第14話 レイラ商店街のイベントギャルになる(ギャル心得の条4.ステージ下でもそのうち仲良し)
レイラのパンプスを盗んだ犯人は?
真理恵を見つめる目と、帰路ををつけている男の関係は?
レイラと真理恵、もえちゃんと帯人関係は・・・。
◆火曜日◆
翌日、”高田町フェスティバル”特設会場に、真理恵の姿が無かった。
心配になったレイラが佐崎副会長に尋ねてみたところ、大切なオーディションがあるのでお手伝いが出来ないと、申し出があったとのことであった。レイラはそれを聞き安心した。
平日の今日も、ステージは午後4時から6時までの2時間だけであったが、相変わらず沢山の人が訪れた。
その中には、もえちゃん率いる”七面鳥レンジャー”の小学4年生軍団と、帯人、緒湖羅の率いる”予報研究会”の4人組は当然の如く含まれている。
適応能力の高いレイラは、既にステージのアシスタント役も慣れてしまい仕草にも余裕が感じられる。七面鳥レンジャーのみんなも、今日は真理恵がいないということで笑顔も多い。それぞれが”高田町フェスティバル”を楽しんでいた。
レイラの荷物の見張り番も今日は誰も付かなかった。
ところが、いざステージが終わるとやはりレイラの黒いパンプスは無くなっていた。
今日はレイラが荷物を置いておいた場所もみんなが自然と気に止めているので、レイラの置き忘れは全く考えられない。
意外な結果にみんなも驚きを隠せないでいた。
「あれ~、あの意地悪な女の人で無かったのかな?」
陽太くんがちょっと反省をしている。
「盗まれたのも同じもレイラさんの靴だしね」
靖子ちゃんも、疑ったことが間違ってたのかも、と思うとショックも感じたのだが、実際にレイラが意地悪をされたのも事実である。
その辺の靖子ちゃんは陽太君に比べて、自分を合理的に正当化させる方法を知っている。それに、
「でも、いつも同じ人が盗むとも限らないよね」
靖子ちゃんが付け加える。
「どっちにしても、明日の対策をたてようよ」
真面目な健太くんは、前向きである。
「みんな、大丈夫よ。そんなに心配してくれなくても、まだ3足あるし。明日は家からこの格好で来るから」
レイラは、すっかり真っ白のコスチュームに切慣れきって、お気に入りのパンプスを盗まれたにも関わらず、意外にも明るく少しポーズをとってみせた。
「レイラちゃん、それはどうかと思うけど」
もえちゃんが直ぐ様駄目出しをする。
「駄目?」
「うん」
あっさりと、もえちゃんの厳しい目付が帰ってきた。
「明日から、もえがレイラちゃんの靴を持ってるよ」
「そうだよ、みんなで持っていればいいんだよ。何で気が付かなかったんだろう」
健太くんも、もえちゃんの案に賛成すると、みんなも納得をした。
でも、もえちゃんはそんなことより、いくら自分の靴とはいえ、何でレイラは予報で探そうとしないんだろう?そう不思議に思っていた。そこで、もえちゃんは自分から動いてみようと思った。
手始めに、
「ねえ、レイラちゃん。そこの新しい人を少し予報してあげたら?」
もえちゃんは、予報研究会の新しい二人を指して、レイラの顔色を伺ってみた。
「あっ、あ~そうね。まだ時間もあるし」
もえちゃんには焦っている様にも見えたが、心なしかレイラが嬉しそうなのを感じた。
レイラが好夫に集中している時の表情が「あら~やっぱり」と言いたげなは表情であったのを、好夫に不信感を持ち始めていた帯人と諸湖羅は見逃さなかった。
結局レイラは、予報の結果でパンプスに関することは何も言わなかったが、もえちゃんも(また勘が当ってしまったかな?)と思うのだった。
◆水曜日◆
真理恵は1日休んだだけで会場に戻って来たが、休む前までの嫌味な位の元気さが影を潜めてしまっている。
靖子ちゃんの次第に板に付いて来た鋭い睨みに対しても、あっさりと目を背けてしまう。乗ってこない。
「どうしたんだろうね。今日は何もして来ないね」
陽太くんは気合が抜けた様であるが、靖子ちゃんは仕切りに真理恵にちょっかいを出し続けている。
真希未ちゃんが靖子ちゃんの袖を引っ張って止めようとするが、なかなかやめようとはしない。
真希未ちゃんには、靖子ちゃんが少し楽しんでいる様にも見えて肩を落としてしまう。
そんな中、真理恵程ではないが今日は無口であった帯人が切り出した。
「今日は、先に失礼します」
まだ、5時からのステージが残っているのに先に帰るのは帯人らしくない行動である。
「どうかしたの」
レイラの問いにも、
「いや、ちょっと用事があって」
と、しか告げない。帯人は今日会場に来なかった好夫がずっと気になっているのだ。
「それじゃあ、帰ります。レイラさん頑張って下さい。」
と告げ、みんなに右手を上げ挨拶をすると踵を返した。
そこに、笑顔を振りまくだけで余り喋らない庄蔵が
「俺も行くよ」
と名乗りを上げた。結局、緒湖羅も含め予報研究会の3人は先に帰って行った。
レイラはその様子を伺って、失礼ながら庄蔵の見かけに拠らない勘の良さと行動力に関心をした。
今日は、レイラの荷物を全てもえちゃんが管理しているので、パンプスが盗まれることは無かった。
平穏に時間は流れていった。
ただ、今日もずっと真理恵の様子をじっと伺う目があることをレイラは気になっていた。
◆レイラからのプレゼント◆
夜10時少し前、レイラがいつもの直志商店(八百屋さん)の前での予報屋さんを終えて帰ろうとした時に、大きな袋を持ってトボトボと歩いて来る若い男がいた。
それは、帯人である。
「あ~帯人さん」
レイラが帯人に手を振るが、帯人は力なく頭を下げて挨拶をするのみである。既に分っているレイラではあったが、帯人のその様子はレイラの気持ちまでも重くさせる。
帯人はレイラの前まで来ると、先に切り出した。
「多分、何も言わなくても分っていると思います。本当にすみません」
帯人は両膝を地面に付けて、深々と頭を下げた。
自分が初めて人を尊敬して、先生とまで呼んでいる人に迷惑を掛けてしまったのである。
帯人には、それ以上の言葉が出てこなかった。
レイラは、帯人を抱き起こすと笑って見せた。
「そんなこと位で~、気を落としすぎよ。もう!」
レイラは、わざと少し口を膨らませてみせる。それから、温かく包み込む様に続けた。
「これから先、色んなことが沢山あるんだから、あんまり気にして落ち込まないこと。帯人さんは何もしてないんだから、ね」
「いやっ」
帯人は首を横に振り、盗まれた4足の黒いパンプスの入っている袋をレイラに差し出して、顔を上げた。
「全て僕のせいです」
レイラは、帯人の目を見つめて、
「ありがと、帯人さん」
レイラが帯人の肩に手を乗せると、帯人はレイラの指先の感触に心臓がドキリとした。
「帯人さんは、取り返してくれたのだから。私がお礼を言わないとね」
「そんなこと・・・、僕が・・・」
帯人の話では、自分がレイラの黒いパンプスには不思議な力があると言ったのが原因で、それで好夫は人気のあるレイラであるから、何かお金儲けが出来るのではないかと思って盗んだとのことであった。
驚く位に安易な理由で、帯人はそんな人間を見抜けなかった自分が情けない。
「それじゃ、こうしましょう。帯人さんは間違った情報を流した責任と、パンプスを取り返してくれたことで、チャラね。そして、私は帯人さんにパンプスを取り返してもらったことでお礼をする。これでいいわね」
「えっ?」
帯人は直ぐに、レイラの言っている意味が理解出来なく、聞きなおそうとしたがレイラがそれを静止した。
「だから、お礼をするわね」
レイラは、帯人へのお礼にと既に用意しておいた、ずしりと重たい青銀色の”ペンダント”を自分の首から外した。
「これはね、私の生まれた所にある駅を形どっているの。凄く大きな三角屋根なのよ。この大きく合わさった屋根を見ると凄く温かくなるの。人ってね、結構二つのものを合わせることに温かさを感じるのよ。受けとってくれる?」
レイラがそれを差し出すと、帯人はそれを受け取った。
「はい、この件はこれでおしまい」
そう言って、レイラは帯人に笑顔を見せてくれた。
それは、帯人の見たことのない建物であった。そして、材質もシルバーに近いが、それとも違って見える。帯人には何だか分らない。
でも、そのペンダントは帯人にも温かさが伝わってくるものであった。そして、レイラの笑顔はそれ以上であった。
帯人は何処の建物か、レイラの故郷が何処であるか聞いてみたかったのだが、何だか聞いてはいけない気がして何も聞けなかった。
(この件はこれでおしまいなのだ。先生がそう言ったんだ。何も聞いてはいけないんだ。きっと、そう言う意味も含まれているんだ)
そう思った。
ただ、溢れんばかりの元気を取り戻した帯人は、深々と頭を下げ飛ぶように走って帰った。
その時は、何故それをプレゼントしてくれたのかは全く分らなかったが、それはニ十数年後に解ることになる。
◆木曜日◆
昨日も誰かに付けられていた。ただ、気がつくと昨日は途中でいなくなってしまっていた。
これで、月曜日に続いて2度目である。さらに火曜日には無言電話まで掛かって来た。その時は怒鳴りつけてやったのだったが、正直なところ脚が震えていた。
真理恵は、今日会場に来る時も周りが気になってしょうがない。常に辺りを見回しながら行動する様になってしまっていた。
誰かに相談したいが、親とはいつも喧嘩ばかりで今更心配を掛ける様な相談はしにくい。かといって、商店会の人にも・・・。
気が付いてみれば、子供の頃はあんなに楽しく話せていた商店会の小父さんや小母さんとも、気軽に話せなくなっている。
(どうして、そうなっっちゃったのだろう?)
真理恵は、そう考えると自責の念に駆られてしまう。
その時、同じステージ横のテントの中、反対側の角にいるレイラの元には次々と色んな人がやって来る。
孤独感を感じている真理恵には、”押し寄せて来る”と言う言葉が当てはまる位の人数に感じられる。
レイラはさり気無く迫って来る男達を怒ることなく、相手のプライドをさえも傷つけることなく、さらりと楽しそうに交わし続けている。
自分に置き換えるとどうだろう。
商店街の人たちと楽しく話をしていた子供の頃は、みんなに声を掛けられるのが嬉しくて愛想良く対応をしていた気がする。しかし、大人になっていくにつれて、人が寄って来るのが当然の様になり、横柄になっていたのではないのだろうか。
確かに下心から近づいてくる人も多くなったのは事実である。それでも自分がそれなりの女性であれば、少しくらい下心を持たれることも普通であること位は分っている。
真理恵は、自分の行動に今更ながら反省してしまうのであった。
ステージの始まる夕方近くなると、レイラの取り巻きの子供達(七面鳥達)や学生(予報研究会)がやって来た。
真理恵が驚いたことには、自分と同じ位の大学生が子供達にしきりに頭を下げているのである。
◆お詫び合戦◆
「みんな、ごめん。レイラさんのパンプスが盗まれたのは、僕達の、僕のせいなんだ」
帯人が、もえちゃん達”七面鳥レンジャー”小学生4年生達7人の前で頭を下げている。
「『え~、え~』」
子供特有の驚きの大合唱が、特設会場横のテントの中に響き渡った。
帯人はパンプスを盗んだ犯人が好夫であること。そして、自分が黒いパンプスにレイラの不思議な力の謎が隠されていると誤解していたこと(少し恥ずかしかったのだが)。そして、昨日レイラに盗まれたパンプスを全て戻したことも包み隠さず全てを説明した。
「ごめんなさい」
緒湖羅もみんなにお詫びをする。庄蔵も大きな体で頭を下げており、人の良さが滲み出ている。
「帯人さん達のせいじゃないよ」
健太くんがそう言うと、靖子ちゃんも
「レイラさんの靴も戻ったんだし、そんなに頭下げなくてもいいよ。それより・・・」
靖子ちゃんは、真理恵を疑って睨み付けていたことが気になってしまう。
・・・もっとも、真理恵でないかもしれないと分った後も、真理恵にチョッカイを出して睨み付けていたのでるのだが・・・。
靖子ちゃん的には、間違って睨み付けていた自分が許せないのである。
「ありがとう。みんな」
帯人、緒湖羅、庄蔵の3人は、許してもらえたことと同時に、何だか小学生のみんなと仲良くなれたような気がしたことが凄く嬉しかった。
「お詫びに、これみんなで食べようよ」
会場に出ている露店で買って来たたこ焼きを広げると、みんなから歓声が上がった。
帯人は、子供とばかにしていたことを恥ずかしく思った。そして、この状況を一言も口を挟まずにレイラと一緒の笑顔で見ているもえちゃんの姿が気になっていた。
帯人は、てっきりもえちゃんに怒鳴られるとばかり思っていた。自分が悪いのだからと、小さな小学生から怒鳴られると言う、周囲から写る自分の恥ずかい姿も覚悟していた。
しかし、もえちゃんの行動は全くレイラと同じもので、何も言わずに嬉しそうにたこ焼きを食べている。
完全に自分の方が負けているとそう思った。
それにしても、帯人はたこ焼きに一番喜んでいるのが小学生ではなく、レイラであることが意外であった。
そんな中、不安げな顔をしている二人の小学生がいた。
「靖子ちゃん、どうしようか」
陽太くんは、靖子ちゃんの同意を求めるような聞き方をしている。
「行こうか・・・」
「そうだね」
二人は、たこ焼きを食べている手を止めて、神妙な顔つきで真理恵の方に向かった。それを見た子供達も、二人が何をしようとしているのかが分ったのか、後に続いて歩き出した。
予想もしていなかった光景であるのだが、今の帯人にはみんなの行動が理解出来た。帯人、緒湖羅、庄蔵もそれに続いた。なんとレイラまでも。
いきなり大勢の人間に迫られて驚いている真理恵に、靖子ちゃんと、陽太くんが顔を見合わせて切り出した。
「「ごめんなさい」」
それに、みんなが続いて頭を下げた。
「『ごめんなさい』」
「『どうもすみません』」
真理恵は、てっきり攻撃されるのだとばかり思っていた。
反撃する元気のないところに来られてしまい、気が重くなったところに、いきなり謝られてしまったので驚いてしまった。
「レイラさんのパンプスを盗んだの、お姉さんが意地悪しているのだと思って疑っていました。すみません」
「あ、ああ~」
真理恵は、いきなりで声が出せなかった。確かにパンプスは盗んでいないが、レイラに意地悪をしたのは事実である。
被害者のレイラまでもが、嫌味にならない様にと一番後ろで頭を下げている。きっと保護者と言う意味であろうことも、今の元気のない真理恵には冷静に理解が出来る。
一応何かを言わなければならないが、疑われる原因を起こした事実に対して、自分も詫びるチャンスであるのだがプライドが邪魔をする。
咄嗟に、
「あ~、いいよ」
と偉そうに言ってしまった。言ってしまって後悔した。
それに、
「「あ~良かった」」
と、顔を見合わせて喜んでいる靖子ちゃんと陽太くんを見て、真理恵は安心している自分を感じた。
正直、嬉しく思った。
少し元気をとり戻した真理恵は、この後のステージもそつなくこなし盛況に終わった。
◆もえちゃんって?◆
帯人はレイラと接している時のもえちゃんの行動が、余りに大人びていること。それに、幾ら子供だからと言ってばかに出来ないとは言え、互いの信頼感が対等に見えることが、どうしても気になってしまっていた。
そこで、ステージが終わってからレイラともえちゃんが、いつもの予報の仕事をするために直志商店(八百屋さん)に移動したのを確認すると、一番大人っぽく落ち着いた雰囲気の真希未ちゃんに、こっそり聞いてみた。
「ねえ、聞いてもいいかな」
「うん」
と、帰りかけた真希未ちゃんが、帯人の方に振り向いて頷いた。
「ちょっと、気になったんだけど、もえちゃんと先生いや、レイラさんってどんな関係なのかな~なんて思ってさ。不思議な関係だよね」
「うん、そっか~。帯人さんは知らないんだよね。最初レイラさんがノシさんのところで予報屋さんを始めた時はね、誰からも相手にされていなかったの」
「えっ、そうなの?あんなに凄くて、今じゃなかなか予報してもらえないのに?」
帯人は驚いた。
「暫くの間、一人で八百屋さんの前で座っているだけだったの。そのレイラさんの予報をね、初めて信じたのがもえちゃんなの。それから、極度に初めてのことに弱いレイラさんを助けて来たの。
レイラさんも、度胸のあるもえちゃんを凄く頼って来たの」
「そうなんだー」
帯人には凄く意外な話であった。
確かに”高田町フェスティバル”のステージに初めて上がった時の緊張感は、今まで見たレイラからは全く想像が付かない姿であった。正直ショックであった。
帯人は、きっともえちゃんにも想像以上の緊張の仕方で、ショックだったんだろうなと思うと少し可笑しかった。
会場の人が少なくなっていくなか、二人は話を続けた。
「私もね~、へへへ、2番目なの」
真希未ちゃんは自慢げである。
「真希未ちゃんは、レイラさんの2番目の理解者なんだ」
帯人が関心した様に驚いてあげると、真希未ちゃんは嬉しそうに続けた。帯人も(我ながら小学生の相手が上手くなったな)と、自分の変わりように関心してしまう。
「もえちゃんもレイラさんの凄さを沢山見てるの。
レイラさんが何を予報して、何を予報していないかが、もしかすると勘で分るのかもしれないって最近思うの。もえちゃんは、勘が鋭いから」
そう言えばそうかもしれない。帯人もそう思った。
「もえちゃんは、レイラさんが言ったことは絶対なの。レイラさんには過去や未来を見抜く力があるからレイラさんの言っていることは絶対に正しいの。私もそう思うの。
そして、レイラさんはいつでもみんなが期待しているように解決してくれるの。
だから、もえちゃんはそれを忠実に信じて行動しているだけ。だって、もえちゃんが一番レイラさんの凄さをしってるから」
帯人はパンプスの事件のことを思い出した。
もえちゃんはレイラさんが何か考えがあって、敢えて犯人を探していない。と言う風にを信じていたんだ。帯人はそう思った。
パンプスの責任が帯人にあると分っても文句一つ言わなかったのも、レイラが先を見て選んだ行動だったからに違いない。文句を言えばレイラの行動に文句を言うことになる。そう考えたのだと思った。
帯人は、子供のもえちゃんの方がレイラさんのことをずっと、知っていて、そして信頼しているのだと、そう思った。
レイラさんも、もえちゃんのことを信頼しているのが、あの”高田町フェスティバル”の初日に怒られっぱなしだったことからも良く分る。
帯人は二人の間に割ってに入ることなど、誰にも不可能だとそう思った。
真希未ちゃんはその後に続けた。
「でもね、予報をしていない時のレイラさんには、もえちゃんちょっと厳しいんだ。それに~、普段は結構からかって遊んでるし」
帯人はそう聞くと、(もしかしたらレイラさんって、もえちゃんにいじらえるのが楽しいのかもしれない)そう思うと笑ってしまった。
それを見て、真希未ちゃんが不思議そうに首を傾げている。
帯人はもえちゃんだけでなく、真希未ちゃんの観察力も侮れないと思うと、やっぱり子供って馬鹿にできないなぁ。と、そう思うのだった。
◆会場からの帰り◆
真理恵は、ドキドキしながら会場からの帰路についた。
地下鉄”一本義”駅を降りて大通りから静かな脇道に入り、もう一度曲がったところが過去2回誰かに付けられていた(いると感じた?)ところである。
都会の真ん中であるが、公園や大学があり、夜は静かな所である。
今、真理恵は地下鉄一本義駅から外に出たところである。
今日は辺りを用心深く見回して見るすが、それらしき人影は見当たらない。
大丈夫だろうかと思う心に正直過ぎるくらいに、心臓の音が頭に響いて来るのがはっきりとわかる。
真理恵は、そわそわしながら急ぎ足で、アパートに向かった。
脇道に入っても、誰にも付けられている気配がない。
「大丈夫。今日は後を付けられていない」
そう思った時だった。
正面から一人の男が近寄って来る。
真理恵は、今まで怖くて直ぐに逃げていたので、はっきりと姿を見ていないが、直感であの男であると感じた。
真理恵は、踵を返すと、思いっきり走って逃げた。今日はヒールの低いパンプスに替えている。まだ男とは結構距離がある。
(大丈夫、逃げられる)
そう思った。
真理恵がいざ男から逃げ始めると。足音から急激に距離が縮まってくるのがはっきりと分かる。
声を出そうとも思ったが、まだ何もされていない。声を出す勇気がでてこない。
取りあえず、大通りまで逃げれば、誰か通りがかりの人がいるかもしれない。そう思って、真理恵は必死に走った。
無我夢中だった。
何んとか追いつかれずに大通りに出ることが出来た。そう思った時には、あれだけ近づいていた足音が聞こえてこない。
直ぐ後まで追いつかれてもいいはずである。
(大通りに出るのはまずいと思って逃げたのだろうか?それとも自分の勘違いだったのだろうか?)
真理恵は振り返りながら、大通りを”一本義”駅に向かって歩いたのだが、もう誰もついては来なかった。
真理恵は、本屋さんで少し時間を潰してからアパートに戻った。
玄関に入り鍵を閉めると、その場でバッグの中を探した。
「あった!」
バッグの奥底には折れ曲がってはいたが、確かにこの間乱雑に押し込んだ予報引き換え件が入っていた。
<つづく>