乗せて近づいて来る男女がいた。

 真理恵と隆康である。


 隆康が押していた台車をレイラの目の前に止めると、真理恵が俵を叩きながらレイラに話しかけた。

「なんか、ちょっと聞いちゃったんだけど、無効票が多かったんだって。優勝って言ってもね・・・」

 真理恵は恥ずかしそうにちょっと言葉を詰まらせたが、笑いながら続けた。

「・・・その~、数票の差だったらしいの。準優勝のレイラさんに優勝の分け前を持ってきたんだけど」


 真理恵はレイラが米を貰えることを羨ましがっていたのを覚えていた。それで持って来たのだけど、本当に喜んでくれるのかが心配であった。


「う、う、うわあ!ワラの中に米が入ってるんだ。凄い、凄い、何で隙間から落ちて来ないのかしら!」

 別の意味で喜んでいるので、まどろっこしくなってはっきりと聞いてみた。

「お米、いる?」

「もちろん。くれるんですか。米ですよ米、本当に良いんですか」


 何を、そんなに騒いでいるのか分らなかったがそこまで喜んでくれると気持ちがいい。

「もちろん」

 (すごく、お世話になったし)それは口には出さなかった。


「ありがとうございます」

「じゃあ、重いから・・・」

 (台車を使って持って帰って)と言おうとした時に、真理恵の目の前で、台車の上の米俵が宙を舞った。


「えっ?」

 と驚いている間に、目の前には軽々と米俵を右肩に担ぎあげるレイラがいる。

 しかも、何事も無いかの様な顔で微笑んでいる。


「じゃあ、遠慮なく頂きます。ありがとうございます」

「あ、あ~、あ~。ウソー・・・」

 レイラは唖然として声が出ない真理恵と隆康にお礼を言うと踵を返し、小気味よい足取りで帰って行った。


 二人は、自分の意志とは無関係に暫しレイラを見送っていた。

 こんな人に喧嘩を売ろうとしていたかと思うと、真理恵は恐ろしくなるのであった。



◆真理恵◆

 1ヶ月後。

 いつもの様にレイラともえちゃんは、直志商店(八百屋さん)の前で予報屋さんの準備をしていた。

 そこに、真理恵が目の前を通り過ぎて行く。


「あれ、真理恵さんだ」

 もえちゃんが、気付いた。


「レイラちゃん、真理恵さん。久し振りなのに挨拶もしないで行っちゃったよ?」

 もえちゃんは、不満そうである。


「あ~、ちゃんと少しだけ頭下げて行ったのよ。気が付かなかった?」

「ホント?」

 もえちゃんには微か過ぎる行動で分らなかった。


「私も頭下げたわよ、作業しているから、声を掛けなかったのよ、きっと」

「そうなのかな~」


 そこに、通り過ぎて行ってしまったと思った真理恵が駆け足で戻って来た。

 そして、真理恵は大企業のキャンペーンオーディションで優勝をしたこと。それに、これから1年間は、キャンぺーンギャルとして活躍が出来、コマーシャルにも出ると二人に告げた。


 真理恵はレイラを繁々と見て、

「やっぱり、私のほうが綺麗よね~?」

 と呟いて去って行ってしまった。


 確かにレイラにも、もえちゃんにも真理恵が1か月前よりも綺麗になって見えた。


 でも、予報の時のレイラは敢えて老けメイクをしているのである。もえちゃんは少しだけ気になったが、大人になって真理恵にはそれは告げないで笑って流した。

 意味がないと思ったからである。


 もえちゃんが言う。

「なんか、樟脳臭さが抜けたよね~」

 今のレイラにはもえちゃんの樟脳臭いの意味が分る。タンスに入れて久ぶりに出した洋服の匂いと言うことである。人の手を通していない、温かみの無い、人間味が無いと言う意味でもえちゃんは使っているのである。


「ホントね~、いい味出てるわよね。何か、柔軟剤ぽいわよね~。ね、もえちゃん」

 と、レイラが同意を求めたが、もえちゃんにはレイラの言っている意味が良く分らない。

 負けず嫌いのもえちゃんは、意味が分らずに

「そ、そうだね」と、取りあえず返事を返してみせた。


 それに対して、レイラがくすくすと笑いだす。

「何が可笑しいの?」

 もえちゃんが口を膨らましている。

 レイラには、もえちゃんが分った振りをしているのが可笑しいのである。


 真っ赤な顔をしているもえちゃんが、一所懸命平静を取り戻そうと努力している。

 レイラはそれがさらに可笑しいのだが、あまり怒らせないようにと堪えていた。


 すると、

 もえちゃんが、レイラの老けメイクを見て

「レイラちゃんイベントギャルの時メイク変えたよね。何で?」

「それは、ほら、え~と」


「そっか、レイラちゃんも乙女だもんね。奇麗に見られたいんだよね~~」

 もえちゃんの言葉に、レイラは顔を赤くするのだった。

 

 反撃に満足をしたもえちゃんは、いつもより早く軽快なステップで家に帰って行った。


 多分、家に帰ってから柔軟剤の意味を調べる為である。


 <つづく>


 


14話はこれで終了です。”15話 もえちゃん”は2週間後位になります。良かったらまた読んでやって下さい。 

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